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233話 ハイエナ

「おいっサラ!何ぼけっとしてんだ!」

「リーダーの命令が聞こえなかったか!さっさと俺達に魔法をかけろ!」


 臭パーティの他のメンバーもサラに偉そうに命令する。

 その時であった。


「もう限界ですっ。皆さんこっちへっ!」


 アリスがそう叫んで走り出す。

 アリスの意図を読んだサラが、リリス達トルフラワーに向かって、


「私達について来てください!」


 と叫びアリスの後を追う。

 リトルフラワーは口と鼻を押さえ苦しがる三人の女性達の手をとりサラ達の後を追う。


「なんだなんだ!?」

「おいおい、どうした!?」

「まさか魔物か!?」


 少し遅れて臭パーティがアリス達の後を追って来たが、アリスが発生させたエリアシールドにぶつかり弾き飛ばされる。


「痛え!」

「なんじゃこりゃ!?」

「おい!」


 エリアシールドにぶつけた顔を押さえながら真っ赤にして怒り出す臭パーティをよそにサラがエリアシールド内にリフレッシュを発動し、中の空気が浄化される。


「助かったよ!」

「本当に助かりましたわ、アリス、サラ」

「ホントだぜ。もう少しでこいつの最初の獲物があいつらになるところだったぜ」


 そう言ってマウがグレートソードを撫でる。

 エリアシールドの外でギャーギャー喚き立てる臭パーティにサラが詰問する。


「あなた達、本当に体を洗ったのですか?」

「お、おうっ」

「あ、当たり前だろ!」

「だぞ!」


 臭パーティの面々はそう言ったものの、サラの視線を避ける。


「では何故、前より臭くなっているのですか?」


 サラの厳しい視線に耐え切れず臭パーティがボソボソと真相を語り出した。


「正直に言うぜサラ」

「さっさと言いなさい」

「宿屋に宿泊を何故か断られて洗えなかったんだ」


 そう言ったリーダーは何故か誇らしげだった。


「『何故か』じゃねえだろ!臭いからだ!」


 すかさずマウが突っ込み、救出された女性達までうんうん、と頷く。

 サラが冷めた目で彼らを睨む。


「あなた達、最初に聞いた時は『体を洗った』と言いませんでしたか?」

「努力はしたんだ!」

「おうっ!洗おうとはしたぞ!」

「だから、もはや洗ったと言っても過言ではないだろう!」

「過言だ馬鹿野郎!!」


 マウがグレートソードを構えて臭パーティに向かって行こうとしたのを慌ててリリスが止める。


「断られて当然だよ!」

「なんで宿屋の風呂使おうとするんですか!」

「他の人の迷惑考えろ!」

「川や井戸の水で洗えばいいだけですわ!」


 リリスの正論に臭パーティの面々は顔に似合わず頬を赤らめて反論した。


「ば、馬鹿野郎!外なんか恥ずかしいだろう!」

「「「「「「「「……は?」」」」」」」」

「だ、誰かに見られたらどうするんだ!?」

「お、俺達は露出狂じゃない!」

「「「「「「「「……」」」」」」」」


 臭パーティの顔に似合わぬ乙女チックな回答に皆の血圧が一気に急上昇する。


「どこの乙女ですか!」

「誰が見るんだよ!」

「大体あんたらおっさんが見られて恥ずかしがる年か!」

「「「だ、誰がおっさんだ!?」」」

「「「お前らだ!お前ら!!」」」


 臭パーティの叫びに続いてリトルフラワーの叫びも見事にハモった。


「私達の村では若い女性も川で普通に水浴びします!」


 救助された女性達まで臭パーティの責めに加わる。

 臭パーティがエリアシールドの外で涙目になる。


「お前ら……、サラ!パーティ仲間が貶されてるんだぞ!助けようと思わねえのか!」

「寝言は寝て言え!」

「なっ、約束破るのか!?俺達がここに一番乗りしたんだぞ!」

「さっきから何訳のわからない事を言っているのです!?あなた達バカが勝手に決めたルールなど知りません!」

「「「なんだと!?」」」


 ギャーギャー訳わからない事を喚く臭パーティを横目にマウが冷めた目で言った。


「おい、サラ」

「はい?」

「もう、殺っちまうか?殺っちまおうぜ」


 中性的な容姿を持つマウがふっ、と浮かべた美少年のような笑みにサラは一瞬見惚れる。

 思わず、「はい」と頷きそうになったが、慌てて首を横に振る。


「落ち着いてマウ。確かに彼らの臭さも思考も殺人的ですが、殺すのはマズイです」

「何言ってんだ!あいつら、あたいらを臭殺しようとしたんだぞ!正当防衛だ!」


 マウの言葉が聞こえたらしく、臭パーティは怯え出すが、その場を離れようとしない。

 サラへの執念はその悪臭並に強かった。


「それはそうですが……」

「サラ」


 ジェージェーがサラにだけ聞こえるように囁く。


(細かく切り刻んでリフレッシュ?をかければさ、さっきのメイデスの神官みたいに証拠は残らないよ)


