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184話 ネイルの最期

「くそったれがっ!」


 ネイル達はバウ・バッウの攻撃をなんとか凌いでいた。

 バウ・バッウとは二度目の戦いなので攻撃パターンを予測できたのが大きい。

 だが、反撃を試みても体中がヌメヌメして弾力もあり、物理攻撃が効きにくい。

 それは前回の戦いでわかっていた事だが改めて思い知る事になった。


「お前ら!俺が呪文を唱える時間を稼げっ!」


 神官の神聖魔法と違い、魔術士が使う魔法は呪文が必須であり、走りながら詠唱出来る者などそうはいない。

 ネイルも例に漏れず、息を乱した今の状態で呪文を正しく唱える事は出来ない。

 いくらメモライゼの魔法で呪文を記憶していても正しく発音できなければ意味はないのだ。


「断る!」


 ネイルの命令に戦士が即答した。

 彼は自分の仲間を餌にされたのを直に見ているのだ。

 ネイルに協力する気など全くなかった。


「奴を倒すには俺の魔法しかないんだぞ!」


 しかし、ネイルのパーティの神官カールも弱音を吐く。


「僕も無理だよ!足止めなんて出来ないよ!」

「この役立たず共が!」

「……」


(どうする!?カール達を囮にして逃げようにもバウ・バッウの野郎は俺様を狙ってるみてえだ。魔力が高い奴を狙う習性でもあんのかよっ!だったらカールの野郎も……って、あんなクズじゃ高が知れてるか!くそっ、こんな事なら俺様がジェイソンの相手をすりゃよかったぜっ!リッキーキラーの奴が勝手な事しやがるから……待てよ!)


「お前ら!戻るぞ!」

「戻るってまさかっ」

「勇者様のもとに決まってんだろ!」

「今度はアイツらを餌にする気か!」

「向こうだって戦ってるんだよ!最悪挟み撃ちになるよ!」

「ゴチャゴチャうるせえ!」


(幸いリッキーキラー達がどの辺りにいるのか見当がついている。あの野郎は頭が弱い上に好戦的だ。奴なら放って置いても囮役をやってくれるだろう。それでバウ・バッウに上手く食わせてファイアボールで焼いてやれば邪魔者が一気に消える。一石二鳥じゃねえか!)


「バウ・バッウは俺とリッキーキラーでやる!お前らはその間、ジェイソンの相手でもしてろ!」

「ネイル!僕達でなんとかしようよ!」

「うるせー!!何とか出来んならさっさとやれ!役立たず共が!!」


 ネイルはカール達が止めるのも聞かずリオ達が移動した方へ向かって走り出した。

 バウ・バッウの追撃をかわしながらもリオ達の姿を探す。


「!!いやがった!」


 ネイルからはリオ達が何をやっているのかわからなかった。

 ただ、リオが木の枝のようなものを持っているのは確認できた。

 

「何キャンプごっこしてやがる!」


 ネイルの声が聞こえたらしく、アリスがこちらに顔を向けた。

 

「……めですっ!」


 アリスが何か叫んでいるがネイルにはよく聞き取れない。

 アリス達の近くにジェイソンらしき死体が確認できた。

 

(アイツらで倒せる程度の強さかよ!まあ、これで挟み撃ちされる心配はなくなったぜ!)

 ネイルは自分の作戦が上手くいくと確信し、内心ほくそ笑む。



 ジェイソンは首と手足が斬り落とされており、首は近くにはないようだった。

 不思議なことに転がっている手足が三本以上あるように見える。

 

(……なんだ?他にも寄生された奴がいたのか?って、今はどうでもいい)


「お前ら!俺が呪文を唱えるための時間を稼げ!」

「ダメですっ!こっちに来ないでっ!」


 アリスが言葉だけでなく、両手でダメダメとジェスチャーを送るが、ネイルは無視した。

 格下に指示された事で怒りがこみ上げる。


「お前ら下っ端は俺様の言うことを聞いてればいいんだ!さっさと……!?」


 それがネイルの最期の言葉となった。

 突然、ネイルの目の前に白いものが飛んできた。

 それはフェイスイーターだった。

 フェイスイーターはまだ休眠状態に入っておらず、ネイルの接近に気付くと新たな宿主とするためにその顔に張り付いた。


「!!」


 ネイルは両手で振り払おうとして、バランスを崩して転倒した。

 そこへネイルを追って来たバウ・バッウがジャンプで一気に距離を詰めたかと思うと、フェイスイーターを剥がそうと奮戦していたネイルをパクッと呑み込んでしまった。



「ああっ!?ネイルさんっ!!」

「アンナ、火」


 動揺するアリスとは対照的にリオは全く表情を変えず、油を湿らせ布を巻いた即席たいまつをアリスに向ける。


「早く」

「は、はいっ」


 かちかちっ。

 かちかちっ。

 焦っているためなかなか火がつかない。


 幸いバウ・バッウはすぐに次の獲物を狙う様子はない。

 というか、どこか苦しそうに見える。

 そこへカールと戦士がやってきた。


「皆さん!大丈夫ですか!?」

「は、はいっ!でもネイルさんがっ!」

「わかってます……」

「お前らはなに呑気にたいまつに火をつけようとしてんだっ!」


 バウ・バッウを警戒する戦士のイラついた声にリオは緊張感のない声で答える。

 

