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183話 フェイスイーター

 バウ・バッウはBランクに匹敵するとも言われる魔物だ。

 それをDランク冒険者数人程度で倒すのは厳しいのでジェイソンを責めるのは酷だ。

 それでもネイルは文句を言わずにはいられなかった。

 ネイルがバウ・バッウを一体倒す事が出来たのは呪文を詠唱する時間を他の冒険者達が稼いでくれたからだ。

 時間稼ぎをした冒険者の一人は詠唱が終わる直前にバウ・バッウに食われた。

 実際にはネイルはその冒険者を囮にして食われる瞬間を狙ってファイアボールを口に放り込んだのだ。

 見事、バウ・バッウを倒す事は出来たが、囮にした冒険者もバウ・バッウの腹の中でファイアボールの巻き添いで死んだ。

 ネイルはその場にいたカール達に事故だと説明したが、信じたかは怪しい。

 

(くそっ、認めたくはないがリッキーキラーの言う通りだ。同時に相手にするのは割が合わねえ。戦ったことのねえ魔物を相手にするか、面倒なバウ・バッウと戦うか。バウ・バッウと戦うとしても“餌”が警戒するだろうから同じ戦法は使えねえだろう。ジェイソンと戦うのは構わねえが、フェイスイーターだったか、に寄生されてどんな攻撃をしてくるかわからねえし、俺に取り憑こうとしてきたら面倒だ……)


 結果から言えば、ネイルの思考は無駄だった。


「じゃあ、行くよ」

「は?何だと!?」


 リオがジェイソンに向かって走り出す。

 

「リオさんっ!お供しますっ」


 とアリスが続く。


「よろしくアンジー」

「ア、アンジーじゃありませんっ!アリスですっ!」

「うん、知ってた」

「……もうっ」


 アリスはさっき自分のことをアリシアと呼んだのはたまたまだったのだとわかり、がっかりする。



「アイツら勝手に動きやがって……くそっ、しゃーねえ!俺達はバウ・バッウをやるぞ!」

「う、うん!」

「……ああ」


 ネイル達と行動を共にしていた戦士はネイルがバウ・バッウを倒す際に囮にした冒険者と同じパーティだった。

 彼は彼のパーティメンバーをバウ・バッウと一緒に焼き殺したのを故意だと疑っており、その目にはネイルに対する憎悪が宿っていた。



 リオはジェイソンと対峙した。

 

「気をつけてくださいっ!フェイスイーターに寄生されると宿主の能力が五十パーセントほど上昇すると言われていますっ」

「そうなんだ」

「どうかしたか。このやろう」


 ジェイソンはリオ以上に感情のこもっていない声でそう言うとリオに向かって斧を振るう。

 しかし、リオは難なく回避する。

 

「魔物になったのに攻撃方法は人間のままなんだ。特殊攻撃とかはないの?」

「いえっ、宿主の能力のみですっ。ただっ、治癒能力は高くなっているはずですっ!」

「……拍子抜けだ」

「おれはにんげんだ、ぜ、このやろう」

「そうなんだ」


 五十パーセント以上能力がアップしたはずのジェイソンの攻撃をリオは難なくかわす。

 いくら五割り増ししても元々の能力がリオに遠く及ばないので意味はなかったようだ。


「流石ですっリオさんっ」


 と、ジェイソンが地面を蹴って砂を撒く。

 これはフェイスイーターが考えたものではなく、ジェイソンの記憶から戦い方をマネたのだ。


「汚いですっ!」


 思わずアリスが叫ぶ。

 リオは砂は避けたものの、運悪く、避けた先の足元が悪くバランスを崩した。

 その隙をジェイソンは見逃さなかった。

 リオの剣を持った左腕を狙ってジェイソンの斧が振り下ろされる。

 フェイスイーターがジェイソンの体を動かすのに慣れたのか、その速度は今まで一番速かった。

 そのままでは避けるのに間に合わないと判断したリオは咄嗟に剣を手放し、刃をギリギリかわす。

 リオは手放した剣を空中で右手で掴むと逆にジェイソンの斧を持った腕を斬り落とした。

 

「……すごいっ」


 アリスはリオの流れるような美しい動きに見惚れた。

 

(さっきまで右腕は上手く動かないって言ってたけどちゃんと動いてるわっ!流石わたしのリオさんっ。きゃっ、わたしのだなんてっ!はしたないわよ!わたしっ)


 アリスの頭の中がお花畑になっている間も戦いは続く。

 ジェイソンは残った腕でリオに掴みかかるが、リオは難なくかわす。


「君も我慢強いんだ」


 腕を斬り落とされても悲鳴一つ上げないジェイソンに声をかけるが返事の代わりに蹴りがリオを襲うがこれも難なくかわす。

 

「ーーやっぱり君もダメだ。僕に絶望を与えてくれない」


 リオが何故絶望したいのか?

