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227話 ガブリム退治 その2

 リサヴィとリトルフラワーはガブリムの巣となっている洞窟に向かって山道を歩いていた。

 隊列は前衛がリトルフラワー、後衛がリサヴィだ。


「なんか懐かしいね。ウィンドと一緒に旅してた時を思い出すよ」

「リオからそんな言葉が出るとは意外です」

「そうなんだ」

「何が意外なんだい?」


 マウがリオ達の話に入っている。

 戦士のマウは中性的な顔立ちをした美女で、その背には顔に似合わぬ大型のバトルアックスを装備している。


「いえ、リオは感傷的になったり、物事に関心を持ったりすることが少ないのです」

「そうなんだ」

「あなたの事を言ってるのです」

「そうだった」

「へえ。それは人もかい?例えば、あたいはどうだい?」


 マウがそう言った途端、アリスがばっとリオの前に立つ。


「間に合ってますっ」

「いや、あんたには聞いてないぜ、お嬢ちゃん。まあ、金くれりゃお嬢ちゃんの相手してやってもいいぜ」

「ひっ」


 アリスがささっとリオを盾にする。

 

「おう、リオを譲ってくれるってか」

「はっ!?ち、違いますっ」

「マウ、冗談はそのくらいにしておきなさい」

「わかってるよ」


 しかし、アリスは冗談とは思わなかった。

 マウの目に身の危険を感じたのであった。


(こっ、この人っ、マウさんはどっちもオッケーな人ですっ)



 そうこうするうちにガブリムの巣とされる洞窟が間近に迫って来た。

 

「!!止まって」

 

 ジェージェーの小さい、しかし鋭い声に皆立ち止まる。

 ジェージェーは幼い顔立ちをした美少女であるがすでに成人した女性だ。

 武器は盗賊らしく短剣と弓だ。

  

「……前方に何かいるよ、しかも複数……こりゃガブリムだね。しかも“お荷物”抱えてるみたいだよ」

 彼女のいうお荷物とはどこからか攫って来た女性達の事だ。

 その言葉を聞いてリリスの表情が冷酷なものに変わる。


「殺りましょう」

「冷静になれって、リリス」

「そうだよ。それにちょっとおかしい」

「……なんですの?」

「ガブリムの数だよ。恐らく十匹いる」

「ん?それじゃそれを全滅させたら終わり?」


 リオの言葉をマウが否定する。

 

