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163話 奈落の底に潜むモノ

 ラフェインの指揮のもと、ゴロツキ共とグルだった兵士が次々と捕まった。

 ゴロツキの所持品やアジトを調べるとほとんどが元冒険者だった事がわかったが、現役の冒険者も含まれていた。

 その連絡を受け、冒険者ギルドは大騒ぎとなった。

 特に悪事を行っていた現役冒険者の多くが所属していたフルモロギルドのギルマスは頭を抱えた。



 ビットヴァイの秘密部屋はマリナのパーティにより発見された。

 その中には誘拐された者達がいたが、“生きている”だけで人の姿からはほど遠い姿になっている者もおり、気の弱い者だったら発狂するレベルのとても酷いものだった。

 肝心の彼女らが探していたパーティメンバーは見つからず、ゴロツキの所持品の中にもそれらしいものはなかった。

 そしてフルモロ大迷宮の封鎖に伴い、以後の調査は騎士団が引き継ぐとしてマリナのパーティは泣く泣くフルモロ大迷宮を後にした。

 なお、ビットヴァイの秘密部屋だが、ここの壁にもゴロツキどものアジトにあった縦穴、奈落があった。



 ラフェインは誰にも知られていない秘密部屋、そして奈落とゴロツキ達が呼んでいた縦穴が今まで発見されなかった事に疑問を持った。

 賞金首のビットヴァイがどうやってフルモロ大迷宮へ忍びこむことが出来たのかも未だ不明だ。

 これらから何者かが秘密部屋などの存在を隠蔽し、ビットヴァイの侵入の手引きしたのではないかとの結論に至った。

 この事件にはまだ何かある、と考えたラフェインは自ら大迷宮の調査に乗り出すことにした。


 ただ、それには解決すべき問題があった。

 フルモロ大迷宮の上層は公国最大の観光地で、下層は数少ない活ダンジョンでもある。

 活ダンジョンとは魔物が存在するダンジョンの事である。

 魔物が一掃されたダンジョンを休ダンジョンと呼び、現在はほとんどのダンジョンが休ダンジョンである。

 フルモロ大迷宮の下層は魔物が出現する危険な場所であると同時にプリミティブを含めた魔物の素材が無尽蔵に得られる公国の大きな収入源でもあるのだ。

 そのフルモロ大迷宮を長期で閉鎖する事に難色を示す者もいた。

 だが、公国の有力貴族であり、責任者でもあるラフェインの強い進言とジュアス教団からの圧力もあり三ヶ月間の閉鎖が決定された。

 閉鎖にあたり、ラフェインには一定数の魔物を討伐し素材を確保することが条件の一つに加えられた。



 公国の決定にアウリンが兄であるラフェインに文句を言っていた。


「兄上、たった三ヶ月でこの大迷宮を隅々まで調査するなんて無茶です!」


 アウリンの言う通り三ヶ月では全く足りない。

 現在、六十九階層まで到達しているが、最短ルートで進んだとしても休憩、魔物との戦闘を考慮して二十日は見ておく必要がある。

 つまり、往復するだけで約一.五ヶ月もかかるのだ。

 しかもこの大迷宮は深層へ向かうほど広くなっていく。

 過去に冒険者や公国兵が作成したマップはあるが、今回の件で不完全である事が判明した。

 ゴロツキやビットヴァイの秘密部屋はマップ上には存在しない通路の先にあったのだ。

 そのため、既存のマップをアップデートする必要も出てきていた。

 魔物が出没する中で、周囲を警戒をしながら迷宮の構造を詳細に調査していたらとても時間が足りない。

 更に言えば、深層の魔物と戦える騎士となれば、公国で一、二を争う強さを誇るラフェインの第二騎士団でもその数は限られるのだ。



「……わかっている。しかし、それでもやるしかない」

「でもっ」

「落ち着け。私も馬鹿じゃない。一気にすべての階層を調査する気はない。というか流石に無理だ。だから三ヶ月で三十階層を目標とする」

「三十階層ですか?」

「ああ。報告によれば魔界の門を守る守備隊以外で三十階層を超える者はほとんどいないという。であればとりあえずそこまで調査を終えれば、閉鎖を解除しても支障はないだろう」