「フェイスイーターを燃やそうとしてたんだ」

「フェイスイーターだと!?」

「ど、どこですかっ!?」


 カールと戦士は表情を更に険しくして身構える。

 そんな二人にリオはまたも呑気な声(本人にそのつもりはなかったが)で答える。


「バウ・バッウの腹の中」

「「は?」」

「あのっ、フェイスイーターがネイルさんに取り憑いてっ、そのネイルさんをバウ・バッウが飲み込んでしまったんですっ!」

「だからバウ・バッウの腹の中にたいまつを放り込んでまとめて焼いてしまおうと思うんだ」

「そうかっ!」

「でもネイルが……」

「あんなヤツほっとけ!もう死んでる!」

「はいっ、その、残念ですがもう手遅れだと思いますっ」

「……」


 カールは複雑な表情を苦しがるバウ・バッウに向ける。

 ネイルの事を嫌ってはいたが死ねばいいとまでは思っていなかった。

 空気が読めない事には定評のあるリオはそんなカールの気持ちに気づく事なく淡々と作業を進める。


「アンディ、火つけるの代わるよ」

「あ、はいっ、すみませんっ。でもリオさんっ、わたしはアリスですっ」

「うん、知ってた」


 リオとアリスが即席たいまつと火打ち石を交換しようとすると即席たいまつを戦士が奪い取った。

 

「俺にやらせてくれ!ヤツは俺の仲間の敵だ!」

「そうなんだ」


 戦士のいう敵はバウ・バッウではなくネイルの事を指していたのだが、リオは気づかないし、気にしない。

 リオはアリスから火打ち石を受け取ると一回で即席たいまつに火をつけた。


「あ、あっさりつきましたね……すみませんっ、リオさんっ」


 アリスの謝罪に返事をしたのは戦士だった。


「いや、アリスだったな、感謝するぜ!お前が時間をかけたお陰で俺の手で敵討ちができる!」

「えっ?えっ?」

「さて、どうやって口を開けようかな……って必要なさそうだね」

「ああ」


 リオの言う通り、バウ・バッウは苦しみで口をパクパクし始めた。


「フェイスイーターは口に合わなかったのかな?」

「ネイルの腹黒さで食当たりしたのかもな!」


 戦士の言葉に誰も反論しない。

 パーティの一員であったカールでさえも。

 戦士がバウ・バッウに即席たいまつを投げようとするのをリオが止めた。


「なんで止める!?」

「こっちが先。アリエッタ、油あるだけ出して」

「あ、はいっ。でもわたしはアリスですっ」

「僕も油持ってます!」


 リオの意図を読みカールもリュックから油の瓶を取り出す。

 リオはアリスから油の瓶を受け取ると蓋を開けてバウ・バッウの口めがけて投げた。

 

「おいっ、お前もっと慎重……なにっ?」


 リオは適当に投げたようにしか見えなかったが、瓶は狙い違わずバウ・バッウの口に吸い込まれた。


「流石ですリオさんっ」

「あの、リオ君。これもお願いできますか?僕は口に入れる自信がなくて」

「そうなんだ」


 リオはカールから油の瓶を受け取るとバウ・バッウの口にポイポイ放り込んだ。

 そして即席たいまつを持った戦士を見る。


「よろしく」

「おお!任せろ!」


 戦士はギリギリまでバウ・バッウに近づくとその口へ即席たいまつを放り込んだ。


 直後、バウ・バッウの口から炎が上がる。そして体のあちこちから火が噴き出した。

 油と肉の焼けるなんとも言えない匂いと悲鳴が響き渡る。


「……ちょっと油多かったかな?」

「……そうだな」

「そ、そうですね……」

「はいっ」


 勢いよく燃えるバウ・バッウを眺める冒険者達。


「……って、ちょっと燃えすぎじゃない!?森が火事になっちゃうよ!」


 このまま放置すれば森が火事になるのは明らかだった。

 バウ・バッウが動きを止めたのを確認すると、カールは火を消すためにバウ・バッウに駆け寄ろうとしたがリオに手を掴まれ止められる。


「リオ君!?急がないと森が……」

「まだ早い」


 直後、バウ・バッウの口から何かが飛び出した。

 それはネイルの首だった。


「ひっ」

「きゃっ」

「なっ!?」

「……」


 火を纏ったネイルの首が転がりカールの目の前で止まった。

 カールは慌てて後ろに下がる。

 その首がぐにゃりと仮面、フェイスイーターの姿に戻る。

 もしリオが止めなかったらカールが寄生されていただろう。

 フェイスイーターは炎に焼かれ、苦しそうに悶えながらやがて動かなくなったかと思うと溶けるように消えてなくなり、プリミティブだけがその場に残った。


「あ、ありがとうリオ君!君が止めてくれなかったらどうなっていたか……」

「流石リオさんですっ」


 リオは感謝の言葉を受けても表情を全く変えず小さく頷いただけだった。


「じゃあ、火を消そう。いい方法ある?」

「僕に任せて下さい。水を生成する魔法、アクアを授かっていますので」

「あっ、わたしも授かってますので手伝いますっ」

「それは助かります。僕一人では少し不安でしたので」

「よし!じゃあ、お前らは火を消してくれ。俺と、リオだったな。俺達は魔物が寄ってこないように周囲の警戒だ」

「わかった」



 火を無事消し終わったリオ達は街へ戻った。

 討伐隊十二名のうち、生存者はたった四名だった。


 

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