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221話 あるパーティの臭撃

 商隊の護衛を終えたリサヴィはもう一つの依頼、本命のリッキー退治に向かった。

 特に問題は起こらずリッキー退治の依頼を終え、近くの街のギルドにやってきた。

 行きはウーミの商隊の護衛をしていたが、リッキー退治がいつ完了するかわからないため帰りの護衛の依頼は受けていない。

 ウーミにはとても残念がられたがどうしようもない事だ。

 既に徒歩でマルコに戻っても収支がマイナスにはならないことが確定したが、相談の結果、取り合えずギルドに寄って依頼を見てみようということになった。



 ところで、リオ達はどの店でも壁際の席を取るようにしている。

 その主な理由はヴィヴィのリムーバルバインダーだ。

 肩にマウントしたままだと座れないし、場所も取りすぎるため、そばの壁に立て掛けるのである。

 その日も壁際の席を確保し、依頼掲示板にはリオとアリスが向かった。

 しかし、気に入った依頼はなく、すぐに戻ってきた。

 もう少し休憩したら宿を探そうと話していた時だ。

 リムーバルバインダーの人工の瞳が不審な動きをする冒険者達を捉えた。

 ヴィヴィの直感が彼らはサラを探しているのだと告げる。

 その冒険者達がヴィヴィ達が座っているテーブルにやって来ると不躾にリサヴィの面々を見回し始めた。

 一瞬、アリスのところで視線が止まったものの通り過ぎ、フードを深く被ったサラのところで再び視線が止まった。

 男達の一人がサラの顔を覗き込もうとし、サラが避けると手を伸ばしてフードを脱がそうとした。

 サラは流石に我慢出来ずにその手を弾く。


「何しやがる!?」

「それはこっちのセリフです。先ほどからジロジロ見て失礼にも程があります」


 サラの正論に、男は逆ギレした。


「フードで顔を隠してる方が悪いだろうが!」

「私の勝手です。他人にとやかく言われる筋合いはありません」

「なんだと!?」

「まあ、落ち着けって」


 そのパーティのリーダーが興奮したその男を落ち着かせる。

 リーダーがサラに尊大な態度で尋ねた。


「お前が“魔の領域”で活躍したっていう“鉄拳制裁“のサラか?」

「……」

「おいっ、人が話してんのに無視とはなんだ!!」

「だから落ち着けって。コイツがサラなら今後、仲間になるんだぞ」

「だが、最初が肝心だろ!」


 どうやら、彼らの中ではサラが彼らのパーティに入る事が決定しているようだった。

 サラは頭痛がして頭を押さえる。


「ぐふ!」


 ヴィヴィが思わず出した声に男達が反応し、怒りの形相でヴィヴィを睨む。

 

「なんだ棺桶持ち!文句があるのか!?」

「ぐふ。ない。気にせず続けてくれ」


 ヴィヴィの声はどこか楽しそうだった。

 男はちっ、と舌打ちしながらこれ以上、ヴィヴィに関わるのは時間の無駄だと判断して顔をサラに戻す。


「どうなんだ?」

「……」

「神官のサラだろ?」


 サラは深いため息をついた。

 

「確かに私は神官のサラですが、それが何か?」


 その様子を静観していた冒険者達はサラの正体を知り、一斉に驚きの声を上げる。

 立ち上がりそばへやって来る者もいたが、声をかけてきたパーティが前に立ち塞がる。

 

「近づくんじゃねえ!俺達が最初に見つけたんだ!」


 そう言った男の顔はどこか誇らしげだった。

 まるで貴重な生き物でも見つけたかのような扱いにサラの不快感が増す。

 ただ、ヴィヴィはその様子をワクワクしながら見ていた。


(いつもの展開が始まるな。そろそろ来るか、“よしっ!サラ”が)


