218話 キャンプ地にて
商隊は本日のキャンプ地に到着した。
そこで水の補給をするのを忘れていた事に気づき、申し訳なさそうな顔で商隊の隊長であるウーミが辺りの警備をしていたリサヴィの元へやってきた。
それに気づいたサラがウーミに声をかける。
「どうかしましたか?」
「実はこちらの不備で水の補給を忘れておりまして……。警備とは関係ないことは重々承知しているのですが、どなたか水を作れる方はおられないでしょうか?」
「あっ、わたしがやりますっ」
とアリスが名乗りでた。
「本当ですか?助かります!」
アリスがクリエイトウォーターの魔法を発動して樽に水を注ぎ始めるのを見てウーミが感嘆の声を上げる。
「やはり水の生成魔法は便利ですねっ」
アリスは褒められて満更でもない表情をする。
アリスが樽いっぱいに水を生成し終えると夕飯の作業に入った。
警備はリオとアリス、ヴィヴィとサラのペアだ。
最初の警備はリオとアリスが行なっており、その間にサラが出された食事を取っていると(ヴィヴィは既に携帯食を食べ終えてる)、そこへウーミがやって来た。
「出発のときはバタバタしてましてまともに挨拶出来ずにすみませんでした」
「いえ、お気になさらずに」
「そう言っていただけると助かります」
そう言ってウーミはサラとヴィヴィを見る。
「何か?」
「あ、すみません。今回、護衛を引き受けて頂いた件とは別にリサヴィの方達には直接お礼を言っておきたいことがあったのです」
「お礼ですか?」
「はい。ーー金色のガルザヘッサを倒してくれたこと感謝しています」
「ぐふ。よく知っていたな。どこかのバカが妄想話をあちこちで話しまわったことでサラが関係していることは知られているようだが、“リサヴィ”が関わっている事はあまり知られていないと思っていたのだがな」
「ああ。その話も知っていますがそれが嘘であることも知っています」
「そうなんですか?」
「ええ。実は僕のところのイルシ商会も金色のガルザヘッサの被害に遭っておりまして懸賞金を出していたんです」
「ああ、なるほど。それなら真実を知っていて当然ですね」
「ぐふ。そういうことか」
「はい。本当にありがとうございました」
「いえ、お役にたてて何よりです」
「ぐふ。リオにも礼を言うがいい」
「あ、はい。先ほどお話ししました。『そうなんだ』と聞き流されてしまいましたが」
「すみません」
「いえいえ、とんでもないです」
「ぐふ。リオはそういう奴だ」
「そうなんですね」
「それでですね……」
ウーミがヴィヴィを見る。
「ぐふ?」
「その魔装具の調子はどうですか?」
「ぐふ?」
「あ、実はその魔装具、モモに依頼されて僕が用意したんですよ」
「ぐふ。そうだったのか。問題なく動作している」
「それはよかった……あれ?サラさん、大丈夫ですか?」
「ええ。なんでもないです。私の事は気にせず」
(そう、彼が悪いんじゃない。確かに彼が魔装具を用意できなければ今頃はセユウ、いえ、ベルダに向かっていたかもしれないけど、そう、彼は悪くない。悪くない……)
サラの様子を見てウーミが不安げな表情を見せる。
「あの……僕なんかサラさんに悪いことしました?」
「ぐふ。気にするな。そいつは意味なく機嫌が悪くなるのだ」
「人を危ない人のように言わないで!」
「ぐふ」
「私の事は気にしないで。本当になんでもないので」
「そ、そうですか」
「それより、あなたはモモの知り合いだったのですね」
「ええ、幼馴染なんです。だからか、時々無茶振りしてくるんですよ。その魔装具だってたった三日で用意しろとか言うんですよ。運よく手に入れられたからよかったけど……サラさん、本当に大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です」
サラは引き攣った笑みをウーミに返した。
「ぐふ。気にするな。こいつが情緒不安定なのはいつもの事だ」
「だから私を危ない人のように言うのはやめなさい!」
「ははは、仲がいいんですね……ひっ」
ウーミはサラに睨まれ、無意識に後退した。
「そ、それでは僕はこれで。護衛の件よろしくお願いしますっ」
ウーミは本当はヴィヴィと魔装士について話を聞きたかったのだが、サラが恐くて断念し、逃げるように去っていった。
「あなたのせいで誤解されたでしょう!」
「ぐふ。満更誤解でもあるまい」
「……」
こうして初日は何事もなく過ぎていった。
そして次の日の朝、朝食をとっているところへウーミが厳しい表情をしてやって来た。
それに気づきサラが声をかける。
「どうかしましたか?」
「ええ。実はこの先で盗賊が出たそうなんです」
サラは先ほどウーミが旅人か何事か話していたのを思い出しす。
「盗賊ですか」
「ええ。なんでも“三本腕”を名乗っていたとか」
「三本腕……ちょっと前に騒がしていた冒険者崩れの集団ですね。確か頭の一人が見つからなかったということでしたが」
「そうなんです。その一人が三本腕を立て直してこの辺りに出没するようになったみたいなんです」
「そうなんだ」
リオは相変わらずどうでもいいような相槌を打つ。
「ですので、もしものときはお願いします」
「わかりました」
ウーミは皆に頭を下げて去っていった。
そしてその日の午後。
突然、リオ達の乗る馬車が急停止するとともに、
「と、盗賊だ!」
と御者の叫ぶ声が聞こえた。
サラが馬車の窓から外の様子を覗くと前方を盗賊達が荷車を横にして街道を塞いでいた。
「ぐふ。私達は運がいいな」
「ヴィヴィさんっ、こういう場合は『運が悪いっ』って言うんですっ!」
「そうなんだ」
リオはどうでもいいように相槌を打つのだった。




