170話 懸賞金の行方
冒険者ギルドにて金色のガルザヘッサが討伐されたと認定された。
ただし、金色のガルザヘッサが魔族であった事は秘密にされた。
上級魔族がこの世界にいると知れば余計な混乱が起きる事を危惧してのことだが、各国、ジュアス教団、そして懸賞金をかけた者達には秘密厳守にて報告された。
そして懸賞金だが、いざ、支払われる段階になって「待った」がかかった。
実はギルドが認定する前から金色のガルザヘッサが討伐されたという噂が広まっていた。
その噂の中にリオとヴィヴィの名は出てこない。
それは当然であった。
金色のガルザヘッサ討伐話を広めたのはカリスだったからだ。
カリスは金色のガルザヘッサを倒したのは自分とサラだと話していた。
ウィンドの副リーダー(今ではどちらも“元”である)が自信満々に語ったのでその話を信じる者が少なからずいたのだ。
つまり、世に広がったのは真実ではなく、カリスの妄想話の方であった。
ベルフィ達はカリス追放後にその噂を知って必死に消そうとしたが、カリスは行く先々で話回っていたため困難であった。
ギルドは基本的に噂など気にかけないが、それが世間を騒がし高額な懸賞金がかけられた金色のガルザヘッサの事となれば話は別である。
金色のガルザヘッサへの懸賞金は冒険者ギルドだけでなく、魔術士ギルド、商業ギルド、そして金色のガルザヘッサに恨みを持つ個人とあらゆる者達が出しているのだ。
彼らには真実を知る権利があり、それがはっきりしない限り支払わないと言ってきたのだった。
そのため、ウィンドとリサヴィに聞き取り調査が行われる事になった。
リサヴィはある街のギルドに立ち寄った際、ギルマスの部屋に呼ばれた。
「わざわざ来てもらって済まないな。簡単な説明は職員から聞いたと思うが、金色のガルザヘッサ討伐についてだ」
「バカがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
ギルドマスターはサラのその言葉を聞いて、今回確認すべき事は終わったと思った。
「一応経緯を俺からも話しておこう」
「はい、お願いします」
「金色のガルザヘッサ討伐を誰がしたのかで食い違いが発生していてな、懸賞金を払う側からクレームが来た。真実を明らかにしろ、とな」
「当然ですね」
「食い違いと言っても、まあ、はっきり言おう。ウィンド、いや、元ウィンドのカリスだけが自分とサラ、つまり君で金色のガルザヘッサを倒した、と言い張っている」
「はい、それは嘘です」
サラは躊躇なく即答する。
サラは目立ちたくなかったのでガルザヘッサ討伐にリサヴィが参加した事は出来るだけ秘密にしてほしいとベルフィ達に頼んでいたのだが、カリスのせいで名が広まり怒り心頭であった。
「だろうな。金色のガルザヘッサの正体は魔族だったはずだが、カリスは魔族だったと知らなかった」
「でしょうね。彼は戦いの間、気絶していましたから金色のガルザヘッサの本当の姿、魔族の姿を見ていません」
サラが一通り、金色のガルザヘッサを倒した経緯を説明する。
サラが話し終えるまでギルマスは黙って聞いていた。
「……以上です。あと補足しますと私は彼をストーカー登録しています」
「うむ。ベルフィ、ナック、そしてローズと同じだな。君達は何か異論はあるか?」
ギルドマスターの目がヴィヴィとリオに向けられる。
「ざっく、ないな」
「うん、ないよ」
「わかった。では、やはりカリス一人が嘘をついていると言う事だな」
「はい。ただ、彼の場合、嘘というよりも妄想と現実の区別がつかなくなっているようです。だから嘘をついている自覚はないのでしょう」
「ああ。今回、君達の話を聞く事になったのはまさにそれだ」
「と、言いますと?」
「カリス、いや、ウィンド全員を魔道具、“嘘発見くん”にかけたのだが、全員嘘をついていなかったのだ。だが、妄想を真実だと思い込んでいるなら嘘発見くんでも引っかからないということだな」
「そのようですね」
「今回、懸賞金を出した者達は大層怒っていてな。嘘をついている方へは懸賞金を払わないとの事だった。だからカリスへの懸賞金の支払いはゼロとなるだろう。更に彼にはヴェイン本部で冒険者適性検査を受けてもらう事になるだろう」
「冒険者適性検査?」
リオが首を傾げる。
「人は変わる者だ。時と共に悪い方へ変わる者もいる。そういう者をいつまでもギルド会員にしておくとギルドの信用に関わるからな。ギルド会員不適合者の疑いがある者はヴェイン本部で審査を行い、最悪は除名処分となる」
「そうなんだ」
「ざっく。そんな面倒な事をせず、あのバカは除名でいいのではないか」
「君の気持ちもわかるが、流石にいきなりそれはな。私個人の意見だが、恐らくCランクへの降格だろう」
「ざっく。甘いな」
後日、
ウィンドの面々とカリスはヴェインギルドの応接室に集まっていた。
久しぶりに顔を合わせるカリスとベルフィ達だが、彼らの間に会話はない。
彼らの関係は完全に終わっていた。
「では、早速ですが、ギルドの判定をご連絡します」
「おうっ」
