205話 ギルド入会試験の立ち会い その4
サラとアリスが戻って来た時、まだ先ほどの相手との実技試験が続いていた。
(何だかんだと喚いていたから心配だったけど、あのバカと違って公私混同しなかったようね)
そう思ったのも束の間、
サラ達が戻ってきたのに気づいた冒険者が叫んだ。
「遅えぞ!サラ!俺の力をちゃんと見てろよ!」
「え?」
冒険者はそう叫ぶと本気を出して受験生を打ち倒した。
そしてガッツポーズを決める。
「……デジャヴ?」
「いえっ、さっきのバカ冒険者もやってましたっ」
サラの呟きにアリスが答える。
このバカ冒険者二号は試験を真面目にやっていたのではなく、サラ達が帰ってくるまで手を抜いて時間稼ぎをしていたのだ。
「あのっ、今度はわたしが行ってきますっ」
「ええ。お願い」
アリスとバカ冒険者二号がすれ違う。
バカ冒険者二号は一瞬、アリスに目を奪われるが、それを無理矢理振り解きサラの元へやって来た。
「どうしました?怪我してるようには見えませんが」
サラの冷めた言葉はバカ冒険者二号を凍らす事は出来なかった。
「ったりめえだろ!俺様があんな素人にかすり傷だってするかよ!」
「ではどうしたのですか?」
「決まってるだろう!どうだっ!俺様の力を目に当たりにして感動しただろ?リッキーキラーより俺様の方が優れてるって知っただろ!」
バカ冒険者二号がサラを勧誘しているのに気づき、見学していた冒険者達から怒号が飛ぶが、バカ冒険者二号は全く気にしない。
それどころか勝ち誇った笑みを見せ、更に彼らの怒りを買う。
サラはといえば、今日何度目かの深いため息をついた。
「よしっサラ!この後、俺様のパーティを紹介するぜ!いや、その前にリッキーキラーにお前の……」
サラに睨まれ、バカ冒険者二号は言葉が止まる。
「あなたも理解していないようですね。これは受験生の試験であって、あなたの力を見るところではありません。当然ながらあなたがどんなに強くても私があなた達のパーティに入る事もありません」
「ふ、ふざけんな!」
「ふざけているのはあなたです。彼らの一生を決めるかもしれないのですから真剣にやってください」
「だから最後は真剣にやっただろ!」
言葉が通じずサラが頭を抱えているところへ治療を終えたアリスがやって来た。
「サラさんっ、あの人の怪我は大したことありませんでしたっ」
「それはよかったです」
アリスの言葉を聞いてバカ冒険者二号はまたもズレた事を言い出す。
「勘違いするなよな!俺が手を抜いてやったからだぞ!俺が決して弱いわけじゃないからな!本気を出したらアイツは死んでたぞ!」
「当たり前です」
「おうっ!わかってればいいんだ!」
サラの言葉を聞いて満面の笑みを浮かべるバカ冒険者二号。
「……」
サラの言った“当たり前”の意味だが、殺してはいけない、という意味で言ったのだが、バカ冒険者二号は、自分の実力をわかっている、という意味で受け取った。
サラはバカ冒険者二号の勘違いに気づいたが、言ったところで無駄なので訂正しなかった。
「それでアリス、今の試験判定はどうなるのですか?」
「はいっ、マイケルさんは合格と言ってましたっ」
「そう。ならやり直しはないのね。それはよかったわ」
本来なら三人の試験が終わっているはずなのにまだ一人。
そして毎試合、回復魔法をかけるという事態にサラは自分達がいない方が試験が順調に進み、怪我も少ないのではと思い始める。
「マイケルさん」
「ふぉふぉふぉ。どうかしたかのう」
「私達がいると試験に支障を来たすようなので訓練場の外で待機していようと思うのですが」
その提案に反対したのはマイケルではなかった。
「ふざけんな!それじゃ俺様の活躍が見れねえだろ!」
「誰にですか?」
「決まってんだろ!サラに、ついでにそこのア、の神官だ!」
名前を覚えられてなく、ついで呼ばわりされてショックを受けるアリス。
もし、受験生のためでなければ依頼放棄してリオの元に駆け出していただろう。
いや、そうしようとしたアリスの行動をサラは先読みし、肩を掴んで止める。
「ダメです」
「ううっ……」
「ふぉふぉふぉ」
「いや、マイケルさん、笑ってないであなたからも言ってやって下さい」
「そうじゃのう。おぬし、依頼は真面目にやらないとダメじゃぞ」
「うるせえジジイ!」
「ふぉふぉふぉ」
「ともかくだっ!お前らちゃんと俺が活躍すると見てないと後悔すっかなら!」
「……ダメだコイツ」
「ですねっ」
「誰がコイツだっ!俺様の名前は……」
「ふぉふぉふぉ。落ち着くのじゃ」
「うるせえって言ってんだろうこのジジイ!」
バカ冒険者二号がマイケルに殴りかかるが、マイケルはすっとかわすと服を掴み、
「よっこらせっ、っと」
と言いながらバカ冒険者二号を投げ飛ばした。
バカ冒険者二号は受け身がとれず、床に豪快に背中を打ち付け、「グヘッ」と妙な声を上げて動かなくなった。
「……デジャヴ?」
「いえっ、さっきも見ましたっ」
「ふぉふぉふぉ。また試験相手がいなくなってしまったのう。困ったのう」
サラにはマイケルが困っているようには見えなかった。
「どうしますか。受験生はあと八人いますよね」
「……あの中から選ぶしかないんですかねっ?」
アリスがチラリと視線を向けた先には、野次馬冒険者達が手を上げて立候補していた。
「……それしかないのかしら」
「延期とか無理なんですかねっ?」
「どうかしら」
しばらく考えていたマイケルが口を開いた。
「仕方がないのう。わしが相手してやるかのう」
「えっ?でもっ、もう冒険者じゃないですよねっ?」
「いえ、今も現役の冒険者ですよ」
そう答えたのはいつの間にか来ていたモモだった。
「えっ?でも……元冒険者だって……」
「いえ、冒険者でなければ審判役を努めることはできません」
「ふぉふぉふぉ。誤解させてすまんのう。ワシはもう長いこと冒険をしとらんでのう。だから元と言っておったんじゃ」
「そうなんですねっ」
「でも、先程の動きを見れば今でも十分現役で通じますね」
「ふぉふぉふぉ。それは言い過ぎじゃ。じゃが、八人程度ならワシの体力でもなんとかなるじゃろう」
「マイケル様、お手数ですがお願いします」
「ふぉふぉふぉ」
その後は、つつがなく試験は進み終了した。
「すみませんサラさん。私からお願いしたのに、完全に“人選ミス”でした!」
「……」
サラがいなければバカ冒険者達もバカを曝け出す事はなかったかもしれない。
彼らが依頼失敗したのはサラが原因と言えなくもない。
当然、サラにとっては酷い言いがかりである。
サラは何もしておらず、彼らが勝手に暴走したのだから。
サラはモモの謝罪を全く言葉通りには受け取らなかった。
その言葉を発した時、全く誠意を感じられなかった、それどころかその表情が不快にさせる。
当然、サラは黙ってはいない。
「いえいえ、こちらこそご迷惑かけてすみません。でももうすぐマルコを出ていきますから安心して下さい」
「「……」」
笑顔で睨み合う二人。
「サラさん、それを出すのは卑怯ですよ?」
「あらあら、言ってる意味がわからないわ」
二人の笑顔に恐怖を覚えるアリス。
「リ、リオさーんっ!怖いですっ!」
アリスが闘技場から逃げ出した。