「そうですか……でも、兄上はその後も調査を継続するのでしょう?」

「当然だ」

「何ヶ月も地上に戻れないですよ」

「それでもこのままにしてはおけない」

「わかりました」

「言っておくが、お前は連れて行く気はないぞ」

「なっ!?兄上!何を言うんですか!私を特別扱いしないでください!」

「いや、連れて行く方が特別扱いになる。ーー今のお前の腕では二十階層がせいぜいだろう」

「そんな……、私は大丈夫です!」


 負けん気の強いアウリンにラフェインはため息をついた。

 

「今だけ、お前の兄に戻ろう」


 アウリンはラフェインが何を言いたいのかすぐにわかった。


「いません。嫌です」

「……まだ何も言ってないんだが」

「兄上が言いたいことはわかります。『好きな男はいないのか』『見合いをしたらどうだ』でしょ?」

「その通りだが、それは私だけでなく父上や母上の意見でもある」

「じゃあ、兄上がご結婚されたら私も考えます」

「……」


(どの口が言うんだ。その見合いをお前がことごとく潰してるだろう)


 とはいえ、ラフェインもまだ結婚するつもりはないのでその事には全く怒っていなかった。

 ラフェインは深いため息をついた。


「わかった。だが、二十階層までだぞ」

「はい」


 アウリンの満面の笑みを見て、ラフェインは再びため息をついた。

 その笑みは返事とは裏腹に「帰りません」と言っているように見えたからだ。



「そうだ。兄上。兄上の女関係で思い出しました」

「おい、言い方……」


 ラフェインの抗議を無視してアウリンは続ける。


「あの、サラとかいう神官には気をつけてください」

「どういう意味だ?」

「気づかなかったのですか。あの女、兄上をずっと見ていたではないですか。一瞬でしたがすごい目で見ましたよ!私は見逃しません!」


 その言葉にラフェインは首を傾げる。


「何を言ってるんだ。彼女が見ていたのはお前だろう」

「え……?」


 アウリンは素で驚いた顔をする。


「それで私も思い出した。お前がサラ殿に話しかけに言ったから知り合いだと思ったのだが、どこかで会った事があったのか?」

「いえ、あの時が初対面ですけど」

「そうか」


 アウリンはラフェインに言われて改めてその時の事を思い出してみる。

 確かに言われてみればサラは自分を見ていたようにも思えてきた。

 アウリンはすべての女はラフェインに見惚れるはず、という固定観念にとらわれて男性ならともかく女性のサラが自分を見ていたとは思いもしなかったのだ。

 

(あの女、ショタコンって噂があるようだけど、女にも興味があったのかしら。危なかったわ。注意しとこっ)


 こうしてサラはまたも本人の気づかぬところで誤解を生んでしまうのだった。



 奈落は、

 地下八階層のゴロツキのアジト、

 地下十三階層のリオが壁をぶち抜いて作った穴、

 地下十三階層のビットヴァイの秘密部屋

 の三つが確認されていたが、地下二十階層までの調査を終えて、地下十九階層でも秘密の部屋が見つかり、そこの壁にも奈落へ通じる穴が見つかった。

 ただ、この秘密部屋は使用している形跡はなかった。

 そしてこの奈落だが、未だどこまで深いのか確認できていない。

 それほど深いのだった。



 奈落と呼ばれるようになったフルモロ大迷宮に存在する謎の縦穴。

 その奈落の底にソレはいた。

 ソレはいつから存在していたのか自分でもわからなかった。

 ソレは知性を持たぬ、ただ生きているだけの存在だったからだ。

 しかし、

 ゴロツキ共やビットヴァイが奈落に放り込んだモノを無意識にエサとして体内に取り込む事でソレは成長を始めた。

 知性のカケラもなかったソレであったが人を食らった事で知性が芽生えた。

 ソレは生き物だけでなく不要と捨てられた武器や防具を始めあらゆるものを吸収していった。

 そしていつの頃からか自分の体をそのモノへ変身する力を身につけていた。



 奈落からエサが落ちてこなくなり、随分時が過ぎた。

 それはサラ達によってゴロツキとビットヴァイが討伐されたからだがそれを知るはずもない。


「ハラ、ヘッタ」


 人の姿をしたソレが呟いた。

 ソレは装備も身につけており、どこから見ても冒険者にしか見えなかった。


「カリ、イクカ」


 ソレは人を食らう事で得た知識の中から今の状況に相応しいと思った言葉を呟くと人の姿から元の姿、液体状の姿に変えて奈落の壁にへばりつくとゆっくりと登り始めた。


 ソレの存在をまだ誰も知らない。


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