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161話 未来からの再会

 サラ達が地下八階層に上がると騒ぎが起こっていた。

 サラ達が放置したゴロツキ共の死体を誰かが見つけて兵士に通報したようだ。

 サラ達はその場を避けてゴロツキのアジトへ向かった。

 アジトはサラ達が出て行った時のままだった。

 唯一の生き残りの兵士だが、逃げないように足を折り、更にグルグル巻きにしていたのだが、出た時と同じ場所に転がっていた。

 

「さて、どうしましょうか?」


 サラが今後の方針について尋ねる。


「ざっく。ゴロツキの死体がある場所にいた兵士達もゴロツキとグルである可能性があるぞ」

「ええ。しかし、それならこのアジトを、そこの兵士を放置しておくとは思えません」

「ざっく、それもそうだな」

「リオ、どうしますか?」

「ん?敵だったらまた倒せばいんじゃない」


 リオの乱暴な発言についてきた女冒険者達も頷く。

 サラには彼女達がその兵士達もゴロツキの仲間である事を望んでいるように見えたが気のせいに思うことにした。


「では、戻りましょう」


 ぐるぐる巻きにした兵士はヴィヴィが担ぎ、みんなで現場に戻った。


「!!お前達!止まれ!!」


 グルグル巻きにした兵士を担ぐヴィヴィを見て兵士達は当然警戒する。


「た、助けろ!こいつらは……むぐっ」

 

 騒ぎ出した兵士の口を女冒険者が塞ぐ。

 いや、口だけなく、鼻まで塞ぎ窒息死させようとしたのでジタバタし暴れ出す。

 

「ざっく、もういいだろう」


 ヴィヴィの声で女冒険者は仕方なさそうに鼻を塞ぐのをやめた。


「私はジュアス教団、第二神殿所属の神官サラです」

「何?」

「ここに転がっているゴロツキとこの兵士の事について説明させてください」


 サラがジュアス教団の神官である事を明かしたのは効果絶大だった。

 兵士達は警戒しつつもサラの話を聞く姿勢になった。


「……いいだろう。話してみろ。ただし、少しでも怪しい動きをしたら敵とみなす」

「はい」


 サラがこれまでの事を説明する。

 幸いにもそこにいた兵士達はゴロツキの仲間ではなかった。

 彼らはヴィヴィが担いだ兵士をはじめ、悪事に加担した兵士達が給料に似合わぬ豪勢な生活をしていたことを怪しく思っていたのでサラの話をすんなり信じてくれた。

 だが、一番はやはり、サラがジュアス教団の神官、それも六英雄の一人であるナナルがいる第二神殿所属だということが大きかったようだ。

 彼ら公国兵にとって六英雄とは公王の次に崇拝すべき対象なのだ。

 ちなみにサラはナナルの弟子であることは黙っていた。

 兵士達はサラの話を聞き終えた後、問題が大き過ぎて彼らでは判断が出来ないとのことで直接大迷宮守備隊の隊長に説明してほしいと言われた。

 サラ達に異論はなく、彼らの一部と共に大迷宮の出口に向かった。



 そして、地上に上がったリオ達を待っていたのは二十を超える兵士だった。

 リオ達は大迷宮を出たところでたちまち彼らに取り囲まれる。

 サラ達は一緒に行動していた兵士から「隊長に魔道具“お話くん”で簡単に説明した」と言われていたので迎えに来ている事自体に驚きはなかったが、


(これではまるで私達が犯罪者みたいね)


 一緒について来た兵士達も想定外の事のようで動揺した様子を見せる。

 輪の中から二人の人物が前に出る。

 一人は偉そうな態度と上官服から大迷宮守備隊の隊長だとわかるが、もう一人は一般兵のようだった。


「隊長!これはどういう事ですか!?」


 サラ達と一緒に上がってきた兵士達が動揺を隠さず尋ねるが、隊長は無言のままで隣の兵士を見た。

 それが合図だったようでその兵士がサラ達を指差し、声高々に叫んだ。

 

「奴らが大迷宮で悪さをしていた冒険者どもです!」


 どうやら、兵士達の中にゴロツキ達の仲間がいたようだった。

 ゴロツキや一緒に悪事を働いた兵士が捕まった事を“お話くん”の連絡で知り、このままでは自分の身も危ういとサラ達に全ての罪をなすりつける事にしたのだった。


「へへっ、俺にこんなことしやがってお前ら全員死刑だからな!さっさと下ろしやがれ!」


 サラ達に連行された兵士が形勢逆転とばかりに頭を振って女冒険者の手を退けると勝ち誇った声を上げた。

 その言葉を聞き、その兵士を担いでいたヴィヴィが無造作に手を放した。

 地面にモロ顔をぶつけて悲鳴を上げる兵士の折れていない方の足にリムーバルバインダーを落として砕き潰した。


「ぎゃあああ!!」

「ざっく。黙れ」


 ヴィヴィはその兵士の顔を踏みつけ、ぐしゃり、と顎を砕くと、その兵士は気絶した。

 そして指差したまま震えている兵士に目を向けた。


「ざっく。貴様、楽に死ねると思うな」

「ひっ……」


 その兵士は恐怖のあまり失禁し、その場にへたり込んだ。



 サラは後手に回り、この後どうすべきかと悩んでいた。

 リオを見ると相変わらずの無表情で何を考えているのかわからない。

 ただ、

 

