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164話 リッキーキラー

「ありがとうございました!」

「いえ。ではこちらにサインをお願いします」


 リッキー退治を終え、サラは村長から依頼完了のサインをもらう。


「では、私達はこれで」

「はい。噂に違わぬお手並みに感動しました」


 サラは村長が口にした言葉が引っかかった。


「噂、ですか?」

「はい。リッキー退治を専門に行なっているのですよね」

「いえ、私達は……」

「本当にとても手際がよかったです」

「それは、ありがとうございます」

「それに無茶な要求をしてきません。冒険者の中にはギルド報酬の他に更に報酬を要求する者もいるのです。それも大して役に立たなかったのにです」


 村長は過去に嫌なことがあったのか苦い顔をするが、すぐに笑顔に戻る。


「ですが、あなた方はそんな事を要求しませんでしたし、それどころか仕留めたリッキーもお譲り頂けました。本当にあなた方に依頼してよかったです!」

「は、はあ。それはどうも……あれ?私達?」


 今回のリッキー退治は依頼掲示板に貼っていたものではなかった。

 ギルドを訪れた際に受付嬢がちょうど依頼掲示板に貼りに向かおうとしていたものだった。

 たまたま受付嬢に話しかけられ、リオが即答して依頼を受けることになった、はずだった。


(そう、この依頼を受けたのは偶然だったはず、でも……)


 村長は気分を良くしており、口を滑らしたことに気づいていない。


「実際のところ、獲物をお譲りいただいてプラスになった村もあるとか」

「……他の村での私達の活動をご存じなんですね」

「……あ」


 村長はサラの表情から自分が余計なことを話したことに気づき、動揺を見せる。

 サラはカラクリがわかったが、その事には触れず、


「大丈夫ですよ。私達はこの報酬で納得してますので」

「は、ははは。そ、それを聞いてほっとしました。私が余計なこといって今後の条件が上がったりしたら他の村に恨まれますので……」

「そうですか」


 リオ達は気まずそうにしている村長や村人に見送られ、村を後にした。


「リオ」

「ん?」

「私にばかり対応させないで自分やってはどうですか?このパーティのリーダーはあなたなんですよ」

「わかった」


(相変わらず軽いわね……本当にわかったのかしら)


 念を押してもその時になってみないとわからないのでこの話はここまでとして本題に入る。


「リオ、さっきの村長の話、どう思いました?」

「ん?」


 リオは首を捻る。

 サラはため息をついてヴィヴィに顔を向ける。


「あなたは?」

「ざっく。私達は完全にリッキー退治専門だと思われているようだな」

「そうなんだ」

「ええ。それもギルドがグルになっているようです」

「そうなんだ」

「ざっく。確かに最近はリッキー退治しか依頼は受けていないな」

「ええ。リオが優先的に選んでいたこともありましたが、ギルドも私達に優先的にあてがっていたようです」

「ざっく。指名依頼か。私達も偉くなったものだな」

「本来はもっと実績のあるパーティが得られる特権なのですが。他のパーティにエコ贔屓されていると恨まれそうですね」


 ヴィヴィの言葉もサラの言葉ももちろん本心ではない。

 リッキーは魔物の中でも弱く危険は少ないが、動きが素早く退治し難いのに報酬が少ないので、冒険者達に嫌われている依頼の一つだった。


「なんかマズイの?」

「正直微妙です。リッキー退治を沢山こなしたからといってパーティの名声が上がるわけではありません」

「ざっく。逆に冒険者達からは見下されるな」

「そうなんだ」


 ヴィヴィの発した言葉は現実となり、リオに降りかかってくることになるのだが、その事を知る由もない。

 

