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190話 傲慢なギルド職員

 食事を終えるとヴィヴィに事情を説明し、ギルドへ向かう。

 昨日まではギルドの前やその周辺に冒険者がたむろって騒がしいものであったが、今日は寂しいものだった。

 街の中ではそれなりに姿を見かけたのでマルコで依頼を受ける気がないのだろう。


 

「ざっく。また来ることになるとは思わなかったな」

「そうですねっ」

「さっさと終わらせましょう」


 ギルド内も閑散としていた。

 一目でランクが低いとわかる粗末な装備の者ばかりが目立つ。


(これは思って以上に酷い状況ね。高ランクの人達は見限って出て行ったのかしら?これは確かにわざわざ私達のところへくる訳だわ)


「リサヴィの皆さん、よくいらしてくれましたっ!」


 サラ達に気付きモモが声をかけてきた。

 その声に反応して冒険者達の視線が集まる。

 しかし、リオはその声に応えることなく、依頼掲示板へ足を向ける。

 それに続くヴィヴィとアリス。

 無視されオドオドしているモモを見かねてサラがリオに声をかける。


「リオ、まずはお話を聞きましょう」

「そうだった」



 リサヴィは個室へ案内される。

 説明に現れたのはモモではなく、その上司であった。

 入って来た時からどことなく高圧的な雰囲気を出していた。

 この男、クズン係長はマルコギルドと親密な関係にあるガメツ商会の親族でコネでギルド職員になった。

 当然のように役職つきで、である。

 本来であればその役職に相応しい仕事をすべきであるが、今日までまともに仕事をしたことはない。

 受付には一度も立ったことはなく、仕事が回ってきたとしても、部下に丸投げで、功績だけ自分のものにした。

 何か問題が起きれば部下に責任を取らせ、気に入らない事があれば周りに八つ当たりする。

 要するに威張るしか能のない前ギルマスのゴンダスに劣らぬクズであった。

 そんなクズが今日までやってこれたのは言うまでもなく、ガメツ商会の力とゴンダスの存在であった。

 しかし、ゴンダスが失脚し、ガメツ商会との癒着が明らかにされそうな今、自分の立場が危ういことを自覚しており、なんとか今の立場だけは保とうと必死であった。

 そんな時、職務に熱心なモモがリサヴィをギルドに誘うのに成功した事を知り、いつものように美味しいところだけ頂こうと、モモから無理矢理仕事を奪ってやってきたわけである。

 リサヴィをザラの森へ調査に行かせた事を自分の説得があってこそと大袈裟にアピールし、自分がギルドに必要な人材である事を示すつもりであった。

 リサヴィが依頼に失敗することは考えていなかったし

 仮に失敗したとしてもモモに責任を取らせればいいだけのことである。



 繰り返すが、クズンは今までまともに仕事をした事がない。

 冒険者の相手をした事は数回あったが、いつも高圧的な態度で命令するだけだった。

 だから今回も今までと同様の対応をとった。

 この対応に疑いを全く持っていなかった。


「昨日、ザラの森でお前らが倒した魔物や死んだ冒険者の装備を漁りに行った奴らが強力な魔物に遭遇したそうだ。既に何人かやられたらしい。本来であればそんな魔物を見逃したお前らのミスだが、今回は特別に見逃してやるから今すぐ退治してこい」

 

 リオは少し首を傾げる。

 アリスはそのリオに熱い視線を送っている。

 ヴィヴィに至ってはいつものように仮面のせいで何を考えているのかさっぱりわからない。

 いつもならサラが対応するのだが、昨日のゴンダス相手で疲れており、この手の相手とは話す気分ではなかった。

 放っておけば、ヴィヴィが対応するだろうと思っていた。

 

(それにしても愚かな冒険者がいたものだわ。楽してお金を稼ごうとするからそんな目にあうのよ)


 しばし、沈黙が続く。

 我慢出来なくなったクズンが苛立った表情で怒鳴った。

 

「何をぼさっとしている!!さっさと行動に移れ!これは緊急を要するのだぞ!」


 サラは内心ため息をつく。

 

(どうやらこの人は私達が依頼を受けて当然だと思っているようね。呼びにきたギルド職員のような人ばかりじゃないってことね。結局、クズ一人を排除しただけではダメなのね)


