225話 顔合わせ
宿屋に到着するとリリスは一階の酒場にリサヴィを残し、自分達の部屋に向かった。
その時にはリリスに声をかけた男達の姿は既になかった。
リリスが部屋に入ると他のメンバーはベッドの上に転がってくつろいでいた。
リリスの話を聞いて盗賊のジェージェーが不満そうな顔で言った。
「リリス、あんたマジ?」
「ええ」
「そいつらDランクなんだろ?役に立つのか?」
戦士のマウの問いにリリスが頷く。
「少なくともサラの腕は確かですわ。あのナナルの弟子ですから」
「でもさ、そのサラの勇者候補ってリッキーキラー、って呼ばれてる奴でしょ?雑魚退治でDランクに上がった小物よ小物」
「マジかよっ!?そりゃダメだろっ!」
「ジェージェーはリサヴィの事、よく知ってましたわね」
「これでも盗賊よ。情報収集は欠かしてないわ」
「他はどうなんだ?そのサラって奴以外は使えんのか?」
「情報収集してるって言ったそばから悪いけどさ、魔装士のことはよくわからない。情報が少ないのよ。魔装具がカルハン製だからカルハン出身という話が有力だけど、実力は全然わからない。けど魔装士は所詮魔装士でしょ」
ジェージェーは暗に荷物持ちの腕なんかたかが知れてると言っており、その意図は十分伝わった。
二人から反論はなかったがマウが疑問に思った事を口にする。
「魔装士の装備ってよ、カルハン製しかないんじゃねえのか?」
「うわーっ、マウは相変わらず無知ねぇー」
「なんだとっ!?」
「やめなさい二人とも」
「ちっ」
「べーだ!」
「てめえっ」
「ストップですわ!」
マウが舌打ちをする。
「ま、魔装士については考えてもしゃーねえな。それでもう一人の神官は?アリスだったか?」
「その神官の情報もないよ。最近入った奴だから」
「なんだ、当てになりそうなのは結局サラだけか。あとは未知数ってわけだろ?リリス、本当にそいつらと組むつもりか?」
「ええ。向こうがOKしてくれれば、ですけれど」
「リリス〜、依頼をキャンセルするのが嫌ならさ、Cランクの依頼なんだし、あのアホがいなくても私達だけでなんとかなるんじゃない?」
「そうだぜ。他のパーティと組むとしてもよ、せめてCランクの奴らを誘おうぜ」
「これは驚きましたわ!私達と一緒に依頼を受けてくださるパーティがいるのでしたらぜひ紹介してほしいですわ」
「うっ……そ、それは……」
下半身でモノを考える男パーティなら手伝ってくれるだろうが、間違いなく見返りに体を要求してくる。
彼女らは男好きである事は否定しないが、誰でもいいわけではない。
体を要求してくる奴らは決まって好みとは対極に位置する者達ばかりなのだ。
「ジェージェーも依頼を甘く見てはダメですわ。あのアホなしでどうやって怪我を治すつもりなのですか?ポーションもそんなに持っては歩けませんわよ」
「そ、それはそうだけどさ……」
「私は一緒に依頼を受けるならリサヴィと組みたいですわ。リサヴィがいいのですわ。それにリオは私達と全く無関係という訳ではありませんわ」
「どういう意味よ?」
「もしかしてヨシラワンにいた時、“相手した事”があるとか?」
「リオはあのナックの知り合いなのです」
「ナック!あのお喋り魔術士!?」
「はい」
「あー、あいつねぇ」
三人、いや、今ここにいないアホ、もとい、魔術士のアールニを含め四人ともナックと関係していた。
「ま、ナックはいっぱいお金落としてくれたけどさぁ。知り合いってだけでしょ?そいつが私達にお金落としてくれたわけじゃないし、関係なくない?」
「それだけではありません」
「他に何があるのよ?」
「リオは私達のパーティの事を迷わずリトルフラワーと呼んでくれたのです」
「「!!!」」
自分達が自由奔放にやっていることは自覚しており、サキュバスなんて悪名で呼ばれているのも知っているが気にしていなかった。
それでも正しくパーティ名を呼んでくれると嬉しいものだった。
その話を聞いた途端、二人とも考えがコロリと変わった。
「しょ、しょうがないわね。リリスっ、そういう事は最初に言いなさいよ!」
「そ、そうだな。会ってやるくらいならいいかもな」
二人が照れる姿にリリスは苦笑する。
「何を言っているのですか。私達がお願いする方ですわ」
「わ、わかってるわよ」
「それでリリス、肝心なこと聞いてないぞ」
「何でしょうか?」
「そのリオ?って奴どうなんだ?」
マウの言いたいことは言うまでもなくいい男か、という意味である。
「そうですわね……私は嫌いではありませんわ」
「おおっ!?リリスがショタコンに目覚めた!」
「マウ、リオは若いですがショタと呼ぶほどはないですわ」
それを聞き、二人はやる気が出た。
いろんな意味で。
「よしっ、さっさと会いに行こうぜっ!」
「そうね!」
「二人ともお待ちなさい」
「何よ?」
「その前に服を着なさい」
「「あ」」
二人は寝起きのままの格好、裸だった。
しばらくして、この場にいない魔術士を除いたリトルフラワーの面々が二階から降りてきた。
「皆さん、お待たせして申し訳ありませんでしたわ」
「いえ、全然大丈夫です」
リサヴィを代表してサラが答える。
戦士のマウと盗賊のジェージェーが獲物を狙うかのような目つきでリオを見る。
「ん?」
鈍いリオでも流石に気づき、何か言おうとしたが、その前にアリスが動いた。
「リ、リオさんはダメですっ!」
リリスが仲間に視線を向ける。
「二人とも落ち着きなさい」
「あ、あはあはは」
「わりいわりい」
「すみません、リオ」
「ん?よくわからないけど別にいいよ」
「ありがとうございます。ほら、二人とも挨拶して」
リサヴィとリトルフラワーが自己紹介を済ませる。
「あのさ、ヴィヴィってカルハンの人?」
「ぐふ?」
「いや、『ぐふ』じゃなくってさ」
「ジェージェー、無駄です。ヴィヴィは過去に相当悪いことをしたようで自分の事を話したがらないし、仮面も滅多に外しません」
「ぐふ」
「自己紹介の時くらい仮面取れよ」
「ぐふ?」
「ヴィヴィは恥ずかしがり屋なんだ」
リオがヴィヴィに代わって説明する。
「ぐふ」
「いやいや、恥ずかしがり屋って、十分目立ってんじゃん」
「二人とも詮索はよしなさい。自己紹介が終わりましたから依頼内容を説明させていただきますね」
「よろしくお願いします」
サラが代表して答える。
「なあ、このパーティのリーダーって本当にリオか?サラじゃねえの?」
「ぐふ。気にするな。この女は仕切りたがり屋なのだ」
「失礼ね!誰もしないから私がやっているのです!」
「そうなんだ」
リオはふいに顔が下を向いた。
サラにどつかれたのだと気づく。
「『そうなんだ』じゃありません」
「おお、やっぱ噂は本当か」
「え?なんの噂ですか?」
「いえ、こちらの話ですわ。気にしないでください」
「……」
しかし、その後、マウとジェージェーの「噂通り鉄拳制裁するんだな」「ありゃ調教じゃない」と小声で話しているのがサラの耳に入ったが聞こえないふりをした。




