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201話 迷惑な訪問者達

 サラとアリスは教会への到着が予定よりかなり遅れた。

 事情を聞いた代表補佐の女神官は、協力してもらっている身なので怒ることはなかった。

 あてがわれた控室に着いてすぐアリスが弱音を吐く。


「サラさんっ、わたしっ、もう帰りたいですっ」

「同感だけど、まだ何もしていないからそうも行かないわ。大丈夫。今日も忙しくないわよ」

「そ、それもそうですねっ」

「それに帰りは大丈夫、という保障もないわ」

「サラさんっ、更に憂鬱になりましたっ」

「ごめんなさい」


 サラも自分で言っておいてダメージを受けていた。


 教会での待遇は悪くない。

 彼女らはここへ義務ではなく、善意で来ているのだから当然であった。

 彼女らの仕事は、怪我で訪れた人の治療である。

 それも教会の神官では手が足りない場合のときであり、待機してる時間のほうが圧倒的に長い。

 昨日はサラが二回、アリスが一回治療魔法を使っただけで、あとは雑談と神官見習いの質問に答えたりして過ごした。



 控室についてしばらく経った頃、外がちょっと騒がしくなってきた。

 そのとき、サラとアリスは神官見習いの入れてくれたお茶を飲んでいた。


「どうしたのかしら?」

「もしかして、魔の領域で何かあったんですかねっ?」

「ちょっと様子を見てきましょう」

「わたしも行きますっ」


 二人が礼拝堂に近づくにつれ、話し声がはっきり聞こえてきた。

 礼拝堂から見えない位置からそっと中を覗く。

 礼拝堂では神官と冒険者らしき一行が言い争っていた。

 サラ達が見える範囲には重傷者はいないようだった。

 聞き耳を立てていると、

 

「早く、サラを呼んでくれよ」

「俺たちゃアリ……なんとかでもいいぜ」


 やりとりを聞いたアリスは「アリなんとか……」と呟き落ち込む。


「ここはそういうお店ではありません」

「そんなことたぁわかってる!怪我を治してもらいに来たってさっきから言ってんだろ!」


 冒険者の一人が自慢げに腕の擦り傷を神官に見せつける。

 神官のこめかみがピクピクする。


「何度も言いますが、治療する神官の指定はできません。その程度の傷でしたら魔法を使うまでもないと思います。どうしてもというのでしたら私が治療いたします」

「頭硬いな!お前は!」

「……」

「わかった。じゃあ、サラとアリ……なんとかが担当する時間を教えてくれ。それならいいだろ?」

「何がいいのかわかりませんが、お教えできません」


 そこへ新たな冒険者がやって来た。


「サラかアリエッタを頼む」


 その冒険者はアリスの名前を堂々と間違えて言った。

 神官がまたか、とこめかみを押える。

 もちろん親切に名前の間違いを教えてやったりはしない。


「……この方達にもお話ししましたが、治療する神官の指定はできません」

「いや、俺達は約束してんだ。嘘だと思うんならここへ呼んできてくれよ。それではっきりする」

「あなた方は見たところ怪我をされていないようですが?」

「ああ、ちょっと胸が痛えんだ」



「……うそつけっ」


 アリスが小さく呟く。

 またも名前を間違えられ、その顔は真っ赤で頬は膨らんでいた。

 サラは小さくため息をついた。

 背後から気配を感じ振り向くと代表補佐が立っていた。


「すみません、手助けに来たのにご迷惑をかけてしまって」


 サラが謝罪すると代表補佐は小さく首を振る。

 

「いえ。ここは私達に任せて控室へお戻りください」

「しかし、」

「ご心配なく」

「わかりました」

「念のため確認しますが、治療の約束をした方はおられますか?」

「いませんっ。あの人っ大嘘つきですっ」

「わかりました。では控室でお待ちください」

「よろしくお願いします」


 サラ達が控室に戻った後、しばらく問答しているような声が控室にまで響いてきたが、やがて静かになった。

 そこへ疲れた顔をした代表補佐がやってくる。

 

「やっと帰ってくれました」


 苦笑いをする代表補佐。


「本当にすみません。返ってご迷惑をかけてしまって。今朝のことを考えれば来るべきではありませんでした」

「いえ、あなた方に非はありませんよ。しかし、これではもう治療のお手伝いをお願いできませんね」

「他に何かお手伝いできることはありませんかっ」

「そうですね……実はひとつあるのですが、ちょっとお願いしにくい事でして」

「それはなんでしょう?」

「当教会ではポーションと聖水の作成・販売を行っているのですが、魔の領域攻略に人員を取られているため滞っているのです」

「ポーションと聖水ですかっ?」

「はい」


 神殿でそうであったように教会でもポーションや聖水の作成をしていた。


「では、ポーションと聖水の作成をお望みなのですね」

「はい。二級神官であるあなた方にお願いすべきことではないのですが」

「わかりました。アリスは大丈夫ですか?」

「はいっ。あ、でもっわたしっ聖水はちょっと自信がありませんっ。ポーションは色でどのくらいの効果があるかわかりますけど、聖水って色だけじゃよくわからないじゃないですかっ」

