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195話 Aランクパーティの調査隊

 マルコの街に各地から冒険者達が集まって来ていた。

 彼らの目的はゴンダスの愚行を知り所属の解約のために戻ってきた者、魔の領域で一山当てようとする者、そしてサラの噂を聞きつけ仲間にしようとやってくる者と理由は様々であったが、マルコ所属になるためにやってきた者は皆無であった。



 魔の領域へ向かった冒険者達の中には、冒険者ギルド本部から正式な調査依頼を受けたAランクパーティだけでなく、独自の判断でやって来たCランクパーティも複数いた。

 彼らは先の強制依頼で多数の冒険者が犠牲になった事を知っていたが、

 

「奴らは実力不足なのに“無能のギルマス”に無理やり行かされたから死んだんだ。俺達は大丈夫だ」

「ブレスを放つボスのみ注意すりゃいいのさ」

「中心へ近づき過ぎなければ問題ない」


 などと考えており、Aランクパーティとは違い、軽い気持ちで来ている者がほとんどだった。



 Cランクパーティの多くはAランクパーティと一緒に行動していたが、別に協力していたわけではない。

 Aランクパーティの後をCランクパーティが勝手について来ただけだった。

 ギルド本部から正式に依頼を受けたAランクパーティのリーダーが金魚のフンのようについてくる遠足気分のCランクパーティに我慢ができなくなり、立ち止まると金魚のフン達を怒鳴りつける。

 

「お前らギルドの依頼を受けてないだろ!わかってんのか?ここは危険なんだぞ!」

「お前らより格上のシープスすら全滅したんだぞ!さっさと帰れ!」


 リーダーに続き、魔術士も遠足気分のCランクパーティを注意するが全く効果はなかった。

 金魚のフン達が笑いながら言った。

 

「そんな事は分かってるぜ」

「おうっ。だが、シープスはドラゴン?の野郎にやられたんだろ?俺たちゃその前に逃げるぜ!」

「それにここの魔物のプリミティブは高純度でデカいんだろ?それだけで命をかける価値があるぜ!」

「……勝手にしろ!ただし、俺達の邪魔したら斬るぞ!」

「おお恐え」

「わかってるわかってる」


 Aランクパーティのリーダーはそれ以上何も言わずに調査を再開した。



 冒険者達は魔の領域に入ってすぐに教団が派遣した部隊を見つけた。

 カシウス隊である。

 Aランクパーティの盗賊が教団の様子を探りに向かった。

 それに倣ってCランクパーティからも盗賊が偵察に出る。

 彼らは隙あらば教団が得たお宝を掻っ攫おうと考えていたわけではない。

 いや、一度も考えなかった、とまでは言わないが、実行に移す者はいなかった。

 正面から教団にケンカを売るなどバカのする事である。

 しかも相手は教団でもっとも危険だと言われる異端審問官である。

 ケンカなど売ったりすれば自分達だけでなく、家族まで命を失いかねないのだ。

 ただ、教団が討伐し放置した魔物の死体からプリミティブを漁る者はいた。

 言うまでもなくCランクパーティの者達である。


「おっ、これ見ろよっ、これがウォルーのプリミティブだぞ!」

「ガドタークのだってとんでもねえぞ!」

「ボロ儲けだぜ!」

「……」


 Aランクパーティは彼らの行動を侮蔑するような目で見ていたものの注意することはなかった。



 異端審問官達が魔物を掃討した後だったためか、冒険者達が魔物と遭遇する事はほとんどなかった。

 しばらくしてAランクパーティの盗賊が戻って来た。


「異端審問官達、防御魔法を三重に張りやがった」

「本当か!?」

「ああ。六人ずつのグループを分けてよ、三人で範囲防御魔法を張って進み出した」

「残りの三人は交代要員ってところか」

「たぶんな」

「エリアシールドですね。しかし、エリアシールドはただでさえ強力な防御魔法なのにそれを三重ですか。魔の領域のボスが近いのかもしれませんね」


 Aランクパーティの神官が額を指でトントンして考えながら答え、それに盗賊が頷いた。


「ああ。俺も自分の直感を信じて戻ってきたんだ。あれ以上進むのは危険だってな」


 Cランクパーティの盗賊の行動はまちまちだった。

 Aランクパーティの盗賊と一緒に戻って来た者がいればそのまま教団の後を追った者もいた。

 その決断が生死を別けることになる。

 リーダーが神官に尋ねる。


「どうする?お前も三重に張れ……ねえよな」

「ええ。同じ魔法をかけても上書きされるだけです。彼らと同じ事をするにはエリアシールドを使える者があと二人必要ですが……」


 そう言って神官は金魚のフン達を見るが、その中に神官の姿はなく、彼の視線を受けてCランク冒険者達は愛想笑いを返してきた。


「……少し心細いですが私のエリアシールドの中であなたが個人へ防御魔法をかける、でしょうか」


 そう言って同じパーティの魔術士を見た。

 

