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223話 サキュバス

 ある酒場で一組のパーティが酒を飲んでいた。

 彼らはサラの魔の領域の戦いの噂を耳にし、何度もサラをパーティに誘ったがことごとく断られた。

 しかし、彼らは諦めていなかった。

 サラを仲間にすれば高難易度の依頼も楽々クリア出来ることは間違いない。

 そう簡単に諦め切れる訳がなかった。

 そして今日、偶然にもリサヴィがこの街に来ていることを知り、二組のパーティが玉砕した事を知る。

 その後はサラが誰が見てもわかるほど不機嫌だったので三組目は現れなかった。

 言うまでもないが、その日の勧誘を諦めただけで完全に断念したわけではない。

 サラが勇者だと思っている(と思われている)リオの姿が、噂されているようなショタではなく、更には全く強そうに見えなかったのでまだチャンスはあると思い込んだのであった。



「サラを直接勧誘するのが難しいならガキの方を攻めるか」


 冒険者達の脳裏にののほんとしたリッキーキラーと呼ばれる少年の姿が浮かぶ。

 

「……殺るか?」

「殺るのは簡単だがサラに気づかれたら終わりだぞ?」


 リオの実力を知らない彼らは自分達が負ける事など微塵も考えてもいなかった。


「そんな危ねえ橋渡らねえよ」

「じゃあ、どうするんだ?」

「男には」


 男はそこで言葉を止め、ニヤリと笑う。


「女か!」

「そうだ」

「だが、サラはすごい美人だ。当然毎日ヤッてるはずだぜ、ってくそっ、あのガキ羨ましいぜ!やっぱ殺っちまうか?」

「落ち着けって。あのガキの後っていうのは気に食わねえが……って、メインはそっちじゃねえだろ!」

「メインは、な」

「揚げ足取るんじゃねえ!」

「はははっ……そういやよ、新しく入った神官も美人だったぞ。アイツも何故かあのガキを勇者だと思ってるみてえだったな」

「両手に花かよ!あー!やっぱ殺っちまわねえか?」

「だから落ち着けって。殺るのは止めねえが、サラをこっちに引き込んだ後だ。その後ならサラも何も言わねえだろうさ」

「おう、いいじゃねえか!そうしようぜ!ついでにもう一人の神官も貰っちまおうぜ!」

「でもよ。女を使ってあのガキとサラの関係を壊すって作戦よ、そう簡単に上手くいくか?あのガキ、美人二人と毎日楽しんでんだぞ。ちょっとやそっとの女じゃ落ちんだろ?」

「なあに、容姿はそこそこでもいい。テクニックがあればな」

「なるほどな。娼婦でも使うのか?」

「冒険者でもいいんじゃねえか?体売ってる奴いるだろ」

「あのガキを夢中にさせるテクニックさえあればどっちでもいい」

「で、その女をどうやって探す?娼館回りでもするか?」

「確認しなきゃならねえな。体もつかな?」


 盗賊の男がいやらしい笑みを浮かべる。


「待て待て。自分で確認するのが一番だが、そんな金も時間もねえぞ。あのガキ達いつ街を出てもおかしくねえんだ」


 そこで男の一人が「あっ」と声を上げた。


「どうした?」

「丁度いい女がいるぜ!」

「何?」

「この街に“サキュバス”が来てるんだ」

「サキュバス!本当か!?」

「ああ、リリスを見かけたぜ」


 戦士の男が下品な笑みを浮かべる。

 

