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174話 魔の領域の襲撃

 マルコの街の東に広がる草原にサラ達、魔の領域攻略隊は到着した。

 攻略隊に参加した冒険者は三十二人。

 内訳はBランク五名、Cランク二十三名、Dランク四名だった。

 魔の領域を攻略するには明らかに戦力不足だ。

 だが、今のところ彼らに恐怖は見られない。

 強制依頼に不満を露わにしていた彼らであったが、マルコギルドのギルマスであるゴンダスの「魔の領域の魔物の素材は高く売れるぞ」という言葉を聞いて恐怖をどこかへ置いて来たようだった。



 しばらくして前方に明らかに周りと異なる場所が見えてきた。


「あれが魔の領域……?」

「サラは見るのは初めてか?」


 ジャンクスの問いにサラは頷く。

 攻略隊のリーダーはシープスのリーダー、ジャンクスである。

 シープスはマルコギルド所属のBランクパーティであり、今回の攻略隊唯一のBランク冒険者達でもある。


「話に聞いた事はありましたが」


 魔の領域はドームのような形状をしており、その範囲は遠くからもはっきりわかるほど空気の色が異なる。

 魔の領域の中は太陽の光を遮り、日中でも薄暗いという。

 サラがCランク以下の冒険者の様子を観察すると先程までの元気はどこへやら皆の表情に不安と恐怖がありありと見えた。

 生意気な事を言っていたCランク冒険者のヘイスも同様だった。


「ヴィヴィ、ユダスの東にある“魔の森”の魔の領域と違いはありますか?」

「……」


 ヴィヴィは無言だったが、今度はジャンクスがヴィヴィに声をかけて来た。


「ほう、魔装士、お前は魔の森で戦った事があるのか?」

「……ざっく」


 仮面で表情が見えないが、面倒くさがっているのがサラにはわかった。


「魔の領域での経験があるなら期待してるぞ」

「……ざっく。魔装士の本気を見せてやろう」

「おおっ!ヴィヴィ、だったか。頼もしいな!」


 ジャンクスが笑いながらヴィヴィの肩を叩く。

 サラは密かにため息をついた。

 Dランクの魔装士であるヴィヴィがこちらに配属されたのは戦闘力を当てにしてではなく、魔物を倒した後の素材回収・運搬のためだ。

 つまり、ヴィヴィの言う魔装士の本気とは一般的な魔装士と同じように荷物運びしかしない、と手抜き宣言をしたに他ならない。

 だが、サラもそれ程やる気があるわけではなかった。

 リオと別行動にされたからだ。

 リオは今頃、ザラの森の魔物討伐に向かっているはずだ。

 ではサラもヴィヴィに倣い、Dランク相当の働きだけすればいいのか、と言えばそういうわけにはいかない。

 何故ならサラはナナルの弟子と皆が知るところとなり、冒険者ランクとは関係なく活躍を期待されていたからだ。

 サラとしてはナナルの名を貶めないためにもそれ相応の働きをする必要があった。

 それに魔の領域を放置すればやがて魔界と繋がり、魔族が出現する可能性もあるので、放っておけないのも確かだった。

 いや、最悪もう魔族が現れているかもしれない。

 サラは自分に気合を入れ直しヴィヴィに声をかける。


「ヴィヴィ、さっさと倒してリオの応援に向かうわよ。だから真面目に戦ってください」


 しかし、サラの言葉にヴィヴィは無反応だった。


「あなたもリオの事心配でしょ?」

「ざっく」

「いいですね?」

「……ざっく。Dランク魔装士の恐ろしさを見せてやろう」


 やはりヴィヴィは全くやる気がないようだった。



 魔の領域にはすんなり入ることができた。

 一気に周囲が薄暗くなるが、灯りを灯すほどではない。

 しばらくは何事も起きなかったが、突然、前方に魔物の集団が現れた。

 それらを見てCランク以下の冒険者達に動揺が走る。


「いきなり現れなかったかっ!?」

「なんだよ、あの数はよ!」

「一体どこに隠れていたんだ!?」


 冒険者達の言う通りである。

 見渡す限り草原であり、あれだけの数の魔物が身を隠せるところなどどこにもない。

 言葉通り魔物達は突然姿を現したのだ。

 魔物はガドタークとウォルーで、ガドタークの中に一際大きなものが二体いた。

 ガドターク・ロードである。

 本来、ロードが群れに複数いることなどない。

 例外は魔族に率いられた場合だ。


(まさか魔族がいる?)