 それはラグナ使いのグエンが絶望がラグナに目覚めるきっかけになったと言ったからだった。

 リオは未知なる敵、フェイスイーターが自分に絶望という感情を抱かせてくれる事を期待していたがそれが叶わないと悟る。


「もういい。飽きた」


 リオはジェイソンの右側面に回った。

 右腕を失い無防備な方から攻撃するためだ。

 しかし、ジェイソンは一瞬で右腕が再生させ、そのまま殴りかかってきた。

 リオはどうにか回避するが体勢が崩れた。

 その隙を狙ってジェイソンは斧を拾い上げる。


「へえ、再生するんだ。面白いね」

「ぜ、全然おもしろくないですよっ!」


 リオの呟きに反論するアリス。


「リオさんっ!フェイスイーターは無限に再生するわけじゃありませんっ。宿主の体を作り替えてるんですっ。限界はすぐくるはずですっ」

「そうなんだ」


 アリスに言われ、ジェイソンの体が気持ち小さくなっていることに気づいた。

 リオはジェイソンの両腕、両足を難なく斬り落とす。

 手足を失いミノムシのようにもがくジェイソン。


「さて、どうかな?」


 リオがジェイソンを観察していると右腕が生えた。

 右腕を作った瞬間、ジェイソン体が縮むのがはっきりわかった。

 すかさずその右腕を斬り落とす。

 左足が生えた。

 その左足を斬り落とす。

 アリスはその様子を見て気持ち悪くしながらもフェイスイーターの行動パターンを思い出した。

 

「リオさんっ!首は斬り落とさないでくださいっ!寄生行動を起こしますっ!」

「そうなんだ」


 リオは止めをさすために今まさに首を落とそうとしていた動作をやめる。


「フェイスイーターは宿主の体を守ることを最優先に行動するんですっ」

「それで再生するんだ」

「はいっ。本体である顔以外にダメージを与え続ければフェイスイーター本体を攻撃しなくても弱らせることができますっ!宿主が再生しなくなったら弱っている証拠ですがっ、同時に寄生行動を起こすので注意してくださいっ!」

「わかった」


 ジェイソンの体は失った部位を再生する度にどんどん痩せ細っていき、とうとう再生しなくなった。

 リオはフェイスイーターの寄生行動を警戒してジェイソンから距離を取る。

 ジェイソンの頭が体から離れ、スライム状の形に変化した。

 リオは短剣を手にするとフェイスイーターに向かって放ち、地面に縫い付ける。

 しかし、フェイスイーターは何事もなかったように短剣からすり抜ける。


「あれ?効いてない?」


 しかし、アリスの言ったようにフェイスイーターが弱っているのは確かなようでその動きは緩やかだった。

 そして暫くすると動きを止めた。

 アリスがリオのそばに恐る恐るという感じでやってきた。


「これ、まだ死んでないみたいだけどどうやって倒すの?」

「確実に倒すには魔法で攻撃するか火で燃やす必要がありますっ」

「そうなんだ」

「このままでは死ぬ事はありませんが、相当なダメージを負っているのは確かですからっ、しばらくすれば休眠状態になると思いますっ」

「休眠状態?」

「最初に見た仮面のような姿ですっ。ジェイソンさんは仮面の姿のフェイスイーターを見てお宝と勘違いして触ってしまったのかもしれませんっ」

「そうなんだ。じゃあ、仮面の姿になったら燃やそう」

「はいっ」


 アリスがリュックから火打ちと油を取り出し、リオが適当な枝を拾い、いらない布を巻いてたいまつを作る。

 後はフェイスイーターが休眠状態になるのを待つだけだ。



「そういえば向こうは大丈夫ですかねっ?」

「さあ」


 ネイル達の姿は見えず時折、叫び声のようなものが聞こえるがリオ達のいる場所ではよく聞き取れない。


「様子を見にいきますかっ?」


 リオが首を傾げた。

 

「どうして?」

「え?あ、いえっ。そうですよねっ。わたし達はフェイスイーターを倒すことに集中すべきですねっ」

「そうだね」


 リオはバウ・バッウのへの興味をすでに失っていた。

 ネイル達のことも同様、いや、彼らには最初から興味がなかった。



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