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167話 強盗退治 その3

 強盗団のアジトへ向かう際、サラは先に来ていたパーティを指揮していたリーダーに呼ばれた。


「サラ、だったな。お前の回復魔法は当てにしている」

「はい」

「だがな、」


 彼はそこで一旦、言葉を切るとリオを指差し、


「狂犬の手綱はしっかり握っててくれよ!」


 とサラにリオを好き勝手にさせるなと釘を刺す。

 リサヴィのリーダーはリオなのだが、サラ達のやり取りを見ていてサラがリーダーだと思ったようだ。

 その事を説明すると面倒になりそうなのでその事は告げずに頷いた。

 ちなみに彼らに危険人物と判断されたのはリオだけでなく、ヴィヴィもだった。

 その結果、リサヴィはアジトの入口に残り、彼らが討ち漏らして逃げ出した強盗の相手をする事になったのだった。

 


 アジトの洞窟に向かって魔術士がスリープの魔法を放ち、リサヴィを除くパーティが突入した。


「出番なさそうだね」

「それに越したことはありません」

「ざっく」


 そこでサラはふと気づいた。

 

(そう言えばさっきのバカパーティの姿はなかったわね。まあ、あの程度の腕では足手纏いにしかならないからよかったわ)



 冒険者達は強盗団のアジトを無事制圧した。

 サラは怪我をした冒険者や救出した村人の治療を手伝ったが、リオとヴィヴィには出番がなかった。

 この強盗団の名前となっている三本腕だが、リオが倒した強盗団の頭が三本腕の一本であった。

 また、アジトにももう一本がおり、こちらは冒険者達によって討ち取られたが、最後の一本は見つからなかった。

 降参した強盗に聞いたところによると今回、最初からいなかったらしい。



 リサヴィが依頼達成の報告のため冒険者ギルドに訪れると対応に現れたギルド職員にえらい剣幕で怒鳴られた。

 実はリサヴィより先にサラに勧誘を断られたあのバカパーティがやって来て嘘の報告をしていたのだ。

 リオが倒した三本腕の一人であった強盗団の頭の首をバカパーティが持って来た事でギルド職員は彼らの言う事を信じてしまったのだ。

 何も知らないリオ達はギルド職員と会話が噛み合わずに首を傾げる。

 サラは最初、このギルド職員はリサヴィが受けた依頼が強盗退治のみと言う事を知らないからだと思っていたが、話を聞くとどうもそれだけではないような気がしてきた。


 リオが再び首を傾げたのを見てギルド職員はバカにされたと思い、怒りが頂点に達した。

 だが、その怒りが爆発することはなかった。

 リサヴィに強盗退治依頼をした係長が話に割って入って来たのだ。


「ここは私がやるから君は下がっていなさい」

「な、……係長!こんな奴らの相手をする事はありません!コイツらは冒険者失格ですよ!」

「黙れ!」


 ギルド職員は「ひっ」と悲鳴を上げて尻餅をついた。

 係長はそのギルド職員に向けた表情とは打って変わり、申し訳なさそうな表情でリサヴィに謝罪した。


「すみません。これは新人でまだ何もわかっていないのです」

「いえ」


 係長の謝罪にサラが返事をする。


「今回は本当にありがとうございました。懸賞金についても後ほど口座の方へ振り込みますが、振り込み先はどうしましょうか?」

「ん?懸賞金?」

「係長!あれは……」

「黙ってろと言ったのが聞こえなかったのか!」

「は、はいぃぃ……」


 最初に対応していた新人のギルド職員は怯えながら口を閉じたが納得はしていないようだった。


「リオさん、でしたね、あなたが倒した強盗の一人が三本腕の一人だったのです」

「そうなんだ」


 係長の言葉を聞き、新人ギルド職員は頭が混乱した。

 それは別のパーティが倒したんだ、何を言ってるんだと。

 新人ギルド職員の混乱をよそにサラが係長に確認をする。


「すみません、私達はその者の首を持ってきてませんが」

