230話 ガブリム退治 その5
ガブリムロードに向かうリオにガブリム達が殺到する。
リオは表情一つ変える事なく剣を振るいガブリムを蹴散らしていく。
ヴィヴィがリムーバルバインダーを飛ばし、弓を放つガブリムを粉砕していく。
サラもスリングで遠距離攻撃を行うガブリムを仕留める。
リオがガブリムロードのそばにやってくる頃には大半のガブリムが地に伏していた。
「ーーさあ、君は僕に絶望を与えてくれるかな?」
リオの口元が微かに緩む。
ガブリムロードは手下のガブリム達が殲滅されてもまったく焦りを見せない。
ポールアックスを肩に担ぐと「ちょっと遊んでやるか」みたいな余裕の表情を見せ、その巨体を揺らしながらゆっくりとリオに向かっていく。
リオは躊躇なく、ガブリムロードの懐に飛び込む。
いや、飛び込もうとしたが、ガブリムロードは先程からのゆっくりした動きからは想像できないほどの速さでポールアックスを片手で振り回した。
リオはその攻撃を間一髪でかわした。
「ガガッギッギ!!」
ガブリムロードが何事か叫ぶ。
意味はわからないが、バカにしている事はなんとなくわかった。
リオは首を傾げる。
「なんか、思ったのと違う。“弱過ぎる”」
リオがそう呟くとガブリムロードの顔が怒りの表情に変わった。
「ガガギッガ!!」
「ん?もしかして言った事わかったのかな……とっ」
リオはガブリムロードの攻撃を難なく回避する。
ガブリムロードは尽く攻撃がかわされるため、両手でポールアックスを構えるとリオに向かって全力で振り下ろした。
しかし、それもリオは難なく回避する。
ポールアックスの刃が勢い余って地面に深々と食い込んだ。
それを必死に引き抜こうとしているガブリムロードの姿をリオはつまらなそうな顔で眺めながら短剣を放った。
「ガガガアー!!」
ガブリムロードはリオの短剣で右目を潰され悲鳴を上げる。
「ヴィヴィ、こういうのを“宝の持ち腐れ”って言うんだよね?」
『ぐふ、その通りだ。あるいは“バ・カリスにナンバーズ”だな』
「そうなんだ」
リオがそばに浮かんでいるリムーバルバインダーを通してヴィヴィと話をしているとポールアックスを引き抜くのを諦めたガブリムロードが素手で襲いかかってきた。
リオはその腕をかわし、剣で斬り落とそうとしたが、骨を切断出来ず腕に食い込んだまま抜けなくなる。
ガブリムロードのもう片方の腕がリオを掴もうとしたので剣を手離し、距離をとる。
「硬いね。雑魚だけど」
ガブリムロードは雑魚呼ばわりされ、怒り狂いながらリオが手放した剣を自分の腕から引き抜く。
そして片目を潰され苦痛に歪みながらも必死に笑みを浮かべリオに剣を向ける。
「なるほど。僕もマネしよう」
リオが感情なく呟くと、ガブリムロードが振り下ろした剣をかわしながら、ポールアックスに近づいた。
「バッバババ!!」
「ん?もしかしてバカにされたのかな?」
『ぐふ』
ヴィヴィがリムーバルバイダーでポールアックスの柄の部分を強打する。
その衝撃でポールアックスの刃が地面から抜け、その柄をリオが掴んだ。
ガブリムロードの表情が固まる。
リオが両手でポールアックスを構える。
ガブリムロードが慌てて叫んだ。
「ジョ、ジョバデジョー!」
「意味不明」
その叫び声にはスリープ効果があったが、リオは難なくレジストに成功する。
ガブリムロードはリオに効果がなかったとわかると逃げ出そうとしたがその前にリオがポールアックスを振り抜く。
ガブリムロードの両足を難なく切断した。
ガブリムロードは悲鳴を上げながら転倒した。
「この武器強力だね。簡単に骨を切断できたよ」
『ぐふ。ナンバーズには及ばないがな』
「そうなんだ」
ヴィヴィはリオに答えながらスリープの影響を受けてウトウトしていたアリスの頭を小突く。
「いたっ!はっ!?す、すみませんっ!」
「ぐふ」
ガブリムロードの顔が苦痛に歪みながらも両腕を伸ばし、「来るなっ来るなっ」みたいなゼスチャーをするが、それを聞いてやる理由はリオにはない。
「ーー死ね、下等生物」
次の瞬間、ガブリムロードの腕と首が宙を舞った。
リオは転がる首をつまらなそうに眺めたあと、思い出したかのようにリリス達の戦いに目をやった。
その表情が微かに緩む。
「……僕の勝ちだ」
リリス達、リトルフラワーはまだ戦いの最中だった。
ただ、リリス達を擁護するならリリス達が相手にしているガブリムロードの方が強敵であった。
ガブリムロードが口を大きく開ける。
「気をつけろ!また来るぞっ!」
マウがそう叫んだ直後、ガブリムロードが咆哮する。
その咆哮にはパラライズの効果があった。
マウがレジストに失敗し全身が麻痺する。
(くそっ、体が動かねえ!)