「……絶望しないな」


 そう呟くのが聞こえた。

 一緒について来た女冒険者達に目をやると恐怖に身を震わせている、

 かと思えばそんな事は全然なく、ヴィヴィに足と顎を砕かれた兵士をザマアミロ、とでも言うような表情で見つめており、今の状況を理解していないように思えた。


(騒がれるよりはマシだけど……しかし、困ったわね)


 困った、というのは勝てない、という意味ではない。

 彼ら全員がゴロツキの仲間とは思えないので、彼らと戦うのに気がひけたのだ。



 隊長は失禁した兵士に見下した視線を向けた後、改めてサラ達を見た。


「わしの管理するフルモロで悪事を働いた事、後悔させてやるぞ」



 大迷宮守備隊の隊長は公国貴族で、そのコネで隊長になった男だった。

 それでも能力を備えていれば問題なかったのだが残念ながら全く不足していた。

 でなければこのような不祥事が今まで露見しないはずがないのだ。

 最初、冒険者達の死体が発見されたと連絡を受けても彼は冒険者同士のいざこざだろう、と大して気にも留めていなかった。

 地下六階層から地下十階層は緩衝地帯に設定しているがあくまでも念のためであり、近年、これらの階層で魔物の出現は報告されていないのだ。

 しかし、新たにこの冒険者達が大迷宮で強盗をしていた悪党であり、それに一部の兵士達まで関与していたと聞いて彼は激怒した。


「なんて事しれくれたんだ!私の経歴に傷がつくではないか!」 


 彼の怒りは少しズレていた。

 そこへ一人の兵士が重要な話があると言って面会に来た。

 面会に来た兵士が言うには、その冒険者達を倒したという者達そこが悪さをしていたのだと言った。

 隊長はすぐにその兵士が悪事を働いた冒険者達の仲間だと気づいた。

 しかし、兵士達が悪事を働いていたことがバレて管理責任を問われるくらいならサラ達にすべての罪を着せて事件を早期解決させてしまおうと考えてその兵士の嘘話に乗ったのだった。

 関与した兵士達の処分は全てが済んだ後に考えるつもりであった。



 サラは雰囲気的に説明しても無駄な気はしたが、自分達の無罪を主張する。


「悪事を働いたのは私達ではありません。私達が八階を棲家にして悪事を働いていたゴロツキ達を退治したのです。残っているのはそこに転がっている男とそこで醜態を晒している男、そしてまだいるであろうその者達の仲間です」

「ふざけるな!貴様は我が公国兵がそんな卑劣な事をすると思うのか!?」

「思うのではなく、事実です。彼女達はその証人です」


 サラ達の後ろにいた女冒険者達が頷く。

 しかし、隊長は事実だろうとそれを認める気はない。


「黙れ黙れ!我が公国兵を侮辱し、かの六英雄の武勇まで汚しおって、貴様らは絶対に許さんぞ!」


 隊長が指示を出すと兵士達が戦闘態勢に入る。

 サラ達と一緒に来た兵士達は困惑した表情を見せ、どちらにつくべきかと態度を決めかねていた。


「ざっく。これはやるしかないな」


 サラは無駄と思いつつも一応リオの意見を聞く。


「リオ、どうします?」

「……絶望は来る気がしないな」

「え?」

「なんでもない。向こうがやる気ならやるよ」


 隊長はサラ達が呑気に話をしているのを見て無視されていると思い、頭に来た。

 

「かかれ!殺しても構わん!」


 その時であった。


「待て」


 決して大きな声ではなかったが、その声はその場にいるすべての者に聞こえた。

 そして、その声に聞き覚えのある兵士達がピタリと動きを止めると、その声の主のために道を開けた。


「こら!何で輪を解く!?誰だ!?勝手に入ってくるな!!」


 隊長は自分の言葉を聞かず、ずかずかと輪の中に入ってきた不届き者を睨みつけるが、相手が誰や知ると一気に顔が青ざめる。


「ラ、ラフェイン団長!?」


 それはローラン公国、第二騎士団団長ラフェインだった。

 その後に彼の部下の騎士達が続く。

 サラはその中に見覚えのある女騎士の姿を見つけ酷く動揺した。


(アウリン!?……間違いない!未来予知で見たアウリンが目の前に、現実に現れた!)


 未来予知で出会った者との再会にサラは動揺を気づかれぬようにするのに必死であった。


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