「だな。エリアシールドと比較すると心細いがないよりはマシだろう」


 そこへ待ったをかける者達がいた。

 Cランクパーティの面々である。


「なあ、俺達にも防御魔法をかけてくれよ。こっちにゃ、神官も魔術士もいねえんだ。いいだろ?」

「いいわけあるかっ!」


 Cランクパーティの図々しい願いにAランクパーティのリーダーが怒鳴った。


「俺達は依頼で来てんだ!お前らの遊びに付き合ってられるか!」

「ふざけんな!俺達だって命かけてんだ!」

「知るか!身を守る手段がないならさっさと帰れ!」


 リーダーの正論に欲の皮が張ったCランクパーティの面々は納得しない。


「こんなお宝を目にして今更帰れっかよ!」


 と、異端審問官達が倒した魔物から抜き取ったプリミティブをあたかも自分で倒したかのように誇らしげな顔で高々と掲げるCランク冒険者。

 Aランクパーティのリーダーは切れた。


「勝手にしろ!俺らは知らん!」


 Aランクパーティは魔術士、神官の二人の防御魔法をかけて今まで以上に慎重に進む。

 金魚のフン達は「俺達にも魔法をかけてくれよ」と自分勝手な要求をしながらも後をついてきた。


 

 地面が高熱で焼かれたような痕跡が目に入った。


「……これが例のブレスってヤツだな」

「ああ」


 地面を調べていた神官がリーダーに厳しい表情で警告する。


「……リーダー、これはダメだ。俺のエリアシールドでは、今の防御ではこのブレスは防げない……」

 

 プライドの高い神官が悔しそうに自分の実力不足を口にするのを見てリーダーは思わず言葉を失う。


「そんなにか?」


 リーダーはそう言うのがやっとだった。

 そこへこのパーティの事を何も知らない金魚のフンの一人が余計な事を言った。

 

「おいおい、鉄拳制裁はたった一人でブレスを防いだっていう話だぞ」

「黙れ!」


 そう怒鳴ったのは神官ではなく、リーダーだ。

 そう、神官もそれを知っていたからこそ自信を無くしていたのだった。


「よしっ。俺達はこの距離を保って右回りに調査をする」

「Aランク冒険者様はやけに弱気だな」


 そう言ってひと組の金魚のフンパーティが中心へ進む。

 その時であった。

 強力なブレスが襲った。

 射程範囲ギリギリだったこともあり、Aランクパーティは魔術士、神官の張った防御魔法で防ぐことが出来た。

 無傷とはいかなかったが幸いにも重傷を負った者はいなかった。

 一方、Cランクパーティの者達の被害は甚大だった。

 Aランクパーティの後ろにいたCランクパーティは魔法防御がなかったため完全には防げず大怪我を負った。

 それ以外のCランクパーティは跡形もなく消え去った。

 当然ながら教団の後を追っていたCランクパーティの盗賊は一人も帰ってこなかった。

 Aランクパーティはこれ以上の調査は危険と判断して引き返す事にした。

 なお、重傷を負ったCランクパーティの者達は泣きながらAランクパーティに助けを求めてきた。

 神官と魔術士は仕方ない、といいつつも治療してやる事にした。

 ただし、治療費として彼らの持っていたプリミティブを要求した。

 これは自分達の言う事を聞かなかった罰と神官をバカにしたお詫びとしてだ。

 激怒するCランク冒険者達であるが、命には変えられぬと泣く泣く条件を飲んだのだった。



 今回の事で二つわかった事があった。

 一つは中心にいるであろうボスはAランクパーティ一組では歯が立たないということ。

 これに関しては再確認した、と言っていいだろう。

 そしてもう一つは異端審問官三人でやっと防ぐ事が出来る攻撃を鉄拳制裁のサラはたった一人で防いだ事という事だ。

 単純計算でサラは通常の神官の三倍以上の強力な魔法が使えると実証されたのだった。



 この事実が帰還した冒険者達から広まり、サラの願いとは裏腹に益々名が高まり、サラ争奪戦に拍車がかかることとなるのであった。



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