 サラは感知魔法を発動したが、魔族の反応はなかった。


「おい、サラ。お前はどう見る?」


 シープスのBランク神官ナリックの問いにサラは小さく首を振る。


「わかりません。少なくとも近くに魔族はいないようですが」

「俺と同意見だな。どうやら評判倒れじゃないようだな」

「はあ……」


 サラはナリックの言葉、その口調、そして表情、その全てから敵意を感じた。

 サラの知るところではなかったが、鉄拳制裁のサラの噂を耳にしたジャンクスが酒の席とはいえ、「サラが欲しいぜ!」と言ったのが原因であった。

 そして先程の冒険者達のサラ争奪戦だ。

 Bランク冒険者である自分より未だDランクであるサラが高く評価されるのが面白いはずがなかったのだ。


「ジャンクス!魔族はいない!俺が保証する!」


 ナリックはサラに意見を求めた事は口にしなかった。

 彼らの会話はジャンクスにも聞こえていたが、あえて指摘ない。

 彼も酔いが覚めた後で余計な事を言ったと反省していたので、わざわざその話をぶり返す気はなかった。


「そいつはいい話だが、それでも一度にロードニ体はきついな」

「ジャンクス、一体は私が引き受けます」


 サラの言葉にジャンクスは少し驚いたような顔をしながらもニヤリと笑った。

 

「流石、ナナルの弟子だな。本当に任せていいんだな?」

「はい」

「皆が見てるからって無理しなくていいぞ。足止めだけでもいいぞ」


 ナリックがどこか挑発するような口調で言ったが、サラは挑発に乗る事はなかった。


「わかりました。その時はお願いします」


 ジャンクスが攻略隊に向かって大声を上げる。

 

「よく聞け!ロードは俺達で倒す!お前らは残りの奴らを倒せ!それじゃ行くぞ!」


 そういうと、ジャンクス達シープスが一体のガドターク・ロードに向かっていった。

 

「……ざっく。なんと雑な作戦だ。いや、とても作戦とは言えんな」


 ヴィヴィはぶつぶつ言いながらものそのそと手近の魔物に向かって歩き出す。

 一応作戦には従うようだった。

 それを見届けサラはもう一体のガドターク・ロードに向かって走り出す。



 ガドターク・ロードの四本の腕がサラを襲う。

 タイミングをズラした連続攻撃だったが、その全てを危なげなく回避する。

 サラはナナルの地獄の特訓の時にもガドターク・ロードと一人で戦ったことがあり倒している。

 

(今回はあの時より楽ね)


 このガドターク・ロードが以前戦ったものより弱いという意味ではない。

 その時は多対一の戦いを強いられたのだ。

 ナナルは見学に徹し、全く助けてくれなかった。

 

(……嫌なことまで思い出したわ。さっさと終わらせましょう)


 考え事をしてても体が自然と反応し攻撃を回避する。

 ガドターク・ロードは四本の腕で殴り終わった後に大きな隙ができる。

 四本目の腕が殴りかかってきたのに合わせてサラはカウンターを食らわせる。

 腕の太さで言えば三倍以上も相手が太い。

 にもかかわらずサラの拳がガドターク・ロードの腕を叩き折った。


「ぐおおおおおぉ!」

 

 ガドターク・ロードが悲鳴を上げる。

 サラの攻撃は続く。

 体を回転させながらガドターク・ロードの右足の脛に思いっきり蹴りを叩き込む。

 ゴキっと嫌な音がして、ガドターク・ロードの足がおかしな方へ曲がる。

 悲鳴を上げながら転倒し、丁度いい高さに頭が来たのに合わせて回し蹴りを入れる。

 再び嫌な音がし、ガドターク・ロードの頭がくるっと一回転した。

 地面に伏したガドターク・ロードは二度と起き上がる事はなかった。

 

(さて他のみんなは……って、なんてこと!)


 サラは辺りを見回して愕然とした。

 魔物に押され、どこを見ても劣勢だったのだ。



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