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214話 ザラの森、再び その4

 アリスがリオに再生魔法を発動する。

 一瞬でリオの左腕が再生した。

 リオは腕の具合を確かめながら再生したばかりの手をアリスに伸ばす。


「えっと?」

「ぐふ。油だ」

「あ、はいっ」


 ヴィヴィの指摘を受けてアリスが油の用意をする。

 リオはアリスから油の瓶を受け取ると、動かなくなった盗賊の首に近づき、油をかけた。

 続けて切り落とした自分の腕にも油をかける。

 そこへサラが来て、盗賊の首と切り落としたリオの腕に火をつけて燃やした。


「よく燃えるね」


 リオが盗賊の頭と自分の腕が燃えるのを眺めながら呟く。

 確かにリオの言う通り、油をかけたとはいえ、その燃え方は異常だった。

 まるで他にも燃焼物が含まれていたかのような勢いだった。

 その様子を唖然として見ていたバカパーティが我に返った。


「お、おい、お前!リッキーキラー!その腕大丈夫なのか!?」

「ん?ああ、もう動くよ」

「いや、そうじゃなくてだなっ!」

「それよりお前すげえな!アリエッタ!まさか再生魔法が使えるなんてな!それもすぐ普通に動かせるってすげえ!上級魔法じゃないのか!?」


 確かにリオは再生してすぐに動かして見せたが、それが魔法の効果なのかは判断しづらいところだった。

 何せリオは感覚が鈍いので動かしてはいてもいつも通り扱えているのかも怪しいのだ。

 アリスもこの魔法はリオにしか使った事がないので、皆に同じ効果があるのかわからなかった。


「ちょっと待て。さっきリッキーキラーは、こいつのことアンディとか言ってなかったか?」

「そういやそうだったな。そうかっ、お前、アンディが本当の名前か!」

「お、俺は知ってたけどな!」

「じ、実は俺もな!本当だぞアンディ!」

「……」


 アリスに群がる男どもをヴィヴィがリムーバルバインダーで追い払う。

 リオの指示通り”何もの”も近づけさせない。

 そんなヴィヴィに男どもがギャーギャー騒いでいるのを横目にサラはリオに問いかける。

 

「リオ、何か気づいた事があるのでしょう?」

「うん、あれ、虫かな。最初は何が飛んできたのかわからなかったけど」

「虫、ですか?」

「そうじゃなくても生き物だよ。噛みつかれた時、何かが腕に侵入してくるのを感じたんだ」


 サラも何か薄っぺらい紙のようなものが高速で飛んできて盗賊の首を切断したところまでは見たが、その後、その切断したモノを見失ってしまった。

 リオの話からそれが消えたのではなく、切断面から首と体へ侵入したのなら合点がいく。


「だから腕を切断したのですね」

「うん。サラ達も噛まれたらその部分を切り捨てればいいよ」

「……普通の人はリオのように躊躇なく切断するのは難しいですよ」

「そうなんだーー!!」


 リオ、サラ、そしてヴィヴィは何者かの気配を感じ取り、その方向へ目を向ける。


「ぐふ。出てこい」

「ーーこれは驚きです。まさか気づかれるとは思いませんでしたよ」


 彼らの視線の先、前方の木の枝の上にローブを纏った男が姿を現した。

 ここまでの接近に気づかなかったのはバカパーティが騒ぎ立てて注意力が散漫になっていたことも否定できないが、それだけとは考えにくい。

 この男は相当腕の立つ盗賊か魔術士のどちらかだと考えられ、服装から判断するなら魔術士だろう。


「何者です!?」

「これは初めまして。私の名は、そうですね、ガブリッパ、とでも名乗っておきましょうか」


 ガブリッパと名乗った男は木の上だというのにそれを感じさせない優雅な挨拶をした。

 サラの直感がガブリッパを敵だと告げる。

 他に仲間がいないか周囲を警戒する。 


「予想以上ですよ、リサヴィの皆さん。特にリーダーのリッキーキラー、でしたか。あなたの迅速な判断は賞賛に値します。よくぞあれの正体に気づきましたね」


 リオは褒められても表情一つ変えることはなかった。

 残念とでもいうように肩をすくめるガブリッパ。

 リオが右手を伸ばすとそこへヴィヴィのリムーバルバインダーが近づき、扉が開く。

 リオは見向きもせずに手を伸ばし中から剣を取り出した。

 その剣の刀身が赤い光を放つのを見て、カッコいいと思ったバカパーティのリーダーが「俺も」と中から槍を取り出そうとするが、その前に扉が閉じてヴィヴィの側に戻った。

 バカパーティのリーダーの抗議を当然無視するヴィヴィ。

 サラが代表してガブリッパに問い質す。


「あなたはここで何をしているのですか?」

「ちょっとした実験ですよ」

「実験?」

「私が生み出した寄生生物の能力調査です。そのための実験場としてここは実に都合がよかったのですよ」


(リオが言っていた虫の事ね)


