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212話 ザラの森、再び その2

 ザラの森に入り、しばらく経ってからだ。

 サラは跡をつけられているのに気づいた。

 リオやアリスはともかく、ヴィヴィは間違いなく気づいているだろうと声をかける。

 

「ヴィヴィ、何が目的だと思いますか?」

「ぐふ。お前ではないのか」

「ん?」

「どうしたんですかっ?」

「誰かが私達の跡をつけているようです」

「えっ!?リオさんっ、そうなんですかっ!?」


 アリスが質問する相手は間違っているように思えたがリオも尾行に気づていた。


「うん。先行してるのは盗賊かな」

「盗賊って冒険者クラスの盗賊ですかっ?」

「うん」


 サラはリオが尾行に、しかもその後の存在にまで気づいていたことに驚きを隠せない。


「リオ、何故そう思うのですか?」

「ん?感じ、気配?がローズに似てるから」


 リオは即答する。

 

「ローズさんっはウィンドの盗賊の方でしたっけっ?」

「そうだよ」

「気配でクラスまでわかるなんてすごいですねっ。流石わたしのリオさんっ、って、きゃっ」

「でもローズより数段劣るね」



 突然、後をつけていた盗賊が姿を現し、「おい待て!」と声を上げるとリサヴィの元へ駆けてきた。

 リオが歩みを止めないので他のメンバーも盗賊を無視する事にした。

 盗賊は更に声を張り上げて「待てって言ってんだろ!」と全速で駆けてくるとリオ達を追い抜いて前へ出た。

 そして立ち止まって振り返ると両手を広げて行く手を阻む。

 そこでやっとリオ達は歩みを止めた。


「お、お前ら、はあはあ、声が聞こえなかったのか!ごほっごほっ」


 盗賊は息を切らして言葉が続かない。

 リオが何も喋らないのでサラが口を開く。

 

「何か御用ですか?」

「ま、魔物がっ、後ろから襲ってくるぞ!」


 リオ達が後ろを振り返ると、盗賊の仲間らしい冒険者達がこちらへ駆けてくるのが見えた。

 更にその後ろには彼らを追ってきた魔物の姿が見える。


 リオは首を傾げた。


「何ぼやっとしてんだ!魔物の事を教えてやったんだぞ!早く助けに行けよ!」


 リオがサラを見た。


「僕はこの人が何を言ってるのかわからないんだけど」

「なんだとっ!このリッキーキラー!」


 盗賊が今にも殴りかからんばかりに迫る。

 しかし、


「私も同感です」


 とサラも済ました顔で同意する。


「な……、サラっ!お前まで何訳わかんねえこと言ってんだ!」

「ぐふ。襲われているのはお前らだろう」

「自分達で魔物を引き連れてきたんですよっ!『助けに行け』じゃなくて、『助けてください』ですっ」


 仕方ないという口振りでヴィヴィとアリスが盗賊の発した言葉の間違いを指摘する。

 後方から「早く助けに来いっ!」と喚く声が聞こえた。

 しかし、リオをはじめ、リサヴィはまったく動かない。


「そんな細かいことどうでもいいだろ!早く助けに行かねえか!俺のパーティが全滅してもいいのか!?」


 凄む盗賊にリオは全く感情を込めず、


「別にいいけど」


 と即答した。


「なっ……てめえ!」


 盗賊が殴り掛かろうとした時、再び冒険者の喚き声が聞こえた。


「何やってんだ!魔物はすぐそこまで来てるぞ!」


 冒険者達の逃げ足は早く、魔物に追いつかれることなくリオ達のそばまでやって来た。

 