カリスが勝ち誇った顔をベルフィ達に向けるが彼らは挑発に乗らない。
何故なら彼らもまた自分達が勝つ事を疑っていないからだ。
「では……」
カリスがギルド職員の言葉を遮る。
「ちょっと待て。サラはどうした?金色のガルザヘッサを倒した立役者の片方がいないんじゃ話にならないだろう」
「リサヴィの方達は出席しません。彼らの了承は得ています」
「なに!?」
「では発表します。調査の結果、金色のガルザヘッサを倒したのはカリスさん、」
「おうっ!」
「を除いた方達です」
「……へ?」
カリスがガッツポーズのまま固まる。
「な……ちょ、ちょ待てよ!なんでそうなる!?」
「全員に聞き取り調査を行った結果です。カリスさん以外全て同じ意見でした」
「な……」
「以上により、懸賞金はカリスさんを除くメンバーに均等に支払われる事になります」
「ふざけんな!」
「なお、カリスさん。あなたには虚言癖が見られます。冒険者としての資質に問題ありとなりましたので後日、冒険者適性検査を受けていただく事になります」
「ざけんな!八百長だ!サラを呼べ!サラは絶対俺の味方だ!」
「そのサラさんですが、あなたをストーカー登録しております」
「な……」
「本人から告知してほしいと言われましたのでご報告しました。今後、サラさんへ近づくのはおやめください。また、三メートル以内に意図して近づいた場合は自衛的攻撃が認められますのでご注意を」
「なんだと!?」
カリスが怒りで顔を真っ赤に染めて猛抗議するがもちろん受け入れらるはずもない。
「……わかったぜ。じゃあ、せめてサラの居場所を教えてくれ!」
「……あの、何がわかったのですか?サラさんとの接触は禁止とお話ししたはずですが?」
ギルド職員が困惑した表情を見せるがカリスは気にしない。
「俺がサラに直接聞くって言ってんだ!頭悪いな!」
ギルド職員が頭痛で頭を押さえる。
その気持ちがベルフィ達はよくわかった。
何故なら彼らも頭が痛かったからだ。
当然の事ながらギルド職員がサラの居場所を教える事はなかった。
ベルフィ達は懸賞金を受け取るとその一部をヴィヴィの口座へ振り込む事にした。
金色のガルザヘッサ討伐で魔装具を失ったお詫びだ。
ローズまで支払うと聞いてベルフィとナックが驚いた顔をするとローズはムッとした。
「あたいは何もしなかったからねっ」
「盗賊の仕事は戦闘じゃない」
「邪魔はしなかっただろ。誰かと違って」
「うるさいねっ。そうしないとあたいの気が済まないんだよっ!」
ローズはリオから魔法のかかった弓矢を受け取ったものの、結局一矢も放たなかった。
いや、あの混戦のなか、味方に当たるのを危惧して放てなかったのだ。
それを気にしていたのだった。
三人が話しているところへ卑屈な笑みを浮かべたカリスが近づいてきた。
「……何の用だいっ?」
真っ先に気づいたローズが嫌そうな顔を隠しもせずに言った。
「いや、ヴィヴィにやるくらいなら俺にくれよ」
「はあ?何であんたにやらなきゃならないんだよっ」
「家代返金しただろ。あれはどうした?」
「とっくに全部使っちまったぜ。俺よ、絶対懸賞金貰えると思ってたからよ」
「そんなのあたいらの知ったこっちゃないよっ」
「じゃあよ、せめて貸して……」
「「「断る」」」
「ちょ、ちょ待てよっ!副リーダーが困ってんだぜ?」
「一体いつの話をしてるんだ。お前はパーティメンバーですらないだろう」
「何回このやり取りやらせる気だ?」
「そんなこと言うなよ。なあ、わかるだろ?」
「わからんな。金が必要なら依頼を受けて稼げ」
ベルフィはカリスの願いを容赦なく切り捨てる。
だが、カリスは諦めない。
「時間がかかるだろう!じゃ、じゃあ、こうしようぜ。俺、またウィンドに入ってやるよ。それで……」
「必要ない」
「ああ」
「ないね」
「……ざけんな!!」
カリスが怒りを露わに大剣を抜いた。
「……何のつもりだ?」
「副リーダーが困ってんだぞ!」
「違うって言ってんだろ」
「うるさいっ!いいから金寄越せよ!なっ?わかるだろ?サラが待ってんだ!」
「サラはお前など待ってはいない」
「ベルフィ!」
カリスがベルフィに向かって大剣を振り下ろす。
しかし、当たらない。
見事な空振りだった。
だからと言って今の一撃が脅しというわけではなかった。
本気の一撃だった。
だが、ベルフィはカリスと長年一緒にパーティを組んでいたのだ。
カリスの太刀筋を読んでいた。
「見たかサラァ!」
カリスは空振りした直後に決めポーズをとり、サラの姿を探す。
もちろん、いる訳がない。
その隙だらけの顔面にベルフィが鉄拳を食らわすと「ぐへっ」と情けない声を出しながらくるくる回って壁に激突し、あっけなく気絶した。
そこへ遅ればせながらギルドの警備員がやって来て、ギルド内で暴れた罪でカリスをギルド地下の牢屋へ連行していった。
言うまでもなく、剣すら抜いていないベルフィが罪に問われる事はなかった。
「……あいつ、ホント牢屋が似合う奴になったな」
「ああ」
ナックの呟きにベルフィが寂しそうに頷いた。