「いや、奴らは掠奪組と同数程度の数を巣に残す傾向がある。絶対じゃないがな」

「つまり、当初よりガブリムの数が多いという事ですね」

「そう考えた方がいいよ」

「……」

「ぐふ。ともかく後を追うべきではないか」

「そうだね。奴らの後を追おう」


 ガブリム達は荷物を運んでいるため移動速度は遅く、やがて皆にその姿が見えて来た。

 ジェージェーの言う通りガブリムは十匹おり、荷物は二つ、つまり二人だった。


「あれがガブリムか」


 リオがぼそりと呟く。

 ガブリムの姿は遠くから見ると人の姿に見えるが、大きく違うのは肌の色と顔だ。

 全身が青く、狼と豚を合わせたような顔をしている。

 ガブリム達は人から奪ったであろう服、武器、そして装飾品を身につけていた。

 服はボロボロで汚れが酷く一度も洗っていないように見えた。

 リトルフラワーとリサヴィは気づかれないように距離を保ちながら後を追う。


「ぐふ。どうするのだ?このまま追えば巣まで案内してくれそうだが」


 ヴィヴィにリリスが答える。


「殺りましょう。巣に戻られたら倍の数を相手にする可能性が高いですし、なにより今を逃せば彼女達を助けられないかもしれません」

「そうだね、リサヴィのみんなもいい?」


 サラは彼女らが人助けを進んですることに失礼ながら意外に思っていた。

 もちろん、誘拐された人達を助けることに反対する理由はない。

 ジェージェーの問いにサラをはじめ、皆が頷く。


「じゃあ、私は弓で仕掛けるけど、そっち遠距離攻撃……できそうなのいないね」

「いえ、私はスリングがあります」

「そう、じゃあそれでよろしくね。じゃあ、突入はリリス、マウ、リオでいい?残りは私とサラに合わせて移動」

「ええ」

「任せろ」

「わかった」

「問題ないです」


 サラは返事しながら、作戦を立てるのがリーダーのリリスではなく、盗賊であるジェージェーである事に驚いたが作戦内容に異論はなかったので口にはしなかった。


「じゃあ、スタートだ」


 リリス、マウ、そしてリオが出来るだけ音を立てないようにしながらガブリムへ近づく。

 ジェージェーが弓を構え、サラが弾をスリングにセットする。

 ガブリム達は“荷物”を持っての移動なので遅い。

 そこそこの腕があれば容易に当てることは可能だろう。

 リトルフラワーのメンバーは全員Bランクであり、それは伊達ではなかった。

 ジェージェーの放った矢はガブリムの頭に突き刺さり、倒れて二度と起き上がる事はなかった。

 更にサラの放ったスリングの弾がもう一匹を仕留める。

 ガブリム達は襲撃に気づき、接近しているリリス達の姿を見つけると何事か騒ぎ出す。

 その中から一匹が走り出した。

 恐らく巣へ連絡しに向かったのだろう。

 しかし、五メートルも進まぬうちに転倒し、そのまま動かなくなった。

 リオが放った短剣が頭に突き刺ささり、即死だった。


「やるじゃねえかリオ!」

「私達も負けていられませんわ!」

「おう!」


 ガブリムに人質をとる、という知恵はないのか、人質をその場に捨ててガブリがリリス達に向かってきた。

 

「身の程知らずですわ!」

「はははっ!向こうからやって来やがる!こりゃ楽できるぞ!」

「そうだね」

「魔法を使う個体はいないようだけど油断するなよ!」


 ジェージェーの注意にマウが腕を上げて応える。

 リリス達によりガブリムは一方的に倒されていく。

 勝てないと悟った一匹が逃走を図ったが、上空から降って来たリムーバルバインダーに頭を叩き潰され、事なきを得た。

 冒険者側の完全勝利であった。



「お前ら強いな!なんでそれでDランクなんだ?」

「そうだよ!サラが強いのはわかってたけどさ、リオもヴィヴィもこれほど強いとは思わなかったよ!」

「特にヴィヴィ、お前だ。前にちょっと一緒に行動してた棺桶、じゃなくて魔装士なんかさ、お前みたいに器用に盾を飛ばせねえし、ほんと荷物持つしか能がなくてよっ。夜は夜で腰の振りも弱い……」

「マウ!」

「おっと、悪い悪い」


 マウはジェージェーの鋭い声でサラとアリスが睨んでいるに気づき言葉を止めた。



 その頃、リリスは誘拐された女性達の元へいち早く向かっていた。


「大丈夫でしたか?」


 リリスを見て女性二人は安心したのか、わっと泣き出してリリスにしがみつく。


「安心してください。もう大丈夫ですわ」


 リリスが優しく二人の頭を撫でる。


「……なんか噂と違いますっ」

「噂ってなんだ?」


 アリスの呟きがマウに届き尋ねる。

 

「えっ?あっ、いえっ、そのっ、リトルフラワーの皆さんの噂はっ、そのっ、人の彼氏を奪うとかよくない噂ばっかりだったのでっ、そのっ」

「それは事実だ!」

「うん!否定しないよ!」


 そう言ったマウとジェージェーの顔は何故か誇らしげだった。


「ダメですっ!リオさんは絶対ダメですっ!」


 そう言ってアリスがリオを庇うように立つ。


「……リオ以外はいいんだ」

「それはその人達がなんとかする問題ですっ!って、ともかくっ、そのっ、大変失礼な事言っちゃうと、そのっ、皆さんが進んで人助けするような方達とは思わなかったんですっ。すみませんっ」

「いやいや、そうはっきり言ってくれるとなんだ、あんまムカつかないな」

「そうだね」


 サラはアリスがあまりに直球で話すのでハラハラしていたが、何も起こらずほっ、とした。


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