「相変わらずいい女だったぜ」


 サキュバス。

 本当のパーティ名は違うのだが皆二つ名のサキュバスと呼んでいた。

 パーティのリーダーであるリリスは大陸一を誇る遊郭がある都市国家ヨシラワンの元娼婦で当時一、二を争うほどの人気であった。

 リリスは娼婦をしているとき、常連客の冒険者に剣術を習っていた。

 借金を返済し終わった後もその冒険者のもとで剣術を学びづづけて冒険者になったのだ。

 ちなみに冒険者が落ちぶれて娼婦、男娼になるのことは珍しくないがその逆は非常に珍しかった。


 サキュバスの他のメンバーは元娼婦や好色な女冒険者で構成されている。

 彼女らのパーティがサキュバスと呼ばれる理由はその二つ名が示す通り、男を誘惑するからである。

 彼女らは気に入った男を見つけると妻子がいようが恋人がいようが構わずその美貌とテクニックにより落とすのだ。

 ただ、彼女らは全員が飽きっぽくその関係が長続きする事はなく、最後には男が捨てられることになる。

 そのため捨てられた男達だけでなく、同性からも嫌われていたが本人達は全くお構いなしであった。

 これだけ悪名が轟いても彼女らに迫られた男達は自分にだけは本気だと思ってしまい、不幸の生産が終わる気配はない。

 当然、ギルドに多数の抗議が来るのだが、無理矢理行為に及んでいるわけではないので真剣に取り合ってもらえなかった。

 理由はそれだけではなく、リリスが娼婦時代に築いたコネで、有力者が陰ながらギルドに圧力をかけているともいわれているが真偽は定かではない。



「確かにサキュバスなら、リリスなら間違いなくリッキーキラーは簡単に落ちるだろうけどよ、肝心のリリスが乗って来るかな?」

「交渉次第だろ」

「もう依頼受けてんじゃないか?」

「それはない」

「何故言い切れる?」

「実はよ、アールニがヘマやったみたいなんだ」

「アールニって魔術士のアールニか?魔道具を手に入れるためなら自分の身すら平気で売る魔道具マニアの?」

「ああ」

「死んだのか?」

「違う違うーーこれだ」


 そう言って自分の手で腹が膨らんでいるようなジェスチャーをする。

 

「そっちか!」

「で、今どうしてんだ?」

「さあな。ホームのあるヨシラワンにでも戻ってんじゃないか」

「父親はわかってのか?」

「さあな。って、そういや、お前もアイツを抱いたことあったんじゃねえか?」

「ああ。俺がダンジョンで見つけたガラクタにしか見えねえもんをやる条件でな。あいつの話す事はよくわらんかったが、いい体してなぁ」

「相手がおめえって事はないか」

「ねえよ。俺が抱いたのは二、三年前だからな」

「くっそ、俺もやりたかったぜ」

「そうだな、って、おいおい、話が逸れてんぞ。それでリリスが今どこにいるかわかるのか?」

「ギルドにいなきゃ酒場を適当に回ればいるだろうよ」

「よし、行くぞ」



 男達がサキュバスが宿泊しているという宿屋に向かうと一階の酒場でリリスは一人で飲んでいた。

 既に空のグラスがいくつもテーブルの上に転がっていた。

 にも拘らずリリスの顔の色は普段通りで酔っ払っているようには見えなかった。

 男達はその美しい顔にしばらく見惚れていたが、店主の咳払いで我にかえる。

 店主に酒を注文し、リリスが座るテーブルに腰掛ける。


「ようリリス、久しぶりだな」

「……誰?」


 リリスは不機嫌な顔を隠しもしない。


「なんだ酔ってんのか?俺だよ俺」

「……何の用かしら?」

「お前んとこ、今、魔術士いないんだってな」

「……それで?」


 リリスの表情が険悪になる。

 隣の男がさっきやったように腹が大きいゼスチャーをしようとしたが身の危険を感じて思い止まる。

 

「悪い悪い。からかいに来たんじゃねえんだ。暇だろうと思ってよ。お前にいい話を持ってきてやったんだ」

「来てやった、ですって?」

「いちいち突っかかるなよ。俺とお前の仲じゃねえか」

「知らないわね。さっきから馴れ馴れしいけどあなた誰?」

「何言ってんだよ。ヨシラワンにいたときに楽しませてやっただろ?お前、可愛い声出して喜んでたじゃねえか」


 男はその時のこと思い出したのか顔が卑猥なものに変わる。

 だが、リリスの態度はそっけないものだった。

 

「覚えてないわね。私が何人相手したと思っているのかしら?それに私が喜んでたって?全部演技よ、え、ん、ぎ」

「な……」

「で、いい話って?さっさと話しなさいよ。私は暇じゃないのよ」


(ふざけんな!暇だから酒食らってんだろっ!)