「依頼を果たそう」


 リオがそう呟き、剣を抜いた。

 依頼とは言うまでもなくギルドからの依頼のことだ。

 リオの動きをみてリサヴィは戦闘態勢に入ったのだった。



 追いかけてきた魔物はアンデッドだった。

 冒険者達が追いつかれなかったのは魔物が本来の動きではなかったからだった。

 サラとアリスのターンアンデッドで魔物は動きを止め、その死体にリオとヴィヴィが油と火をかけて燃やした。

 その様子を見て魔物に追われていた冒険者達も真似て死体を燃やす。



 戦闘終了と共に冒険者達の口から出たのは感謝の言葉ではなく罵声だった。


「なんで助けに来なかったんだ!」

「俺が『助けに行けっ』って言ってんのによっ!こいつら言うこと聞かなかったんだぜ!特にお前だリッキーキラー!」


 盗賊が戦犯はお前だ、とばかりにリオを指差す。

 リオは小さく首を傾げた。


「何とぼけた顔してんだ!誤魔化そうとしたってそうはいかねえぞ!」


 リオに掴みかかろうとした盗賊の前にサラが立ち塞がる。


「邪魔すんなよサラ!お前だって見てただろ!こいつは俺達を見捨てようとしたんだぞ!」

「それはリオだけではありませんが」


 サラが冷たい目で盗賊を睨む。

 盗賊はリオに対する態度から一変して怯えた表情になる。


「まあ、落ち着けってサラ。俺達はこうして無事だったんだ。許してやるよ」


 そのパーティのリーダーらしき男が尊大な態度で言った。

 サラは一瞬、この男が何を言ってるのか理解できなかった。

 リオをはじめリサヴィの面々が首を傾げる姿を見て、それが自分だけではないとわかりほっとした。

 男達のおかしな言動は続く。


「いいか、この森は危険だ。ここからは一緒に行動したほうがいいだろう。よしっ、サラ!この臨時パーティのリーダーはCランクの戦士である俺がやってやるよ。大船に乗った気でいろよ!わはははっ!」


 なんかよくわからないが、リーダーをはじめ、そのパーティメンバー全員が笑い出す。


「……ぐふ。このバカ達、勝手に仕切りだしたぞ」


 ヴィヴィの言葉にリーダーが怒り出す。


「てめえ!棺桶持ち!誰が馬鹿だ!?荷物運ぶしか能のないクズクラスは黙って後ろをついてくればいいんだ!」

「……ぐふ」

「よしっ、先頭は俺達だ。サラは真ん中に来い!残りは好きにしてろっ」

「おい、そこのサラじゃない方の神官!回復は俺達を優先にするんだぞ!」

「おお、なんてったって俺達はCランク!お前らよりランクが上なんだからな!」


 助けてもらってこの態度。

 サラは開いた口が塞がらなかった。

 呆れるより感心してしまう。

 その図々しさに。

 このパーティは、モモが言っていた不正でCランクに上がったパーティではないかと疑う。

 とはいえ、いつまでもポカンとしているわけにはいかなかった。

 リオが何も言わないので、いや、リオが収めた剣の柄をいじり出したのを見て、急激に嫌な予感がしてきたので、このくだらない状況を打破する事にした。

 サラはリオの前に立つと、後に手を回して落ち着け、とジェスチャーで合図する。

 リオから微かに感じていた殺気が消えた事にほっとしながらリーダーに視線を向ける。


「ひとついいですか?」

「ああ。俺がお前の勇者になってやるぜ!」


 リーダーは自分でカッコいいと思っている角度をサラに向けて微笑みかけるが、効果はまったくなかった。


「そうではなく、あなた方もザラの森の調査の依頼を受けたのですか?」

「おう、俺達の実力を買われてな!」

「あそこまで頼まれちゃ断れないよな!」

「おう!」


 と男達は口々に依頼を受けてきた事を肯定した。


「サラ、俺達の力をその目で見れば俺達のパーティに入りたくなるからな!」

「いえ、結構です。もう十分わかりました」


 リーダーの誘いを素気無く断るサラ。

 リーダーがショックを受けているところへ「あれっ?」とアリスが小さな声を上げる。


「ちょっと待ってくださいっ。この依頼はターンアンデッドを使える神官が必須だったはずですよっ。なのにあなた方には神官いないじゃないですかっ」

「うるせえな!だからお前らが力を貸せばいいだけだろっ!」

「噂通りもう一人の神官は頭弱いな!」

「う、噂通りって……」


 ショックを受けるアリス。

 そのまま「リオさーんっ」とリオに抱きつく。

 転んでもただでは起きないアリスである。

 そんなアリスを横目に見ながらサラが確認する。


「つまり、本当は依頼を受けていないのですね」

「まあ、見方を変えればそう言えなくもないなっ」

「ああ、そうとも言えるかもしれん」


 リオが首を傾げるのにサラ達は深く同意した。


(しかし、よくまあ次から次へと嘘や適当な言葉が出てくるわね)


