表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/866

216話 商隊の護衛

 ガブリッパという男をザラの森で倒してから二日日経った。

 その間、リオ達はエルフを探したが見つけることは出来なかった。



 リオがエルフを探すのを諦めかけてきた頃、モモから新たなリッキー退治の依頼を紹介された。

 だが、その村へはマルコの街から歩いて六日はかかる。

 流石に今回の依頼先の村までは遠過ぎる。

 狩ったリッキーの素材を売り払ってもマイナスになる可能性が高い事もあり、サラはこの依頼を受ける事を反対した。


「これはマルコにいる冒険者が受ける依頼ではありません」

「そうですか?でもこの村の人達は困っているんですよ。リサヴィの皆さんが来るのを待っているのですよ」

「私達はリッキー退治専門ではありません」

「困りましたねえ」


 モモがリオを見る。

 

「リオさん、どうしてもダメですか?」

「ダメです」


 そう答えたのはサラだ。

 モモが悲しそうな表情をするがサラには効果がなかった。

 モモがため息をつく。


「それではこの村の近くの街まで行く商隊の護衛の依頼とかがあればどうですか?もし依頼を受ける事ができれば護衛の報酬も入りますからお金にき……こまかいサラさんでも納得されますよね?」

「今、お金に汚いと言おうとしましたね」

「そんなっ。私がお世話になっているサラさんにそんな酷いこと言うわけないじゃないですか!それでどうでしょう?すぐに調べますので少し待っていただけますか?」

「……まあ、いいでしょう。」


 そう言ってサラが笑みを浮かべた。



 マルコギルドへの依頼は相変わらず少ない。

 それでも少しずつだが増え始めていた。

 それは新しく赴任して来たギルマス、ニーバンの手腕によるものが大きいが、それだけではなく、やはりサラが(好き嫌いはともかく)マルコに留まっている事も大きく影響していた。

 サラ目当てでやってくる冒険者達は肝心のサラ勧誘には皆轟沈しているものの、それでも依頼掲示板には目を通し、それなりに依頼をこなして行くのだ。

 そして彼らは依頼達成率も高い。

 依頼の消化が早ければ依頼者に好印象を与えてまた依頼をする、とうまく循環し始めているのだ。

 ただ、悲しいことにその依頼を達成している冒険者のほとんどが“マルコ所属以外“であったが……。


 話を戻そう。

 サラが笑みを浮かべたのは依頼掲示板にそれに該当する依頼がなかったのを既に確認済みだったからだ。


「それであれば考えてもいいかもしれませんね」


 サラがそう言った直後だった。

 

「あっ、そう言えば貼り出すのを忘れていた依頼がここにありました」


 そう言ってモモがサラの目の前に依頼書を出した。

 それはまさにリッキー退治を行う村のそばにある街までの商隊の護衛の依頼書だった。

 サラはモモに嵌められたのだと悟る。

 実際、その通りだった。

 モモは今回の依頼は絶対にサラが反対すると思い、予めその村近くまで行く商隊の護衛の依頼を用意していたのだ。


 サラ、一生の不覚であった。

 そもそも紹介されたリッキー退治の依頼も依頼掲示板に貼ってなかったのだ。

 護衛の依頼も隠し持っていることを考慮すべきだったのだ。

 サラはモモのことを心のどこかで舐めていたのだと、自分を責めるが既に遅い。


「これで問題ないですね?」

「ちょ……」

「リオさん、サラさんの快諾を得ましたのでいいですよね?」

「誰が……」

「わかった」


 サラが止める間もなく、リオはモモにあっさり頷いた。

 なんとしてでもマルコの依頼達成数を増やしたいと燃えるモモの執念の勝利であった。

 ガッツポーズをして勝ち誇るモモと屈辱の表情をするサラを見てヴィヴィが呟いた。


「……ぐふ。何やってるのだ。お前ら」

「サラさんとモモさんって仲良いですねっ」

「そうなんだ」

「……」



 そして商隊の出発当日。

 リオ達は宿屋で昼食を終えると、商隊のもとへ向かった。

 彼らが集合場所に到着した時、まだ積荷を載せている最中だった。

 荷物の指示をしていた男がリオ達の姿をみかけ、走ってやって来た。


「リサヴィの皆さんですね」

「はい」

「イルシ商会のウーミです。本日はよろしくお願いします」


 ウーミが笑顔で挨拶をする。

 サラが代表して挨拶を返す。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

「少し積込みが遅れてるんです。でも、もうすぐ出発しますのであちらの馬車にてお待ち下さい」

「わかりました」


 ウーミは一瞬、ヴィヴィに視線を向けたが言葉を交わす事なく戻って行った。

 指定された馬車は護衛専用のようだった。

 入り口は前後にあり、前は御者席と繋がっている。リオ達は後部から乗り込んだ。

 客車用ではないので内装は簡素だったが、ガッチリとした作りで長椅子が左右に配置されていた。

 大人が三人ずつ計六人が余裕で座れそうだ。

 片側にサラ、リオ、アリスが座った。反対側をヴィヴィが一人で座ることになる。

 これは魔装具がかさばるからで、決して避けられているわけではない。

 ヴィヴィはリムーバルバインダーを肩から外すと、一枚ずつ空いている席に立てかけ、自分も腰を下ろした。

 今回の護衛はリサヴィの四人だけと聞いていたので全席を占有しても問題ないはずであった。

 

「リムーバルバインダーって結構場所取るんだね」

「ぐふ。だから私はあまり馬車は使わなかった。余分に料金を取られる事があるからな」

「そうなんだ」



 椅子の座り心地を確かめていたアリスが顔をしかめる。

 

