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206話 南の森の探索

 サラとアリスがギルド入会試験の立ち会いをしている頃、リオとヴィヴィは南の森でEランク冒険者達のパーティ、ニューズと行動を共にしていた。

 リオ達は南の森へ目的があって来たわけではない。

 ただの暇つぶしだ。

 サラに東の草原と西の森へは行くなと言われていたので、消去法で南の森へ来た。

 それだけである。

 二人が森を散策しているときにニューズと出会ったのだ。



 ニューズが南の森へ来た目的は薬草採取だった。

 彼らは数ヶ月前に冒険者になったばかりでEランクへもつい最近昇格したところだった。

 そこに無能のギルマスの不祥事が起こり、マルコへの依頼が激減したことがマルコを拠点として活動していた彼らを直撃した。

 依頼がないからといって何もせず生きていけるほど彼らは余裕があるわけではないので薬草を売って金銭を稼ごうというのであった。

 ニューズが森を歩いていると奥から妙な掛け声が聞こえてきた。

 盗賊が偵察に出かけるとそこには二人組の冒険者がいた。

 クラスは外見から判断すると戦士と魔装士。


「お金」

「ざっくざっく」


 変な冒険者二人がなんかよくわからない掛け合いをしながら歩いていた。

 盗賊は首を傾げながらもパーティに戻り、ありのまま報告すると、彼がしたように皆首を傾げた。

 悩んでいても仕方ないのでリーダーはリオ達と会う事にした。

 その変な冒険者達、リオとヴィヴィはニューズがやって来るのを見て足を止めた。



 ニューズのリオ達の第一位印象はおかしな掛け声をする危ない奴らであった。

 比較的安全な南の森とはいえ、リオ達のように不用意に声を出すのは危険だ。

 ニューズのリーダーはリオ達を見た目で自分達と同じEランクもしくはFランクだと思った。

 正確にはぼーとした顔をしたリオを見てである。

 ニューズはリオ達も自分達と同じく、薬草取りをしに来ていると思い込み、声を掛け合っていたのは怖さを紛らわすためだと勝手に納得した。

 そのためリーダーはリオ達に一緒に行動しないかと誘った。

 リオ達は特に断る理由もなかったのでニューズと行動を共にする事にしたのだった。



 ニューズの面々は冒険者になる前から薬草採取をしていたため慣れたものだった。

 リオもサラに薬草採取を教わっていたので無難にこなす。

 ヴィヴィは一人だけ薬草採取に参加せず、ただみんなの後をついて行くだけだった。

 そんなヴィヴィの行動を見てもリーダーをはじめニューズのメンバーは何も言わない。

 自分のパーティ仲間ではないし、取り分は自分で見つけた分と決めていたからだ。

 リオの手際を見てリーダーが感心する。


「お前、見つけるの上手いな」

「色々教わったからね」


 他のメンバーも薬草採取をしながら雑談に加わる。


「お前、ここいらじゃ見かけないけど何処から来たんだ?」

「うん?どう答えればいいんだろう?」


 リオがヴィヴィを見る。


「ざっく。エル聖王国のほうからだ」


 ヴィヴィが答えるとリーダーは納得顔で頷く。

 ヴィヴィの口癖が皆気になったが、方言だと勝手に解釈し、尋ねる者はいなかった。


「なるほどな。ちょっと下ればエル聖王国だもんな」


 リーダーは知ったか振りをするが、彼は他の国どころかマルコ周辺からも出たことはなかった。


「お前らはもうパーティに入ってんだよな」

「うん」

「神官はいるのか?」

「いるよ」


 その言葉を聞いてニューズの面々が羨ましそうな表情をする。


「くそっ、やっぱり神官を仲間にするならエル聖王国行かなきゃダメかな」

「そうなんだ?」

「って、神官いるのにそんな事も知らねえのかよ。神官の数はエル聖王国が一番多いんだぜ。だから仲間に出来る可能性が一番高いんだ」