「依頼ではないとすると、あなた達はここへ一体何しに来たんですか?」


 サラに見つめられ、リーダーはさっきの笑みが実は効果絶大で、サラは照れ隠ししてると思い込んだ。

 再び、カッコいいと思っている角度をサラに向け、尊大な態度で言った。


「わかった。正直に言うぜ」

「はい、なんでしょう?」

「お前らだけで依頼を受けるって知って心配でな。こっそり跡をつけてきたんだ」

「こっそり、ですか」


 サラの嫌味は通じなかった。


「突然、俺が飛び出して来てびっくりしただろ?気配消してたからな!驚かして悪かったな!」


 盗賊がどこか誇らしげな顔でサラにだけ謝罪する。

 彼は突然魔物に襲われたため、リオ達が最初から彼の存在に気づいていて、彼の登場に全く驚いていなかったことに気づかなかったようだ。

 それどころか都合のいいように事実を妄想で書き替えた恐れさえあった。

 サラが言葉を失っていると後ろからリオがサラの尻をつついた。

 サラは思わず変な声が出そうになったのを我慢し、振り返ってリオを見る。

 本来なら即、鉄拳をお見舞いするところだが、話が脱線する恐れがあるので後回しにした。

 そう、許したのではなく、後回しにしたのだ。

 サラは表面上は平静さを保ったままリオに尋ねる。


「何ですか?」

「サラ、もしかしてこれがナックの言ってたギャグ?」


 真面目そうな顔で尋ねるリオに、サラも真面目な顔で答えた。

 

「私はしていません」

 

 サラとは違い、ギャグ呼ばわりされた男達は怒り出した。

 それをサラが宥める。


「心配してくれて申し訳ありませんが、あなた方にはまったくメリットないですよね。先程自分達が言ったように、そして“体験した”ように、今のこの森は非常に危険です。私達の事は気にせず街へお帰り下さい」


 サラは出来るだけ穏便に帰ってもらおうとするが、鋼鉄製の図太い神経をもつ彼らを説得することは出来なかった。


「俺達の事は気にするな。それは俺達のパーティに入ってから考えればいい事だ」


(……まずいわ。リオじゃなくても我慢の限界かも)


「気にします。無償で私達に付き合う理由が理解できません」

「大丈夫だ。俺達も報酬をもらう方法くらい考えてるぜ」

「そうなんですか?依頼を受けていないのにどうやって報酬を受け取る気ですか?」

「ちょっと考えればわかる事だろ。お前達が口添えすればいいだけの話だ」


 サラは頭を無性に掻きむしりたくなるのを必死に我慢する。


「……えっとっ、この人達っ、何言ってるんですっ?」

「やっぱ馬鹿だな。顔だけ神官」

「か、顔だけ神官……リオさーんっ」

「お前らが俺達と一緒に依頼を果たしたとギルドに話せばいいって言ってんだろ!」

「……ぐふ。なんだこの他人任せな奴らは。よくこれでCランクになれたな」

「なんだと!棺桶持つしか能のない奴が偉そうに言うんじゃねえ!」


 男達が口々にヴィヴィを罵るが、ヴィヴィはまったく動じない。

 仮面の下ではどんな表情をしているか不明であるが。

 サラはリオに振り返った。


「リオ、今日は調査になりませんので帰りましょう」

「わかった」


 その言葉にヴィヴィを罵っていたリーダーが反応した。


「そうだな。臨時パーティとはいえ、ちゃんと編成を考えたほうがいいな!」


 その男をリーダーとするパーティメンバーが異口同音に賛成する中、リサヴィは無言で街へ引き返しはじめた。



 リサヴィは今後のパーティー構成について勝手に盛り上がっているバカパーティと共にマルコの街に戻ってきた。

 バカパーティが騒がしかったにも拘らず魔物に襲われる事はなかった。

 そのままギルドへ向かうとカウンターへ一直線。

 カウンターにいたモモにサラが後ろからついてきたバカパーティを指差し、ザラの森での出来事をチクった。

 バカパーティはサラが自分達も依頼を受けれるように話をつけるものだと何故か信じて疑わなかったため、皆一斉に顔が青くなった。

 モモに必死に言い訳するバカパーティを残してリサヴィはギルドを後にした。

 リサヴィの背中に男達の罵声が聞こえたが当然無視した。



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