231話 ガブリム退治 その6
休憩が終わり、広場を調べていたジェージェーが秘密の通路を見つけた。
「ギルドの情報じゃ、洞窟はここで終わりのはずだったんだけどね」
「ともかく行ってみましょう」
リリスの意見に反対する者はおらず、慎重に秘密の通路を進む。
小部屋がいくつかあり、明らかに人が生活している痕跡のある部屋もあった。
そしてしばらく進むと女性の啜り泣くような声が聞こえて来た。
先には牢屋がいくつもあり、その啜り泣きはその一つから聞こえていたが、リリス達の足音に気づいたのかピタリと止む。
その牢屋には三人の女性が閉じ込められており、リリス達を見て怯えた表情をする。
「安心して下さい。私達は冒険者ギルドの依頼を受けて調査に来た者ですわ」
リリスが優しい笑顔を彼女らに向ける。
「た、助けてくれるのですかっ!?」
「う、家に帰れるの!?」
「……うう」
リリスが優しい笑顔で頷く。
「ジェージェー」
「任せて」
ジェージェーがあっという間に牢屋の鍵を開けると三人は怯えながらも牢屋を出て周りをキョロキョロ見回す。
「あなた達を誘拐したのはガブリムですか?」
その名を聞いて一人が恐ろしくなったのか泣き出す。
「落ち着いて下さい」
サラが彼女、いや、三人にリラックスの魔法を発動すると、落ち着きを取り戻す。
「あなた達はどうやってここへ連れて来られたのですか?」
「村が盗賊に襲われてっ」
「さ、最初は私達の村の近くにある廃墟に連れて来られたんです。それで何かの模様が描かれた上に立たされて、気づいたらここ、む、向こう部屋にいたんです……」
そう言って一人が奥にあるドアを指差す。
「ぐふ。恐らく転送陣だな」
「ではあなた達はこの近くの人ではないのかもしれませんね」
リリスが彼女達が住んでいた場所を尋ねる。
「ーーそれはここからですと歩いてひと月以上はかかりますわね」
「そ、そんな……」
「安心して下さい。必ず送り届けますわ」
「あ、ありがとうございますっ」
「ねえ、向こうの部屋を調べようよ」
三人が抱き合って喜んでいる中、空気を読まないことには定評のあるリオの無感情の声が響く。
「そ、そうですわね」
「私達の依頼はまだ終わってないんだ」
「だな」
リリスが囚われていた三人に言った。
「あなた達も一緒に……」
囚われていた三人はリリスにブンブンと首を横に振る。
「困りましたわね。あなた達だけを残してはいけませんし……」
「ぐふ。向こうの部屋は私達で調べよう」
「え?しかし……」
「ぐふ。魔術のことならこの中で私が一番詳しいだろうしな」
「そうだね。でも私もいくよ。向こうの部屋には魔法陣?があるだけっていうけど、まだ隠し部屋があるかもしれないからね。盗賊の力は必要だよ」
「そうですわね。ではここには私とマウが残りましょう。いいですわよね?」
「ああ。構わない」
「よし、じゃあ、さっさと片付けて、こんな臭いところとはおさらばしよう!」
リサヴィの四人とジェージェーが魔法陣のある部屋へと入った。
囚われていた三人の言う通り、地面には魔法陣が描かれていた。
「ぐふ。確かに転送陣だな」
ジェージェーが部屋の中を調べるが、隠し部屋などは見つからなかった。
ヴィヴィが魔法陣を調べていると、突然、転送陣が発光し始めた。
「ぐふ。何か転送されてくるな」
それはガブリムだった。
その数は五。
転送が完了すると同時にリオ、サラ、ジェージェーが攻撃をしかけ、ガブリム達は何が起きたかもわかぬうちに全滅した。
「これでガブリムの数が多かった謎が解けたね」
「ええ。この魔法陣でどこからかガブリムを転送していたのでしょう」
「一体誰がこんなバカなことするんですっ!」
「ねえ、ヴィヴィ、この転送陣を使って向こうに行ける?」
「リオ、それは流石に無謀です。向こうにどれだけのガブリム、いえ、何があるかもわからないのですから」
「そうなんだ」
「ぐふ。それ以前にこれは一方通行だ」
「そうなんだ」
そう言ったリオの表情はほとんど変化しなかったがどこかつまらなそうにサラには見えた。
「あ、また光った」
「性懲りもなく、また仕留めてやる!」
ジェージェーが短剣を構えるが、
「もう飽きた」
リオはそう言うと手にしたポールアックスを魔法陣に叩きつけた。
「ちょ、リオ!?」
そこへ四人の男が転送されてきた。
三人は盗賊風の格好をした男達で、もう一人は服装から神官のようだが、服に描かれたシンボルはジュアス教団のものではなかった。
「あれはメイデス神の神官!?」
「そ、そうですっ、あのシンボルは間違いないですっ。図書館で読んだ本で見たシンボルと一緒ですっ」
メイデス神の神官はサラ達が待ち構えていたのを見て少し驚いた様子を見せるが、アリスの服装を見てジュアス教団の神官がいると知り、不敵な笑みを浮かべる。
そして何事か喋りながら意味ありげに左手を右腕のブレスレットに触れるが、彼の声はサラ達に聞こえていなかった。
誰にも聞こえていないとも知らずどこか偉そうに喋り続けていた彼であるが、いくら待っても転送が完了しないことを不審に思い、周りを見て、転送陣が壊されているのに気づいて慌て出す。
何か喚いているが当然、サラ達には聞こえない。
そのうちメイデス神の神官を含む四人が苦しみだし、まもなくその体が砕け散った。
「きゃっ!」
それを見たアリスがリオの背に隠れる。
転送陣が停止し、その場には人間だったものが残っていた。
「……ま、結果オーライじゃない?」
そうジェージェーが呟いた。
「……そうですね。余裕の表情をしていましたから、何かしら私達に対抗する手段を持っていた可能性がありましたし……出来ればガブリムを送り込んで何を企んでいたか知りたいところではありましたが」
「ぐふ。目的はわからんが、私達に何をする気だったかはわかったぞ」
そう言ってヴィヴィがメイデスの神官だったものの中からブレスレットを拾い上げる。
「……ヴィヴィ、よく触れるね」
ジェージェーが思わずエンガチョのゼスチャーをする。
「ぐふ、後でリフレッシュをかければ済むことだ」
「そういう問題かな?」
サラがヴィヴィにリフレッシュを発動すると辺りが綺麗になった。
ガブリムの死体は残ったが、神官を含む四人の体は原型をとどめていないためか、すっと消えてしまった。
「あっ、それ、死体処理に便利……って、冗談冗談」
サラのジト目を受け、ジェージェーが慌てて否定するが、今のが本心であることを誰も疑っていなかった。
「それでヴィヴィ、それが魔道具である事は私にもわかりますが、どんなものなのですか?」
「ぐふ。魅了、いや、洗脳が正しいか。人の心を操る魔道具だ」
「……なるほど、それで私達を彼の友人とでも思いこませるつもりだったのかもしれませんね」
「ぐふ。危なかったな。こいつは相当強力だぞ。予め魔法防御をしていなければ防げなかったかもしれない」
「そうなんだ」
ともかく、これでガブリム退治の依頼は完了したのだった。




