213話 ザラの森、再び その3
そして次の日、ザラの森。
「……またあなた達ですか」
サラがウンザリした顔をしながら言った。
昨日、付き纏って来たバカパーティがザラの森を探索しているところにやって来たのだ。
「ん?誰?」
「ぐふ。サラの追っかけだ」
「そうなんだ」
「違います。昨日会ったでしょう」
「あたし達の依頼の邪魔をした人達ですっ」
バカパーティの一人が怒鳴りつけて来た。
「昨日はよくも騙しやがったな!」
「そうだぞ!あの後酷い目に遭ったんだからな!」
「騙すも何も私は事実を述べただけですが」
「なんだと!?」
「ちょっと有名になったからっていい気になってんじゃねえぞ!」
「……」
「まあ、待て待て」
「でもよっ」
「落ち着けって。ここは俺に任せとけって」
「わかったぜリーダー!」
「流石だな!」
何が流石なのかさっぱりわからないリサヴィの面々を置いて、リーダーがサラを真っ直ぐに見た。
そして思い出したかのように格好いい、と思っている角度をサラに向けた。
「正直に言うぜ、サラ」
「なんでしょう?」
「俺達はランク落ちの危機なんだ」
とても情けない事を言ったリーダーの顔は何故か誇らしげだった。
「……は?」
(この人、何故そんなみっともない事を偉そうに言えるのかしら?私の理解の範疇を超えているわ)
念の為、他のメンバーを見るが彼らも同様に何故か誇らしげだった。
「ぐふ。よかったではないか。適正ランクになるという事だろう」
「なんだと!てめえ!」
「サラの後をついて行くだけでDランクになったお前が言うな!」
「……」
「テメエもだぞ!リッキーキラー!」
「そうなんだ」
それだけでは収まらず、彼らは調子に乗ってリオとヴィヴィを罵倒し始める。
サラはリサヴィの弾薬庫に次々と火を放り込むバカパーティにうんざりする。
もういつ爆発してもおかしくない状況だ。
爆発したらサラは鎮火する方にまわる自信はない。
彼らのバカ話には終わりがないようなのでサラが強引に割って入る。
「静かにしてください。ここがどこかわかっているのですか?」
サラの不機嫌な表情を見てバカパーティの面々が静かになる。
「ランク落ちは大変ですが頑張ってください。私達には何もできませんが」
サラは彼らを手伝う意思がない事を何か頼まれる前にはっきり断った。
だが、それで引き下がる連中なら、ここまで追って来たりはしないのである。
「まあ待て」
「サラも聞いてくれよ。俺達は何もしてないのによ。Cランク以上の依頼を受けないとDランクに降格させるって言いやがるんだぜ!」
「ぐふ。文字通り何もしていないからだろう」
「テメエは黙ってろ!棺桶持ちが!」
「それによ!あのモモって野郎、俺達がよ、『あんまゴチャゴチャ言うならマルコ所属を解約するぞ!』ってちょっと脅したら本気で解約しようとしやがったんだぜ!」
「信じられねえだろ!」
「あり得ねえだろ!マジで!」
「……ええ、あなた達の思考が」
だが、サラの言葉は彼らに聞こえなかったか、脳に伝わる前に迷子になったようだった。
リーダーがイヤらしい、自分ではキマっていると思っている笑顔でサラ、そしてアリスを見た。
アリスは悪寒を覚え、思わずリオにしがみつく。
「ギルドの奴ら横暴だろ?そう思うだろ?」
「俺らが可哀想だと思うだろ?」
「なんとかしてやりたいって思うのが人情だろ?」
(この人達から人情とは……これほど似合わない言葉を平気で口にするとは……)
サラがアリスにしがみつかれたリオを見るとリオは明後日の方向を見ていた。
少なくともこの馬鹿どもの相手をする気はないようだった。
「と言う事でだ、あのムカつくモモって野郎を見返してやるために俺達もこの依頼を受けてやる事にした」
相変わらず上から目線の言葉にサラはため息をついた。
「また勝手なことを。そもそもあなた達には神官がいないでしょう」
「おうっ。その通り神官が必要だ」
「そこでだ!サラとは言わねえ、そっちのリッキーキラーにしがみついてる方の神官、お前でもいい。俺達を手伝ってくれ。お前ならいいだろう?」
もちろん、こんな言い方されて協力する者がいるはずもない。
「嫌ですっ」
アリスが即答すると男達は怒り出した。
「なんだとっ!?俺達はCランク冒険者だぞ!お前らより偉いんだぞ!」
「わたしはリオさんの神官ですっ!」
「てめえ……」
「まあ、待て」
リーダーがイヤらしい、自分ではカッコいいと思っている笑みをアリスに向ける。
