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179話 バウ・バッウ

 討伐隊が撤退を開始した事に気づいていないのか気にしていないのか、リオはスタスタと更に森の奥へと進む。

 アリスはその少し後ろを不安げな表情でついて来ていた。


(ああっ、なんでこうなったのかしら……。あそこで抗議しなければ、後を追ったりしなければ……)


 アリスは自分の行動を後悔していた。

 そもそもあの時あそこまで抗議したことに自分でも驚いたし、行くか行かないか選択を迫られた時、迷っている最中だったのにもかかわらず体が動いていた。

 リオに追いついた時もまだ決断出来ていなかったが、すでに選択の余地は残されていなかった。


(……おかしいわっ。意思とは関係なく行動しているっ。本能で行動しているっていうのっ?)


 ふとアリスが後ろ振り返ると討伐隊の姿が思った以上に小さくなっているのに気づいた。

 撤退しているのだと気づくのにそう時間はかからなかった。


(わたし達、置いていかれたっ!?いえっ、囮にされたっ!?)


「リオさんっ!ちょっと待って下さいっ!」

「どうしたの?」


 リオはアリスの怯えを含んだ声を聞いても歩みを止めない。


「止まって下さいっ!みんな撤退してますっ!」

「そうなんだ」

「わたし達っ、囮にされたんですよっ!」

「そうなんだ」


 リオの相変わらずの反応に流石にアリスは切れた。

 リオの前に出ると両手を広げる。


「止まってくださいっ!」


 リオはやや不満そうな表情で歩みを止めた。


「どうしたの?」

「『どうしたの』じゃありませんっ!わたし達を囮にしてみんな逃げ出したんですよっ!」

「声、大きいよ」


 リオの言葉で自分達が危険な森の奥にいる事を思い出す。


「わっ、わたし達も逃げましょうっ」

「なんで?」

「なんでって、なんでそんな不思議そうな顔するんですっ?」

「だって、まだバウ・バッウに会ってないし」


 アリスはリオの返答を聞いて、一瞬何を言ってるのかわからなかった。


「わ、わたし達の目的はバウ・バッウに会う事ではないですっ、わたしは会いたくありませんっ」

「せっかくここまで来たのに?」

「わたしはまだ死にたくありませんっ」

「僕も死ぬ気はないよ」

「では逃げましょうっ!リオさんっ、わたし達だけでは無理ですっ!」

「そうなんだ」

「さあっ、みんなの後を追って森の外へ脱出しましょうっ!」

「そうなんだ」

「リオさんっ!わたしの話聞いてますっ!?『そうなんだ』じゃないですっ!」


 しかし、リオはアリスの横をすり抜けて先に進む。

 慌ててアリスはその後を追った。

 アリスはリオの表情の変化が乏しいので気づかなかったが、リオは囮にされて怒っているのではないかと思い始めていた。

 アリスは尚もリオの説得を続ける。


「た、確かに彼らの行動には思うところはありますけどっ選択の余地はないですっ」


 アリスはキッパリと言い切ったが、リオはあっさり否定する。


「どうだろう?」

「ですから選択の余地は……」

「向こうはもう戦闘になってるよ」

「……え?」


 リオが足を止め、振り返った。

 アリスも慌てて後を振り返ったが既に討伐隊の姿は見えず、戦闘音も聞き取れなかった。


「あのっ……、本当ですかっ?わたしにはさっぱりわからないんですけど……」

「そうなんだ」

「とにかくっ急ぎましょうっ。もう討伐隊の姿が見えなくなってますし……」

「それは分散して逃げたからだよ。ーー情けない」

「ええっ!?」

「あ、こちらにも気づいたみたいだ」

「え?そ、それって……」

「……一体こっちに来る。あれがバウ・バッウかな?」


 アリスにはリオがどこか楽しそうに見えた。

 アリスは慌てて辺りを見渡すがバウ・バッウの姿は見つけられない。


「リオさんっ、どこですっ!?」

「本当にカエルみたいだ」


 そう言ってリオが指差した方向にアリスが目を向けると、木の枝から枝へとピョンピョン飛び移りながら近づいてくる魔物がいた。

 間違いなく、バウ・バッウであった。


「リ、リオさんっ!何を落ち着いているんですっ!?逃げましょうっ!今はサラさんはいないんですよっ!」


 リオの危機感のなさにアリスがヒステリックに叫んだ。


「今は君がいるでしょ」


 リオに不思議そうな表情で見つめられアリスは発狂する。


「む、無理ですっ!わたしをサラさん達と一緒にしないでくださいっ!」

「向こうは区別する気はないんじゃないかな……来たよ」

「え?」


 アリスはバウ・バッウの姿を見失っており、どこにいるのかと探していると突然、大きなカエルのような姿をした魔物、バウ・バッウが空から降ってきた。

 その長い舌をアリスに向かって伸ばす。

 アリスが恐怖で固まって動けないでいるとリオが素早く反応し、アリスに届く直前で剣を振るってその舌を斬り落とす。

 バウ・バッウは悲鳴を上げながら後ろへジャンプする。

 リオは刃についたぬめりを一振りして払おうとしたが、簡単には取れそうになかった。


「剣で倒せそうだけど、このぬめりはやっかいかな。切れ味が落ちる」


 リオはボソリと呟く。


「あ、ありがとうございますっ!」

「感謝より魔法」

「は、はいっ」


 と返事したものの、アリスは回復魔法しか使えない。いや攻撃魔法もひとつだけあるが使いたくなかった。


「わたしっ、補助魔法は持ってないですっ」

「そうなんだ。じゃあ、怪我したらよろしく」

「は、はいっ!回復は任せて下さいっ!」


 アリスはそう答えた事をすぐ後悔する事になる。



 バウ・バッウが怒りを露わにしてジャンプでリオとの距離を詰めて襲いかかる。

 リオは噛みつきを避け、振り下ろした爪を剣で受け流す。

 

「……すごい!!」


 アリスはリオが戦う姿を見て見た目と違いとても強い事を知る。

 だが、先制してバウ・バッウの舌を斬り落としたものの、リオは押されていた。


(で、でもっ、わたしが魔法で傷を治療しながら戦えば……)


 そこでアリスは重大な事を忘れていたことに気づいた。

 アリスは回復魔法「ヒール」を対象に触れないと使えない。

 熟練の神官、例えばサラならある程度距離が離れていても魔法をかける事が出来る。

 しかし、アリスはまだその域には達していなかった。

 アリスが回復魔法をかけるためにはあの戦いの中に飛び込んでリオに触れなければならないのだ。

 

(い、今のわたしには無理ですっ!リオさんっ、出来るだけ怪我しないでくださいっ!)


 アリスはそう祈りながら戦況を見守るのだった。



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