 ヴィヴィはサラを誘う者達にある共通の言葉があることを発見していた。

 それが“よしっ!サラ”である。

 まるでそれがサラを誘う時の決まりごとかのように誘う者すべてがそう言うのだ。

 それを知るといつその言葉が出るのかと楽しくなって来たのだった。

 だが、今回はヴィヴィの予想とは少し展開が違った。


「よしっ!サラ、お前を……ぐはっ!?」


 男達の一人がお馴染みの言葉を発したが途中で遮られた。


「どきなっ!あんたらの出番はないんだよ!」


 男の腹に蹴りを入れて言葉を遮ったのは全員女性で構成されたパーティだった。


「大丈夫かリーダー!」

「てめえっ!」


 男パーティの戦士がリーダーに蹴りを入れた女冒険者を睨みつけるが、その女冒険者はまったく動じておらず、ふんっ、とバカにしたように鼻を鳴らす。


「あんたらはお呼びじゃないんだよ!さっさと消えな!」

「そうだよ!“サラ姉様”はあたし達と行くんだ!」

「いろんな意味でね!」


 と頬を紅潮させる盗賊らしき少女。


「サラさんっ、色んな意味って……むぐっ!?」


 アリスの口をヴィヴィが塞いだ。

 これはサラのため、では勿論違う。

 新たな展開を見せたサラ勧誘劇の行く末を邪魔されたくないとの思いからであった。

 ちなみにこの時、リオが何をしていたかと言えば、何もしてなかった。

 ぼーと天井を見つめ何か考えているようにも見えるがそうでないようにも見える。

 少なくともこの喜劇?に参加する気がない事だけは確かだった。



「私達と行きましょう!サラ姉様!」


 そう言って熱い視線を送りながら女戦士がサラに迫る。

 思わず身を引くサラ。


(いやいやいや!あなた、どう見ても私より年上でしょ!老けて見えるだけかもしれないから言わないけど!)


「あの、姉様とはいったい……」


 だが、サラの疑問に女冒険者達が答える前に男パーティが話に割り込んで来た。


「待ちやがれ!俺達が先に見つけたんだぞ!サラは俺達のパーティに入るんだ!」


(人をなんだと思ってるのかしら。この頭の悪さはマルコ所属のパーティかしら?)


 サラが口を開く前に女パーティが言い返す。


「何バカ言ってんだ!このゴミが!臭い!」

「そうだよ!あんたらみたいなカスにサラ姉様がついて行くわけないだろう!あとさっきから何上から目線で言ってんだい!それと臭い!」

「大体あんたらランクはいくつだい!?言ってみなよ!ちなみにあたいらは全員Cランクだよ!あと臭い!」


 その言葉を聞いて男パーティ達はさっきまでの勢いをなくして怯む。


「どうしたい?言ってみなよ!あと臭い!」

「ああ、こいつらきっとEランクだよ!あと臭い!」

「く、臭い臭いって言うな!お、俺達はDだ!」


 その言葉を聞き、女冒険者達が大声で笑う。


「D!?Dランクでそんなに威張ってたのかい?」

「サ、サラだってDランクだ!問題ない!」

「そうだ!」

「おうっ、全く問題ない!」

「大アリよ!サラ姉様と同じってことでしょ!なんでそんなに威張れるのか不思議だよ!あと臭い!」

「こいつら頭の中が腐ってんのさ!だからこんなに臭いんだ!」


 女パーティが口々に男パーティをバカにする言葉を吐き続ける。


「さ、ざけんな!俺らは冒険者の先輩だ!先輩が威張って何が悪い!」


 男パーティのリーダーが怒鳴り、それに残りの者が「そうだ!」と喚く。


「……へえ、先輩ねえ……あんたら何年冒険者やってんだい?」

「十年だ!」


 そう言ったリーダーの顔はどこか誇らしげだった。

 だが、

 それを聞いて女パーティだけでなく、ギルド中の冒険者から笑いが起きる。


「十年!?十年もやっててまだDランク!?って臭いから寄るな!」

「万年Dランクのクズが!あんた達にサラお姉様がついて行くわけないでしょ!顔!能力!あと臭ささ!どれも問題外だよ!」


 男達は顔を真っ赤に染めて女パーティを睨みつける。

 

「てめら、さっきから言いたい放題言いやがって!」

「しかもどさくさに紛れて臭い臭い言いやがって……」

「いや、ほんと臭いよあんら」

「「「……へ?」」」


 女パーティに冷めた目で言われて男達は固まった。



 そう、彼らは彼女らが言うように臭かった。

 実際、サラはフードに手をかけようとした男の手を叩いた後、汚れや臭いが移ってはかなわないとすぐ自分にリフレッシュを発動させていた。


 男パーティが自分達の匂いを嗅ぐが自分の匂いはなかなかわからないものである。


「全然臭くねえぞ!」

「そうだ!」

「嘘言うんじゃねえ!」

「いや、マジで臭いから」

「うん、下水路で魔物退治した時のこと思い出した」

「あたしもだよ。ほんと勘弁して」


 女冒険者達が、冷めた目で口々に言う。

 いや、彼女らだけでなく、ギルドにいる、成り行きを見守っていた冒険者達からも「お前らマジ臭いぞ!」と抗議の声が上がる。

 止めはサラである。


「ええ。本当に臭いです」

「お、お前まで仲間の事を悪く言うのか!?」


 反論はまたもサラより女冒険者達の方が早かった。


「誰があんたらの仲間だい!」

「ほらっ!みんな迷惑してんだ!さっさとどっかでその臭い体を洗ってきな!その染み付いた臭いが取れるかは知らないけどね!」


 散々な言われように男パーティは涙ぐむ。


「ち、畜生!」

「サラ!俺達が戻るまで他の奴らのパーティに入るなよ!」


 そう言って悪臭を放っていた男パーティはギルドを逃げるように出て行った。


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