188話 リッキーキラー暗殺計画?
リサヴィが泊まっている宿屋とは別の宿屋の一階にある酒場。
そこにサラにパーティ加入を断られた三人が一緒のテーブルで飲んでいた。
別にサラに言われた通りパーティを組んだ訳ではない。
パーティメンバーを無くした者同士、亡くなった者達のことを語り合ってパッと忘れようという話になったのだ。
冷たいようだが、それが冒険者だった。
死んだ仲間のことを語り合った後はサラの話になった。
「圧倒な力だったな。神官でありながらあの強さ。あのナナルが素質を見抜いて弟子にしただけのことはあるぜ」
「そうなのか?俺はサラが自らナナルに鍛えてほしいと直訴したって聞いたぜ」
「まあ、どっちでもいいじゃねえか。サラが強い事実に変わりはねえ」
「ちげえねえ」
サラの圧倒的な強さとその美しさで盛り上がっていたが話題は次第にリサヴィのメンバーへ移っていく。
「サラと同じパーティの棺桶持ちは全然大した事なかったな」
そう言った冒険者は何度もヴィヴィに助けてもらっていたが、そのことを覚えていなかった。
「しょうがないだろ。棺桶持ちは所詮棺桶持ちだからな」
この冒険者も背後から攻撃を仕掛けようとしていたウォルーをヴィヴィが仕留めたことに全く気付いていなかった。
「魔術士になれなかった出来損ないだぞ。期待するだけ無駄だ無駄だ」
その棺桶持ちに勝るところを挙げられず、加入を拒否された冒険者が彼らである。
そして話はリーダーのリオへ移った。
「リッキーキラーの奴、うまいことやりやがったよな」
「ったくだぜ。ありゃ典型的な寄生虫野郎だぜ!」
「リッキーキラーにまとわりついてたあの女神官はなんだ?リッキーキラーをベタ褒めしてたよな。バカっぽい声でよ」
「ま、いい女だったけどな」
「実力が足りん!おつむも足りん!」
「間違いなくアイツの脳は下半身にあるぜ!」
「お前と同じだな」
「ぬかせっ!」
「あの女のことはいい。今はリッキーキラーだ。バウなんだかを倒したとか、フェイスなんたらを倒したと言ってたけどよ、所詮Cランクの魔物だぜ!出会ったことねえがあのガキが倒せるくらいだ。大したことねえに違いねえ」
「その通りだ!」
「俺だって出会ったことねえが楽勝だぜ!」
酒が入っていることもあり話がエスカレートしていく。
一人が声を低くした。
「アイツ、さっさと死なねえかな」
「殺っちまうか!」
「はははっ!いいなそれ!そうすりゃあ勇者候補枠が二つ空くな!」
「二つって、ひとつはあの頭の足りない女神官か?名前覚えてねえけど」
「ま、確かにいい女だったけどサラ程じゃない。名前覚えてねえけど」
「いないよりはマシだろ。少なくとも夜は楽しめるぜ」
「頭の足りない方はお前らで取り合えよ。サラは俺を勇者に選ぶからな!」
「何言い出してんだお前?酔いが回りすぎたか?」
「俺はまだまだシラフだ!それに証拠だってある!」
「何言ってんだお前?じゃあその証拠って奴を見せてみろよ」
「そうだそうだ」
「いいぜ。その証拠ってのはだな、サラはBランクのシープスの連中じゃなく俺を守ったんだ!」
「それを言ったら俺もそうだ!」
「俺もな!」
隙あらばサラを自分のパーティに誘おうと思ってそばにいたことが幸いしてサラの張ったシールド内に入ることができた三人だったが、それを特別扱いされたと思い込めるめでたい男達であった。
「そういや、闘技場は明日もやるらしいぞ」
マルコギルドは小さいながらも闘技場を所有していた。
ここで定期的に魔物との戦いや冒険者同士の戦いを見せ物として開催しており、市民の娯楽としても人気が高い。
これはマルコギルドの収入源一つであり、その収益は馬鹿にできない。
冒険者にも出場するメリットは大きい。
勝てばギルドポイントや景品がもらえるだけでなく、名が広まり、指名依頼を増やすことができる。
もちろんデメリットもある。
情けない姿を見せれば悪い意味で名が広まり、指名依頼が来なくなったりするのだ。
「結構、所属冒険者が減ったのによくやる気になったな」
「そりゃ、所属の解約が止まらねえから少しでも引き止めようとギルドも必死なんだろうさ」
「でもよ、肝心の参加者いんのか?」
「確かにな」
「アイツ、出場しねえかなぁ」
冒険者の一人が酒をグッとあおって呟いた。
「はあ?お前何言ってんだぁ?」
「そうすりゃ俺がボッコボコにしてやるぜ!観衆の前で惨めな姿を晒せば二度と自分が勇者だなんて勘違いをしなくなるぜ!」
リオは自分を勇者などと思った事も言った事もないのだが、彼らには関係なかった。
「そりゃおもしれえな!サラだって流石に自分の過ちに気づくだろう!」
「待て待て。リッキーキラーの方はともかくサラはどうかな?」
