232話 再臭撃
リトルフラワーを先頭に、救出した女性達、リサヴィの順に出口へ進む。
「ただのガブリム退治のはずがなんか大変な事になったね」
「そうですわね」
「だが、まあいいもん見つけたぜ!」
マウが嬉しそうにグレートソードを掲げる。
言うまでもなく、ガブリムロードが持っていた魔法の武器だ。
「これ、あたいがもらっていいんだよな?」
「ええ、でもあなたバトルアックス以外使ったことありました?」
「これからバンバン使って慣れるぜ!なっ、相棒!」
マウが嬉しそうにグレートソードに頬ずりする。
ジェージェーが呆れた顔をしながらリオに顔を向ける。
「それもなかなかいい武器だよね」
リオが担いでいるポールアックスもまたガブリムロードが持っていたものだ。
「そうだね」
「おう、リオ、お前もこれを機に武器を変えるのか?」
「どうだろう?これ、持ち歩くの面倒なんだよね」
「まあ、好きにするさ」
「うん……あ、そうだ。ヴィヴィ、これリムーバルバイダーに入るんじゃない?」
「ぐふ。保管するだけなら可能だ」
「じゃあ、よろしく」
そう言ってリオはポールアックスをリムーバルバイダーに格納した。
「で、ブレスレットはどうするんだ?」
「ぐふ。私が預かっておく」
「その洗脳の力が強力なら下手に売り払うのも危険かもしれないですわね。誰の手に渡るかわからないのですから」
「私は破壊すべきだと思います。危険すぎます」
サラの言葉を受けてもヴィヴィは考えを変える様子はない。
「まあ、好きにするさ。あたいらはその所有権を放棄したんだ」
「ぐふぐふ」
「……」
ガブリムロードの死体が転がる広場を出て少し経ったところでヴィヴィが立ち止まった。
「どうしました?」
「ぐふ。リトルフラワーはその者達を連れて先に出ていろ」
「どうしたのです?」
ヴィヴィの言葉にリリスが首を傾げる。
「ぐふ。私達はガブリムのプリミティブを回収してくる」
ヴィヴィの意見にサラが頷く。
「そうですね。これだけのガブリムがいたという証拠を見せる必要がありますね」
「確かに倒したまま放置したガブリムも結構いましたわね」
「ならみんなで……は、無理か」
怯えた表情の女性三人を見てジェージェーが首を横に振る。
彼女らは早く洞窟から出してやらないとまた精神が不安定になるかもしれない。
「ぐふ。心配しなくてもチョロまかしたりはしない」
「そんな心配はしてませんわ。でも、皆さんばかりに働かせて申し訳ありませんわ」
「そうだぜ。ランクが上のあたいらばっか楽してるみたいじゃねえか」
「皆さんっ、ホントに見かけによらない……え?ちょっとマウさんなんですっ?その笑顔怖……痛いですっ!」
マウにどつかれて頭を抱えるアリスを横目にサラが口を開く。
「いえ、これは向き不向きの問題です。私達は護衛が最も苦手なのです」
「護衛って……ああ、そういうことか」
「なんだ?」
「洞窟の外にいるんだよ。たぶん、冒険者達」
「それって、つまり」
「さっきのニューズだっけ?彼らの知らせを盗み聞きでもしてやって来たんだよ。私達が倒した獲物の素材を掻っ攫おうとするハイエナどもが」
「ここにもそういうのがいるのですね」
マルコだけかと思っていたわ、とサラは心の中で付け加える。
「ここ最近かな。ほら、マルコギルドの不祥事、って関係者だか説明いらないよね」
「ええ、まあ。不本意ながら」
「あれでさ、マルコ所属の解約が大勢出ただろ」
「そうらしいですね」
「自ら進んで解約した者達は実力があってどこででもやっていく自信がある者達ばっかりだったからさ、マルコギルド所属の冒険者はクズばっかりが残ったんだ。もちろん、残った中にもまともな奴もいるとは思うけどさ。で、そのクズ達がギルドの奸計に引っかかって、って本人達は喚いているんだけど、ともかく所属解約させられてあちこちに散ったんだ」
「……やっぱりマルコ」
「ん?」
「いえ、その冒険者達がこの街にもいると」
「そゆこと」
「けっ、力がないならさっさと引退しろって言うんだ!あたいだったらさっさと引退してヨシラワンで第二の人生を送るぜ」
「そうなんだ」
「そんときゃ、大サービスするからなリオ!」
「はいっ、そう来ると思ってましたっ!遠慮しますっ」
「心配すんな、アリスもサービスしてやるって」
「いっ、いりませんっ!」
「ぐふ。話を戻すぞ。プリミティブ回収は私とリオでやる。サラとアリスもリリス達と外で待っていろ」
「ヴィヴィ、あなたね……」
「ぐふ。外の奴らと戦いになった場合を考えてだ。恐らくそんなことにはならないと思うが。それに彼女らが不安定になった時誰が落ち着かせる?」
