196話 眠れない理由
リサヴィは依頼からの帰り道、街道に戻ってすぐにウォルーの襲撃を受けた。
だが、リサヴィにウォルーなど敵ではなく、戦いは一方的なものとなった。
リオが最後のウォルーを斬り伏せる。
「お見事ですっ。さすがわたしのリオさんっ。って、きゃっ」
「ざっく」
「しかし、街道にウォルーが出没するなんて……あの村の魔物の襲撃といい、何かおかしいですね。もしかすると出発する前に話があったザラの森の魔物と関係あるかも知れませんね」
「ざっく。確かにザラの森に近いからな」
「Bランク冒険者が依頼受けるって言ってましたけど、どうなったんですかねっ?」
「それも気になりますが、私は魔の領域の方が気になります」
「魔の領域の依頼は受けられないんだよね」
「はい。本来はBランク以上です。前回が異常だったのです」
サラは無能のギルマスの事を思い出し、怒りが込み上げてくる。
「サラさんっ、魔の領域にはドラゴンがいるかも知れないんですよねっ。前回は他の冒険者を守るために撤退したって聞きましたけど、サラさんだけなら勝てますっ?」
サラはゆっくり首を横に振る。
「無理でしょうね。一人で勝てる相手とは思えませんでした」
「そうなんだ」
街道脇には一定間隔で旅人がキャンプするためのスペースが用意されている。
リオ達はそのスペースに到着すると夕食の準備を始める。
食事はいつものようにリオが作り、アリスが大絶賛する。
「すごく美味しいですっ」
「そうなんだ」
「はいっ。リオさんはなんでも出来るんですねっ」
「そうなんだ」
「リオさんっ、そこは『そうなんだ』じゃないですよっ」
「アリスに先を越されたわね」
「ふふっ。そう言えばヴィヴィさんはいつもその携帯食なんですかっ?」
ヴィヴィは仮面を少しずらして一辺一センチ四方、長さ五センチメートル程のスティックをかじっていた。
「ざっく」
「飽きませんかっ?冒険の楽しみのひとつが料理だって、わたしが読んだ本に書いてありましたっ。実際に旅して本当だってわたしは実感しましたよっ」
「ざっく。心配ない。こう見えて色んな味があるのだ」
ヴィヴィがリュックから包みの色が事なるスティックを取り出す。
それを見たアリスが「えーっ」っと不平の声を上げる。
「見た目はまったく同じじゃないですかっ。ほんとっ飽きないんですかっ?」
「ざっく。問題ない」
「そうなんですかっ?ヴィヴィさんっ、絶対人生損してますよっ」
「……ざっく」
「アリス、ヴィヴィは好きでやってるんですから」
「そうですけどっ、勿体無いですっ。本当にリオさんの料理美味しいのに……ふぁあ」
アリスが大きな欠伸をした。
「はっ!?す、すみませんっ。わたしったらっ」
「今日はここでキャンプしますか」
「わ、わたしの事は気にしないでくださいっ。ぜんぜんっ大丈夫ですっ」
「ざっく。急ぐ旅でもない」
「そうです。それにアリス、あなたよく眠れてないでしょう?」
「そ、それは……でも大丈夫ですっ」
「無理はいけません。旅を始めたばかりなのにずっと戦っていましたからね。緊張が取れずよく眠れてないでしょう?」
「ざっく。マルコでもあの村でもよく眠れていなかったのではないか?」
「……はいっ」
「やはりそうですか」
「ざっく」
「そうなんだ」
「「「……」」」
サラがリオを見てため息をつく。
「……まあ、ともかく今日はここで休みましょう。見張りは私達でやりますからあなたはもう寝なさい」
「そうはいきませんっ」
アリスが突然立ち上がった。
「アリス?」
「お二人がリオさんに夜這いするかもしれないのにっわたしだけ呑気に寝てられるわけないじゃないですかっ!」
「……それが眠れない理由ですか?」
サラがジト目でアリスを見る。
ヴィヴィは仮面で顔が見えないが恐らくサラと同じようにジト目をしていたことだろう。
「他に何があるんですっ?」
アリスは当然のように言い切った。
「そうなんだ」
「「……」」
サラが無言で立ち上がりアリスをどつく。
珍しくヴィヴィもアリスをどつく。
「痛いですっ!!」
「バカなこと考えてないで寝なさい!」
「で、でもっリオさんへの夜這いは早い者勝ちなんですよねっ!隙を見せたら負けなんですよねっ?」
「そんなわけないでしょう!」
「……ざっく。このエロ神官どもが」
「どさくさに紛れて私を含めないで!!」
サラは思い込みの激しいアリスを今ここで納得させるのは無理と判断した。
なので見張り番をリオとアリス、サラとヴィヴィの組で行う事で納得させた。
最初の見張りはサラとヴィヴィである。
アリスにはとにかくしっかり眠ってもらわないといざというとき魔法が使えないと困るからだ。
リオが隣にいるのに安心したのかアリスからすぐに寝息が聞こえてきた。
リオは眠っているか怪しいが、いつもの事なので気にしない。
サラとヴィヴィは焚き火を見つめている。
「ざっく。お前はアリスに信用されていないな」
「あなたもね」
しばし、沈黙後、サラがちらりとリオに視線を向けた。
すぐに戻すと声を抑えてヴィヴィに話しかける。
「村長の息子にリオは怒っていたわよね」
「ざっく。私が知る限りこれで三度目だ」
そう答えたヴィヴィも声を抑えていた。
「一回目が金色のガルザヘッサ、二回目がバカギルド職員ね」
「ざっく」
「……あの時、私が止めなかったらリオは剣を抜いていたと思う?」
「ざっく。殺していた、の間違いではないのか?そう思ったからお前は叫んだのだろう?」
「……そうです。それであなたの意見は?」
「ざっく。村長のバカ息子を斬っていたと思うな。加減は知らんが」
「そう」
「ざっく。直接本人に聞いたらどうだ?」
「そうね。でも『そうなんだ』で流されそう」
「ざっく」
また沈黙が訪れる。
ヴィヴィが口を開いた。
「ざっく。リオはザラの森から帰ってから変わった」
「ええ。性格が積極的、いえ、好戦的になった気がします」
「ざっく。短気になったのはお前に影響を受けたのだろう」
「あなたによ」
「ざっく。謙遜するな」
「そっくりそのままお返しするわ」
「「……」」
その後、二人は互いに責任のなすりつけ合い始めた。




