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224話 リトルフラワー

 リリスはリオの顔を見にいくとは言ったもののどこへ向かえば会えるのかわからなかった。

 かと言って彼らに聞きに戻るのも馬鹿らしいし、彼らが知っているとも限らない。

 そう考えているとどうでも良くなってきた。


「……別の店で飲み直すことにしますわ」


 リリスはそう呟いて街を適当に歩き始める。

 すると前方からひと組のパーティがやって来るのが見えた。

 

「……あらあら、どうやらこれは運命かしら」


 リリスはそのパーティ、リサヴィへ近づいていった。



「こんにちは」

「うん?」


 リオは挨拶をしてきた女冒険者の顔をじっと見る。


「お知り合いですか?」

「さあ?」


 サラの問いにリオは首を傾げた。


(リオの場合、困ったことに本当に会ったことがないのか、単に覚えていないだけなのかわからないのよね……)


 その冒険者、リリスは今まで何人もの男を籠絡した自慢の笑顔に何の反応も示さなかったリオに対して怒り心頭であったが、それを顔に出すことはなかった。

 リリスは年上好みでリオは全くタイプではなかったが、リオの素っ気ない態度がリリスの心に火をつけた。


(何としてでも私に夢中にさせてみせますわ!そして手酷く振ってやりますわ!)


 そんな事を考えているとは到底思えない爽やかな笑顔をリオに向ける。


「あ、驚かせてしまったのでしたら謝りますわ。リサヴィの方ですわよね?」

「ええ、そうですがどこかでお会いしましたか?」

「いえ、初対面ですわ。ご紹介が遅れて申し訳ありません。私はリリスと言います。あなた方のお噂を聞いておりましたので、見かけてつい話しかけてしまいましたわ」

「そうでしたか」

「リリス……!!」


 その名を呟いたアリスがハッとした顔をする。

 

「ま、まさかっ!あのリリスさんですかっ!?」

「この方を知ってるのですか?」

「は、はい、サキュ……」


 アリスの言葉を遮るようにリオが「ああ」と声を上げた。


「もしかしてリトルフラワーのリリス?」

「!!」


 リリスはリオが自分達のパーティ名を知っていた事に驚いた。

 今では悪名のサキュバスが有名になりすぎてギルドの受付嬢ですらうっかりサキュバスと口を滑らせることもあるのだ。

 冒険者の中にはサキュバスが本当のパーティ名だと思っている者も少なくないのである。


「ご存じでしたとは驚きですわ。とても嬉しいですわ」


 本心であった。

 先ほどリリスの心に湧き上がったリオへの怒りは綺麗さっぱり消え、好感へコロリと変わる。

 サラがリオに尋ねる。


「リオはリリスさんと会った事があったのですか?」

「ないよ」

「では何故知っていたのですか?」

「私もぜひ知りたいですわ」

「前にナックが話していたのを思い出したんだ。ヨシラ……なんとかって街に行ったときにリトルフラワーってパーティにリリスっていうすごい人がいるって」

「ナックですか。またナックですか」


 サラはリオの話からリリスが娼婦、もしくはそれに近い仕事をしていたのだと察した。


(いなくてもあの人が教えたくだらない知識は消えないのよね……でも今回はその知識が役にたった、のかしら?)


「ナックですか。懐かしい名前が出てきましたね」

「ぐふ。お前はナックと面識があるのか?」

「ええ。ヨシラワンにいた時にたくさんお相手して頂きました」

「「「……」」」

「そうなんだ」


 リリスの言葉の意味をリオだけ正しく理解できなかった。

 

「そういえばナックは今まで出会った中でリリスの技が一番凄かった、って言ってたよ」

「「「!!」」」


 当然ながらリオは技の意味を取り違えており、他のみんなは正しく理解していた。

 

「それは嬉しいですわ。リオさんもよろしければお相手いたしますわよ?」

「それはうれ……」

「ちょっと待ったっー!!」


 アリスがリリスとリオの間に割って入る。


「どうしたの?」

「リオさんはちょっと黙っててくださいっ!」

「そうなんだ」


 アリスはリリスをじっと見る。

 

「あ、あのっ、リオさんには私達がついていますので必要ありません!って、きゃっ」


 自分の発言が恥ずかしくなり、顔を真っ赤にするアリス。

 

「そうですか」


 リリスは余裕の笑みでアリスを見つめる。

 リリスは百戦錬磨の強者である。

 アリスは劣勢なのを自覚しながらも負けず見つめ返す。

 

「ほ、ほかに何か御用でしょうかっ?ち、ちなみに今はメンバー募集はしていませんのでっ」


 誰にも相談なく勝手に答えたアリスだが誰も異論はなかった。

 

「落ち着いてください。私はリオさんが勇者候補という噂を聞いて一度お会いしたいと思っただけですわ。あなた方のパーティに入れて欲しいとは思っていませんから安心してください。ご存知の通り私もパーティのリーダーをしておりますし」

