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162話 保身で全てを失う

 大迷宮守備隊隊長はさっきまでの勢いはどこへやら、卑屈な笑顔をラフェインに向ける。


「ど、どうしてあなたがここに?」

「第二神殿のナナル神官長から要請があったのだ」

「な……、あの、六英雄の一人のナナル殿ですかっ!?一体何を……」

「ナナル殿の命を受けた者がフルモロ大迷宮の視察に行くので便宜を図って欲しい、と教団を通して公国に要請があったのだ。それで私は公王様より直々にご命令を賜りここへ来たというわけだ」


 サラはラフェインの言葉を聞き、フルモロ大迷宮に到着してすぐにナナル宛に手紙を出した事を思い出す。


(流石ナナル様!そしてナイスよ私!)


 サラが心の中で自画自賛をしている中、現実ではラフェインが話している者がサラである事を知らず隊長が愚行を続けていた。


「え?ナナル殿の?そ、それは大変ですね!お、おいっ!すぐその犯罪者共を捕らえて牢へ連れて行け!逆らうなら殺しても構わん!」

「それには及ばん」

「いや、しかし、その方が来るまでにこのゴミ共を処理しませんと……」

「私ならここにいます」


 カクカクと隊長の首が動き、声の主、一歩前に出たサラを見た。


「な、何をふざけた事を!お前は戦士ではないか!」

「神官がいつも神官服を着ているとでも思っているのですか?」


 ラフェインが隊長を無視してサラの元へやってきた。

 その後ろを当然とでもいうように妹のアウリンが続く。

 

「あなたがサラ殿でしたか。私は公国第二騎士団団長のラフェイン・ヒュースです。到着が遅れまして申し訳ありません」

「いえ。でも助かりました。もう少しで冤罪で捕まるところでした」

「あ、あ、そんな……」


 隊長は顔が青ざめガクガクと震える。


「隊長、視察に来られたサラ殿が悪事をするとは私には到底信じられないのだがな」


 ラフェインが隊長を冷ややかな目で見つめる。


「いやっ、そんな悪事などとはっ!サラ殿は、な、なあ、サラ殿!私は最初から疑ってなどいませんでしたよっ!は、はははっ」


 サラは彼の目が必死に口裏を合わせてくれと訴えているのに気づいていたが、もちろん罪を着せようとした者を助けてやる義理も情もない。


「ラフェイン殿、今回の一件は非常に大きな問題だと感じております。大迷宮でこのような悪事が起こっていたこともそうですが、まさか、事実を報告した私が犯人にされるとは思ってもみませんでした」

「大変申し訳なく思っております」


 ラフェインが深く頭を下げる。

 その姿を不満気に見つめるアウリン。


「今回の不祥事は私からナナル様に全て包み隠さず報告します」

「なっ!?」


 サラの言葉に隊長はこれ以上ないというくらい顔が真っ青になり、いつ倒れてもおかしくなかった。

 それも当然のことであろう。

 フルモロ大迷宮にある魔界の門の封印はジュアス教団の協力があってこそである。

 ナナルは教団の英雄でもあり、その発言は他の神官とは全く重みが違う。

 ナナルの対応によっては最悪の場合、フルモロ大迷宮から神官達が引き上げるという事態にもなりかねないのだ。

 隊長は大慌てでサラに詰め寄る。


「待てっ!いやっ、待ってくださいサラ殿!」

「いや、サラ殿の言う通りだ。ここは潔くすべて正直に報告し、教団からの判断を待つべきだろう」

「そ、そんな事をされたら私の出世、いや家に……」

「知ったことか」


 ラフェインが隊長の言葉を切り捨て、アウリンが続く。


「まさか、魔族侵攻を食い止めた地であるフルモロ大迷宮がクズの温床になっていたなんて、公国の民の一人として恥ずかしいです!」

「ラフェイン殿、アウリン殿も落ち着いてください!」

「ざっく。お前が落ち着け」

「なんだと!棺桶持ち風情が!」


 意地が悪い事で定評のあるヴィヴィである。

 今が好機とばかりに隊長をじわじわと痛ぶり始める。

 

「ざっく。私達はナナルと同じく六英雄の一人であるユーフィの元へも向かう予定だ。彼女も当然今のフルモロ大迷宮の状況を気にしているだろうから今回の事を詳細に報告するとしよう」

「き、貴様!そんな事をすればレリティア王国と外交問題に発展するぞ!そうなってもいいのか!?」


 六英雄の一人であるユーフィは大陸北部の国、レリティア王国が誇る偉大な魔術士である。

 ナナルと同様にその影響力は計り知れない。


「ざっく。何故私が困ると思うのだ?」

「うっ……」


 隊長はヴィヴィの言葉を聞いて余所者のヴィヴィには全く意味のない脅しだったと気づく。


「済まないサラ殿、パーティの方々、そしてご迷惑をかけた方々にも謝罪する」


 ラフェインが再び頭を下げる。

 それにはアウリンがもう我慢出来ないと抗議の声を上げる。


「兄上!兄上がそこまでする必要はありません!それはこの無能がすべき事です」

「む、無能……」


 アウリンに指を差された隊長が呆然とする。


「何故この無能の尻拭いを兄上がするのです!」

「国外の方には関係ない事だ。それに今回の件は私が公王様直々に賜ったことでもある。済んでしまったこととはいえ、全く責任がないとは言えない」

「ラフェイン殿」

「なんでしょうかサラ殿」

「今回の犯罪に加担した者の調査と逮捕を至急お願いします。ナナル様を始め六英雄の方々の名誉を汚した者どもを私は許せません」

「もちろんです」


 サラは更にゴロツキどもがアジトにしていた秘密部屋が八階にあること、

 そこにはどこまで続くかわからない縦穴があり、ゴロツキどもは冒険者達の死体をその穴へ捨てていたこと、

 そして、賞金首のビットヴァイという人体実験好きの変態が十三階にいたことを伝えた。

 ビットヴァイの事を聞き、ラフェインを始め騎士達が驚きの表情をする。

 