「なんだ?なんかあんのか?」
「サラの趣味だ趣味!」
「おおっショタコンか!」
「待て待て。それ、本人が否定してただろ。実際よ、リッキーキラーより若いガキがパーティに誘って失敗しただろ」
「ああ、あの生意気なガキな」
「おお、覚えてるぜ。Cランクだって威張ってたガキな。全然大した事なかったな」
「そりゃそうだろう」
「ん?お前、なんか知ってんのか?」
「俺も聞いた話でよ、あのガキのパーティもあの戦いで全滅しちまったから本人達に確認しようがないけどよ、」
「もったいぶらずにさっさと言えよっ」
「……奴ら、サラがショタコンって噂を信じてあのガキをパーティに入れたらしい。そんで将来性があるって見せるためにガキにギルドポイントを集中させて急いてCランクに上げたって話だ」
「マジか?サラとマルコで会ったのは偶然だろ?タイミング良すぎねえか?」
「だが、それが本当ならガキにちょっと同情するな。ちょっとだけだがな」
「やめようぜ死んだ奴の話なんかよ!サラがショタコンじゃないならチャンスじゃねえか!」
「確かに!」
「……だがなぁ。俺は噂がまったくのデタラメとも思えねえ。年下趣味くらいはあるんじゃねえか?」
「だったら俺達は守備範囲外だぞ」
「大丈夫だ!サラは神官!自分の趣味より真の勇者を選ぶはずだ!」
「つまり俺か!」
「やはり俺だ!」
「俺俺!」
がははははっ、と三人が大声で笑う。
「でもよ。リッキーキラーをボコったくらいじゃ諦めねえかもしれねえぞ」
その言葉を聞いて一人がニヤリと笑みを浮かべる。
「なんだ、お前すげー悪党顔してんぞ」
「もともとだろ」
「うるせい!大会は殺しは厳禁だ。だが、今まで一人も死人が出なかったわけじゃねえ」
「お前、」
その冒険者はふっと笑う。
「そうだな。ワザとじゃなければいいんだ。よほどの“ヘマ”をしなきゃ殺しても罰せられる事はねえ」
三人揃って悪党顔で笑みを浮かべる。
彼らは戦えば必ずリオに勝てると自分達が負けることは微塵も考えていなかった。
「言っとくが俺は強いぜ。こいつもあるしな」
冒険者の一人がそう言うと腰の鞘から剣を抜く。
「この剣はな、ナンバーズじゃねえが、結構すげえぜ!」
ギルド入会試験と違い、闘技場での試合では自分の装備が認められている。
装備も冒険者の力と判断されるのだ。
「まあ、リッキーキラーがそこそこ強いとしてもだ。この剣を持った俺の方が強いに決まってる!剣ごと奴を叩き斬ってやるぜ!」
「やるな。だが、」
そう言って別の冒険者が腕のリングを見せる。
「お前、まさか……」
「そのまさかだ。お前だけだと思ってたのか?俺だって数々の冒険をこなして来たんだぜ。そこで手に入れたこれもなかなかの物だぜ。装備したものの力を大幅に上げることができるんだ!この力を加えた一撃をリッキーキラー如きが防げるわけがねえ!」
「ほう。すごな。だが俺も忘れてもらっちゃ困るぜ」
そう言ってまた別の冒険者が左手の人差し指の指輪を見せる。
「お前、それは……」
「ふふふ、こいつは透明な盾を発生させることが出来るんだ。流石に魔の領域のドラゴンブレスだかなんだかは無理だろうが、リッキーキラー程度なら問題ない!奴の一撃をこの見えない盾で受け、動揺したところバッサリ、だ!」
三人が笑みを浮かべる。
「お前らもなかなかやるな」
「ふふふふ!」
「はははは!」
「ーーさて、俺達があのガキに勝つことは間違いないことはわかった。問題は奴をどうやって試合に参加させるかだが、」
「それは無理です」
三人が会話に割り込んできた相手を見ると見覚えのある神官だった。
「お前は確かネイルとこの、」
「ザラの森の討伐隊の生き残りだったな」
「なんの用だ?」
「すみません。盗み聞きしてた訳ではないのですが、皆さんの声があまりに大きいので」
その言葉で三人は慌てて周りを見渡すと酒場の客達が三人を見ていた。
「は、はははっ。冗談だぜ。冗談!」
「そう冗談だ!」
「酒の上でのことだ本気にすんなよっ!」
「それはともかく、その剣を収めていただけませんか?」
「お、おう」
酒場の店主が睨んでいるのに気づき、男は慌てて剣を収める。
「先ほどの皆さんのお話が本当だったしてもリオ君と戦うことは出来ませんよ」
「なんだとっ!」
「まさか俺達があのガキに負けるとでも思ってんのか!?」
「ああん!?」
凄みを聞かせる男達に神官カールは落ち着きを保ったまま言った。
「それ以前にリオ君はDランクです。闘技場の試合参加はCランク以上となっていますからどうやってもあなた方とは戦えないのです」
「「「あ……」」」
こうしてリオを公共の場で堂々と殺そうという三人の計画は脆くも崩れ去ったのだった。