アリスは気持ち悪くて「ひっ」と叫んでリオの腕をぎゅっと掴んだ。
「じゃあよ、リッキーキラーがOKすればいいんだな?」
「えっ?そ、それは……」
「おいっ、リッキーキラー!って、どこ向いてやがる!こっち見やがれ!」
「リオ」
サラの声にリオが反応する。
「ん?」
「こっちだこっち!こっち見やがれ!」
「何?」
「俺達が依頼をこなすのによ、神官が必要なんだ。だからよ、お前にしがみついてる神官を貸してほしいんだ」
「アリエッタのこと?」
「リオさ……」
「そう、アリエッタをだ!」
アリスはバカパーティにも名前を間違えられてポカンとする。
「お前にはサラがいるんだ。いいだろう?」
リオが首を傾げる。
リオが馬鹿だと思っている男達は、その反応を見てリオとの交渉は時間の無駄とばかりに再びアリエッタ?に直接誘いをかける。
「実は俺は最初からお前が目当てだったんだ、アリエッタ。自意識過剰なサラよりもな!」
「な、誰が自意識過剰……」
サラの抗議を遮って口々にアリエッタ?を持ち上げる。
「そうとも。アリエッタ!俺も前からお前のほうがサラより上だと思ってたんだぜ!」
「本当だぜアリエッタ!」
「だからよ、アリエッタ、俺達に力を貸してくれ。その代わり俺がお前の勇者になってやるからよ!」
「おい!抜け駆けすんな!俺がなってやるからよ!」
「馬鹿野郎!盗賊が勇者になれるかよ!勇者には俺がなる!」
突然降って湧いたアリエッタ?人気にリサヴィは呆然となる。
バカパーティの言い争いが白熱し始めた時だった。
リオが突然アリスを抱きしめるとその場から飛び退いた。
「リオさんっ!?」
「てめえ!まだ話は……あれ?」
盗賊は最後まで言葉を発する前に首と胴体が分かれた。
「ひっ!?」
「な、なんだこれは!?」
盗賊の仲間が騒ぎ立てる中、リオの周りにサラとヴィヴィが集まる。
そこへ無事だった男達も少し遅れて集まってきた。
「リオさんっ、ありがとうございますっ!」
「おいっ!一体何が起きたんだ!?」
喚き散らす男達を無視してサラは周囲を警戒しながらヴィヴィに声をかける。
「ヴィヴィ、今の攻撃が何かわかりますか?」
ヴィヴィはそれには答えず、
「ぐふ……リオ、わかるか?」
とリオに話を振った。
「ちょっと待って」
リオは腰にぶら下げていた小瓶を一つ外すと、出来立てほやほやの盗賊の死体へ投げた。
首を失った盗賊の体がピクリと動き出したところに小瓶が命中した。
小瓶が割れ、中身が死体にかかると、ふっと力が抜けたように倒れ込んだ。
「さすがサラ達が作った聖水だね」
リオが感情のこもっていない声で誉める。
リオの行動を見て、アリスがリュックから火打ち石と油を取り出した。
サラが火打ち石をアリスから受け取り、火種用に用意した小枝に火をつける。
「お、おいっ、どうする気だよ?」
「死体を燃やします」
「ちょっと待ってくれ!あいつは高価なアイテムを持ってたんだ!焼くならその後にしてくれ!」
サラは何処から、どのような攻撃を仕掛けられたのかわからない状態でそんな呑気な事を言い出す男の言葉に呆れた。
「そんな事をしてる暇はありません」
サラは油の瓶をアリスから受けると、右手に火の灯った小枝、左手に油の入った瓶を持って周囲を警戒しながら、倒れた盗賊のもとへ近づく。
その後をリオがついて行く。
「ヴィヴィはアンディの守り」
「ぐふ」
アリスはバカパーティの前だったので名前の訂正するのを我慢した。
「リオさんっ、サラさんっ、お気をつけてっ」
サラが盗賊の死体へ油を撒き、火をつけるとたちまち炎に包まれた。
「……あいつ、いいアイテム持ってたのによ」
バカパーティから一度も盗賊の死を惜しむ声は聞こえなかった。
「!?」
突然、今まで身動きしなかった盗賊の頭が飛び上がりリオへ迫る。
リオは咄嗟に左腕を突き出し身を庇う。
盗賊の首が口を大きく開き、リオの左腕の手首付近に思いっきり噛みついた。
「!!」
直後、リオは右手に持つ剣で自分の左腕を肘のあたりから一切躊躇せず切断した。
「リオ!?」
「リオさんっ」
リオは表情一つ変える事なく、右手の剣を盗賊の頭に突き刺し、そのまま地面に縫い付けてその場を離れる。
リオは駆け寄ろうとするアリスを残った手で制する。
「サラ、ターンアンデッド」
サラはリオの指示に従い、その場から盗賊の頭に向けてターンアンデッドを発動する。
盗賊の頭は動きを停止し、口からリオが切り落とした腕を放した。