「そうなんだ。確かに僕はムルトで仲間になったね」

「やっぱりムルトかぁ!あそこが一番冒険者になる神官が多いって話なんだよなぁ」

「あの六英雄のナナルもいるしなっ」

「やっぱさ、俺達もエル聖王国へ神官探しに行こうぜ!」


 戦士の提案にリーダーは難色を示す。


「しかしな、神官は最低でもDランクだぞ。最低でもDランクまで上がらないと見向きもしてくれないと思うぞ」

「そうなんだ。僕のときは同じFだったよ」

「「「……」」」


 その言葉を聞き、ニューズの面々は外れ神官、つまり説教して威張り散らすだけでろくに魔法が使えない、なんちゃって神官をリオのパーティは仲間に加えたと思った。


「そいつさ、ろくに魔法を使わずに文句ばっか言わねえ?」

「ざっく。毎日だな。それが生きがいだと思っている節がある」


 リオの代わりにヴィヴィが答えた。

 ヴィヴィはニューズが勘違いしている事をしっかり理解した上で答えた。

 もちろん、リオは全く気づかない。


「そういえば、僕よく殴られるね」


 ほとんどの場合、リオがおかしな事を言うからであるがヴィヴィは指摘せずただ頷くのみ。

 当然、仮面の下では笑みを浮かべていた。

 リーダーが同情を込めた瞳でリオの肩をぽんぽん叩いた。


「ん?」

「お互い頑張ろうぜ」

「そうなんだ」



 リーダーが気を利かせて?話題を変える。


「それにしてもよっ!全く参ったよな。ギルドの不正にはよ!」


 リーダーが愚痴をこぼすとそれに呼応して他のメンバーも次々に文句を言い始める。


「あれで信用なくして依頼がぐっと減ったもんな!マルコを拠点にしてる俺らにゃ大迷惑だ!」

「だからって俺らみたいな弱小パーティは他のギルドへ移る勇気もねえしな」

「でもまあクズンの奴の不正が発覚して追い出されたのを聞いた時はスッキリしたぜ!」

「ざまあみろ!だぜ!」

「そうなんだ」

「ざっく」


 リオとヴィヴィは当事者なのだが他人事のように相槌を打つ。

 そうとう鬱憤が溜まっていたのだろう、次々と愚痴が飛び出す。


「ああ、あの野郎は特にムカついたぜ!こっちが低ランクだからっていつも見下しやがってよ!」

「クズンも最悪だけどよ、ゴンダスの野郎も最悪だったよなっ!」

「違うだろ。無能のギルマス、だ!」

「そうだった。俺としたことがな」


 パーティメンバーが笑う。

 盗賊がリオ達に話を振る。


「お前らも知ってるだろ?無能のギルマスに無理矢理危険な依頼受けさせられて冒険者がたくさん死んだって話。実はな、あの場には他にもマルコギルド所属のCランク以上の冒険者がいたって話だぜ」

「そうなんだ」

「ざっく。初耳だな」

「でよっ、そいつらはよ、普段から無能のギルマスと仲よくしててよ、『腕に自信がないから行きたくない』って泣きついて免除されたって話だ」

「ざっく」

「で、代わりに他のギルド所属パーティを行かせたって話だぜ」


 盗賊が仕入れた情報を自慢げに話す。


「ざっく」

「そうなんだ」

「あとよ、鉄拳制裁サラのパーティはサラが無能のギルマスに逆らったからって魔の領域の攻略隊側に入れたらしい。ほんとクズだよな無能のギルマスのクソ野郎!」

「でもよ、それは結果的には正解だったんじゃないか」

「おまえ、無能を擁護するのかよ!?」

「そんなわけないだろ!だけどよ、鉄拳制裁のサラがいたお陰で魔の領域に向かった冒険者は全滅を免れたんだろ」

「確かにな」


 そこからニューズの面々はサラの話題で盛り上がる。

 リオとヴィヴィは当事者であるがその事を口にせず、他人事のように相槌を打つのであった。

 結局、彼らの話にリオとヴィヴィの名が出る事はなかった。

 皆が十分薬草を採取できたのを見計らってマルコの街へ戻った。

 幸い、薬草採取中に魔物に襲われることはなかった。

 

 

