229話 ガブリム退治 その4
ニューズ達を見送り、リトルフラワーとリサヴィはガブリムの巣となっている洞窟へと向かう。
洞窟の前には見張りが二匹立っていたが、サラのスリングとジェージェーの弓で一瞬で仕留める。
洞窟の中は悪臭が酷かったが、リサヴィは先日、臭パーティに絡まれた事もあり、多少耐性はあった。
リトルフラワーはといえば不快な表情はしているものの誰からも文句は出ない。
洞窟内はその外壁に生えている光苔のおかげで自分達で明かりを用意する必要はなかった。
ジェージェーは不自然さを感じ、外壁を調べる。
「この光苔、自然に生えたものじゃないね」
「えっ?ガブリムが植えたってことですかっ?」
「あるいはその前に誰か住んでいたか、それとも……」
「敵はガブリムだけではないのかもしれませんわ」
魔物を使役して悪さをする者達もいる。
ガブリムの数が依頼と違いすぎるのはギルドの調査ミスではなく、何者かによって急速に集められた可能性をリリスは暗にほのめかしたのだ。
「そうですね、慎重に進みましょう」
途中、ガブリムに出くわしたが一方的に仕留め、危なげなく進む。
そのうち、ガブリムと遭遇しなくなった。
「流石に気づかれてますわね」
「そりゃあな。こんだけ戦ってればな」
「待ち構えているね」
「ええ」
しばらく進むと前方に大きな扉が見えて来た。
ギルドから得た情報ではこの先は大きな広場になっているはずだった。
扉のことはギルドからの情報にはなかった。
その事で何者かが関与している疑いが濃くなった。
ジェージェーが慎重にドアを調べる。
「扉に罠はないよ。鍵もかかってない。向こう側の様子はわからないけど、少なくともドアを開けてすぐにガブリムと鉢合わせする事はない思うよ。矢とかは降ってくるかもしれないけどね」
「さて、どうする?てか、扉開けて突っ込む以外の選択はないと思うけどよっ」
「そうですわね」
「リサヴィはどうかな?」
ジェージェーがサラ達の顔を見回すが、異論を唱えるものはない。
「よしっ、じゃあ、作戦だけど、私達三人がガブリムロードを相手にする。悪いけどサラにはサポートをお願いしたい。魔法を使ってきたときとかね」
「わかりました」
「で、リオ、ヴィヴィは雑魚を頼むよ。アリスは怪我した者に回復、ってのでどう?」
「わかった」
「ぐふ」
「はいっ」
「じゃあ……」
「ちょっと待ってください」
サラが扉を開ける前にみんなにシールドの魔法をかける。
「これで物理、魔法耐性がつきますが、完全に防ぐものではありませんので注意して下さい」
「わかりましたわ」
「助かるぜっ」
「うん、これで十分だよ」
リトルフラワーはもう勝った気でいた。
だが、
「……おい、嘘だろ!?」
扉を開けた先にガブリム達が待ち構えていた。
ガブリムロードも予想通りいた。
しかし、その数は一体ではなかった。
二体いたのだ。
全長三メートルを超えるガブリムロード達は冒険者から奪ったものであろう、ポールアックス、グレートソードをそれぞれ手にしていた。
それらは普通のものではなく、刃が魔法の光を放っていた。
本来であれば両手で扱う武器であるが、彼らが持つと片手武器のように見える。
動揺を隠せない三人の耳にリオの呑気が声が聞こえた。
「これは運がいい」
リオの呟きを耳にし、マウがリオを怒鳴る。
「おいっ、リオ!気でも狂ったか!」
「ん?」
リオは怒鳴られても何も感じなかったようでマウに平然として言った。
「実は僕もガブリムロードと戦ってみたかったんだ。でも、この依頼はリリス達が受けたものだから遠慮してたんだ」
「リオ、あなた……」
「ぐふ。遠慮できたんだな」
「うん」
ヴィヴィに返事したリオの表情に変化はないがどこか誇らしげだった。
「そうなのか、って、違うだろ!」
マウがヴィヴィに突っ込む。
「お前らロードを舐めてるだろ!」