「はい。知っております。実はその首を他のパーティが自分達が倒したと嘘を言って持って来たのです」

「そうでしたか」

「え……嘘?……そ、そんな……」


 新人ギルド職員の呟きを無視して係長は続ける。


「サラさん、あなたには村の皆さんが感謝していましたよ。あなたが来なければもっと犠牲者が出ていた事でしょう」

「私は出来るだけの事を行っただけです」

「いえいえ。そう思っても実際に無償で行動してくれる神官は少ないのですよ」

「……はあ。同じ神官としてなんと言っていいのか」

「あ、嫌味ではありませんよ。サラさんには本当に感謝しています」

「ありがとうございます」



 リサヴィが去った後、新人ギルド職員はまだ納得できないようで係長に食ってかかって来た。


「係長!確かに俺はミスをしたかもしれません!彼らは治療もしたんでしょう!でも彼らの暴走のせいで村人や冒険者に死者が出てるんですよ!」


 新人ギルド職員を冷めた目をしながら係長が言った。


「それが彼らリサヴィのせいだと?」

「はい!」

「誰が言った?参加した冒険者みんながそう言ったのか?」

「え……?」

「確かに今回、村人に死者がでた」

「そ、そうですっ!その事実は変わりません!」

「だが、それはリサヴィが来る前のことだ」

「……え?」

「リサヴィは確かに強引なやり方をして村人に怪我をさせた。それは事実だ。だが、彼らは村人から死者を一人も出していない。参加したほとんどの冒険者と村人全員の証言だ」

「え……で、でも、そんな……」

「お前が聞いた話は、ほとんど、から外れた懸賞首を自分達が討ったと嘘をついた冒険者の意見だろう」


 新人ギルド職員はガックリと首を垂れる。


「そ、そんな……でも……」


 新人ギルド職員は正義感あふれる人物であるが、残念な事に何が本当で何が嘘かを見抜く力が足りなかった。


「今回、参加した冒険者は大勢いた。何故、彼らに話を聞かなかった?何故、先に報告に来た冒険者達の言葉を信じ、後から来たリサヴィの言う事を信じなかった?」

「そ、それは彼らの態度があまりにも……」

「態度がいいものは正直者で悪いものは嘘つきか?」

「そ、それは違う、と思います……」

「では真実は先着順で決まるのか?」

「ち、違います……」

「思い込みで軽率な判断をするな」

「……すみません」

「謝るのは私ではない」

「はい……」


 とはいえ、既にリサヴィの姿はない。

 新人ギルド職員は重要な事を思い出した。


「あのっ、係長、その、懸賞金の件ですが……」


 新人ギルド職員はバカパーティに急ぎで金が必要だと急かされ、更に煽てられて気をよくした彼はすぐに支払い手続きの書類を作成して提出していたのだった。

 その書類を準備していたので他の冒険者への聞き取りが疎かになっていたのである。


「安心しろ。処理は止めてある」

「あ、ありがとうございます!」

「うむ」


 実はやる事が多過ぎて係長のところで止まっていただけなのだが、余計な事は言わなかった。


「では、次にお前がやる事はわかっているな?」

「はいっ。俺を騙したくそパーティを懲らしめてやります!」


 係長は満足げに頷いた。



 後日談。

 バカパーティは懸賞金が手に入ると大喜びし、すぐに大金が入るからとあちこちから金を借りまくって豪遊していた。

 ギルドからの呼び出しにウキウキしながら向かい、嘘がバレていた事を知って慌てて言い訳をするが聞き入れられるわけはない。

 当然、懸賞金が彼らに支払われる事はなく、それどころか偽証罪でランク降格処分を受けた。

 彼らは借りた金を返せず、借金取りに追われて街から逃げ出したのだった。

 こうしてリサヴィに関わったことでバカパーティは不幸になったのだが、自業自得である。


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