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197話 おかしなゾンビ その1

「……ざっく。何か来るな」

「……ええ」


 ヴィヴィの言う通り、まだ距離は離れているが何者かがこちらにやって来るのにサラは気づいた。

 近づいてくる者達の更に先にはザラの森があるはずだが、夜も遅く暗闇に紛れてよく見えない。


「恐らく冒険者ね……その後ろに“おまけ”がいるようだけど」

「ざっく。こちらに真っ直ぐ向かってくるな。焚き火に気づき助けを求めに来たか」

「あるいは“おまけ”を私達に押しつけてその隙に逃げる気かもね。二人を起こすわ」

「ざっく」


 二人は木を背に寝ていた。

 アリスはリオと腕を組み、頭をリオの肩に寄せとても幸せそうな表情をしていた。


「リオ!アリス!起きて!」

「……ん?」

「……ふにゃ?」


 サラはリオが本当に寝ていたようだったので少し驚いた。

 リオがゆっくり立ち上がる。

 それに引っ張られる形でアリスも立ち上がった。


「交代?」

「いえ、誰か来ます」

「敵?」

「まだわかりませんが恐らく敵です。戦いになると思います」

「わかった」


 まだぼうとしてるアリスにサラが声をかける。


「アリス、大丈夫ですか?」

「は、はいっ大丈夫ですっ!」


 リオ達がヴィヴィと合流したときにはこちらへやってくる者達の姿がはっきりしてきた。

 先頭は予想通り冒険者だった。

 その五人組の冒険者を追いかけている者達も冒険者の姿をしていた。

 ただ、どこか動きが変だった。

 

「た、助けてくれ!」

「ゾンビだ!……うわっ!?」


 ひとりの冒険者が転んだ。


「……ざっく。ゾンビにしては足が早いな」

「走ってますよっ。ホントにゾンビなんですかねっ?」

「ともかく助けましょう!」

「わかった」

「はいっ」

「ざっく」


 リオとサラが走り出す。

 その後をヴィヴィとアリスが続く。

 ゾンビが倒れた冒険者に襲い掛かろうとしたが、直前でリオが放った短剣がゾンビの頭を貫き、その反動で態勢を崩して倒れた。


「な、なんだっ!?」

「今のうちに早くっ!」 

「お?おおっ!」


 サラの声に転んだ冒険者は立ち上がり、再び走り出す。

 ゾンビの顔を見てアリスが驚きの声を上げる。


「こ、この人っ、このゾンビ見たことありますっ!わたし達と一緒にザラの森の討伐に向かった人ですっ!」

「ざっく。死体を放置したままだったからアンデッドになったのだろう」

「そうなんだ」


 リオがその元冒険者、いや元人間の首を躊躇なく切り落とす。

 頭を失ってもまだそのゾンビの体は動きを止めない。

 リオが体に蹴りを入れるとその場に尻餅をついたが、再び起きあがろうとする。

 サラが右手を前に伸ばす。

 サラから放たれた神聖魔法“ターンアンデッド”を浴びて起きあがろうとしたアンデッドは動き後ろ向きにバタンと倒れ、動きを止めた。

 更に向かって来たゾンビ達に“ターンアンデッド”を使うとバタバタとその場に倒れた。



「終わった?」

「はい」

「わたしっ、出番なしでしたっ」

「ないに越したことないです」


 逃げて来た冒険者達がサラ達の周り集まってくる。


「助かった……って、サラじゃないか!こんなところで会うなんてな!」


 やけに親しげに話しかけて来た冒険者の顔にサラは全く見覚えがなかった。


「あなたは?」

「俺だよ俺!マルコで目が合っただろ?」

「俺も俺も!」


 と次々と同じ事を言って知り合いのように話しかけてくる。


(あほかー!!そんなのわかるわけないでしょ!そんなことで親しそうに話しかけないで!)