「ぐふ。寄生虫か……」

「寄生虫とは酷い呼び方ですね。私はこの愛おしい寄生生物に“スクウェイト”と名付けました」


 そう言ったガブリッパはどこか誇らしげだった。


「つまり、あのアンデッドもどきはあなたが生み出した寄生虫が原因と言う事ですか」

「寄生虫ではない!格調高くっスクウェイトと呼びなさい!」


 ガブリッパが怒りの表情とともにサラを怒鳴りつける。

 その豹変を目にしてバカパーティの面々は「ひっ」と悲鳴を上げる。

 ガブリッパははっ、とした表情をして平静さを取り戻す。

 

「ーー失礼。私らしくないところを見せてしまいましたね」


 初対面のお前の事など知るか、とリサヴィの面々は思ったが口には出さなかった。


「でもあなたが悪いのですよ。せっかく名前を教えてあげたと言うのに寄生虫などと呼ぶのですから」

「それで私達も実験材料にしようとやって来たわけですか」


 ガブリッパは文句をサラにスルーされて肩をすくめる。


「はい、その通りです。スクウェイトは、神聖魔法、特にターンアンデッドを苦手にしているようなのですよ。ああ、苦手なだけですよ。普通のアンデッドのように浄化されたりしませんのでご心配なく」


 誰も心配などしていないがそんなツッコミをする者はいなかった。

 だが、これで先日からターアンデッドが効かない理由がハッキリした。

 死体はアンデッドになっていたのではなく、寄生虫が動かしていたのだ。

 ターンアンデッドで一時的にでも動かなくなるので誤解を生んだのだ。

 ガブリッパは聞きもしないのにペラペラと話を続ける。

 

「そこでです。神聖魔法が使える神官に寄生させたらどうなるのか?興味が湧くでしょう?先日、いい“実験材料”がやって来たんですが、詰めが甘くてまんまと逃げられてしまいましたね」


 それがザラの森を調査していたBランクパーティの事だと悟る。


「前回は逃してしまいましたが、今度は逃がしませんよ。そのためにわざわざ私自ら出向いて来たのですから」


 ガブリッパの口元が残虐さを含む笑みに変わる。


「それにしても私の得た情報では、リサヴィは四名のパーティとあったのですが、七名に増えていたのですね、いや、もう六名でしたか」

「お、俺らはリサヴィじゃねえ!」

「おや?では私が殺したその男もリサヴィではなかったのですね。それは悪い事をしました」


 バカパーティはなんとかこの場から逃げる方法はないかと思案していたところでガブリッパの標的がリサヴィだったと知り、自分達だけ助かろうと交渉を試みる。

 

「じゃ、じゃあ俺達は無関係だな!」

「そ、そうだ!無関係だ!だから俺達だけ見逃してくれ!」


 ガブリッパが首を傾げる。


「無関係?本当に?」

「ああ!」

「でも間違いとはいえ、私が殺してしまったその者はあなた達のパーティの一員でしょう?私は彼の仇ですよ。もう無関係ではないと思いますが?」

「こいつの事はきれいさっぱり忘れる!」

「もう忘れた!」

「そうですか」

「ああ!」

「では私もあなた方の事はきれいさっぱり忘れましょう」

「そうかっ!」

「よっしゃ!」


 バカパーティがほっとしたのも束の間、ガブリッパが残虐な笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「殺してからですが」