「この椅子っ、思った以上に硬いですっ。途中でお尻が痛くなりそうですっ」

「そうなんだ」

「えっ?そう思うの私だけですかっ?リオさんはそう思いませんでしたっ?」

「僕は感覚が鈍いからわからない」

「そ、そうですか。えっと、サラさん、ヴィヴィさんは?」

「私は多分大丈夫です」

「ぐふ。サラは面の皮だけでなく、尻の皮も厚いのだろう」

「そうなんだ」


 リオは不意に頭が下を向いた。

 サラにどつかれたと気づく。

 

「僕、なんで……」

「女性に対して失礼な事を言ったからです」

「言ったのはヴィヴィだよ」

「……同意したからです」

「そうなんだ」

「ぐふ」

「……」


 突然、外が騒がしくなった。

 自分が振った話題で空気が悪くなり、焦っていたアリスはチャンスとばかりに話を強引に変えた。

 

「なっ、何か外が騒がしいですねっ。ちょっと見てみますっ」


 アリスが外の様子を見ると先ほど挨拶したウーミが冒険者と何か揉めているようだった。


「なんか揉めてますっ。見に行きますっ?」 

「ぐふ。放っておけ。何かあれば向こうから言ってくるだろう」

「そうですねっ……あっ、こっちに来ますっ」

「ではそろそろ出発ですね」

「でも……」

「どうしました?」

「護衛って私達だけでしたよね?」

「ええ。そのはずです」

「ウーミさんと一緒に冒険者らしい人が三人こっちに来ますっ」

「それは変ですね」


 ウーミが車内に顔を出すといきなり頭を下げた。

 

「どうしたんですか?」

「その実は……」

「俺達も護衛をしてやることにしたんだ!」


 ウーミの言葉に冒険者の一人が割って入ってきた。

 その態度にサラは顔を顰める。


「随分と態度が大きいですが本当に護衛の方ですか?」

「ああ。何せタダで引き受けてやるんだからな!」


 言葉が噛み合ってないわね、とサラは思ったが面倒な事になりそうなので指摘するのをやめた。

 ウーミが申し訳なさそうに頭を下げた。


「狭くて申し訳ありません」

「はははっ、いいって事よっ」


 冒険者の一人がウーミに答える。


(今のは私達に言った言葉だと思うんですけど)


 サラが思った通りだったのだろう、ウーミは一瞬だけ嫌そうな表情をしたがすぐにその表情を消した。

 そしてリオ達にもう一度頭を下げて「もう出発しますのでよろしくお願いします」と言って去っていった。

 


「おいおい、棺桶持ち!俺達が座れねえだろ。お前の荷物どけろ!」

「おい、リッキーキラー!そこは俺が座る!てめえは御者の横にでも座ってろ!」


 しかし、リオは自分の事とは思わず無反応だった。

 業を煮やした冒険者の一人が強引にリオを立たせた。


「ほれっ!退け!」

「ちょっとあなた達いい加減にしなさい!」

「うるせえな!お前はさっきからよ!」


 冒険者は抗議したサラに睨みをきかせ、アリスに顔を向けて猫撫で声で言った。


「俺がここに座ってもいいだろう。なあ、サラ」


 冒険者が満面の笑みを浮かべる。

 この冒険者は大きな間違いを二つ犯した。

 一つは自分ではイケてると思っている笑顔には何の魅力もないことだ。

 返ってマイナスだ。

 そしてもう一つは、

 

「あのっ、わたし、サラさんじゃないですけどっ」

 

 満面の笑みを向けられたアリスは、その視線を浴びると石化するかのように嫌な顔をして自分の手で冒険者の視線を遮る。


「何言ってんだ。隠さなくったっていいんだぜ。噂以上の美人じゃねえか!お前のような美人がそんなにいるかよ」


 美人と褒められ、少し頬が緩むアリス。


「あの、」

「うるせえな!ブスは黙ってろ!」


 冒険者はフードを深く被って顔を隠しているサラを威嚇した。

 顔は見えなくとも声でサラが女性である事はわかる。

 だが、彼女がサラである可能性を全く考えなかった。

 顔を隠しているのは顔に自信がないから、つまりブスだからという思い込みと、それ以上に神官服を来た美人、アリスが目の前にいるのだ。

 彼女をサラだと思い込むのも仕方がないことだったのかもしれない。

 

「……」

「ぐふ。今度はそう来たか。これはまたスゴいのを引きつけたな」


 ヴィヴィの声はどこか楽しそうだった。

 だが、仮面の下の素顔は声とは裏腹に冷めた目をしていた。


「僕、御者の隣に行くよ」


 いつも通り一人マイペースなリオは前のドアから御者の隣へ移動した。

 冒険者に脅されたからではなく、御者席に興味を持ったからだ。


「おお、素直じゃねえか。じゃあ、ここは俺が……」

「待て待て!サラの隣は俺だ!」

「いや俺だ!」


 三人が言い争いをしているうちにリオが座っていた席にヴィヴィが滑り込む。


「あっ、てめえっ!この棺桶持ちが!」

「あなた方はそちらの椅子に座ればいいでしょう。パーティなんですか……」

「「「うるせえブス!」」」

「……」

「ぐふ。見事にハモったな」



「出発しますから席について下さいね」


 御者の声がして冒険者達は仕方なくと言った顔で対面の席に着く。

 ちなみに椅子に立てかけていたリムーバルバインダーは冒険者達によって蹴り転がされた。

 それを見てヴィヴィが一瞬殺気を発したが、直ぐに消えたので冒険者達は気づかなかったようだ。

 もちろんサラは殺気に気づいていた。

 ブスブス言われて怒り心頭だったサラが内心、

 

 「やっちまえ」

 

 と思ったのは内緒である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