「……わかりました」
「わりましたっ、リオさんっ、ヴィヴィさんっ、お気をつけてっ」
「わかった」
「ぐふ」
こうしてリオとヴィヴィは奥へ引き返して行った。
「あれ?洞窟出たのにまだ臭い。ちょっと、まさか臭いが染みついた?」
ジェージェーをはじめ、リリス、マウが年頃の女性らしく顔を真っ青して焦る。
救出した女性達も気にしだすが、彼女らには先程リフレッシュをかけたばかりだ。
サラがその理由に気づいた。
「……そういうわけではないようです」
「それはどういう意味ですの?」
「原因はアレです」
サラが指差す方から一組のパーティがやって来た。
彼らが近づてくるにつれて臭いがキツくなる。
そう、その悪臭は彼らが発生源であった。
彼らは先日、サラを勧誘して来た臭パーティだった。
「無事だったかサラ!」
リーダーが悪臭を振り撒きながら笑顔でやって来る。
「臭っ!こっち来るな!」
「お前らそれ以上近づくなっ!いや、もう百メートル離れろ!」
「いえ、視界から消えてください!」
リトルフラワーの面々の酷い言いように臭パーティは皆、心が傷ついた。
「び、美人だからって何を言ってもいいと思うなよ!」
「そうだぞ!俺達はちゃんと体を洗ったんだ!」
「おうっ、臭いはずがない!」
彼らの言葉の真偽はともかく、臭いのは事実だった。
「いいか、てめえら!それ以上近づくんじゃねえぞ!近づいたらぶった斬る!」
マウがグレートソードで臭パーティを威嚇する。
「ホントだよ!ロード倒したってのに、臭さでやられるなんて情けなさ過ぎるからね!」
「……あなた達、よく平気で生きてますわね」
散々な言われように臭パーティは涙目になる。
「お前ら……」
「それであなた達は何しにここへ来たのですか?」
サラが袖で口と鼻を押さえながら尋ねる。
「き、決まってるだろ!お前がガブリムロードと戦うと聞いて急いで助けにやって来たんだ!」
「おうっ!俺達が一番だ!」
「それだけお前の事を心配してたって事だぞ!サラ!」
「一番?……まだ誰かくるのですか?」
「おうっ!何組かな!あのムカつく女パーティもいたが途中でみんな顔を押さえて脱落していったぜ!」
「それはあなた達の臭さに我慢できなくなったのでしょう」とサラをはじめ皆が思った。
そんな事を考えているとは気付かずリーダーがキメ顔で言った。
「俺達の気持ちに感動してパーティに入りたくなっただろう!よしっ、サラ!帰ってすぐパーティ登録するぞ!」
「もう反対する理由は何もないだろ!?」
「俺達のパーティに入ればもう安心だぞ!」
臭パーティは何がおかしいのか「わはははっ」と笑い出す。
皆がポカンとする中でリリスが我に返りサラに尋ねる。
「……この人達は何を言ってるのです?」
「私もわかりません」
しかし、サラ達の態度に気付かぬようにリーダーは続ける。
「おいおいサラ、何困った顔してんだ?」
「おおっ、もしかして俺達に酷い事を言ったことを気にしてるのか?」
「気にするな!今回のガブリム退治の報酬を山分けすることで水に流してやる!」
臭パーティはそう言った後、何がおかしいのか再び「わはははっ!」と笑い出す。
彼らの臭さとバカさ加減に一番最初にキレたのはマウだった。
「ふざけんな!何が水に流すだ!まずはお前らのその悪臭を水に流してこい!今すぐ!ハーリーアップ!」
「マウ、落ち着きなさい」
臭パーティのリーダーはまたも臭いと言われ怒りを露わらにしたが、ニヤリとした顔をサラに向ける。
自分ではキメ顔をしているつもりだが、全く効果はない。
というか、悪臭が酷すぎて彼らの行動すべてが不快感を増大させる。
リーダーはそう思われていることに全く気づかず、自分の行動に酔いながら言った。
「よしっ、サラ!そんなに俺達が臭いって言い張るなら、パーティに加入しての最初の命令だ!神聖魔法には体を綺麗にする魔法があるだろ、それを俺達にかけろ!」
「……」
サラは臭パーティのリーダーに言われなくても彼らにリフレッシュをかけるつもりでいた。
彼らのため、ではもちろんなく、自分を含め、口と鼻を押さえて苦しむ他の者達が限界だったからである。
しかし、臭パーティのリーダーからその言葉が出た事で中止する。
臭パーティのリーダーの上から目線の発言にムカついたのと彼の命令とは関係なく自分で意思でリフレッシュをかけたと言っても自分勝手な彼らは信じないだろう。
自分達の命令を聞いたといって更に調子に乗るのが目に見えていたからだった。