「お前ら!聞いているのかっ!!」

「じゃあ、行こうか」


 リオが席を立つ。

 リオの言葉をクズンは依頼を受けたのだと受け取ったが、サラ達は違った。

 「このバカの相手はしてられないので帰ろう」という意味に受け取り、こちらが正解であった。

 クズンの勘違いは続く。

 気分が良くなり更に追い打ちをかけた。

 

「成功した暁には先の依頼失敗の取り消しを俺からギルド本部に口添えしてやるぞ!確約は出来んが俺が手助けしてやるんだ。感謝しろよ!」


 口ではそう言ったが、実のところ口添えする気は全くない。

 冒険者には適当な事を言っても構わない。

 クズンはそういう男だった。

 その言葉にそれまで黙っていたサラも流石にカチン、と来た。

 サラが口を開くより先にヴィヴィが動いた。

 手を伸ばしてクズンの襟首を掴むと、片手で軽々と持ち上げたのだ。

 クズンの体重は少なくとも八十キロは超える。

 それをヴィヴィの細い腕は安易と持ち上げたのだ。

 たまらずクズンが悲鳴をあげる。

 その声を聞きつけ、ギルド職員達が飛び込んできた。


「どうしましたっ!?クズン係長!?」

「く、くそっ!離せ!離さぬか!お前!こ、こんなことしてただで済むと思うなっ!」


 ギルド職員達にカッコ悪いところを見られたくないと必死に虚勢をはるクズンだが、その努力は虚しく、バレバレだった。


「ざっく。もう一度言ってみろ」

「な、何をだっ!?と、とにかく手を離せ!この棺桶持ちが!」

「クズン係長!落ち着いてください!ヴィヴィさんもお願いします!手を離してください!」


 そう懇願するのはリオ達の宿屋に来たモモだった。

 だが、ヴィヴィは手を離さない。

 それどころか更に手に力を込める。

 クズンの顔が真っ赤なり、息苦しそうにうめく。


「や、やめて……くれ」

「ざっく。もう一度言ってみろ、と言っている」

「お願いします!お話は私が聞きますのでともかく手を離してください、お願いします!」


 これはモモがクズンに特別な感情を持ってのことではない。

 いや、特別な感情は持っていたがそれは心配・愛情などとは対極の感情である。

 クズンのバックにはガメツ商会がついており、揉め事を起こせば今後のリサヴィの活動に支障をきたす事を危惧してのことだった。

 

「ヴィヴィ!」


 サラの静止も無視した。

 このままでは窒息死する、誰もがそう思った時だ。


「ヴィヴィ」


 リオの静かな、どこか面倒くさそうな気持ちが込められた声がした。

 ヴィヴィが手を離す。

 

 どすん、とクズンは尻から落ちた。悲鳴を上げたいところだが息苦しくてすぐには声が出なかった。

 やっとのことで声を絞り出すクズン。

 

「き、貴様ら!」

「クズン係長、落ち着いてください!リサヴィの皆さん、一体何があったのですか?」


 ヴィヴィが沈黙したままなのでサラが代わりに答える。


「あなたの話とは全く違っていました」

「そ、それはどういうことでしょう?」

「私達は話を聞くだけだったはずです。ですがこの人は今回の依頼は私達が依頼を失敗した事が原因だと言って高圧的な態度で命令してきたのです。依頼ではなく命令です」

「ええっ!?」


 騒ぎを聞きつけて集まって来ていたギルド職員達の冷たい視線がクズンに注がれる。

 この時、クズンは初めて自分の対応が間違っていたかもしれない、と思った。

 クズンはいつものように失敗を隠蔽しようとする。

 

「ち、違うっ!俺はそんなことしてないぞ!」


 アリスも興奮しながら口を開く。

 

「なんでそんな嘘つくんですっ!?はっきり言いましたっ!昨日の依頼失敗は明らかにそちらのミスですっ!それをわたし達のせいにするなんて許せませんっ!ヴィヴィさんが怒るのは当然ですっ!わたしだって怒ってますっ!」

「いや、そ、それはお前達にやる気を出させるためにだな……」

「ざっく。確かにヤル気になったぞ。リオが止めるのがもう少し遅ければ確実にヤレたのだがな」

「ひっ……」

「ほ、本当に申し訳ありません!ですが……」

「もういいよ」

「リオさん、それは……」

「依頼は受けない」


 その言葉を聞き、集まったギルド職員全員が失望した表情を見せた。

 


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