176話 攻略隊壊滅
エリアシールドの設定があいまいだったので見直しました。
サラは周囲の雰囲気が変わったのに気づいた。
具体的に見える変化はない。
今までの経験から危険な場所に踏み入れた事を感じ取ったのだ。
(これ以上、奥へ進むのは危険だわ!私も考えが甘かったわ。さっさと終わらせようなんてヴィヴィに言ったけどそんな簡単なものじゃない。元々この戦力じゃ無理だったのだし)
「ジャンクス、戻りましょう。これ以上進むのは危険です」
「何言ってやがる。まだ行けるぜ」
「気づきませんか?周囲の雰囲気が変わりました」
「俺はわからんが、お前らはどうだ?」
「私は何も感じないですね。サラは自分の不安や恐怖を勘違いしているのでしょう!」
サラに対抗意識を燃やすナリックのサラを馬鹿にした発言に盗賊のホーは、「まあまあ」といいながらもナリックに同意する。
「ピリピリした感じはするけど、難易度の高い依頼じゃいつものことさ」
「私も何も感じないわ」
シープスの魔術士であるアンも彼らに同意する。
シープスの面々は余裕の表情でサラの意見を全く聞き入れないが、サラは更に危険が高まるのを感じ尚も説得を試みる。
「あなた方シープスはそうかもしれませんが、他の者は……」
「おいおいサラ!俺達を甘く見るなよっ!全然大した事ないぜ!」
「おお!」
「全然平気だぜ!」
サラに少しでもいいところを見せようと他の冒険者達が必死になってオレオレアピールを始める。
「みんなやる気だぜ」
サラはジャンクスの言葉を聞きながら自分の発言が逆効果だったと悟る。
「……わかりました。でも少しでも危険だと感じたら魔の領域を出てギルド本部の応援を待ちましょう」
そう言ったサラにジャンクスは笑いながら驚くべきことを口にした。
「いや、応援は来ないぞ」
「……は?今なんと言いました?」
「ギルド本部の応援は来ないって言ったんだ」
「だって連絡してないもん」
笑いながらホーが言う。
「そんなっ!何故!?魔の領域が発見されたらギルド本部へすぐに連絡することになってるはずです!」
「まあ、そうなんだけどよ」
「魔の領域にはお宝が眠ってるって噂もあるし、本部に連絡したら応援に来た奴らに横取りされちゃうかもしれないじゃん」
「は?宝って、何を呑気な事を……」
サラは彼らがこの状況がどれだけ危険なのか理解していない事に唖然とする。
そこに他の冒険者達も話に加わってきた。
彼らも魔の領域の事をギルド本部に連絡していない事は初耳のようだったが、皆ジャンクス達の意見に賛成だった。
「ラッキーじゃないか!確かに魔の領域は危険だが強力な魔物がいる分、プリミティブも大きいしな!見ろよさっきの魔物から取った奴を!これがウォルーのプリミティブだぜ?通常の二倍くらいあるぞ!」
サラが倒したであろう魔物のプリミティブを自慢げに掲げる。
「そうだぜ!こんなチャンス滅多にないぜ!ちびちび稼ぐなんてやってられねえ!」
「おう!俺はここで一発当てて田舎に残してる彼女にプロポーズするんだ!」
「え?ちょっと何を……」
「心配するなってサラ。今度カドダーク・ロードが現れたら俺がひとりで倒してやるからよ!お前の出番はないぜ!」
「ジャンクス、あなたまで……」
「どうした?顔が青いぞ」
サラの頭の中に“お約束”とか“フラグ”とか妙な言葉が浮かんでは消える。
(何?この言葉は?神が私に何かを伝えようとしているの!?すごく嫌な予感しかしないんだけど……)
「ざっく。何か、いる」
突然、ヴィヴィが言葉を発し、皆がハッとして前方を注視する。
しばらく様子を探っていたホーがバカにしたような顔でヴィヴィを見た。
「あんた何言ってんの?なんもいないよ」
「ああ、なんも感じねえ」
様子を探っていた他の盗賊もホーに同意する。
魔術士のアンがヴィヴィを見下した表情で言った。
「魔術士になれなかった落ちこぼれは黙って荷物持ちをしていればいいのよ。本来ならあなたのような棺桶持ちがこちら側へ来るのが間違っているのだから」
「そうだぜ!少しでも分け前を増やそうと考えてんだろうが……」
冒険者達はそれ以上言葉を発する事はできなかった。
警告する暇はなかった。
サラは身の危険を感じて、咄嗟にエリアシールドを発生させる。
