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171話 第三神殿の神官達

 レリティア王国にはジュアス教団の第三神殿がある。

 フラースは第三神殿の一級神官である。

 フラースはカルシス伯爵の長女として生まれた。

 その容姿だが、控えめに言って美しくない。

 両親ともに美形であるが、彼らには全く似ておらず、何世代か前の先祖の肖像画にそっくりであった。

 いわゆる隔世遺伝であった。

 ただ、悪い事ばかりではなく、生まれながらに高い魔力を持っていた。

 フラースは家の後継ではなく、六大神への信仰があつかったため神官への道を選んだのだった。

 そのフラースのもとへ一人の神官が面会を求めてやって来た。

 二級神官のアリスである。

 アリスが今までにない真剣な表情でフラースを見つめる。


「フラース様っ!お願いがありますっ!」

「どうしたのです?」

「わたしっ、勇者探しの旅に出ようと思うのですっ」

「……」

「ダ、ダメでしょうかっ?」

「どうしてそう思ったのです?あなたが勇者探しをしたいという話は今まで聞いた事がありませんでしたが?」

「じ、実は実家に呼び戻されそうなのです……」


 フラースが首を傾げる。

 

「教団に入った時点で家族との関係は切れたはずです。従う必要はないはずですが?」

「は、はいっ、そうなんですけどっ……」

「話してみなさい」

「わたしが魔法を授かった事を知って……“また”どこかの貴族に嫁がそうと考えているみたいなのですっ」


 アリスは自らの意思でジュアス教団に入団したわけではない。

 ある事件の責任を取らされる形で神殿送りにされたのだ。

 アリスは久しぶりに会いにきてくれた両親に嬉しさのあまりうっかり魔法を授かった事を話してしまった。

 その瞬間、両親の表情が変わったのを見て嫌な予感がしていたのだが、その悪い予感が当たったというわけだ。


「わたしは今の生活に満足していますっ。もう親に振り回されたくありませんっ」

「なるほど」


 神官なら誰でも魔法が授かるわけではない。

 昔に比べ魔法を授かる者が少なくなってきていた。

 今、第三神殿にいる二級神官で魔法を授かっているのは半数以下という情けない状況であった。

 これが一級神官になると更に比率は下がる。

 他の神殿と同じく、一級神官を一種のステータスと思い込んでいる上級貴族によって占められているからだ。

 この状況を正したいフラースではあったが、今のところ上手くいっていない。


「確かにあなたは回復魔法を授かっていますからね。ーーわかりました」

「フラース様っ、それではよろしいのですかっ!?」

「もちろんです。しかし、神殿の外で生きていくのは厳しいですよ。覚悟はできているのですか?」

「は、はいっ。騎士団に同行して戦闘経験を積みましたし、大丈夫ですっ」

「私の記憶ではあなたは魔物退治に同行はしましたが、自分で魔物を倒したことはなかったはずですが」

「そ、そのっ、血には慣れましたっ。騎士様の治療もしましたしっ。大丈夫ですっ」

「わかりました。私はあなたの意志を尊重します。あなたのしたいようにしなさい」

「はいっ。ありがとうございますっ!ではっ早速冒険者ギルドで冒険者登録したいのですがっ」

「推薦状を用意しましょう」

「ありがとうございますっ」

「それと信用できる冒険者をつけましょう。彼らについて冒険者とはどういうものか学びなさい」

「ありがとうございますっ」

「でも、たまには顔を見せに戻ってきなさいね」

「もちろんですっ!勇者候補を見つけたら連れてきますねっ」

「ええ、楽しみに待っています」

「はいっ」



 その後、しばらくしてフラースの元へ一級神官のダッキアがやって来た。

 ダッキアはダリス公爵の次女として生まれ、その美しさ、知性の高さから将来を期待されていた。

 しかし、彼女は早くに性に目覚めると誰彼構わずベッド誘うようになった。

 両親は当初必死にその事を隠していたが、その悪癖は治ることがなかった。

 そして父親が誰ともわからぬ子を身籠ったことが決定打になり、ダッキアは身籠ったままに神殿送りになったのである。

 出産した子供は早々に里子に出されたが、ダッキアが我が子を気にする様子はなく、神殿勤めになってもその悪癖が治ることはなかった。

 ただ、ダッキアの場合は他の貴族と異なり、あくまでもお互い合意のもとで行われている。

 

 このように容姿・考え方とあらゆる事が全く異なる二人だが、意外にも仲は悪くなかった。

 当初こそ、互いの考えの違いに何度も衝突する事があった。

 これが神殿の外であれば家の爵位が上であるダッキアに対するフラースの言動は問題にされるところであるが、入団した時点で本人の血筋は関係はない。

 あくまでもそれは建前であったが、ダッキアが家の権力をかざす事はなかった。

 二人は何度も衝突するうちにいつの間にか気心が知れる関係になっていたのだった。



「フラース、さっきアリスが私のところに『旅に出る』って言いに来たわよ」

「そう」

「行かせちゃっていいの?」

「あなたは反対なのですか?」

「そうね。あの子、ちょっと抜けてるでしょ。外に出た途端、パクって食べられちゃうわよ。いろんな意味で」

「そうなったらそれで仕方がありません。あの子が選んだ道ですから」

「ま、あなたがいいならいいけど。私も無事帰って来る事を祈ってあげるわ」

「あら?同性愛にも目覚めたの?」

「何言ってるのよ。私だってあの子に稽古つけてあげたし、それにあの子が連れてくる勇者候補に興味あるわ。出来れば脳筋の体力バカがいいわね」


 ダッキアが唇をちろりと舐める。

 その仕草はとても妖しかった。

 フラースはため息をついた。


「……あなたのその一貫した信念には呆れて感心するわ」

「ありがとう」

「褒めてないわよ」


 フラースが真剣な表情になってダッキアに尋ねる。


「ところであなた、今の神殿をどうにかしたいと思わない?」

「思わない」

「あっさり言い切ったわね」

「私のようなただの一級神官にできることなんて限られてるわ」

「……」

「気に入った殿方を囲うことぐらい。あなたと同じで」


 ダッキアがからかうように言った。

 フラースはため息をつく。


「神殿を改革できたら真っ先にあなたの腐った根性を叩き直すわ」

「ふふふ。期待してるわ」


 ダッキアがちょっとイタズラっぽい笑顔を浮かべた。


「同性には興味はないって言ったけど、あなたのその隔世遺伝?には非常に興味があるわ」

「またその話?」

「だって興味あるじゃない。何世代か前にもあなたと容姿がそっくりの人がいたんでしょ?」

「それはあなたの性欲を上回るかしら?」

「あ、それはないわ」


 フラースが再び真剣な表情をした。


「ダッキア、少し突っ込んだ話をしていいかしら?」

「何でも聞いて」

「……子供の事、気にならないの?」

「これが不思議と全然。みんなこうなんじゃないかしら?」


 ダッキアはあっけらかんとした表情で答えた。

 フラースは深いため息をつく。

 

「……だったら人類はとっくに滅んでるわ」

「魔族に滅ぼされるよりは自然消滅の方がいいわね」

「あなたって人は……」


 フラースは大きなため息をついた。


 

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