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158話 合流

『ざっく、リオ、無事か?』


 リオがマリナの側で休憩しているとヴィヴィの声が聞こえた。

 そちらへ顔を向けるとリムーバルバインダーがこちらにやって来るのが見えた。

 リオがやって来た方角からであるところをみると、どうやらヴィヴィはリムーバルバインダーをあの穴に落とし、リオの後を追って来たようだ。


「うん、そっちはどう?」

『ざっく。片付いた。そこは何階かわかるか?』

「わからない」

『ざっく、そうか。私もわからんが恐らく十二か十三階層だろう。今からそこへ行くから緊急ではない限りそこを動くな』

「わかった。そうだ、サラいる?」

『ざっく。怪我したのか?』

「僕じゃなくて、見えるかな?」


 そう言ってリオはマリナを指差す。

 リムーバルバインダーがマリナの周囲を回る。


『……ざっく。酷い怪我だな』

「うん、とりあえず、止血してポーション飲ませたけどあまり効果なかったみたい。長く持たないかも」

『ざっく。わかったサラに伝えよう』



「リオ!」


 サラが駆けつけて来た。

 その後にリオの知らない神官が続く。


「サラ、ヴィヴィから聞いてるかな、この人」

「はい」

「マリナ!?嘘だろ!?マリナ!しっかりしろ!!」


 サラと一緒に来た神官が悲鳴を上げる。

 どうやらその神官はマリナと同じパーティのようだった。

 マリナの酷い怪我を見て、アワアワと動揺して動きが固まる。

 サラは前もってヴィヴィから状態を聞いていたが、実際に見てもマリナは重傷だった。

 全身に切り傷があり、右腕は切断されていた。

 切断された腕は止血されていたが既に大量に血を失っているようで顔が青白い。

 サラがマリナのパーティの神官に目をやる。

 