「すみませんが覚えていません」

「おいおいそりゃ……」

「そんなことよりっ!」


 サラはこの馴れ馴れしい冒険者達とぐだぐだ無駄話をする気はなかった。


「お、おう……」

「一体何があったのですか?」

「そ、それがよっ、死体漁……じゃなくて死体を見つけたんでその辺に埋めて供養してやろうとしたらいきなり起きあがって襲って来やがったんだ!」

「……そうですか」

「そ、そんな顔すんなよ!ほんと!供養するつもりだったんだぜ!ただ、その手間賃を貰おうとは思ったけどよ!」

「……」

「ねえ、サラ」


 緊張感のない声でリオがサラを呼ぶ。


「どうしました?」

「動き出すよ」

「え?そんなこと……!?」


 リオの言う通り、ターンアンデッドによって浄化されたはずの死体がまた起き上がって来た。


「サラさんっ今度はわたしがっ……ターンアンデッドッ!」


 アリスの叫びと共に放たれたターンアンデッドでゾンビがバタバタその場に倒れた。

 しかし、しばらくするとまた動き出した。


「うそっ!こんなの聞いたことないですっ。怖いですリオさんっ」


 アリスがリオに抱きつく。


(……嬉しそうに見えるのは気のせいかしら?)


 サラが動き出したゾンビ達に向けてターンアンデッドを発動して動きを止める。


「キリがないわね」

「……ざっく。焼くしかないな。お前らに魔術士はいないのか。炎の魔法がつかえるな」

「いる……いや、いた。アレだ」


 そう言って冒険者の一人がゾンビを指差す。


「あいつが最初にやられたんだ」

「それはゾンビに殺されてゾンビになった、という事ですか?」

「そうだ!こんなの聞いた事ないぞ!」


 これが、死後数時間、とかならまだしも死んですぐとなるとサラも聞いたことがない。

 可能性としては死者を操る魔術士がそばにいた可能性であるが、その場合であればターンアンデッドが効くはずがない。


「ざっく、他にはいないのか?」

「いねえよ!そういうお前はどうなんだ棺桶持ち!お前は魔術士崩れじゃねえのかよ!?」


 厄介事を運んできておきながら彼らの態度がでかかった。

 サラ以外にだが。


「ざっく」


 魔装士は魔術士の出来損ないとのイメージが強く、多少なりとも魔法が使える者がいるのは事実だ。

 ヴィヴィは冒険者の問いにイエスともノーとも言わない。

 サラがちらりとヴィヴィに目を向けるが、魔法を使う気配はない。

 そこで魔法ではなく直接火をつける事にする。


「では皆さん、油を用意してください!」

「あっ、わたしっ持ってきますっ。リオさんも手伝ってくださいっ」

「わかった」

「アリス、私のリュックにもあります。それも使って下さい」

「はいっ!」


 リオとアリスがキャンプへ走っていく。

 その様子を見つめている冒険者達にサラが確認する。


「あなた達は持っていないのですか?」

「……悪い。逃げる時にリュックを捨てた」

「お、俺はこれだけだ」


 と、腰に吊るしたランタンを外す。

 再びゾンビがもそもそと動き始めた。


「……ざっく。キャンプで迎え打ったほうが良さそうだな」

「そうね。私達もキャンプへ行きましょう」

「「「「「おうっ!!」」」」」


 

「あれっ?皆さんっ?」

「油が足りないのです」

「そうなんですねっ。今、油を小瓶に分けてますのでもう少し待ってくださいっ」

「……全部で八体だね」

「ざっく」

「私がまたターン……」

「僕、足止めしてくるよ」

「リオ!?」


 リオの後をサラが慌てて追う。

 リオは向かってくるゾンビの足を切り落とし、その場に倒れるゾンビ。


「文字通り、と言っていいのかしらっ!」


 サラもリオの真似をする事にした。

 向かってくるゾンビに蹴りを入れて足を叩き折る。

 更に腕に頭を抱えたゾンビの足を叩き折った。

 二人でそんなに時間をかけず全てのゾンビの足を使用不能にした。

 ゾンビ達はそんな状態になっても這いずりながらリオ達へ向かってくる。


「準備できましたっ」

「キャンプスペースなら火事の心配もないから周りに気にせずできるわね」

「ざっく」

「「「「「おう!!」」」」」


(……仲間が死んでるよのよね?なんでこの人達こんなに元気がいいのかしら?)


 とサラは一瞬思ったが、冒険者達がサラにキメ顔をしてきたことでサラへのアピールだと察すると同時にそのバカさ加減に呆れた。


 皆が油の小瓶とたいまつを持ち、再度アリスがターンアンデッドを使う。

 ゾンビの動きが止まったところで各自手分けしてゾンビに油をかけて火をつける。

 油の量に対してやけによく燃えた事にサラは違和感を覚えたが、ともかくゾンビは永久に動きを止めたのだった。



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