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160話 冒険者ランクとは

「このままビットヴァイの死体を放置するのは危険ですね」

「よし、じゃあ、一時凌ぎにしかならないが凍らせておくか」


 魔術士がそう言った。


「ざっく、それがいいだろうな」


 それはサラも考えていたことだ。

 神官の神聖魔法に水を作るものはあるが氷を作るものはない。

 少なくともサラは授かっていなかった。

 ヴィヴィがその魔法を持っていたとしても使うとは考え難く困っていたところだった。

 出来れば石化がベストだが、魔物以外で石化魔法を使うのを聞いた事がない。


「ではお願いします」

「ああ、任せろ」


 魔術士は「やっと俺の出番が来たぜっ」と気合を入れてビットヴァイの体を氷漬けにした。

 魔術士の作業が終わったのを見計らったかのように魔物が現れた。


「ちっ、こんな時に!」


 マリナのパーティの戦士が舌打ちをした。


「あ、ウォルーだ」


 リオの緊張感のない呟きにヴィヴィが頷く。


「ざっく。どこにでもいるな」

「そうだね」


 戦士が盗賊を睨む。


「お前の叫び声を聞きつけたんじゃないのか!?」

「す、すまん……」


 盗賊は言うまでもなく、マリナもまだ体調が万全ではない。

 そして魔術士はビットヴァイの死体を氷漬けにするのに気合を入れ過ぎたのか、その前の戦闘から回復し切れていないのか、疲れた表情をしており期待できそうになかった。


「私達が戦います」

「いや、しかしっ、この迷宮のウォルーは強いぞ!」

「そうだ。ウォルーだと舐めてかかると酷い目に遭う!」

「お、俺はマナポーションを飲めばまだ大丈夫だ!」


 魔術士が強がりを見せるが、戦士が止める。


「やめとけ!さっきの戦闘も飲んだだろうが!」

「だが……」

「大丈夫です。あなた達は自分の身を守ことだけを考えてください」


 サラが会話に割り込んでそう言うとウォルーに向かって駆け出す。

 一瞬でウォルーに迫ると鉄拳を放ちその頭を粉砕した。


「え?あれっ?お前、その腰の剣は飾りか!?」


 サラの姿から剣で戦うタイプだと思い込んでいた戦士が思わず突っ込む。

 それはサラが戦うところを見たことがなかったマリナのパーティ全員が思ったことであった。

 サラは戦士の突っ込みを無視し、次々とウォルーを葬っていく。

 こうしてほぼサラ一人によってウォルーは倒されたのだった。



「……なあ、よかったら冒険者ランクを教えてくれないか?あ、俺はまだCランクなんだ」


 神官がサラにどこか自信なげに尋ねてきた。


「あの強さ、それに再生魔法も使えるんだからBランク以上だよな?」


 サラに圧倒的な力の差を見せつけられ、神官は自信を喪失し、なんとか立ち直るきっかけを探していた。

 サラは神官の気持ちがわかり、なんとなく言い難いなと思っていると、空気を読まないことには定評のあるリオがここでも存分に力を発揮した。


「Eだよ」

「いや、お前じゃなく……は?」

「嘘だろっ、お前E!?それでビットヴァイを倒したのかよ!?」

「そうだよ」


 盗賊が驚愕の表情を見せる中で、サラは控えめに言った。


「あの、……私もEです」

「ざっく、私もEだな」


 皆、ポカンとした顔になった。

 

「冒険者ランクとは一体……」


 魔術士がぼそりと呟く。

 真っ先に我に返ったのは盗賊だった。 


「サラ!」

「はい?」

「そうかっ、お前があのサラだったのか!」


 盗賊の言葉に神官も「あっ」とした表情をするが、マリナと戦士はなんのことかわからない。


「なんだよ、あのサラって」

「六英雄の一人、ナナルの弟子が旅立ったと聞いたんだ。スッゲー強いって話だ。その名が、」

「ああ!鉄拳制裁のサラ!」

「あのっ……」

「あなたがそうだったのか!剣士みたいな格好だから気づかなかったがあの戦いぶり!間違いない!あなたが鉄拳制裁のサラだったのだな!」

「だから目立ちたくないのか!鉄拳制裁のサラ!」


 マリナを始め皆がそれなら納得だ、という表情をする。


「あの、その呼び方はやめてください」


 サラが不機嫌そうな表情をしているのに気づく。


「おおっ悪いっ。ともかくっ、ナナル様の弟子のサラで間違いないんだよな!?」


 神官の念押しにサラは渋々頷く。

 サラが鉄拳制裁のサラと知り、神官は自信を取り戻す。

 ナナルの弟子なら俺が負けても仕方がない、と。


「でもなんでEランクなんだ?神官は普通、Dから始めんだろ?」


 盗賊から今までに何度も聞かれた質問がきた。

 それに答えたのはヴィヴィだった。


「ざっく。ショタコンだからだ」

「「「ああ!」」」


 と彼らの視線がリオに集中する。


「ヴィヴィ!全然答えになってない……って、え?あの、今の『ああ!』って、どういう意味ですか?」


 サラの視線を皆が速攻で逸らした。


「あの……」


 プライベートな事に突っ込んではダメだとマリナは気を利かせ?慌てて話題を変える。


「と、ともかくっ、サラ、いやっ、リサヴィ、私達に力を貸してくれないか?ビットヴァイの隠し部屋を探すのを手伝ってほしい!」

「ざっく。それはこの迷宮を管理している公国の仕事だろう」


 ヴィヴィの正論に戦士が食ってかかる。

 

「そりゃその通りだけどよ!もし捕えられているなら早く助けないと手遅れになるかもしれないだろ!」

「そうですね。ですが、ゴロツキの件とビットヴァイが潜伏していた事も公国に早く知らせる必要がありますので二手に別れませんか?報告後、私達も手伝……、リオ、彼らを手伝ってもいいですよね?」


 サラはリオとヴィヴィに相談せずに話を進めているのに気づき念の為に確認する。


「そうなんだ」


 リオの返事を聞き、サラはリオが誘拐された者達の生死に興味がない事がわかった。

 ヴィヴィも先程の発言から興味がない事は明らかだ。


「すみませんが、彼女達のこともありますのでやはり私達は一度地上に戻ります」

「そんなの兵士に……!!」


 と戦士が言いかけてゴロツキとグルだった兵士がいる事を思い出す。


「で、でもよっ……」

「やめろ」

「マリナ!?」

「これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。ーー無理を言って済まなかった」

「いえ。では出来るだけ早く応援を呼ぶにようにします」

「よろしく頼む」

「はい。それとその最後の一本の解毒剤は大切にしてください。それが最後の一本かもしれません」

「ああ、わかった。十分気をつけよう」


 サラ達はマリナ達が行動できるまで回復するのを待ってから別れた。


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