「ビットヴァイ!!奴もこの大迷宮にいたのですか!?」

「はい。倒した今も彼の体は特殊な毒を持っており、通常の解毒剤はもちろんのこと魔法でも治せませんでした。死体には直接触れぬよう十分注意してください」

「わかりました」

「あと恐らく十三階かその前後の階にビットヴァイが隠れていた秘密部屋があると思われます。そこにはまだ誘拐された者達が囚われているかもしれませんのでこちらも至急調査をお願いします」


 更にマリナのパーティがその秘密部屋を探している事を告げる。


「わかりました。これは一度フルモロ大迷宮を閉鎖した方がいいようだーーおいっ」


 ラフェインの行動は早かった。

 部下に次々に命令を下す。

 彼の部下達は文句ひとつ言わず直ぐに行動に移った。


「アウリン、連れて来た騎士だけでは数が足りない」

「わかったわ兄上。交代要員を含めて至急手配するわ」

「ああ、頼む」

「はい!」


 アウリンは大好きな兄の命令に嬉しそうに応える。

 しかし、アウリンはすぐには出て行かず、サラの側にやって来た。


「……え?あの……」

「あなた、兄上をジロジロ見過ぎよ」


 アウリンはサラにだけ聞こえるような大きさで声に不機嫌を上乗せして呟いた。


「あ……」


 サラは未来予知で見たアウリンが現実に現れたのを見て動揺した。

 それを必死に隠し何事もないように振る舞っていたつもりだったが、無意識にアウリンを目で追っていたようだ。

 それをアウリンはラフェインを見ていると勘違いしたのだ。


(……うん、性格は未来予知で見たのと同じでブラコンね)


 アウリンは言いたいことを言うと命令を実行するために去っていった。


(未来予知で出会ったアウリンは初対面の時に私が彼女を殴った、と言ったけど、現実では起こらなかった。つまり、あの未来は変わったと見ていいって事よね!)


 最近見た悲惨な未来が回避されたのだと思い、サラはひとり安堵した。



 ゴロツキに囚われていた女冒険者達だが、一旦、ラフェインの第二騎士団で保護することになった。

 公国兵は信用できないと言っていた彼女達であるが、騎士は別だったようだ。

 というか、ラフェインを見る目が熱い。

 流石、冒険者だけあって神経がズブと……切り替えが早いようだ。

 彼女達はサラ達に助けてもらったことへの感謝を述べ、その場で別れた。



 その後、リオ達はラフェインがもう少し話を聞きたいと言うので場所を変えて質問に答えた。

 話が終わりラフェインと別れた後、今後のことについて相談する。


「さて、私達はどうしますか?戻ってマリナ達に協力しますか?封鎖されたとはいえ、私達なら大迷宮に入れてくれるかもしれませんよ」

「ざっく。騎士団が協力するのだ。私達まで加わる必要はないだろう」

「そうだね」

「わかりました」


 サラも人手は十分足りていると思っていたので積極的に手伝おうとは言わなかった。



 サラはリオにどうしても聞いておきたい事があった。

 それはリオが悪党とはいえ、人を殺した事だ。

 サラ自身は第二神殿にいた時、神殿騎士団と共に盗賊退治をしており、その時に殺した事がある。

 その日はよく寝れなかった事を覚えている。

 もちろん今はそんな事はない。


「リオ」

「ん?」

「リオは今回、初めて人を殺したのですよね?」


 サラの質問にヴィヴィもリオを見た。


「そうだと思うよ」

「その……大丈夫ですか?」

「意味がわからないけど?」

「魔物ではなく人を殺したのですよ」


 その質問を聞き、リオが不思議そうな表情をした。

 

「魔物と人で何か違うの?」


 以前、サラはリオに同じような質問をしたが、その答えは実際に人を殺した今も変わらなかった。

 リオは感情が表に出にくいので見た目では判断つかないが、本当にそう思っている、とサラは感じた。


「……いえ、それならいいです」

「そうなんだ」


「では、気を取り直して次の目的地、レリティア王国王都セユウに向かいましょう。そこでヴィヴィの装備を整えたらユーフィ様のところですね!ヴィヴィも行きたがっていたようですし!」

「……」


 迷宮守備隊の隊長をいたぶるためについうっかり口を滑らせた事をヴィヴィは後悔する。

 ヴィヴィはサラの言う通りになるのが面白くなく、リオの意見を求めた。


「ざっく。リオもそれでいいのか?」

「いいよ」


 リオは深く考える様子もなく答えた。



 大迷宮守備隊の隊長は今回の失態により役職を解かれただけでなく、一族から追放された。

 もし、罪を着せようとした相手がナナルの弟子であるサラでなければここまで酷い処罰を受けることはなかったかもしれない。

 隊長、いや、元隊長自身は今回の犯罪に手を染めていなかったが、事件を隠蔽しようとしたがために全てを失ったのだった。



 公国は今回の件を重く見て、フルモロ大迷宮の調査を正式にラフェインの第二騎士団に命じたのだった。


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