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199話 教会からの支援要請

 その日の夜、サラとアリスのもとへマルコにある教会から使いがやってきた。

 その者の話は魔の領域攻略に教会からも神官達が参加しており、教会で怪我人の治療ができる神官が不足するかもしれないので手伝ってもらえないか、とのことだった。

 これは何もサラ達だけに要請があったわけではなく、マルコにいるジュアス教団の神官すべてに依頼しているとの事だった。

 サラ達が泊まっている宿を教会からの使いが知っていた事を不思議に思っているとギルドの受付嬢が親切に教えてくれたとの事だった。

 それがモモである事を二人は確信していた。


(どうしてもあの受付嬢は私達をマルコに足止めしたようね)


 サラとアリスがこの事をリオに相談すると、次の依頼が決まっていない事もあり「いいんじゃない」とあっさりOKした。

 ヴィヴィも反対しなかった。

 サラはリオがマルコを出て行こうとしない事に疑問を持ったものの魔の領域の事が気になっていたので深く追求しなかった。

 リオの事などで聞けば「そうだった」と言ってそのまま街を出て行こうとすることも十分あり得るからだ。

 幸い、と言うべきか ヴィヴィもアリスもその事を指摘しなかった。

 サラは教会での手伝いを戦士の格好では浮いてしまうと考え、久し振りに神官服を着る事にした。

 だが、サラは神官服を着た事をすぐに後悔することになる。



 翌朝、二人が教会へ向かう途中、人々の注目を浴びた。

 美女が二人並んで歩く姿に男女問わず見惚れる。

 慌てて振り返る者達も少なくなかった。


「誰だ、あの美女神官達は!?」


 サラは普段、戦士の格好をし、フードで顔を隠しているので素顔を見た事がある者は冒険者の中にも少なかった。

 アリスはいつもと変わらないのだが、サラと一緒であることが影響してるのか、いつも以上に注目を集めていた。

 

「右のヤツは知ってるぞ!リサヴィのアリエッタだかアリエルだとかそんな名だ!」

「リサヴィ?て事は、もう一人の方がサラか!あの鉄拳制裁の!」

「なにっ!?鉄拳制裁!?本当にすごい美人じゃないか!」


 サラは”鉄拳制裁“の言葉を耳にし、微かに頬が動いたものの、声のした方へ目を向ける事も歩みを止めることもしなかった。


 朝早く、人通りが少なかった事もあり、それ以上の騒ぎにはならなかった。

 だが、教会へ怪我の治療に来た者や祈りに来た者達によってサラ達が教会の手伝いをしている事がその日のうちに街中に知れ渡る事になるのだった。



 教会の手伝いに来たのはサラ達だけであった。

 他の神官達には断られたらしい。

 とはいえ、「今のマルコは以前と比べて暇ですから忙しくなることはないでしょう」と出迎えた代表補佐の女神官は自嘲気味に笑った。

 サラ達はどう返事したらいいのか困り、曖昧な表情で返した。

 控室に案内され、代表補佐から仕事の説明を受けた。

 基本はここで待機で、教会の神官の手が足りなくなった時に手を貸して欲しい、との事だった。

 それ以外の時間は自由にしてもらって構わないと。

 サラが代表にも挨拶しようと所在を尋ねると、代表は自ら魔の領域攻略に参加している、との事だった。

 代表自ら参加と聞いて、サラとアリスは代表の行動を絶賛した。

 その言葉を聞いて代表補佐は顔を引き攣らせながらも笑顔で「当然のことです」と言った。

 

 実は、今回のマルコの冒険者ギルドの不祥事は教会も無関係ではなかった。

 教会でも何らかの不正があった事が、ゴンダスの身辺調査で明らかになったのだ。

 マルコの教会を管轄している第三神殿はこれを重く見た。

 そこで監督不届きであったとして、マルコ教会に魔の領域攻略への積極的参加を求めた。

 事実上の強制参加であった。

 つまりマルコ教会の代表は自らの意思ではなく、教会内の不正の責任を取らされて参加させられたのだった。

 教会での不正に代表自身が関与していたかは明らかにされていない。

 