「そうですわ!正気に戻って下さい!」
リリス達はリオ達が恐怖でおかしくなったと思ったようだが、リオは構わず続ける。
「でもリリス達、二体同時に相手は無理だよね。なら僕が一体もらってもいいよね」
「いや、そういう事を言ってんじゃねえ……おい、サラ!お前、リオを甘やかしすぎじゃねえのか!?勇者と自分の趣味をごっちゃにするからこうい……いや、なんでもねえ」
マウはサラの「あん?」みたいな顔で睨まれ言葉を濁す。
Bランク冒険者のマウがDランク冒険者のサラに圧倒されたのだ。
リトルフラワーはサラの噂が本当であること(その強さとショタコン)を察する。
冒険者達が突入して来ないのに痺れを切らしたのか、ポールアックスを持っているガブリムロードが奇声を上げた。
するとガブリム達がリオ達に殺到する。
矢を放つものもいるが、距離がまだ遠くリオ達のところまでは届かない。
「リリス達の漫才が面白くなかったから怒ったみたいだ」
「そんなことしてませんわ!」
リオの冗談か本心か判断つかない言葉にリリスをはじめリトルフラワーが文句を言うがリオはスルー。
「じゃあ、さっきの作戦を一部変更するよ」
「おいっ……」
「ぐふ。どうするのだ?」
マウの抗議をヴィヴィが遮る。
「リリス達は当初の作戦通り、そうだね、剣持ってる方を頼むよ。あのデカい斧?を持ってる方は僕がやる。サラはリリス達だけじゃなく、僕もサポートして。ヴィヴィには悪いけどアンディの守りと雑魚を頼んでいいかな?」
「ぐふ。わかった」
「リオさんっ、わたしはっ?」
「アリエッタは回復。万が一の時はエリアシールドをつかって」
「はいっ……って、わたしはアリスですっ」
「うん、知ってた」
「おい、ちょっと待て!お前、ガブリムロードに一人で立ち向かうってか!?」
「無謀です!サラ!私達の事はいいですからあなたはリオと一緒に……」
リリスの言葉は途中でリオに遮られた。
「そうだ。せっかくだから賭けをしよう」
「はあっ!?賭けだと!?」
「先に倒した方がご飯を奢るってことにしようか」
「リオ!もっと真剣になってください!ガブリムロードはそんな甘い相手ではありませんわよ!」
「ホントだよ!」
しかし、リオは反論を全てスルー。
「賭け事は人生に彩りを与えるって言ってたよ」
サラは珍しく饒舌なリオに違和感を抱きながらそんなバカな事を言った相手を確認する。
「またナックですか?」
「うん」
サラがため息をつく。
リオが静かに作戦開始を告げる。
「ーーさあ、はじめよう」
「「「!!」」」
リリス達はリオの立てた作戦に納得していなかった。
だから直前までこの無謀な作戦をやめさせようとしていた。
しかし、リオのその言葉を聞いた途端、自分達のやっている事がバカらしく思えて来た。
そしてガブリムロードへ向かって走り出したリオを見て焦り出す。
リオの命が危ない、
ではない。
この時、既にリリスの頭の中から先程まで感じていた恐怖は消え去っていた。
それだけではなく力がみなぎっていた。
もはや、ガブリムロードに勝つ事は決定事項であり、負ける事など微塵も考えていなかった。
リオにガブリムロードを先に倒されてしまう、その事に焦りを覚えていたのだった。
「行きますわよ!」
そう思ったのはリリスだけでなく、マウ、そしてジェージェーも同じだった。
「僕達に喧嘩を売ったんだ!ちょっと可哀想だけど超高級料理を奢らせようよ!」
「そうだな!払えなかったらその分体で払ってもらおうぜ!」
リリス達がリオに遅れてグレートソードを持ったガブリムロードに向かって走り出す。
マウの言葉を耳にしたアリスが慌てて叫ぶ。
「そ、そんな事は絶対にさせませんっ!リオさんっ!負けないでくださいっ!」
誰もリオがガブリムロードに負けることを考えていなかった。
サラでさえも。
そして、その事を誰も不思議だと思わなかったのである。




