209話 マルコを再生させたい
リオがダガーを放ってリッキーを仕留め、辺りを見回すが残りは既に森へと逃げ帰っていた。
リオは仕留めたリッキーからダガーを引き抜くと血を拭き取って腰のベルトに戻す。
リオのもとへアリスが走ってやって来た。
「リオさんっ、追いかけますかっ?」
アリスの問いかけにリオは首を横に振る。
「これだけ仕留めれば当分畑を荒らしに来ないんじゃないかな」
「ぐふ。十分だろう」
「私もそう思います」
リオにヴィヴィとサラが同意する。
リオ達はリッキーを根絶やしにするつもりはない。
適度に間引きをすればいい。
実際、森の中でリッキーを見かけても倒そうとはしない。
下手にリッキーを狩り過ぎれば、リッキーをエサにする凶暴な魔物がエサを求めて森から出て来るかもしれない。
大袈裟かもしれないが生態系を崩しかねないので程々にすることにしていた。
仕留めたリッキーを集めるとヴィヴィがプリミティブを抜き取る。
サラが村長に報告を行い、報告書にサインをもらって依頼完了となった。
ちなみにプリミティブの素材はいつものように村に提供した。
「わたし達ってリッキー退治ばかりしてますねっ」
「そうなんだ」
アリスの言葉にリオが適当な返事を返す。
「『そうなんだ』ではありません。あなたが受けているんですよ」
「そうだった」
サラのツッコミにこれまた反省の色のない返事をするリオ。
冒険者ギルドへの依頼にリッキー退治が増えたわけではない。
リッキー退治にリオが興味を示す事に気づいたモモをはじめマルコギルド職員達があちこちからかき集めて来るのだ。
だから冒険者ギルドへの依頼の総数は変わらない。
ただ、リッキー退治の依頼がマルコに集中しているだけであった。
ちなみに今回の依頼のあった村はマルコの街から歩いて三日の距離だった。
その村は半日歩けば別の街があり、そこにも冒険者ギルドはあるので、本来であればその街の冒険者ギルドに依頼する案件である。
凶悪な魔物であれば高額報酬となるので近隣のギルドにも依頼が来ることもあるが、リッキーはFランク、最低ランクの魔物である。
その事からも今回の依頼はマルコの冒険者ギルドが近隣の街のギルドに持ち込まれた依頼を引き取って来た事に間違いないだろう。
リッキー退治の依頼料では依頼先までの往復で発生する費用を差し引くとまず赤字、仕留めたリッキーを売る事でどうにか黒字という、普通の冒険者なら絶対に受けたりしない依頼だった。
リサヴィはマルコに到着すると真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに入るとモモが笑顔で出迎えた。
「おつかれ様でしたっ」
「うん」
リオが報告書を提出し、モモが完了手続きを行う。
「それで、次なんですが……」
「ちょっと待った!」
モモが手にした依頼書をリオに渡しながらサラを見る。
「どうかされました?」
サラはリオから依頼書を奪い取り、さっと目を通す。
予想通りリッキー退治だった。
報酬はいつもより安いのも問題だが、場所がもっと問題だった。
「この依頼の村へはここから何日かかりますか?」
「そうですね。徒歩で四日程度でしょうか」
サラの問いにモモは平然とした顔で言った。
予想通りの答えにサラが文句を言う。
「リッキー退治の報酬としても安いし、場所も遠い。完全に赤字です」
モモは驚いたような表情をする。
「まさか神官様がお金の事でケチをつけるなんて」
「これでは生活できません」
「僕達、お金に困ってないよね」
空気を読まない事には定評のあるリオが口を出す。
「そういう問題ではありません。一度でもこの安い報酬で依頼を受けてしまうと以降のリッキー退治の報酬がこの値段になってしまうかもしれません。そうなれば他の冒険者から恨まれます」
「そうなんだ……それって恨まれるのサラだけにならない?」
リオは不意に顔が下を向いた。
サラにどつかれたのだと気づく。
「僕、な……」
「なんで叩かれたかは自分で考えなさい」
「……」
サラはモモに視線を向ける。
「何故そんなに私達に執着するのですか?」
「はっきり言いますと知名度です」
「知名度?」
「はい。特にナナル様の弟子のサラさんは有名です。見てください。無能のギルマスの大失態と不正発覚後、ガランガランでしたがサラさん目当てに来ていただけるようになりました」
それは事実だった。
ギルド内に複数のパーティがおり、今も隙あればサラをパーティに誘うおうと虎視眈々と狙っている。
モモが更に続ける。
「例えそのついでだとしても依頼掲示板を見て依頼を受けてくれる方もいるのです」
「はあ」
「これでリサヴィがマルコ所属になってくれれば信用も少しは取り戻せると思うんです。依頼登録も戻って来ると思うんです!」
「ぐふ。リサヴィは有名ではないだろう」
「いえいえ。リサヴィの名も広まっていますよ」
サラは目立ちたくないので気が重くなる。
「でも、サラは料理下手だよ」
突然そんな事を言い出したリオはリオなりにサラをフォローしようとしたのかもしれない。
もちろん、なんのフォローにもならず、サラは顔を少し赤くして抗議する。
「リオ!今は料理の話はしていませんし、私の料理は言われるほど酷くないです。あの時は本当にたまたま失敗したんです。今度、私の本気を見せ……」
「それはいい」
「いらないですっ」
「ぐふ。いらんな」
「くっ……って、ヴィヴィ!あなたは誰が作っても食べないんだから関係ないでしょ!」
モモが真剣な顔で話を戻す。
「サラさんのくそマズイ料理のことはどうでもいいんです!」
「おいこらっ。そこまで言って……」
サラの抗議をモモはスルー。
「このままではマルコギルドは潰れてしまいます!そうなったら私達職員はどうなるかわかりません。潰れたギルドの中には全員解雇されたものもあると聞いています」
「ぐふ。自業自得だ」
ヴィヴィがリサヴィを代表してキッパリと言い切る。
「……そうですよね。でも、もう一度、もう一度だけチャンスを欲しいのですっ。次は絶対に失敗しません!」
「そうなんだ」
リオはどうでもいいとでも言うように全く感情がこもっていなかったが、それはいつものことである。
モモは一呼吸置いてリオを笑顔で見た。
「では受付処理をしますのでカードの提示をお願いします」
「ちょっとまだ……ってリオ!」
サラが抗議の声を上げるなか、リオが冒険者カードを差し出し、モモが掻っ攫うように受け取る。
「はい。ではみなさんもご提示お願いします」
モモが手にしたリオの冒険者カードを残るリサヴィの面々にヒラヒラと見せびらかす。
「……あなた、本当にいい性格してきましたね」
「はい、皆さんに鍛えて頂きましたので」
「ぐふ、流石だなサラ」
「流石ですっサラさんっ」
「そうなんだ」
「そんなコトしてません!」
サラは冒険者カードをカウンターに叩きつけた。




