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204話 ギルド入会試験の立ち会い その3

「ありがとうございます。助かりました」


 モモが審判役に感謝を述べる。

 審判役は腰をトントンしながら首を傾げる。


「さて、試験相手が居なくなってしまったのう。どうしたものかのう」

「モモ、もう一人はどうなっているのですか?」


 サラの険悪な表情を見て、モモはビクビクしながら答える。


「す、すみません。まだ来てないのです」

「本当にここはダメですね」

「ふぉふぉふぉ。すまんのう」


 とモモではなく、審判役がサラに頭を下げた。


「え?いえ、私はモモに言ったんですよ」

「いやいや、この者はよくやっておるよ。ワシが不甲斐ないばかりに申し訳ないのう」

「そ、そんな事ないです!マイケル様のせいでは決して!」


 モモの反応からこの審判役、マイケルが只者ではないと気づく。

 アリスが控えめに尋ねる。


「あのっ、マイケルさんはっ、えっと、もしかしてっギルドの関係者なんですかっ?」

「マイケル様は先代、いえ、先先代のギルマスです」

「つまり、無能の前のギルマスという事ですか?」

「ふぉふぉふぉ。ワシも無能のギルマスじゃよ。あのゴンダスごときにギルマスの座を追いやられてしまったのじゃからな」

「いえっ、そんな事はないです!」

「ふぉふぉふぉ。モモよ、ワシの事はいいのじゃよ」


 審判役、マイケルがサラを見た。

 

「サラ殿、悪いのはワシなのじゃ」

「いえ、そんな……」

「だからあんまりモモをイジメないでくれんかのう」


 最後の言葉でサラの中の同情気分は吹っ飛んだ。


「……は?イジメてる?」


 サラの冷めた目を受け、マイケルは自分の失言を悟る。

「サ、サラさんのスイッチ入りましたっ〜」とアリスが誰に向けての言葉か自分でもわからないまま呟く。


「私が誰をイジメていると?私はただ事実を言っているだけですが?違うと言うのでしたらキチンと説明してもらいましょうか」

「ふぉ、ふぉふぉふぉ……」


 サラの言葉にも態度にも老人を全く労わる気持ちは全くなかった。

 サラの剣幕に押され後ずさる先先代ギルマス。


「す、済まなかったのう」

「サ、サラさんっ、これ以上はマイケルさんの寿命が……ひっ」

 

 アリスの怯えた表情を見てサラは少し冷静さを取り戻す。

 

「……まあ、いいでしょう。それでアレの代わりはどうするのですか?」


 サラは白目を剥いて放置されているバカ冒険者を指差して言った。


「そ、そうですね……」


 サラの視線を受けたモモが口を開こうとした時だった。


「俺に任せろ!」

「いやっ俺がやる!」


 サラ達の話し声が聞こえたらしく、見学していた冒険者達が次々と名乗りを上げる。

 しかし、


「サラ!俺を選んでくれ!」

「私にそんな権限あ……」

「いや!俺だ!」

「俺の方が奴より絶対強いぜ!」

「俺はアリエッタでもいい!俺のパーティに入れ!」

「誰がアリエッタよっ!」


 アリスがムッとして叫ぶ。

 実技試験相手に手を上げた冒険者達もバカ冒険者と同類だった。


「……ダメだ。コイツら」

「ですね」


 サラにモモが同意する。

 アリスがはっとした顔でモモを見た。


「そうですっ、リオさんですよっ。試験相手ですけどっ、リオさんはどうでしょうっ?」


 モモが済まなそうに首を横に振る。


「すみません。リオさんは無理です」

「えっ?どうしてですかっ?リオさんは強いですよっ」


 アリスはムッとして不満を隠さずにモモを見る。


「いえ、そういうことではなくてですね、実技試験の相手はCランク以上と規則で決まっているのです」

「あ、そうなんですねっ……」

「アリス、仮にリオがCランク以上だったとしても、手加減出来ると思いますか?」

「あっ……」

「理由はともかく、さっきのバカと同じ結果になる可能性が高いです」

「そっ、そうですねっ。私のリオさんはいつでも全力ですからねっ。って、きゃっ、私のだなんてはしたないわっ」

「……」


 サラが呆れているとマイケルがボソリと呟く。


「ふぉふぉふぉふぉ。仕方ないのう。では……」

「お前ら何集まってやがんだ!邪魔だ!どきやがれ!」


 マイケルの言葉を遮り、一人の冒険者がサラ達のところへ集まった冒険者達をかき分けてやって来た。


「あ、この方がもう一人の実技試験相手です。遅いですよ!」

「悪かったな!ちょっと野暮用があってな!」

「その野望用とやらを教えて頂けますか?依頼をすっぽかす程のことだったんですか?」


 サラの追及をその冒険者は笑い飛ばそうとした。


「すっぽかしてねえだろ!ちゃんと来たんだから……って、さぁらぁ!?」


 サラの存在に気づき、アホ面する実技試験相手の冒険者。


「説明していただけないなら報酬を減らしますね」


 その冒険者はモモの声に我に返り、アホ面を晒したことを必死になかった事にしようとカッコつけて言った。


「ケチ臭え事言ってんな!ま、勝手にしろ!にしても情けねえなっ」


 その冒険者が白目を剥いて倒れているバカ冒険者を見て鼻で笑う。


「受験生ごときにやられるとはな!」

「「「……」」」

「ふぉふぉふぉ」


 マイケルが訂正しないのでサラ達も黙っていた。


「俺はこうは行かねえぜ!なっ、サラ!」


 冒険者はサラに向かってウインクをする。

 同意を求められてもサラはこの冒険者の実力どころか名前すら知らないのでスルー。

 いや、スルーしたのはサラだけではない。

 モモも何事もなかったかのように話を進める。


「では、早速ですがお願いできますか。時間も押してますので」

「お前ら……」

「ふぉふぉふぉ。では行こうかのう」

「ちっ。ほらっ!おめえら邪魔だ!さっさと散れ!」


 その冒険者は実技試験相手に立候補して集まって来ていた冒険者達をしっしっ!と追い払う。


「アリス、私達はあの荷物をどかせましょう」

「はいっ」

「すみません!私も手伝います」

「当然です」


 モモが頬を引き攣らせながらもサラに笑顔で返す。


「マイケルさん、先に始めてて下さい。すぐ戻りますので」

「なっ!?ちょ、ちょ待てよっ!」

「ふぉふぉふぉ。任せるのじゃ」


 実技試験相手の冒険者の制止を無視し、サラ、アリス、そしてモモが訓練場を後にする。

 ちなみにバカ冒険者を運んだのは観戦していた冒険者達だ。

 サラ達の手が腐るとか言って触らせなかったのだ。

 サラ達も自分達で運びたい訳でもなかったので彼らの好意に甘える事にした。



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