「確かにそうですね。聖水はどの程度の効果をお望みですか?」

「そうですね。ゾンビにダメージを与えられれば問題ありません」

「わかりました。ではアリスはポーションをお願いします。私が聖水を作ります」

「わかりましたっ」

「よろしいのですか?」

「ええ」

「ありがとうございます!」


 こうしてサラとアリスはたった一日で表舞台?から退場したのだった。

 ふと思い出したようにサラが代表補佐に話しかける。

 

「あの、ひとつお願いしてもいいですか?」

「はい、なんでしょう?」



 リオはじっと依頼掲示板を見つめていた。

 朝からずっと、昼食も取らずにである。

 受付嬢が話しかけても、ギルドを訪れる冒険者がガンつけしてきても微動だにしなかった。

 控えめにリオの体を揺する者がいた。

 しばらくして、やっとリオが体を揺する相手に顔を向けた。

 その者は神官見習いであった。

 リオが微かに首を傾ける。

 

「あ、すみません、リオさん、ですよね?」

「うん」

「あの、サラ様とアリス様がお呼びになっております。お手数ですが、教会まで来ていただけませんでしょうか?」

「わかった」


 リオは即答し立ち上がる。

 

「ではご案内いたします」


 神官見習いはホッとした表情で言った。

 

 

 神官見習いは、ちらちらと後を振り返り、リオがちゃんとついて来ているか確認する。

 リオは真っ直ぐ前を見ているが、無表情で何を考えているかさっぱりわからない。

 彼はリオに少なからず興味を持っていた。

 今、教会にいる鉄拳制裁の二つ名をもつ神官サラと一緒のパーティでそのリーダー。

 リオは本名よりもリッキーキラーという二つ名が有名で、実のところ彼も先日までは本名を知らなかった。

 噂を聞く限りでは、魔物の中でも最弱といわれるリッキーをなんとか倒せるくらいの強さしかないらしい。

 そこから侮蔑を込めてリッキーキラーと呼ばれるようになったとか。

 冒険者逹がサラの話をするとき必ずと言っていいほどリオの話が出るが、その神官見習いは今までリオの事を良く言う人を聞いたことがなかった。

 今回、その神官見習いはサラとアリスと話す機会があり、リオの事を思い切って聞いてみると、


「リオさんはすごく強いですっ」


 とアリスが力説し、サラも頷いた。

 彼女らの話によると、サラを欲する者達がリオの事を僻んで悪い噂を広めているとの事だ。


(でも、実際会ってみたけど全然強そうに見えないよな。年は私と同じくらいだし。サラ様がショタコンって噂もあるけど、リオさんはそこまで若そうに見えないからこの噂は嘘っぽいな)


 神官見習いはリオと話したいことが色々あったが、結局、何も話せず教会へ到着した。



 教会での手伝いが終わり、サラとアリスが控室で待っているとリオが神官見習いに連れられてやって来た。

 

「リオさんっ、わざわざすみませんっ」

「別に」


 リオは控室の小瓶を見て、


「ああ、聖水作りの手伝いに呼んだの?」


 と斜め上のことを言う。


「そんなわけないでしょう。宿屋まで送ってもらおうと呼んだのです。今朝大変でしたから」

「そうなんだ」

「あなたが出かける時、私達が囲まれて“困っていた”のを見たでしょう?」


 サラは“困っていた”を強調する。

 リオが無視して出て行ったことへ抗議だがもちろんリオが気づくはずもない。


「そうなんだ」


 で終わりだった。

 

「もう済んだことですけどね」

「ヴィヴィさんは一緒じゃなかったのですかっ」

「ヴィヴィは外で待ってるよ」


 そう、リオが教会へ向かう途中で出会い一緒に来たのだが、「外で待つ」と言って中まではついて来なかったのだ。


「そうですか。では帰りましょう」

「うん」



 帰りも冒険者達が少なからずサラに言い寄って来たが、リオの存在はともかくヴィヴィがリムーバルバインダーを飛ばして近づけないようにしていたので、朝の時ほど時間をかけずに宿屋へ到着した。


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