「「え?」」


 次の瞬間、ガブリッパのローブが揺れ、中から何か飛び出した。

 何かを弾く音が四つ聞こえた直後、バカパーティの首が一つ残らず飛んだ。

 弾いた音、それは、

 ひとつはサラを襲ったものをサラが盾で防いだ音。

 一つはリオを襲ったものをリオが剣の平で叩いた音。

 そして残り二つはヴィヴィとアリスを襲ったものをヴィヴィが二つのリムーバルバインダーを操り、弾き落とした音だった。


 落とされたモノは寄生生物のスクウェイトだった。

 スクウェイトは幅一センチメートル、長さ二十センチメートル、厚さ一ミリにも満たない長方形の奇妙な姿だった。

 スクウェイトは地面の上をしばらく蠢いた後、じゅっ、と音がして溶けて消えた。

 その様子を観察していたガブリッパは少し首を傾げた。


「おかしいですね。リサヴィの方々は全員無事ですか。てっきり……」


 ガブリッパは頭に突き刺さった短剣に言葉を中断された。

 次の瞬間、ぼんっ、という音と共にその頭が吹き飛んだ。

 ヴィヴィが魔力を込めた短剣を放ったのだ。

 首を失ったガブリッパの体がボトッと地面に落下した。


「ぐふ。今度も詰めが甘かったな」

「私達に遠距離攻撃の手段がないと思い込み、近づき過ぎたようですね」

「あのっ、 ヴィヴィさんっ、ありがとうございますっ」

「ぐふ。仲間を守るのは当然だ」

「ヴィヴィさんっ」


 その言葉にアリスは感動し、目をうるうるさせる。

 ガブリッパの頭を失った体とバカパーティの首とその体がモゾモゾと動き出す。

 それらを静かに観察していたサラが、

 

「気をつけて下さい!あの寄生虫は傷跡から侵入した後、内部で増殖するのかもしれません。絶対に触れないで下さい!」

「ぐふ。さっさと燃やしてしまおう。どうやら火が弱点のようだからな」

「あっ、よく燃えたのはあの寄生虫が燃えていたんですねっ!」

「そうですね。それとこの生物は単独では長く生きられないことも先程わかりました」

「そうだね」

「ではアリス、少しでも動きを見せたらターンアンデッドをお願いします。ヴィヴィは万が一に備えて周辺の警戒をして下さい。私とリオで燃やしましょう」

「はいっ」

「わかった」

「ぐふ」



 纏わりついて来た冒険者達が燃える姿を眺めながらアリスが呟いた。


「……ちょっとだけっ、ほんのちょっとだけかわいそうですっ」

「自分の実力を見誤るとこうなるのです」

「ぐふ。全て他人任せにしてきたのだ。死に方も他人任せに出来て満足だろう」

「そうなんだ」



 サラが冒険者達から冒険者カードを回収した。

 ガブリッパからは残念ながら何も身元がわかるものは見つからなかった。

 燃やす前なら何かわかったかもしれないが、寄生される恐れがある以上、そんな危険は犯せなかった。


「さてどうしますか?」

「もう少し探ってみよう。エルフに会ってないし」

「そうでしたね」


 依頼は森の調査だったが、リオはこの森で見かけたエルフがファフなのか確認するために依頼を受けた事を思い出す。

 リサヴィはザラの森の調査を再開した。

 夕方まで探索したが、結局、エルフは見つからず、暗くなる前に切り上げる事にした。

 その間にリサヴィが遭遇した魔物はウォルーとスクウェイトに寄生されたウォルーだった。



 リサヴィはマルコの街へ戻るとギルドに直行した。

 モモに調査結果を説明する。

 

「これが命を落とした冒険者達のカードです」


 サラがバカパーティの冒険者カードをカウンターに置く。


「確かに」


 モモは特に悲しむ様子も見せず、カードを受け取った。

 サラが寄生生物を生み出した者について尋ねる。


「ガブリッパという名前を聞いたことありますか?話し方からして偽名そうでしたが」

「私は聞いたことありません。寄生虫、スクウェイト?の事も含めて至急ギルド本部に連絡します」

「お願いします。ガブリッパがあの寄生虫をどのくらいザラの森に放ったのかわかりませんので注意が必要です」

「はい。引き続きザラの森への立ち入りは避ける様に働きかけます」

「それがいいですね」

「でも、その寄生生物の弱点が火である事と神官のターンアンデッドだけでなく聖水でも一時的に動きを止められるとわかったのは大きいです」

「ええ。寄生しているかターンアンデッドか聖水で確認できますからね」

「はい。どうしても森へ出かける必要があるのなら最低でも聖水を持っていく様に忠告します」

「お願いします」

「はい、承知しました。やっぱりリサヴィの皆さんに依頼して正解でした!」

「はあ」


 サラは複雑な心境だ。

 サラは気の進まない依頼だったが、サラ達が調査しなかったら原因究明にもっと時間がかかり、被害者もバカパーティだけでは済まなかったかもしれない。


(彼らも私達にちょっかいをかけなければ死なずに済んだのに)


「依頼はこれで完了としますが、この後のご予定とかありますか?」

「あなたには関係ないでしょう?」

「いえいえ」


 モモとサラが笑みを浮かべながら睨み合うなかでリオが答えた。


「まだエルフを見つけてないから明日も行くよ」


 その言葉を聞きモモが満面の笑顔をリオに向ける。


「よろしくお願いします!」

「いえ、これはギルドとは関係ありませんので」

「いえいえ。その間にリオさん達にぴったりの依頼を集めておきますね」


 モモがサラにニッコリ笑顔を向ける。


「そうなんだ」


 二人が笑顔で睨み合うなか、リオが相変わらず何も考えていないような表情で答えた。


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