「そ、そうですかっ。そうでしたねっ。すみませんっ、早合点してしまいましたっ」

「いえいえ。でも噂通りですわね」

「はいっ?」

「いえ、“サラさん”はショタコンだという噂を耳にしていましたので」

「な、」

「あ、でもリオさんはショタと呼ばれる年ではなさそうですので単に年下好きというのが大袈裟に伝わったのでしょうね」

「あっ、あのっ勘違いされているようですがっ、自己紹介をしていませんでしたので申し訳ありませんがっ、私はサラさんではありませんっ。アリスといいますっ」

「え……?」

「サラは私です」

「!!」


 サラがフードを下ろし素顔を見せた。

 サラもアリスに劣らず美しかった。

 リリスは大きな勘違いをしていたと気づく。

 リリスの記憶に残っているリサヴィの情報は四人パーティでカルハン製魔装具を着た魔装士がいる、というくらいであった。


「あと私はショタコンではありません。もちろん年下……」

「「え!?」」

「ぐふ?」

「そうなんだ」

「なんでみんな驚くんですか!?」

「ぐふ。嘘はいかんぞ」

「嘘ではありません!」


 リリスはペースを崩され、深呼吸をして心を落ち着かせる。

 そこでリサヴィのパーティ構成に違和感に気づいた。


「ちょっと待ってください。あなたが本当にサラさんなのですか?サラさんは神官だったはずですが?」


 リリスはサラの服装が神官服ではなく戦士なのを指摘する。


「はい。このような格好をしていますが神官です」


 そう言って胸元からジュアス教のシンボルを取り出して見せる。

 

「それではアリスさんが着ている服はサラさんのものですか?」

「これは私の服ですよっ。私も神官なんですっ」

「え?四人パーティに神官が二人いるのですか?……なにこのパーティ?」


 リリスは素で呟いていた。

 リリスははっとしてヴィヴィに目を向ける。


「あの……もしかしてあなたも女性なのですか?」

「ぐふ」

「そうだよ」

「もしかしてあなたも美人、なのですか?」

「ぐふ」

「うん、サラと同じくらいだって」

「そ、そうですか」


 ハーレムパーティ、という名がリリスの脳裏を過ぎった。

 


「あの、リリスさん?」

「あ、すみません。ちょっと驚いてしまいましたわ。そうそう、今更ですが私の事はリリスと呼んでください」

「では私達の事も呼び捨てでお願いします」


 サラの言葉に皆が頷く。


「では改めてリリス、他に用件がないようでしたら私達はこれで失礼します」

「あ、はい。呼び止めてしまって申し訳ありませんでしたわ」


 リリスの当初の目的はすっかりなくなっていた。

 リリスの心の変化はリオが彼女らのパーティを正しく“リトルフラワー”と呼んでくれた事が大きい。

 そもそもが“鉄拳制裁”なんて二つ名で呼ばれていい気になってる神官をからかってやろう、程度だったのだ。

 それにこの件を持って来た彼らに義理もない。


「いえ、お話出来て楽しかったです。また機会がありましたら」

「ええ、そうですわね」


 リリスはリオ達の後ろ姿を見送り、歩き出そうとした。

 しかし、突然、このまま別れたくないと焦燥感に駆られた。


(私、どうしてしまったのかしら?リオは私のタイプではないのよ。それなのに何故こんなにも後ろ髪を引かれるのかしら?どんな殿方に会ってもこんな事今まで一度もなかったのに……)



 サラ達は後ろからかけてくる足音が聞こえたので振り返って見るとそれはリリスだった。

 アリスは顔を硬らせながらもリオを庇うように立つ。

 リリスが追いつき、息を整えるのを待ってサラが声をかけた。

 

「どうかしましたか?」 

「あの、もしよろしければ力を貸していただけませんか?」

「ん?」

「それはどういう意味ですか?」

「実はお恥ずかしい話ですけれど、私どものパーティの魔術士が身籠もりましてパーティから抜けております」

「それは……」

「そうなんだ」

「妊娠が発覚したのが依頼を受けた後でして、このままですとキャンセル料を払わないといけなくなるのです。それだけでしたらまだいいのですが、依頼失敗が記録されるのはとても困りますわ」


 冒険者にとって依頼成功率は重要である。

 いや、最近は成功率よりも失敗数が重視される傾向にある。

 失敗が多いと自分の力を正しく把握できていないと判断され、降格や依頼を受ける時に制限を受けるようになるのだ。

 

「そうなんだ」

「つまり、私達にその依頼を手伝って欲しいということでしょうか?」

「はい。私達のパーティには神官がおらず、回復役はその魔術士に任せていたのです」


 それは主にリリスの神官嫌いが原因なのだが、その事を口にする事はなかった。


「ベルフィ達と同じだね」

「あなた方のパーティは神官が二人もいらっしゃいますので手伝っていただけるととても助かりますわ」


 ヴィヴィも魔法を使えるのだが、魔装士は魔法が使えない者がほとんどであるため、リリスはヴィヴィも魔法が使えないと思っていた。

 

「確かに二人いると安心して怪我できるよね」

「怪我しないでください」


 リオの不適切な発言を訂正するサラ。

 

「ですが、私達はDランクですよ?」

「今回の依頼ランクはCですので問題ありませんわ」

「いいんじゃないかな?」

「リオっ!?」

「ありがとうございます、リオ」


 リリスがリオに向かって満面の笑みを浮かべるがリオは相変わらず無反応であった。


(ああ、その無反応がなんとも……って、あれ?私、マゾだったかしら?)


「リリス、リオが勝手に返事してしまいましたが、お受けするかは依頼内容を聞かせて頂いてから判断させてください」

「それは当然ですわ。私こそ依頼内容の説明もせずにお願いしまして申し訳ありませんでしたわ。では、立ち話も何ですし、私達パーティが泊まっています宿屋へきて頂けませんか?メンバーも紹介したいですし。依頼内容だけでなく、他のメンバーも知っていただいた方がよろしいでしょう?」

「わかった」

「ぐふ。リオは今のところ受ける気なんだな?」

「うん。前にベルフィ達と一緒に依頼受けた時の事を思い出したよ。そういうのもたまにはいいんじゃないかな」

「私はリオさんに従いますっ」

「そうですね。では案内をお願いします」

「はい」


 こうしてリオ達はリリス達が泊まっている宿屋へと向かった。


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