 美少女のジェージェーが子供っぽい体型を活かして上目遣いにとんでもない提案をしてくる。

 その純粋無垢な笑顔を見てサラは思わず、「はい」と頷きそうになったが、慌てて首を横に振る。


「だ、ダメに決まってるでしょう!」


(く、恐ろしいわねこの魅力……流石サキュバスの二つ名で呼ばれるだけはあるわ。魅了魔法をかけられたかと思ったわ)


「お、俺達は臭くないぞ!」

「だから約束通り俺らのパーティに入れサラ!」

「なんなら近くに来て嗅いでみろ!」


 臭パーティは自分達が臭いことを認めないばかりか、懲りずにバカな言動を繰り返すので今度はサラがキレた。


「寝言は寝て言え!このバカどもが!!」

「サラ!?あなたも落ち着きなさい!」


 臭パーティをど突きに行こうとするサラをリリスが押さえて止めた。



 皆が臭パーティのバカな発言に頭を悩ませている時、新たに二組のパーティが現れた。


「おっ!!間に合ったか!大丈夫だったかサラ!」

「大丈夫でしたかサラお姉様!」

「……また、面倒なのが増えた……」



 エリアシールドの外で三パーティが貶し合いを始める。

 いや、二組は対臭パーティで連合を組んだようだ。

 臭パーティは言い合いでは劣勢に追いやられているが、その臭さで彼らをサラ達に近づけさせずにいた。

 そうこうしているうちにリオとヴィヴィが洞窟から出て来た。


「ぐふぐふ。なかなか面白い事になっているな」

「そうなんだ」


 臭パーティの一人がリオ達に気づいた。


「あっ、お前ら!サラの“元”パーティのリッキキラーと棺桶持ち!」


 その声に他の者達もリオとヴィヴィに気づき視線を向ける。


「棺桶持ち!リッキーキラー!ガブリムどもはどうなった!?」


 そう聞いたのはサラ争奪戦に参加していた三組目の男パーティのリーダーだった。


「ぐふ。中に転がってる」

「何!?全滅させたのか!?ガブリムロードもか!?」

「そうだよ」

「ぐふ。それがどうした?」


 ヴィヴィ達の話を聞いて男パーティのリーダーがハイエナが獲物を狙うような目つきに変わった。


「……そうか。だが、お前らが仕損じた奴がいる可能性も捨て切れん。よしっサラ!ここはお前達よりランクが上の、Cランクパーティである俺達が確認して来てやる!格上の俺達がお前達の尻拭いをしてやるんだ。その報酬として素材はもらうぞ!」

「文句は言わせねえぜ!」

「その後で俺達のパーティに入るんだぞ!」


 男パーティは彼らよりランクが上のリトルフラワーがいるにも拘らず尊大な態度で言った。

 その言葉を聞いて怒りを露わにしたのはリトルフラワー、ではなく臭パーティだった。


「ざけんな!サラが倒した魔物は“同じパーティ”の俺達のものだ!なっ、サラ?」

「寝言は寝て言え」

「お、おい……」

「わははははっ!全然相手にされてねえじゃねえか!って、臭えから近づくな!近づくな!」


 男パーティのリーダーは鼻をつまみながら大笑いする。


「て、てめえ……」

「はんっ、万年Dランクは勝手に喚いていろ!行くぞ野郎ども!まずはガブリムロードの素材確保だ!」

「「おうっ!」」


 男パーティは臭パーティよりは現実が見えていた。

 パーティに加入する可能性が低いサラのことで争って時間を無駄にするより確実性の高い魔物の素材漁りを優先したのだ。

 彼らはサラ争奪戦から離脱すると洞窟へ突入した。

 それを見て焦り出す臭パーティ。


「あっ、こらっ、待ちやがれ!俺達も行くぞ!」

「「おうっ!」」

「サラ!お前は俺達のパーティに入るんだぞ!絶対だぞ!約束したからな!わかったな!」


 臭パーティは言いたい事を言うと洞窟へ突入した。

 

「……ですから寝言は寝て言え」


 最後に残った女パーティは洞窟へ突入したハイエナどもを見下した目で見送ると満面の笑みをサラに向ける。


「お待たせしましたサラ姉様!」

「……待ってないわよ」


 サラは深いため息をついた。


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