 男はプライドを深く傷つけられて怒り心頭であったが暴れたい気持ちを必死に抑え込む。

 リリスはBランクの冒険者でその剣の腕も知っている。

 酔っていようが斬りかかれば返り討ちにあうだろう。

 男は引きつった笑顔で本題に入る。


「リサヴィ、ってパーティ知ってるか?」

「リサヴィ?知らないわね」

「そうか。じゃあ、鉄拳制裁のサラはどうだ?」

「……確かあのナナルの弟子だったかしら?」

「そう。その鉄拳制裁のサラのいるパーティがリサヴィだ」

「それで?」

「実は今この街にいるんだ」

「……へえ」


 リリスの表情が変わった。

 彼女は神官が嫌いだった。

 神官の誰も彼もが上から目線で説教してくる。

 娼婦時代もしっかりヤった後でこういうのはよくないだとか説教するのだ。


「でだ。そのサラはパーティにいるリッキーキラーってガキが自分の勇者だと勘違いしてるんだ」

「何故あなたに勘違いだってわかるのかしら?本当にその子が勇者かもしれないでしょう?」

「それはない!お前は見たことないようだがな、あんなボケたガキが勇者ならそこらへんで遊んでるガキみんなが勇者だ!」

「……」

「それによ、実はサラはショタコンなんだ」

「……」

「信じてねえな。これは結構信憑性が高い情報だぜ。この噂はサラがいた第二神殿の神官達がしてたらしいからな。可哀想にサラは自分の趣味のせいで本当の勇者に気づかねえんだ」

「だとしてもあなたではない事は確かね」

「は、ははは。そ、それはどうかな?」

「根拠のない自信が勇者の必須条件でもない限りありえないわね」


 男がこめかみに血管を浮き出させながら引き攣った笑みを浮かべる。


「おいおい、俺達に八つ当たりはよしてくれよ」

「そうだぜ。アールニの事は俺らと無関係だぞ」

「……」


 リリスはちっ、と舌打ちした後、グラスの酒を一気に飲み干す。


「で?もしかして私にその子を落とせ、って言いたいのかしら?」

「その通りだ」

「ショタなんて守備範囲外よ」

「いやいや、そいつはそこまでガキじゃねえ。見た感じ十六、七ってところだったな」

「ギリギリアウトね」

「いやいや!ギリギリならギリギリセーフになるかもしれんよな?」

「セーフだったとして私がその子を落として何の得があるのかしら?」

「あのナナルの弟子にひと泡吹かせられるぞ」

「それでサラは私の虜になった勇者候補に失望してあなたのところへ来るとでも?」

「ゼロじゃないだろ?」

「さっきも言ったけどないわね。ゼロよ」

「は、はっきり言いやがるな」

「でもそうね……あのバカアールニのせいで依頼のキャンセル料払う事になるからムカムカしてたし、少しは気が晴れるかもしれないわね」

「だろ?」

「それで依頼料は?」

「な、金取るのかよ!?」

「なんでオレ達があのガキがヤル金出さなきゃなんねえんだ?」

「あなた達からの依頼だからですわ」

「わかった。その代わり今晩久しぶりに俺と……」

「遠慮しますわ」


 そう言ってリリスが立ち上がると店主を呼び、テーブルに酒の代金を置いた。


「おい!?」

「暇ですし、少し興味がわきましたから顔だけ見に行ってみますわ」

「そうか!気に入ったら落とすんだよな?!」

「依頼ではないのですからあなたには関係ないことよ」

「ま、まあそうだが期待してるぜ!」


 男の一人がテーブルの上に置かれた沢山のグラスを見て慌てて声をかける。

 

「ちょっと待て!お前、そんなに飲んだ後で大丈夫か?酔いを覚ましてから行けよ」

「誰に言ってますの?私がこの程度の酒で酔うわけがないでしょう」

「そ、そうか」


 リリスはあれだけ飲んだとは思えないしっかりとした足取りで酒場を出て行った。


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