168話 偽リサヴィ現る! その1
リサヴィがその村を訪れたのは偶然であった。
村に一つという宿屋兼酒場に向かうと一組のパーティが食事をしていた。
彼らのパーティ構成は戦士二人に魔装士の三人組だった。
戦士のうち一人は巨漢で立ち上がれば二メートルを軽く越えそうであった。
魔装士の魔装具は珍しくヴィヴィと同じカルハン製のものだった。
「いらっしゃい」
「今夜一泊できますか?出来れば三人で貸切にしたいのですが」
「大丈夫ですよ。……にしても」
宿屋の主人がマジマジとサラ達を見る。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、あんたらの組み合わせが、ほらっ、そこのリサヴィの皆さんとそっくりだから」
「……は?リサヴィ?」
サラは振り返り、豪快に飲み食いしているパーティに目を向ける。
「ざっく。あのパーティはリサヴィというのか?」
「ええ。そうです。ご存じないかもしれませんが、リッキー退治専門の方達で安い報酬で依頼を請け負ってくれるですよ」
「リッキー退治専門……ですか」
「ええ!特にギルドに依頼を出す金がない貧しい村では救世主のように扱われてますよ」
「そ、そうですか」
「それで貸切でしたね」
「え?ええ」
サラ達は宿泊代を前払いし、台帳には部屋の代表者としてリオが名前を書いた。
宿屋の主人はリオの名前を見ても何も言わなかった。
サラ達は部屋の鍵を受け取ると二階の借りた部屋へ向かった。
「ざっく。まさか偽物が現れるとはな」
「それもそうですが、リッキー退治専門というのもちょっとどうかと思いますが。そう思いませんかリオ?」
サラが不満を込めてリオに問いかけるが、リオは全然気にしておらず、
「そうなんだ」
といつも通りの返事をするだけだった。
「ざっく。それでどうする?」
「彼らの目的がわかりませんから、とりあえず様子を見ましょう」
「わかった」
「ざっく」
サラとリオが一階の酒場で食事をしている時だった。
偽リサヴィの巨漢ではないほうの戦士の怒鳴り声がサラ達の席まで聞こえてきた。
「よく聞こえなかった!もう一度言ってくれ!」
その戦士と言い争っているのは村長らしき人物だった。
「その、そろそろ畑の警備をお願いしたいのです」
「見てわからねえか?酒飲んじまったから今日は無理だ」
「そんな……リッキーキラーさんが大丈夫だというからお出ししたんですよ」
そう言ったのは宿屋の主人だった。
サラはもう少しで吹くところだった。
(あの偽リオ?は、リッキーキラーって名乗ってるの?頭大丈夫かしら?いえ、偽物やってる時点で普通じゃないわね)
村長の表情が不審に変わる。
「あの、失礼ですが、あなた方はやはりリサヴィではないのでは?」
その言葉に巨漢が立ち上がった。
よく見ればその男の服は女物に見えた。
(って、まさか。いえ、消去法でアレしか残ってないけど……)
「我が鉄拳制裁のサラであーる!」
サラの予想通りであった。
野太い声、姿、どう見ても男にしか見えないその戦士は堂々と名乗り、そのままギロリと村長を睨んだ。
「うっ……」
村長はいろんな意味で怯んだ。
「し、しかし、あんたらが本当にリサヴィでも警備してくれないなら今食った料理から宿泊代まで全部支払ってもらうよ」
宿屋の主人の言葉を聞いて今度は偽ヴィヴィと思われる魔装士が立ち上がる。
その男、そう、ヴィヴィ役は男だった。
偽ヴィヴィは手にした仮面を付けるぞ、と顔の前に持ってきたり離したりしている。
「文句を言うならどうなるかわかってるな?」と脅しているようだった。
しかし、それはまったく効果がなかった。
何故なら魔装士は“棺桶持ち”や“荷物持ち”と冒険者からバカにされているのをここの村人達は知っていたからだ。
効果がないと知ると偽ヴィヴィは少し顔を赤くしながらそっと席につく。
村長達側へ流れが傾きかけたのを自称リッキーキラーが自分達側へ引き戻そうとする。
「残念だなぁ。本当に酔って動けないんだ。そんな俺達を働かそうとするのか。もうタダ働きはやめるかなぁ」
自称リッキーキラーは他の村を人質?にとったのだ。
「そ、そんな……」
村長が動揺する。
サラは流石にこのまま放置することはできなくなり、席を立つと偽リサヴィのテーブルへ向かう。
「あなた達、バカな事をやってないで、さっさと飲み食いした分働きなさい」
「なんだとてめえ!俺らがリサヴィだと知って言ってんのか!」
「知らないですが、それが何か?」
「あのお客さん、助けてくださるのは嬉しいのですが……」
「いえ、大丈夫ですのでまかせて下さい。すぐこの偽物を懲らしめてやりますので」
「偽物って……」
村長が困惑する中で、宿屋の主人が「あっ!」と声を上げた。
「村長!この人達も話に聞くリサヴィと同じパーティ構成でした!」
「え?しかし、」
村長がサラの座っていたテーブルを見る。
そこには騒ぎなど我関せずと食事を続けるリオしかいない。
宿屋の主人はすぐ村長が何を気にしているのか気づいた。
「魔装士もいますっ。今は部屋にいるんですっ」
「と、いうことは本当のリサヴィはあなた方ですか?」
「そ……」
「ちょっと待てーい!」
自称リッキーキラーが勢いよく立ち上がる。
「さてはお前ら俺達の偽物だな!」
「は?」
サラがバカにしたような表情で自称リッキーキラーを見るが、フードを深く被っていたため彼にはわからなかった。
しかし、声だけでも十分意図は伝わった。
自称リッキーキラーは酔っていたためか状況判断が甘かった。
いや、他のメンバーもだ。
だから、
「どっちが本物か勝負だ!」
などと言ってしまったのである。
「私と勝負する暇があるなら警備に行きなさい」
サラの正論を彼らが聞くことはなく、
「ついて来い!」
と言って剣を片手に店の外へ出て行く。
サラはやれやれ、という顔をした後、「すぐ済みますから」と村長に断りを入れて彼らに続いて酒場を出た。
「……あの、あなたはついていかなくていいのですか?」
宿屋の主人が食事を続けるリオに控えめに尋ねるが、
「ん?」
と首を傾げただけだった。