そこへガブリムロードのグレートソードが振り下ろされる。
しかし、リリスが飛び込み間一髪で剣で受け流してマウを守る。
ジェージェーがガブリムロードの懐に飛び込み、牽制する。
その隙にサラが状態異常回復の魔法を発動する。
「助かったぜ!サラ!」
「いえ!気をつけて下さい!次が来ます!」
ガブリムロードがウィンドカッターの魔法を発動する。
予めサラがかけたシールドにより致命傷にはならないが、幾つもの傷を負う。
「魔法は厄介ですわね!」
「うんっ、連続で放てないのが救いだけ……って、ああっー!」
「うるせえ!」
マウがジェージェーを怒鳴りながらガブリムロードのグレートソードをバトルアックスで受ける。
マウのバトルアックスも魔法が付加された武器であるが、ガブリムロードのグレートソードの方が性能が高く、魔法効果が削られていくの感じる。
「ジェージェー、どうしたのですか!?」
「私達負けた!」
「ふざけんな!もう諦めたのかい!?」
「違う違う!賭けだよ賭け!」
「何!?」
「なんですって!?」
リリスとマウがリオの戦っていた方へチラリと目を向けるとポールアックスを肩に担いだリオがぼーとこちらを眺めていた。
そのそばには首のないガブリムロードが転がっていた。
それを見てリリス達の気合が入った。
「まさか助けを求めよう、なんて考えている人はいないわよね?」
「冗談言うな!あたいらはBランク冒険者だぞ!」
「その通り!ちょっとハンデあげ過ぎたね!」
「ええ。そろそろ私達も終わらせましょう!」
「おうっ、あたいも本気出すぜ!」
「私も本気出すよ!」
リリス達は気合が入ったから、別の効果か、ともかくこれ以降、ガブリムロードのパラライズ攻撃を尽くレジストに成功した。
一番やっかいだったパラライズ攻撃の無効化は大きく、やがてガブリムロードは地に伏した。
ガブリム達の死亡確認を兼ねたプリミティブの抜き取りを行なった後、休憩を取ることにした。
「リオ!賭けはあたい達の負けだ!約束通り飯奢ってやるぜ!」
「ありがとう」
「その後、私達の部屋で素晴らしいデザートをご馳走しますわ」
「三つねっ!」
「ありが……」
「ちょっと待ったー!」
アリスが顔を真っ赤にしてリオの前に立つ。
「そっ、それは遠慮しますっ」
「あら、誤解させてしまったようですわね。リサヴィの皆さんにもご飯はご馳走しますが、デザートはリオだけですわ」
「ぜんっぜんっ誤解してませんっ!思った通りですっ!そ、そういうのはわたし達がいますので必要ないですっ!って、きゃっ」
アリスは自分の発言が恥ずかしくなり、顔を両手で覆った。
「ぐふ。このエロ神官共が」
「どさくさ紛れに私を含めるな!」




