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185話 強制依頼の結末

 魔の領域攻略隊はマルコギルドに帰還していた。


「……なんだと?もう一度言ってみろっ!」


 ギルマスのゴンダスの問いに生き残ったCランク冒険者の一人が憎しみの目を向けて再度報告する。

 

「魔の領域攻略隊三十二名中二十七名戦死。シープスも全員戦死!俺のパーティも俺以外戦死した!そして魔の領域は未だ健在だ!」


 ゴンダスは目眩がして足元がふらつく。


「シープスまでだと……なぜだ!なんでそうなったっ!?」

「聞くまでもないでしょう。あなたの判断ミスです」

「き、貴様!」


 ゴンダスがサラを睨みつけて威嚇するが全く効果はない。


「ギルマス、あなたはギルドの規則を尽く破りました」


 サラはゴンダスのミスを淡々と述べ始める。


「ひとつ、魔の領域発見時は速やかにギルド本部への連絡し指示を仰ぐこと。これを怠り勝手に行動しました」

「て……」

「ふたつ、強制依頼に禁止されているCランク以下の冒険者を参加させた。みっつ、パーティを強制変更させいつもの連携が取れなかった。ーーこれら数々の愚行の結果がこれです」

「ふ、ふざけるな!ギルド本部へは、れ、連絡済みだ!」

「……」

「それに強制依頼はギルマスの特権だ!」

「パーティの強制変更は?」

「それも強制依頼に含まれるわっ!!」

「……なるほど。これだけの犠牲者を出しても自分の非を認めないのですね」

「何を生意気な事を言っとるかっ!お前ごときにぎゃーぎゃー言われる筋合いはない!!」


 ゴンダスはサラに正論では勝ち目がないので暴力に訴えようとした時だった。


「ギルマス!ギルド本部から連絡が入っております!」


 ギルド本部と聞き、ゴンダスの顔が青ざめる。


「な、何?!まさか報告したのかっ!誰が報告しやがった!?」


 ゴンダスの視線から避けるようにギルド職員が皆顔を伏せる。


「てめえらっ!」

「おかしいですね。先ほどギルド本部には連絡済み、と言っていましたが、私の聞き間違いですか?」

「て、てめえ……!!」

「早く出たらどうですか?」

「てめえ!……」


 追い込まれたゴンダスだったがその表情がずる賢いものに変わる。


「そうだ!お前だ!お前が手を抜きやがったんだ!サラ!!」

「は?何を言っているのです?」

「そうだろっ!そうに決まってる!あるいはお前がシープスの足を引っ張ったんだ!でなきゃアイツらがやられるかよっ!見てろっ!お前に責任取らせてギルドから追放してやる!終わりにしてやるからな!!」


 そう言ってゴンダスはカウンターへ走っていく。

 ゴンダスはサラに全ての責任を押し付ける事で、この大失態から逃げ切れると思ったようだ。


「ざっく。本当にお前に全責任を押し付ける気のようだな」

「……そのようですね」

「ざっく。追放か。寂しくなるな」

「あら珍しい。私の心配してくれるのですか?」

「ざっく。リオの事は私に任せて安心して追放されるがいい」

「別に冒険者ギルドに未練はありませんから追放されてもかまいませんよ。そうなってもリオとの旅は続けますのでご安心を」

「ざっく」



 ゴンダスの話声は大きく、魔道具“通信くん”を通してギルド本部へ言い訳している声がギルド中に響き渡る。

 サラが手抜きをした、ギルド職員が連絡ミスした、冒険者達が勝手な行動をした、などと聞こえる。

 これを受け、冒険者、ギルド職員全てがゴンダスに怒り、失望、軽蔑等、あらゆる負の感情を向けるが言い訳に必死なゴンダスは全く気づかない。

 冒険者達の中には早くもマルコギルドに見切りをつけ、所属の解約を始める者が出る始末であった。

 その中には今回の強制依頼に参加しなかった冒険者も含まれていた。


「ざっく。このギルド終わったな」

「そうですね」


(ギルド職員にも少なからず今回の責任を取らされる事になるわね。でも同情はしないわ。あんなギルマスを野放しにした責任は職員にもあるのだから)



 サラはいつまでもバカの相手はしてられなかった。


「私はザラの森へ向かいます」

「ざっく。私も行こう」


 その言葉を耳にした攻略隊の生き残りが驚きの声を上げる。

 

「サラっ、まだ戦う気かよ!?」

「はい。ザラの森には私達のリーダーがいますので」


 そこへ今回の強制依頼に参加していなかった冒険者が控えめに口挟む。


「あの、ザラの森も大変なことになっているみたいです」

「では尚更です」


 サラが出口に向かおうとすると背後から怒声が飛んだ。

 

「てめえ!逃げんじゃねぇ!……あ、いや、違うんだっ!サラの野郎が逃げようと……本当に俺の責任じゃねえんだ!みんなサラが……信じてくれっ!」


 サラは呆れてため息をつく。

 

「付き合ってられないわ」


 サラがドアを開けると若い戦士とぶつかりそうになった。

 

「あ、サラ。戻ってたんだ」

「リオっ!」


 そう、それはリオだった。

 

 

「大丈夫でしたか?」

「ん?僕は大丈夫だよ」


 そう言いながらリオがギルドへと入ってきた。

 その後に三人続く。

 それだけだった。


「おいっ、他はどうしたっ!!なあっ!?俺の相棒は!?」

「……生き残ったのは僕達四人だけです」


 神官のカールが申し訳なさそうに言った。

 ゴンダスが全ての責任をサラ他自分以外になすりつけようとひとり奮闘している間に、ザラの森討伐隊の代表としてカールがザラの森での出来事を話し始めた。


 討伐対象の魔物はウォルーとされていたが、実際にはバウ・バッウ、それにフェイスイーターとどれもDランクを主体とした討伐隊には荷が重すぎるものだった。

 何故、ギルドの偵察隊が魔物の情報を誤ったのか。

 怒りを露わにした生還者の戦士が待機していた偵察隊を皆の前に引き吊り出して尋問したところ、驚くべきことに今の偵察隊は皆ろくに教育を受けていない素人集団だったことが判明した。

 ゴンダスは常々偵察隊を無駄飯ぐらいだと考えており、経費削減を建前にベテラン全員を解雇していたのだ。

 では経費削減して浮いた金をどうしたかといえば当然ゴンダスの懐に収まった。

 何故こんな無能がギルマスになれたのか、サラは頭が痛くなった。

 カールの話を聞き終えた何人かの冒険者がカウンターへ向かう。

 いうまでもなく、所属の解約をしに行ったのだ。



「ざっく。結局、四十四人投入して生還九名、約八割の損失か。しかも魔の領域は未だ健在、ザラの森はといえば討伐対象が異なるため続行不能。どちらも大失敗だな」

「はい。疑いようもなくギルマスの判断ミスで、です」


 そこでリオが首を傾げた。


「あれ?もしかして僕達、依頼失敗?」

「そうかもしれません」

「そうなんだーーあれ?」


 リオはヴィヴィの装備を見て首を傾げる。


「ざっく?」

「ヴィヴィ、盾が足りないよ」

「ざっく。魔物にやられた。ーーお前も剣が違うな」

「うん、バウ・バッウに食われたんだ」

「ざっく」

「僕の剣はともかく、ヴィヴィの盾、この街で手に入るかな?」

「ざっく。難しいな」

「セユウで買えばいいのではないですか。元々そういう予定だったですし」

「そうだね」

「ざっく」


 結局、強制依頼でパーティメンバー全員が無事だったのはリサヴィだけであった。

 


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