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182話 仮面の戦士

「おらっ、グズグズすんな!撤退するぞ!」


 そう言ってネイルが森の外へ向かって歩き出す。

 アリスはどうしますか?という表情をリオに向ける。

 ネイルは自分達を見捨てたのだ。

 そんな者と一緒に行動してもまたいつ裏切るかわからない。

 今のアリスはリオに絶対の信頼を寄せており、例え二人きりになっても全く怖くなかった。

 そのリオはといえば、アリスの視線に気づいた様子はなく、まだバウ・バッウの死体を観察しておりその場を動こうとしない。


「リオさんっ」

「ん?」


 アリスのかけ声にリオはやっとバウ・バッウから目を離し、アリスに顔を向ける。


「どうしますかっ?一緒に行きますっ?」


 アリスに応えたのはカールだった。


「一緒に行動しましょうリオ君!アリスさん!今はまとまって行動する方が安全です!」

「……そいつはどうかな」


 カールの言葉に冷やかな言葉を返したのは生き残りの戦士だ。

 カールがその戦士に何か言おうとしたが、その前にネイルの怒声が飛んだ。


「おいっこらっ!何ボケっとしてやがる!隊長命令だ!さっさと来い!」

「リオさんっどうしますっ?」


 アリスが再度尋ねると、

 

「じゃ、行こうか」


 とリオは返事した。


「はいっ」


 こうしてリオとアリスはネイル達と共に行動することにしたのだった。



 アリスがカールに厳しい言葉でこれまでの事を尋ねる。


「カールさんっ、私達を見捨てた後の事を教えてくれませんかっ?」

「あ、うん、……あの後すぐにバウ・バッウに襲われたんだ。突然の事だったから体制を立て直す時間もなくてみんなバラバラに逃げ出したんだ……見捨ててごめん」

「いえっ、それはもちろん許しませんけどっ」


 アリスはリオがいるからか強気な態度を見せ、カールは押される。


「あ、うん、そうだよね……本当にごめんなさい」


 アリスとカールの会話にリオが割って入る。

 

「敵は全部倒したのかな?」

「え?あ、どうだだろう?魔物も僕達を追ってバラバラになったからよくわからないよ」

「バウ・バッウは二体だった?」

「いや、三体だったよ。もう一体はジェイソン達を追いかけて行ったんだ」

「ジェイソンさんというのはあなた達のパーティの戦士でしたかっ?」

「うん。帰ってこないところをみると多分……」


 ネイルは背後から聞こえるリオ達の会話にちっ、と舌打ちをした。



 ザラの森の出口までの距離の半分くらい進んだ頃だった。

 前方から斧を手にした戦士がゆらゆらと体を揺らしながらこちらへやって来るのが見えた。


「ジェイソンです!」

「……そうなんですかっ?」


 アリスの疑問符はその戦士が真っ白な仮面をつけていたからだ。


「あの体格に装備、間違いないよ!」

「あの野郎、生きてやがったか!心配させやがって!」


 ネイルは内心でニヤリと笑みを浮かべる。


(奴さえいればまだ俺の計画の実行は可能だ!まったく、おかしな面なんか被りやがって。どっかでお宝でも見つけたのか?)


 カールが首を傾げる。


「でも、あの仮面は一体?」

「もしかして魔装士?」


 リオの問いにカールが否定する。

 

「いえ、そんなはずはありません」

「そうなんだ」


 ジェイソンがつけている仮面をじっと見ていたアリスが「あっ」と小さな声を上げる。


「どうしました?」


 カールが不安そうな表情でアリスを見る。

 

「……もしかしたらっ、あの仮面っ、フェイスイーターかもしれませんっ」

「フェイスイーター?」

「生物に寄生する魔物ですっ。ジェイソンさんは魔物に寄生されているのかもっ……」

「何馬鹿な事言ってやがんだ!」


 ネイルがアリスを怒鳴りつける。


「で、でもっ……」

「じゃあ、戦ってみればわかるかな?」

「馬鹿野郎!」


 見た目と違いリオが好戦的である事に内心驚きながらネイルがリオを怒鳴りつける。


「おい、ジェイソン!ふざけてねえでその仮面を取れ!この好戦的な勇者様が攻撃しようとしてるぞ!」

「僕は勇者じゃないよ」


 だが、ジェイソンが仮面を取る事はなかった。

 その代わりと言ってはなんだが、斧をゆっくりと持ち上げて戦いの構えをとった。

 

「どうやらアリシアが言った事が正しいみたいだね」

「え?……」

「アリスさんですよ。リオ君」

「そうだっけ?」

「え?え、ええ」


 アリスがすぐに訂正しなかったのは“アリシア”はアリスの本名だったからだ。

 

(まさかリオさんはわたしの心を読んだっ?そこまでわたし達は繋がって……って、きゃっ)


 アリスの頭がお花畑になっている間も時が止まる事はない。


「くっ……待て。おい、ジェイソン!止まれ!冗談はそこまでだ!それ以上来るなら敵と見なすぞ!」


 その言葉でジェイソンは歩みを止め俯く。

 そして顔を上げた時、その顔に仮面はなかった。


「マタ、セタ、ナ?サアイ、イ、イコ、イッショ」


 ジェイソンは片言で言葉を発し、その目はどこか虚ろだった。

 

「お、おい、冗談はやめろっ!大体なんだそのおかしなしゃべり方は?それに仮面はどうし……?」


 ネイルは最後まで言葉を発する事が出来なかった。

 ジェイソンの顔が膨らんだり凹んだり、あり得ない変形をはじめたからだ。

 

「悪、い。もう問題ない、ぜ」


 ジェイソンの顔が元に戻ったが、ジェイソンの言葉を聞いて安心する者は一人もいない。

 最早、誰もが目の前の戦士がジェイソンではないと確信する。


「あの魔物、取り憑いた相手の記憶も取り込んでるのかな?」

「ど、どうでしょうっ?」

「おい、アリス!どうやったらフェイスイーターだったか、をジェイソンから引き剥がせる!?」


 アリスはネイルに向かって悲しそうに首を振る。

 

「……わたしの読んだ本では擬態された時点で魂は残っていない、死んでいる、とありましたっ。実際には助ける方法があるのかもしれませんがっ、わたしは知りませんっ」


 ネイルは舌打ちをする。

 

(くそっ、ぬか喜びさせやがって……)


「じゃ、倒すしかないね」


 平然と言い放つリオ。

 

「てめえ……」

「お互いの邪魔をしないように“二手に分かれて“戦った方がいいね。僕が彼の相手していいかな?」

「はあ?二手だと?てめえ何言って……」

「ネイル!バウ・バッウだ!もう一体が戻ってきた!」

「な……」


 カールの指差す方向からバウ・バッウが向かってくるのが見えた。


(ジェイソンの野郎!魔物に乗っ取られただけじゃなく、バウ・バッウも仕留めてなかったのかよ!全く使えねえ!)


 皆が動揺を見せる中、リオだけはどこか楽しそうだった。



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