 代表補佐は、サラ達から向けられる尊敬の眼差しに心を痛めた。

 彼女らには決して真実を知られてはならないと、部屋から戻ると教会関係者全員を集めて口裏合わせを行ったのだった。



 教会の手伝いを始めて二日目。

 サラとアリスは今日も多少は騒がれるだろう、程度にしか思っていなかった。

 だが、その考えが甘かったとすぐに思い知らされる事になる。

 実はその前兆は前日からあったのだ。

 昨日の朝まではガラガラだった宿屋が、サラ達が教会から帰って来る頃には満室になっていたのだ。

 その事をほくほく顔の宿屋の主人から聞いていたが、その理由は魔の領域探索に来たものと考えていたのだ。

 ギルドの依頼は受けられないが、自己責任で魔の領域の探索をするのは禁止されていない。

 実際、魔の領域目的の冒険者がいたのも事実であった。



「おいっ、サラ!俺のパーティに入らないか!?」


 サラ達が宿屋を出た途端、同じ宿から飛び出してきた男に声を掛けられた。

 その男は一階の酒場にいた男だった。

 それがスタート開始の合図のように同じく酒場にいた者達が次々と飛び出してきてサラ達の勧誘を始める。

 今朝は酒場に朝っぱらにも拘らず人が多いとは思っていたが、勧誘が目的だったのだと今更ながらに気づく。

 ちなみに宿屋にいる間、彼らが勧誘をしてこなかったのは、宿屋の主人との約束からだった。

 宿屋に泊まる条件が宿屋の中ではリサヴィの勧誘をしないことだった。

 それはマルコギルドの不祥事が発覚し、冒険者達が去ってもなお泊まってくれたリオ達への感謝の気持ちだった。

 もちろん、その条件を出しても満室になる確信があったからでもある。

 その話を宿屋に帰ってから宿屋の主人に聞いて、「前もって教えて欲しかったわ」と二人は愚痴をこぼしたものだ。



 サラ達を勧誘したい者達は彼らだけではなかった。

 サラ達が泊まっている宿屋に泊まれず近くの宿に泊まっていた者も当然おり、その者達が次々と集まり、あっという間にサラ達を取り囲む。


「な、なんですかっ、あなた達はっ!?」


 アリスがはんばパニックになりながら叫ぶ。


「急いでいますので通して下さい」


 サラがそう言っても誰もいうことを聞いてくれない。


「落ち着けって。ちょっと話があるんだ」

「そんな怖がらなくていいぜ。何も“今”取って食おうってわけじゃない」

「“今”って言ったっ!今の人っ、怖いですっ」


 アリスが悲鳴を上げ、うっかり本音を漏らした男が慌てる。


「い、いや違う!ちょっと言い間違え……」

「先が詰まってるんだ!断られた奴はさっさと退場しろ!」

「まだ断れて……何しやがる離しやが……サ、サラァァ……」


 その男は囲んでいる男達により輪の外へ叩き出された。

 だが、一人減ったからといってサラ達の状況は変わらない。


「なあ、どっちでもいいから俺のパーティに入ってくれよ!」

「私達は既にパーティに入ってますので無理です」

「俺らのパーティには神官がいないんだ!な、いいだろう?俺達を助けると思って!すごく困ってるんだ!」

「私達は今困ってます。非常識な者達に囲まれて」


 サラは発した相手に向かって遠慮なく断りを入れる。

 やがて男達はよい誘い文句が思い浮かばず焦りだすが、輪を解く様子はない。

 サラが遅刻してしまうわね、と内心焦り出したときだった。


「俺達はこいつらとは違う!」


 サラがそう発した男に目を向ける。

 その男の顔は自信に満ちていた。

 サラの視線を受けて続きを促していると思い、チャンスとばかりに更に声を上げた。


「俺達はパーティに入ってくれ、とまでは言わねえ!一緒に魔の領域の探索をしてくれるだけでいい!一緒に行くだけならいいだろ?そんで気に入ったらパーティに入ってくれればいいからさ!」


 今の男の勧誘がうまい、と他の男達は思ったらしく次々と同様の誘い方を始めた。

 ちなみに最初にそう提案した者はサラ達の返事を聞く前に他の男達によって輪の外へ排除されていた。

「汚いぞお前らっ!真似しやがって!」という言葉を残して。



 彼らは最初こそ、サラ達に気をつかってある程度離れた距離から話しかけていたが、後ろに押されてか、興奮してか、だんだん距離が近くなってきた。


「こらっ、押すな!押すなよ!」


 そう叫んだ男は言葉とは裏腹に嬉しそうだった。


「ちょ、ちょっと来ないでくださいっ!」

「……」


 パニックを起こしているアリスとは対照的にサラは冷静だった。

 少なくとも表面上はそう見えた。

 サラは好意的ではない視線を感じ、目をそちらに、宿屋二階のある部屋に向ける。

 そこの窓からこちらを見ている魔装士の姿を見つけた。

 仮面で表情は見えないが、笑みを浮かべていることを確信していた。


「……きなさい」


 沈黙していたサラが言葉を発した事に気づいた男が問いかける。


「え?なんだって?俺と一緒に……」

「退きなさい」


 サラの発した声は決して大きくない。

 しかし、サラから放たれる目に見えない圧力によって男達は後退し、ぶつかり合い、尻もちをつく。

 それにより、サラ達の視界が開けた。

 この集団の外にはこの騒ぎは何事かと人が集まって来ていた。

 そこに丁度宿から出てきたリオがサラの目に入った。

 リオはこの騒ぎを全く気にする様子はなく、すたすたとギルドへ向かって歩いていった。


(……帰ったらお仕置きよ!)


 アリスはサラの毅然とした姿を見て、師と仰ぐ一級神官ダッキアが下品な者達をひと睨みで追い払ったときの姿を思い出し、冷静さを取り戻す。

 二人が感情の消えた、冷たい目で正面にいた男達を一瞥すると彼らは慌てて道をあけた。


「では行きましょう。だいぶ時間を取られました」

「はいっ」


 こうして二人は第一の関門を突破したのだった。



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