189話 マルコギルドのモモ
ヴィヴィを部屋に残し、三人は一階の酒場で夕食をとった。
食事を終え、アリスが借りた部屋のドアを開けるとそこには煽情的な下着を身につけた美女がいた。
アリスは慌ててドアを閉める。
「どうしたのです?」
「た、大変ですっ!な、中にサラさんの昔のお友達らしき人がいますっ」
「……私の昔の友達?」
サラが不審な顔をしながらドアを開ける。
「……あれですか?」
「はいっ、見事なスタイルっ!エッチな下着、滲み出るような色気っ!間違いなくサラさんのいかがわしい前職のお友達……いたっ」
サラにどつかれ頭を抱えるアリス。
「サラさん、痛いですっ」
「あなたがバカなこというからです」
「な、何がバカな事なんですかっ?」
頭を摩りながら抗議の声をあげるアリス。
「あれはヴィヴィです」
「うん、ヴィヴィだよ」
「うむ」
下着姿の美女、ヴィヴィが頷く。
「ヴィヴィさんっ!?そうならそうと早く言ってくださいよっ」
「うむ。言う前にお前が出ていったのだろう」
「う……た、確かに……でも本当に美人だったんですねっ」
「うむ。それほどでもある」
「それよりヴィヴィ、いつまでそんな格好してるんです?リオもじっと見てるんじゃありません」
「うむ?私は別にかまわんぞ。減るものでもないしな」
「そうなんだ」
サラがリオの頭を叩く。
「納得しないでください。ほらっヴィヴィ!」
「うるさい女だ。自分は全裸を見せつける癖にな」
「見せつけてません!」
「流石サラさんですっ」
「な、何よ突然!?」
「人には下着姿を注意しておいて自分は全裸で迫るその身勝手さっ!そんなサラさんに憧れますっ!せこいですっ!」
「迫ってません!」
「そうなんだ」
サラは再びリオにゲンコツをお見舞いした。
ヴィヴィが服を着るが、その服も露出が多くサラは不満顔を隠しもしないが、ヴィヴィは無視。
「アリス、一つ言っておく事がある」
「は、はいっ」
「パーティ参加に文句はない。リオが決めた事だからな」
「ありがとうございますっ」
「お前がDランクとはいえ初心者である事も考慮してやる。だが、リオにべったりでパーティの邪魔になるなら叩き出す」
「は、はいっ」
アリスは顔を引き攣りながらこくこく頷く。
「連携と馴れ合いとは違う。よく覚えておけ」
「はいっ」
「そうなんだ」
「あなたに言ったんじゃありません」
翌朝、ヴィヴィを除くリオ達リサヴィが一階の酒場で遅めの朝食をとっているとギルド職員のモモが店に入ってきた。
モモはリオ達の姿を見つけると真っ直ぐ向かって来た。
「まだいらしてよかったです!」
「私達に何か?」
サラはモモの事を覚えていた。
手足を魔道具で拘束されたゴンダスがギルドの地下牢へ連行される際、気絶しているのをいい事に「無能のギルマスが!」と叫んでギルド職員が止めに入るまで蹴り続けていたのだ。
ゴンダスに対して相当鬱憤が溜まっていたらしく、激しく息をしながらも清々しい顔をしてゴンダスを見送る姿が記憶に残っていたのだ。
そんな姿を見られていたとも知らずモモは神妙そうな顔つきで話し始めた。
「実はリサヴィの皆さんにお願いしたい依頼がございまして」
「また緊急依頼ですか?」
昨日の今日である。
サラは嫌味っぽい口調で尋ねる。
モモはやや引き吊り気味の表情で首をぶんぶん振って否定する。
「と、とんでもありません!あくまでもお願いでございますっ」
「リオ、どうしますか?」
「リオさんっ。私はリオさんに従いますっ」
「ん?じゃあ嫌かな」
リオは何も考えていないような顔で依頼内容も聞かずあっさり断った。
「……え?」
モモは内容を説明する前に断られるとは思っていなかったので、しばし思考を停止させる。
「あ、あの、よろしければ理由を教えていただけませんか?」
「ん?なんとなく?」
「あのっ、サラさんっ」
モモは救いを求める表情でサラを見つめる。
しかし、サラの返事は非情なものだった。
「リーダーがこう言っていますので」
「そんな……」
「正直、ここのギルドにはいい感情を持っていません」
サラはこのギルドで二度と依頼を受けたくないと思っていた。
「そ、それはわかります!サラさんには大変ご迷惑をおかけしました」
「私だけではないでしょう」
「か、重ねてすみません!も、もちろんリオさんとアリスさん、そしてこちらにいらっしゃらないヴィヴィさんにも大変ご迷惑をおかけしました!その事は本当にいくらでも謝罪してもしきれないものです!ですが、せめてお話だけでも聞いていただけませんか?」
サラは流石にちょっと苛めすぎたかな、と反省する。
規則を平気で破るバカギルマスの言いなりだったギルド職員達の責任は決して軽いものではない。
とはいえこの職員だけ責めても仕方がない。
「その依頼は他の人じゃダメなのですか?」
「はい。その、ザラの森についてなのです」
「ザラの森、ですか?」
「はい。まだ危険な魔物がいるようなのです」
「そうなんだ」
リオは特に心を動かされた様子もなく適当に相槌を打つ。
「私達よりランクの高い冒険者がいると思いますが」
「……その、これは私個人の考えなのですが、リサヴィの皆さんでなければ難しいかと思っています……」
(Cランク以上のパーティはいるけど頼りにならないということ?)
「あ、そうだ」
リオが突然声を上げた。
「どうしましたっリオさんっ」
「昨日、僕達が受けた強制依頼ってどうなったのかな?失敗?」
「そういえばそうでしたね」
「そ、その事ですが、現在ギルド本部に確認中です。そろそろ連絡が来ている頃かと思います」
「そうなんだ」
「私達としては無理矢理参加させられて依頼失敗とされるのは納得いきませんよ」
「そ、それは、はいっ!私どもも重々承知しております!はい!」
「では、リオ。その結果を聞くついでに依頼内容を聞くというのでどうです?」
「私はリオさんについて行きますっ」
「わかった」
リオは考える素振りもなく同意した。
「ありがとうございます!」
「勘違いしないでくださいね。依頼内容は聞きます。受けるかどうかは別の話です」
「もちろんです!準備ができましたらお手数ですがギルドまでお越し願いますか?」
「わかりました。私からもひとついいですか?」
「はい、何でしょう?」
「魔の領域の件はどうなりました?」
「はい、そちらはジュアス教団がメインで対応していただく事になりました」
「そうですか」
サラはゴンダスをノックアウトした後、わかる範囲で攻略隊を壊滅させた魔物の情報を話した。魔の領域のボスは視界外から広範囲攻撃ができ、その魔物がドラゴンである可能性があると。
(冒険者ならAランク、出来ればSランク冒険者に対応して欲しいと考えていたけど、確かに教団なら魔法を使える者ばかりだから大丈夫でしょう)
「それでそれはどこの騎士団が来るのでしょうか。ここに一番近い神殿となると……」
「いえ、対応するのは異端審問機関と聞いております」
「……異端審問機関ですか?」
「はい」
モモが微妙な表情で頷く。
サラと同様に異端審問機関に良い思いを持っていないようだ。
「そうですか。確かに魔物退治専門の部隊が存在すると聞いていますし、適任かもしれませんね」