エリアシールドは一定エリアを魔法のシールドで包み、エリア外からの魔法、物理を問わず攻撃を防ぐことができるが、エリア内からも外への攻撃が出来なくなる。
そのエリアが大きいほど防御力は弱くなり、小さいほど強力になる。
サラはその大きさを指定せず本能に任せた。
結果、半径二メートルほどのドーム状のシールドが形成された。
間一髪だった。
直後にドゴゴオオオっ!!という激しい音と共に辺りが灼熱の炎に包まれた。
サラはエリアシールドによりダメージを受けることはなかったが、そのエリアシールドは今の攻撃で消滅した。
「皆さん!大丈夫で……!!!」
サラは周りを見て愕然とした。
先ほどプロポーズするとか言ってた冒険者のいた場所には誰もいなかった。
炎で焼かれ跡形もなく消滅したのだ。
「ジャンクス達は……!!」
辺りを見回すがジャンクス達の姿もなかった。
彼らもまた跡形もなく消滅したのだった。
無事だったのはたまたまサラのそばにいてエリアシールドの範囲内にいた者達とヴィヴィだけだった。
ヴィヴィはリムーバルバインダーを前面に展開して灼熱の炎を防いだようだ。
とはいえ、リムーバルバインダーだけで防げる攻撃ではなかったのでヴィヴィも予め防御魔法をかけていたようだ。
そのリムーバルバインダーだが、今の一撃で溶解しており、もはや使い物にならない状態だった。
中の武器が全てダメになったのは言うまでもない。
「ざっく。珍しく親切に忠告してやったのだが、無駄だったか」
ヴィヴィがぼそりと呟く。
サラは再び危険を察し、再度エリアシールドを発生させる。
その直前に一人の冒険者が恐怖に駆られて「う、うわああ!!助けてくれー!!」と叫びながらサラのそばから走り去る。
サラは彼を呼び戻すことはしなかった。
呼び戻したところでサラのところまで戻ってくる時間はない。
仮に彼のいるところまでエリアシールドを広げるとシールドが弱くなり自身を守れなくなる。
再び灼熱の炎が放たれ、その冒険者は跡形もなく消滅した。
今回もサラのエリアシールドは攻撃には耐えたが、消滅した。
「これはなんの攻撃なの!?」
「……ざっく。ドラゴンブレスかもな」
二撃目をちゃっかりサラのエリアシールド内に入り込んで回避したヴィヴィが呟いた。
「ドラゴンブレスですって!?」
「ざっく。確証はない。私はドラゴンに遭遇したことがないからな」
ドラゴンは伝説級の魔物で滅多に出会うことはない。
(今、重要なのは相手が何者かではなく、この長距離攻撃が出来る相手にどう対応するかね)
今はサラにも強大な力を持つ存在を感じる。
(敵が完全に攻撃体制に入ったからね。でもヴィヴィはその前に敵の存在に気づいた。一体どうやって知ったのかしら……聞いても教えてくれないわよね)
サラはこの敵を倒すことは早々に諦めた。
考えなくても戦力不足は明らかだ。
サラは撤退を決意するが、その権限はサラにはない。
ジャンクス達シープスが全滅した今、攻略隊のリーダーは生存者の中の上位ランクに引き継がれる。
「Cランクの方!!」
「お、おう……」
サラの声に応えることができたのは一人だけだった。
他の者は恐怖で声が出なかったのだ。
「ではあなた!シープスが全滅した今、あなたがこの攻略隊のリーダーです!」
「む、無理無理無理無理ムリィいいいいい!!」
サラに返事はしたものの彼にまともな判断は出来そうにない。
「私は撤退を進言します!決断を!」
「もももももちちてってっ撤退撤退てったーい!!」
「わかりました!ではまたエリアシールドをはります。そのあとシールドに触れないよう私の後をついてきてください!」
「ぐふ。私が先頭を歩こう」
サラはヴィヴィの意図を察した。
「お前は方向音痴だから任せておけん」
と言っているのだと。
サラはムッとしながらもさり気なく訂正した。
「では、“私達”について来て下さい」
エリアシールドは発動したまま移動することもできる。
その場合、術者を中心として移動となるのだが、制御が難しい。
そのため、移動速度は通常より遅くなったが、幸い敵は追撃してくる事はなく、しばらくして気配が消えた。
だからといって安心せず、エリアシールドを維持したまま慎重に魔の領域の外に向かった。
結局、魔の領域を無事脱出できたのは攻略隊三十二名中、たった五名だった。




