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23話 魔装士 その1

「……死んだ?」


 リオの独り言に近い言葉に答える者がいた。


「ぐふ。頭を失えばゾンビすら再び冥府へ帰る。生あるものならば尚更、だ」


 リオは背後からした声に振り返ると青いコートに青い仮面をつけた者が立っていた。

 その者の左肩にはさっきリオを守ったものと同じこれも青い盾が装備されていた。そこへリオを守ったもう一つの盾が戻ってくると右肩に装着された。

 右手には先程、ガドタークの目を貫いたものと同じ短剣が握られており、その刃が薄赤い光を放っていることから魔法が付加されているのがわかる。

 リオは珍しく驚きの表情を見せながら感謝の言葉を述べる。


「ありがとう。助かったよ」

「……」


 そこへウォルーを撃退したサラが現れた。


「リオ!大丈夫ですか⁉︎ ……⁉︎」


 その者、魔装士の姿を見てサラの体に緊張が走る。

 魔装士はカルハン魔法王国で生まれたクラスだ。

 魔装士は他のクラスと違い、装備が決まっている。

 魔裝着と呼ばれる装着者の魔力を吸収する地面に届きそうなくらい長いコート、その両肩には魔裝着が吸収した魔力を動力として浮遊する棺とも見える程大きな盾であるリムーバルバインダー、そしてそのリムーバルバインダーを操作するための仮面である。

 どれが欠けても魔裝士として機能しない。

 更にこの魔装士の背中には背負子が装備され大きな木箱が載せられていた。


 先のジュアス教団に属する異端審問機関との戦いにカルハン魔法王国が勝利したのは、この魔装士の力が大きかったと言われている。

 これは魔装士自身の戦闘力が高いというわけではなく、リムーバルバインダーの中に格納されている魔法武器の活躍が大きい。

 リムーバルバインダーはただの盾ではなく、中に武器を格納できる。

 格納された武器は魔装士からの魔力供給により、魔法が付加される。

 通常、魔法武器は高価であるが、このリムーバルバインダーによる魔法強化はどこでも手に入る武器でも可能なため、低コストで魔法武器を用意できるのだ。

 これにより、カルハンの騎士達は全員が魔法武器を装備することができ、最強といわれていたジュアス教団の異端審問官を相手に勝利を収めたのだった。



「あ、サラ。無事でよかった」


 サラは呑気なリオに顔を向けず、全身青づくめの魔装士から目を外さず詰問調で尋ねる。


「リオ、この人はあなたのパーティの者ですか?」

「え?違うよ」

「では知り合いですか?」

「今、会ったばかりだよ。どうしたの?……あ、大丈夫だよ。彼は僕を助けてくれたんだ。すごいんだ、一瞬で二体のガドタークを倒したんだよ」

「ぐふ」


 魔装士の発したおかしな声にサラは嫌悪感を覚える。


「あなたは魔装士ですね……その装備、あなたはカルハンの魔装士なのですか?」


 サラの問いかけに魔装士は沈黙を保ったままだ。


「……」

「その”ぐふっ”て癖なのかな?」

「ぐふ」


 肯定したのか否定したのか。仮面を付けているので表情も読めず、どう判断していいのか分からない。


「何故カルハンの魔装士がこんなところにいるのですか?」

「……ぐふ。外見で判断するは愚か者のすることよ」


 魔装士に愚か者呼ばわりされ、サラの表情が険悪なものになる。


「あなたが答えないからでしょ!違うなら最初に質問したときに否定しなさいよ!」

「サラは魔装士が嫌いなの?」

「いえ、好きとか嫌いという感情はありません」

「じゃあ……」

「ただ、不思議に思っただけです」


 サラは魔裝士から目を離さず続ける。


「魔装士は荷物搬送を主としたクラスです。にも関わらず、この者はたった一人のようです。明らかに不自然です」

「ぐふ」


 今度は笑ったのだとわかった。


「……」


 サラは魔装士が自分の疑問に答える気がないとわかり、その場から去ることに決めた。

 もちろん警戒を怠らない。


「行きましょう、リオ」

「うん。ありがとう。ええと、君はなんて言うんだっけ?あ、僕はリオ。で、彼女がサラ」


 サラは答えを期待していなかったが、意外にも魔裝士は自分の名を名乗った。


「ぐふ。ヴィヴィ」

「ありがとう、ぐふヴィヴィ」

「ぐふ!ヴィヴィだ。私の名前はヴィヴィ」


 言い直した魔裝士の声はどこか苛立ちを感じた。


(そうよ!リオの相手をすると疲れるのよっ!ざまあみろーっ!)


 サラは少しスッキリした気分になった。

 が、直ぐに大人気ないと気づきこっそり反省する。


「そうなんだ。ありがとう、ヴィヴィ」


 リオとサラがその場を離れようとした時だった。


「ぐふ。待て」


 リオが立ち止まったので、サラも嫌々、誰が見てもはっきりわかる態度で振り返った。


「……なんでしょうか?」

「ぐふ。お前達はどこへ向かっているのだ?」

「あなたには関係ありません」

「ぐふ。お前はどうでもいいが、」


 むっとするサラを無視し、魔装士はリオを見て続ける。


「せっかく助けてやった命が散るのを見過ごせない。ーーそっちの神官はともかく」

「余計な御世話です!」

「サラ、怒ってるの?」

「怒ってません!」

「……」


 サラはリオが珍しく困った顔をするのを見て、やっと頭に血が上ってることに気づいた。

 サラに代わりリオが話を続ける。


「もしかしてヴィヴィはこの森の抜け方を知っているの?」


 ヴィヴィは微かに首をかしげた、ように見えた。


「実は僕たち迷子になって……」

「リオ!」


 サラは慌ててリオの口を塞ぐ。


「ぐふ!」


(明らかに笑ったわ!絶対笑ったわ!)


 サラは顔を少し赤くしながらヴィヴィを睨む。


「なんですか!」

「ぐふ。私が街道まで案内してやろう」

「ほんと?」

「……」

「ぐふ。ちなみにお前達が進もうとした方角は全く逆だ。森の奥へ向かうぞ」

「‼︎」


 サラは唇をかみしめた。

 サラはこのヴィヴィという魔装士に対して負けを認めたくないという思いが強かった。

 その思いがどこからくるのかわからない。


「ヴィヴィは親切だね。魔裝士ってみんなそうなのかな?」

「そんなわけないでしょう」

「ぐふ。旅は道連れ」


 ヴィヴィがぼそりと言った。


「そうだね。いいんじゃないかな?街に戻りたいし」


 しかし、サラはもうほとんど意地になって拒否する。


「確かに森から抜けたいです。ですがこの者が何の企みもなく親切で行動しているという確証がありません!」

「……」

「第一、行動を共にするなら姿を見せるべきです!」


 ヴィヴィはその言葉を聞いた途端、両肩の盾、リムーバル・バインダーをパージした。


「!!」

「!?」


 サラに遅れてリオが慌てて構えを取るが、魔装士に戦う意思はなかった。

 リムーバルバインダーの先端が地面に突き刺さり停止し、そして魔裝士が仮面を外す。


「!?」


 現れたのは予想に反して美しい女性の顔だった。


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