220話 三本腕の野望、潰える
「ぐふ。サラ、さっさと行動に移れ」
サラはヴィヴィの声で思考を中断された。
サラはリオの作戦を反対する理由はない。
ヴィヴィもサラに催促したことでリオの作戦を実行する気だとわかった。
「わかったわ!」
サラがアリスのいる馬車へ走って戻っていく。
「おいおい、一人逃げ出したぞ!」
盗賊達は自分達の罵声でリオ達の会話は聞こえていなかった。
サラが馬車へ戻ったのを見て、盗賊の頭は彼らの脅しに屈して逃げ出したと思ったのだ。
三本腕の最後の一本である頭は既に討伐された二本にいつも見下されていた。
同じ三本腕でも格下扱いされていたのだ。
他の二本が討伐されたあの日、彼は彼らに命令されて彼の部下と共に別行動をとっていた。
それが幸いしてこうして今まで生き延びてきたのである。
彼は他の二本が倒されたのを知り、「次の俺の番か」と恐怖を覚えて、
はいなかった。
それどこころか「ザマアミロ!」と喜び、「自分の時代が来たぜ!」と思ったのだ。
彼は部下と共に元アジトから遠く離れ、新生三本腕を打ち上げた。
三本腕と言っても頭は彼一人だ。
部下達には「活躍を見て頭に二人昇格させる」と言ったがそのつもりは全くなかった。
頭は自分一人で十分だと思っていたからだ。
獲物が逃げ腰になったと思い込んだ彼は名乗りをあげようとした。
彼はギルドから懸賞金をかけられるほどだ。
その名と恐ろしさは広く知れ渡っているはずで、その名を聞けばすぐに降参すると思ったのだ。
もちろん、降参しても許す気はない。
男は皆殺し確定で、女は気に入ればアジトへお持ち帰りだ。
頭が残虐な笑みをリオ達に向けた。
「さあ、お前らもさっさと降参しろ!三本腕最後の一人にして最強の俺様……何!?」
盗賊の頭の会話の途中で新たな防御魔法が現れ、リオとヴィヴィを除いた商隊を囲んだ。
サラのエリアシールドだ。
その直後、アリスが張ったエリアシールドが解けた。
「貴様ら、い……」
頭の言葉は頭部に突き刺さった短剣により永遠に中断された。
それはリオの放った短剣だった。
たった一本の短剣で彼の野望は絶たれたのだった。
「か、頭!?……て、てめ……」
罵声を浴びせようとした盗賊の頭が吹き飛んだ。
ヴィヴィが放った魔力の込められた短剣だ。
「あと十」
「ぐふ」
リオはヴィヴィとのその短いやり取りの後、盗賊へ向かって走り出した。
「てめら生きて……」
どすっ!
ばたっ。
「頭の……」
どーん!
ばたっ。
声を発した盗賊二人がリオとヴィヴィの放った短剣で次々と命を散らす。
更に声を発しようとした二人が同様に命を散らした。
戦闘開始から十秒も経たないうちに頭を始め六名が、実に彼らの半数が命を落とした。
リオが魔術士に迫る。
魔術士は今唱えている呪文が間に合わないと悟り、両手を上げて降参の意思を示そうとした。
しかし、間に合わず中途半端に腕を上げた状態でリオにその首を斬り落とされた。
盗賊達はリオ達によって一方的に蹂躙される形になった。
見かけによらず圧倒的な戦闘力を誇るリオ達に恐怖し、我先に逃げ出そうとしたが、それをリオとヴィヴィは許さなかった。
逃げるのは不可能と両手を上げて降参する者もいた。
しかし、
「た、助けてくれ!俺には娘……あっ?」
「仕方がなか……べしっ?」
「俺には病気の息……ひでっ?」
「許し……ぶっ?」
リオは命乞いをする盗賊の言い訳を「それがどうした」とでもいうように聞き流し、その首を次々と刎ねていく。
結局、盗賊で生き残ったのはヴィヴィのリムーバルバインダーで両足を押し潰された二人だけだった。
ヴィヴィが二人を生かしたのは優しさからではない。
エリアシールドを発動しているサラからの伝言をアリスから聞いたからだ。
「ヴィヴィさんっ!サラさんがアジトの場所を知りたいから何人か捕えてほしいっ、って言ってますっ」
もし伝言がなければヴィヴィもリオと同じく全員殺していただろう。
商隊の者達は、ただ一人外にいたウーミの呼びかけで戦いが終わったことを知った。
彼らは馬車から恐る恐る外に出ると辺りの惨状を目にして呆然とした。
盗賊に襲われ、それも相手は懸賞金をかけられている凶悪な三本腕だ。
死も覚悟していたのに終わってみれば無傷で、襲ってきた盗賊側が全滅だ。
盗賊の中には三本腕の頭を始めとしてBランク以上の元冒険者が何人かいたはずだが、それをDランクであるリオ達が倒した。
しかもどの死体も一撃で倒されており、中には許しを乞おうとしたのか、首なしで土下座している姿の者もいた。
相手が盗賊とはいえ、リオ達の容赦のなさに彼らは恐怖を覚えた。
一歩間違えば自分達がそうなっていたとわかっているはずなのにだ。
だが、ただ一人、ウーミだけは違った。
ウーミは商隊の者達を馬車の中に避難させた後もただ一人外に残り、リオ達が戦う姿を見ていた。
商隊の隊長としての責任感からである。
ウーミはモモに呼び出されて奢らされる度にモモがリオの事を絶賛するのを聞きながら内心では大げさだと思っていた。
だが、今回、モモの言っていたことが正しかったとわかった。
その証拠にウーミは以前から関心を持っていた魔装士のヴィヴィではなく、リオに目を奪われていたからだ。
リオが一振りする度に散っていく盗賊達の命。
一般人であれば目を覆い、吐き気をもよおすような惨状。
だが、ウーミの目にはリオがまるで剣舞でも舞っているかのように見えた。
「……美しい」
そう知らず呟いていた。
そして、リオを見つめるウーミの瞳はギルマスのニーバンがモモに見たものと同じもの、狂信者のような昏い熱を帯びていた。
「あれがリオさん……あれが“リオ様“の力……」
リオ達は三本腕が乗ってきた馬車に彼らの生死問わずまとめて放り込み、近くの街に到着すると衛兵に彼らの身柄を預けた。
冒険者ギルドにも三本腕最後の一人を討伐した事を報告した。
その後、冒険者ギルドから三本腕残党の討伐依頼が発せられ、その依頼を受けた冒険者達が三本腕のアジトを急襲し残党を討伐した。
そこに囚われていた女子供も救出された。
こうして世間を騒がしていた三本腕は完全に潰えたのだった。