「とはいえ、村人達に感謝されているのは確かなので決して無駄ではありません」

「そうだね」

「リッキー退治の報酬だけでは経費を考えるとマイナスになることもありますが、退治して得たプリミティブの売却益も含めればマイナスになることもないでしょう」

「そうだね」

「そしてギルドポイントは少ないですが、リオは冒険者ランクを急いで上げたいわけではないのでしょう?」

「そうだね。ランク上がるとリッキー退治受けられなくなるんだよね?」

「今ほど依頼は受けられなくなりますね。ギルドを介さず依頼を受ければ別ですが」

「サラ達はランク上げたいのかな?」

「私は特に」

「ざっく。私も気にしていないな」

「じゃ、今のままでいいんじゃない」

「では、今まで通りで行きましょう」

「わかった」

「ざっく」



 ギルドにて依頼完了報告を行い、宿屋へ向かっているときだった。


「おい待て!リッキーキラー!って、待てって言ってんだろ!」


 ギルドから後を追ってきた冒険者がリオ達を追い越すとリオの前に立ち塞がった。


「待てって言ってんだろうが!」


 いつもぼーとしているリオでも自分を睨んでいる男を見れば、流石にそのリッキーキラーとやらが自分のことを指していると気づいた。


「リッキーキラーって僕のこと?」

「他に誰がいる!」

「僕の名前はリッキーキラーじゃないよ」

「アホか!お前の二つ名だ!二つ名!お前はえっと、リサヴィの……なんとかだろ!惚けても無駄だぞ!ギルドでのやりとり見てたからな!」


 男はリオがギルドで依頼完了報告をしていた様子を見ていたようだ。


「そうなんだ。それで僕に二つ名?」

「おうっ。リッキー退治の依頼ばかりしてるだろっ。だからお前、リッキーキラーって呼ばれてんだよ」

「そうなんだ」


 男はリオの表情に変化がないので感情が読めなかった。

 男は馬鹿にして呼んだ二つ名でリオが喜ぶとムカつくので補足する。


「言っとくけどな、褒めてねえぞ!悪口だ悪口!」

「そうなんだ」

「なんかやる気削ぐ奴だなぁ。なんなんだお前は……」

「困ったね」

「お前が言うな!……ったく。サラって奴は本当にコイツが勇者になると思ってんのか?……いや、やっぱりショタコンって噂の方が信憑性あるな」

「な……」

「おい、リッキーキラー!お前んとこにサラって名の神官いるだろ!そいつがあの鉄拳制裁のサラなんだろ!ショタコンのサラなんだろ!!」

「なっ……」

「ん?サラなら……」

「いや、隠しても無駄だ!俺にはわかってるんだ!今、サラとは別行動してんだな!なら丁度いいぜ!サラは俺らのパーティが貰うぜ!リッキー退治専門パーティには勿体無いからな!」


 男は言いたい事を言うとダッと走り去っていった。

 

「ざっく。追いかけなくていいのか?」


 ヴィヴィがサラを見た。

 そう、サラは最初からリオ達と一緒にいたのだが、戦士の格好をしてフードを深く被っていたので男は気づかなかったのだ。

 珍しくギルドでのやりとりをリオが行ったのが幸いしたようだ。


「必要ありません。人違いです」

「そうなんだ」

「はい、私はショタコンではありませんので」

「ざっく」

「……何か?」


 サラに睨まれヴィヴィはそっぽを向いた。


「それにしても私が旅に出た事を知ってるのはともかく、どこでリサヴィにいる事を知ったのかしら?」

「ぐふ。酔っ払って自分で吹聴したのではないか」

「失礼ね!そんなことするわけないでしょ!……まあ、可能性としてはフルモロか金色のガルザヘッサ退治くらいしか思い浮かばないけど」

「ざっく。さっきの奴を追っかけて聞けばいいではないか。そのままパーティに入っても構わんぞ」

「そんな事するわけないでしょ!……ったく」



「しかし、リッキーキラー、ですか。彼も言っていましたが、あまりよい二つ名とは言えません」

「そうなんだ」

「ざっく。ショタコンのサラといい勝負だな」

「そんな呼ばれ方していません!」

「やっぱり鉄拳制裁の方がいい?」

「私は認めていません」

「じゃあ、飯マズのサラはどうかな?」

「ざっく!決まりだな」

「失礼ですね!嫌に決まってるでしょう!なんで一度の失敗でそんな二つ名つけれられないといけないのですか!てか、大体、いつの間に私の二つ名を作る話になったんですか!」


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