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215話 マルコギルドの反撃

 話は少し遡る。

 マルコギルドの新ギルマス、ニーバンはマルコギルド所属冒険者達の依頼達成状況をまとめた資料に目を通していた。

 その資料から所属解約の脅しをかけてワガママをいう冒険者の多くが不正にギルドポイントを得てランクアップした可能性が高いことがわかった。

 この不正にも無能のギルマスことゴンダスと追放されたギルド職員のクズンが関与していた。

 ニーバンは不正があったとしても彼らがランクにあった依頼をキチンとこなせていれば目を瞑ってもよいと考えていたが、彼らはギルド特典を最大限利用するだけで、ろくに依頼を受けていなかった。

 また、依頼を受けたとしても他のパーティが受けた依頼に無理やり参加して分け前を強引に奪うという、どうしようもない奴らであった。

 つまり、マルコギルドに百害あって一利なしのクズどもであった。

 これらが表に出て来なかったのはゴンダスとクズンが被害を受けたパーティを強引に説得し、黙殺してきたからだ。

 あまりの酷さにニーバンは思わず「マルコはクズ冒険者製造所か!」と吐き捨てたのであった。



 ニーバンは所属解約の引き留めをやめさせ、脅しをかけてきた者達は希望通り所属解約するよう指示した。

 その決断のキッカケを与えたのはギルド職員のモモの独断専行だった。

 彼女の正論に腹を立てた冒険者が所属解約を盾にして脅してきた。

 これが他のギルド職員なら引き下がっただろう。

 下手をしたら悪くもないのに謝罪したかもしれなかった。

 だが、彼女は違った。

 冒険者の希望通り所属解約をしようとしたのだ。

 すると冒険者達の方が慌てて捨て台詞を残して逃げ出した。

 ニーバンはこの件を他の職員から報告を受け、モモから直接話を聞くことにしてギルマスの部屋へ呼び出した。

 そこで彼女は迷いなくキッパリと言い切った。

 

「マルコギルドに貢献してくれる冒険者の邪魔しかしない冒険者にはマルコに所属していただく必要はありません」


「それを決めるのはお前ではない」とニーバンは口まで出かかったが、どうにか飲み込んだ。

 それはモモの態度が少しおかしかったからだ。

 興奮しているようだったが、酒の匂いは特にしない。

 ニーバンは彼女を落ち着かせるように優しく諭すように話す。


「しかしな、もう三割も所属を解約されているのだぞ?」

「ギルマスは今残っている者達がどういう者かご存知ですか?」

「どういう意味だ?」

「マルコに所属している方達の内訳は次のとおりです。私達が彼らに対してあれだけの背信行為を行ったにもかかわらずマルコに愛着をもって残ってくれた者達、移籍先を探してる最中の者達、そしてマルコより待遇が下のギルドにしか受け入れてもらえない、ロクに力もないのに威張り散らす者達です。今回、私が対応したのはこの最後のクズどもです」

「それでも所属冒険者の数はギルドの査定に関係する事はわかっているだろう?今は所属冒険者の流出を少しでも抑えておくべきではないのか?」


 モモは首を横に振った。


「彼らはマルコという木に寄生し養分を吸い取るだけの害虫です」

「酷い言い様だな。つまり君はギルドの査定が最低になっても彼らを切れというのか?君の給料も下がるのだぞ?」

「これ以上、下がりようがないのでは?」

「それはそうだが……」


 モモがどこか人を不安にするような笑みを浮かべた。


「……ここまで減ったのです。いっその事、この機にクズを一掃してはいかがですか?」


 ニーバンはその声にぞっとした。


(……情報では従順で大人しいとあったのだが、この危機的状況が彼女を変えたのか?それともこれが彼女本来の姿か?)


「如何でしょう?他の職員も解約を盾に無理難題を言われてストレスが溜まっています。それともこの状況は職員の口減らしにちょうど良いとお考えですか?」

「冗談にも程があるぞ!」

「失礼しました」


 謝罪しつつもモモの表情に反省の色は見えない。


「……だが、確かに君の言う通りだ。ギルド特典はどうする?低下は確実だぞ」

「私の調べたところでは、特典を最大限利用するのはクズが圧倒的に多いのです。ですのでクズが一掃できれば現場維持は無理ですが多少下げるだけで済むかと」

「……なるほどな。では、その方向で考えてみよう。その資料はいつ準備できる?」

「資料はできておりますのでこのお話が終わりましたらすぐにお持ちします」

「そうか。よろしく頼む」

「はい、お話は以上でよろしいですか?」

「もう一つある。君は所属解約とは別に降格も匂わせたらしいな」

「ギルド規則に明記されています。自分のランクより下の依頼ばかり受ける者や行いが目に余る者は降格、あるいは冒険者ギルドから除名させる事が出来る、と」

「まあ、その通りなのだが、それを軽々しく言ってほしくない」

「承知しました。以後気をつけます」


 今度もモモの言葉に心はこもっていなかった。

 ニーバンは内心ため息をつく。

 

「君の気持ちはわかるが、あまり冒険者の事をクズクズ言うな。言うのならせめて心の中だけにしておけ。間違っても本人には言うな」

「承知しました」


 またも口だけの返事にニーバンはため息をついた。


「しかし、君は聞いていたのとは違うな」


 モモが首を少し傾げる。


「と言いますと?」

「自分の気持ちを表に出さないと聞いていた。そこまでマルコギルドの事を考えてくれるのは嬉しいが、あまり無茶をするな」

「私もしたくてしてるわけではないのです。でも仕方がないのです。あのクズ共がリサヴィの、“リオ様”の足を引っ張るような事をするから」


 モモがリオ様、と言った時、その表情が狂信者のように見えたが気のせいだとニーバンは自分を納得させた。


「話は以上だ。資料を頼む」

「はい、承知しました。それでは失礼します」


 そして、次の日の朝、ニーバンよりギルド職員全員に方針変更が指示されたのだった。



 ギルドの方針変更は冒険者達の間にすぐには広まらなかった。

 ギルド職員が説明しなかったこともあるが、実際に所属を解約された者達がその事を言わなかったことが大きい。

 

 不幸はみんなで分かち合おう!

 

 の精神から所属解約された冒険者達が皆、口をつぐんでいたのだった。

 受付嬢の演技も大したものだった。

 今までネチネチ脅された事を忘れておらず容赦なかった。

 冒険者達が所属解約を盾に脅してくると、「冗談ですよね?」ととても困った顔をしながらも「他に入れてくれるギルドはないですよね」と冒険者を挑発する。

 冒険者が怒りに任せて冒険者カードをカウンターに叩きつけ、「解約出来るものならやってみろ!」とでも言ったら最後、受付嬢は待ってましたとばかりに態度を一変させ、冒険者カードをひったくるように預かると、即座に所属解約を行ったのである。


 この行動に脅していた冒険者達は心底慌てた。

 本当に所属解約をする気などまったくなかったからだ。

 慌てて「取り消しだ」とか「再加入したい」と言っても認められなかった。

 彼らは決まって「後悔するからな!」と捨て台詞を残して去って行くのだが、間違いなく後悔するのは彼らの方であろう。



 こうしてマルコ所属のクズ冒険者の所属解約は順調に進んだが、それも長くは続かなかった。

 そのやり取りを見ていた冒険者もおり、一週間もするとマルコにいる冒険者の皆が知るところとなった。

 今ではしばらくマルコを離れていた冒険者がうっかりやってしまう程度だ。

 全てのクズ冒険者の排除が出来たわけではないが、所属解約騒ぎは沈静化した。


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