 ギルドに向かうとニューズの面々は薬草の買取りをしてもらうためにカウンターへ向かう。

 そこへ実技試験の立ち会いを終えたサラとアリスがやって来た。

 彼らがサラ達の美しい容姿に見惚れて足が止まり、ぽかんと口を開けていると、


「リオさーんっ」


 とアリスがリオの元へ向かっていく。

 その後をサラが続くのを見て、ニューズの面々は我に返り、リオのもとへ慌ててやって来た。


「おいっ、お前ら一体……」


 ニューズも状況からリオ達が何者かわかっているのだが頭が追いついてこなかった。

 ニューズの様子を見て何も感じなかったのか、リオはいつもと変わらぬ口調でアリスとサラを紹介する。


「アリエッタと鉄拳制裁のサラだよ」


 リオの頭が不意に下を向く。

 サラにどつかれたと気づく。


「僕どうして……」

「一言余計です」

「そうなんだ」


 サラとアリスがニューズに目を向ける。

 これほどの美女に見つめられた事がなくリーダーはガッチガチに緊張した。

 

「サラです」

「アリスですっ」

「ど、どうもっ……え?アリス?アリエッタ?」

「アリスですっ!」

「あ、す、すみませんっ!」


 リオが間違えて呼んだのにも拘らず、リーダーは自分が間違ったと思い込みアリスに何度も頭を下げる。

 ニューズの面々は緊張して名前を名乗るのを忘れているのだが、サラは特に気にする事もなく話を続ける。


「リオがお世話になったようですね」


「ざっく。お前は母親か」というヴィヴィの突っ込みをサラはスルー。

 ニューズは二人の会話を気にするどころではなかった。


「い、いえいえっ、とんでもないですっ」

「ところで何をされていたのですか?」

「こ、これですっ」


 盗賊はそう言うとリュックから薬草を取り出してサラに見せる。


「薬草採取ですか」

「は、はひっ」

「リオも採れましたか?」


 サラの問いかけにリオが頷く。


「ポーションが作れると思うけどどうする?」

「そうですね。今は困っていませんからギルドに売り払ってはどうですか」

「わかった」

「流石リオさんですっ」


 リオがカウンターへ向かい、その後をアリスがついて行った。


「あ、じゃあ、俺達もっ」

「そ、それではっ」

「し、失礼しまふっ」

「はい」


 ニューズの面々が慌ててリオの後を追った。



 ニューズはギルドを出るとやっと緊張が解け、すぐさまリーダーが盗賊に文句を言った。


「お前、何で気づかなかったんだ!?」

「お前だって気づかなかっただろ!」


 盗賊がムッとした表情でリーダーを睨む。

 彼らが争っているのはリオがあの鉄拳制裁サラのパーティの一員だったことだ。

 戦士が仲裁に入る。


「まあまあ。あいつ、リオの事をさ、みんな“リッキーキラー”って呼ぶから気づかねえよ」

「そ、そうだな。済まない」


 リーダーがすぐに自分の非を認め盗賊に謝罪する。

 それに盗賊は首を振った。


「いや、やっぱ俺が悪い。そういうのにいち早く気づくのが俺の役目だ。リオが自分のパーティの神官がFランクからスタートしたって言ったところで気づくべきだったぜ。サラがショタコンで勇者候補を自分好みに育てる為に同じFランクからスタートしたって話は有名だったのによ」


 サラが聞いたら激怒しそうな事を盗賊は真面目な顔で言った。

 戦士はパーティの雰囲気が穏やかになったことに内心ホッとしながら軽口を叩く。


「それは仕方ないだろう。リオの実際の年齢は知らんが、少なくとも見た目はショタなんて年に見えねえんだからよ」

「確かにな」

「それにしてもリサ……なんだっけ?」

「リサヴィだ」

「おう、そのリサヴィにはもう一人神官いたんだな。それもサラに負けず劣らずの美人だったよな。アリエッタだったか」

「いや、アリスだろ。本人そう言ってたぞ。てか、なんでリオは間違えんだ?同じパーティなのに」

「入ったばかりだからじゃないか」

「いや、それでもやっぱ普通間違えないだろ」

「まあ、なんでもいいけどよ」


「「「くっそっ羨ましい!」」」


 ニューズは見事にハモった。


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