「あなたが治療しますか?……しっかりしなさい!騒いでも怪我は治りませんよ!」


 サラが怒鳴りつけると神官は我に返った。

 怪我人がマリナだった場合、この神官が治療するという話だったのだが、


「お、俺の力じゃこの腕は治せない……」


その神官は悔しそうに首を横に振る。


「わかりました。腕は私が治療します」

「お前っ、出来るのか!?」


 サラの言葉を聞き、神官は驚いた表情を見せる。

 彼はサラが神官だと聞いていたが、それほどの力があるとは思っていなかったのだ。


「はい。ではそれ以外をお願いします。それともすべて私がしますか?」


 治療はサラ一人でも大丈夫なのだが、パーティメンバーの傷は少しでも自分で治したいだろう、とその神官の心情を思ってのことだ。


「いや、俺がやる!やらせてくれ!だが腕は頼む!」

「はい」


 神官がマリナに触れ、神聖魔法を発動するとポーションでは回復しなかった傷が癒えていく。

 そして欠損した腕以外の傷が消えた。


「後は頼む!」

「はい」


 サラは辺りを見回しマリナの腕を見つける。


「リオ、あのマリナの腕を持ってきてください」

「ん?くっつけるの?」

「ええ。今なら可能だと思います。そのほうが体への負担も少ないですし、私の魔力消費も抑えられます」


 サラは再生魔法を使っても魔力が枯渇する事はないが、ここは迷宮の中だ。極力魔力を抑えるに越したことはない。

 だが、リオはサラの言葉に首を横に振った。


「リオ?」

「やめた方がいい」

「え?何故です?」

「あの腕には毒が回ってる。あの毒男が自分の血は毒で神聖魔法でも解毒出来ないって言ってた」

「毒男?」


 リオがビットヴァイの死体を指差す。


「あれはリオが倒したのですか?」

「そうだよ」


 サラは色々聞きたいことがあったが、今はマリナを救う方が先決だと判断する。


「……わかりました。では安全に行きましょう」


 神より授かる神聖魔法とて万能ではない。

 この世には確かに神聖魔法で治療できない病気や毒などが存在する。

 ただ、これらは新たに発見されたものがほとんどで、時と共に神聖魔法により治療できるようになる。

 つまり魔法の効力がアップデートされるのだが、それがいつになるのかわからない。

 サラはリオの言葉を信じ、マリナに再生魔法を使った。

 その際、魔力を抑えるためと効果をアップさせるために呪文を詠唱した。

 マリナの腕は無事再生し、彼女のパーティの神官が安堵した表情を見せる。

 治療は終わったが、マリナは気を失ったままだった。



 しばらくしてヴィヴィがゴロツキに囚われていた女冒険者達を連れてやって来た。

 サラ達は囚われていた女冒険者達を置いて行きたかったがどうしてもついて行くと聞かなかったので、同行を許したのだ。

 更にヴィヴィ達の後にはリオの知らない冒険者達がいた。

 その冒険者達はマリナが倒れている姿を見つけ、「マリナ!」と叫んで駆け寄って来た。

 先に来ていた神官が治療が終わったことを説明すると彼らは安堵の表情を見せる。

 リオの知らないこの冒険者達も神官と同じでマリナのパーティメンバーだった。



 リオはサラからこれまでの説明を受けた。

 今、行動を共にしているマリナのパーティはこの階で魔物の奇襲を受けた。

 混乱から態勢を立て直して魔物を撃退したものの、マリナだけ見つからず探し回っていたところにサラ達と出会った。

 そして、サラの口から女戦士の怪我人がいる事を聞き、「それはマリナかもしれない」と行動を共にしたのだった。



 マリナのパーティの盗賊が転がっている首を見て呟いた。


「……コイツ、懸賞首のビットヴァイじゃないのか?」

「何!?」


 パーティの戦士、魔術士、そしてマリナにつきっきりで周りの様子を見てなかった神官がその首に駆け寄る。

 魔術士がその首を見て頷いた。


「……間違いない。ビットヴァイだ。こんなところに潜んでいやがったのか」

「皆さん!その死体には触らないで下さい!強力な毒を持ってる可能性があります!」


 サラの言葉を聞き、今、まさにビットヴァイの髪を掴もうとしていた盗賊が慌てて手を引っ込める。


「ビットヴァイって?」


 リオがその名に首を傾げる。

 盗賊がビットヴァイを知らないリオに説明を始める。


「コイツは誘拐しては人体実験を繰り返してたクソ野郎だ」

「ああ、もう何十人も被害にあってるって話だな」

「冒険者ギルドだけじゃなく、魔術士ギルドからも懸賞金をかけられていたんだぜ」

「最近、噂を聞かないと思ってたらこんなところに潜んでやがったんだな」

「そうなんだ」

「でよ、こいつ、マリナが倒したんだよな?」


 リオには貫禄がまったくなく、駆け出し冒険者にしか見えない。

 だから、盗賊はあくまでも確認だったのだが、


「僕が倒したよ」


 と、リオの言葉を聞き、驚きを隠せない。

 それは盗賊だけでなく、マリナのパーティメンバー全てだ。

 盗賊は「嘘つけ!」と思わず口に出しそうになったが、マリナを救ったパーティに失礼な事を言ってはまずいと思い、ぐっと我慢した。

 それに嘘かどうかはマリナが気がつけばハッキリする事であった。



「ところでここは何階?」

「は?」


 リオの質問に盗賊が呆然とする。


「ざっく。十三階だ」

「そうなんだ」

「いやっ、ちょっと待ってくれ!お前、なんで自分のいる階を知らないんだ?」

「ん?ああ、ゴロツキのアジト?にあった穴から落ちてこの階に来たからわからなかったんだ」

「ん?ゴロツキ?穴?なんの事だ?」


 盗賊を始め、マリナのパーティが首を傾げる。


「すみません、私達の事情を説明していませんでしたね」


 リオとの合流を最優先にしていたためマリナのパーティには何も話していなかった。

 サラ達は色々な事が次々と起きて休む暇がなかったこともあり、マリナが気がつくまでここで休憩する事にした。

 マリナのパーティもそれに倣う。

 携帯食料で栄養補給しながらサラがマリナのパーティに今までの事を掻い摘んで説明する。

 その話を聞き、


「もしかしたらあの子達もそいつらの犠牲になったのかもしれないな」


 いつから聞いていたのかマリナがそう呟いた。

 

「あの子達?」


 サラの呟きに、


「ああ、実は私達は……」

「おい、説明は俺達がするからお前はまだ休んでいろ」

「……わかった。任せる」


 そう言って、マリナは目を閉じた。

 マリナに代わって神官がフルモロ大迷宮へやって来た理由を話し始める。

 その話によれば、マリナのパーティは自分達を「先輩」と慕っていたパーティがこのフルモロ大迷宮で消息を絶ったのを知り、何か情報が得られないかと探しに来たとのことだった。

 戦士が壁を殴りつける。


「くそっ!ゴロツキどもに殺されたかもしれないって事かよ!」

「もしくはあいつの犠牲になったかもな」


 盗賊がビットヴァイの首を憎々しげに見つめる。

 どちらにしてもそのパーティの生存は絶望に近かった。


「そうだっ!あんたらはゴロツキに囚われてたんだよな!?知らないか!?」


 囚われていた女冒険者達に行方不明になったパーティメンバーの特徴を話すが、「わからない」と首を横に振るだけだった。


「ゴロツキのアジトには冒険者から奪ったものらしい品物もありましたから、それも見てみてはいかがでしょうか?」

「あ、ああ、そうだな……」


 戦士の言葉は重かった。

 そこに所持品があれば、彼らが探しているパーティは全滅しているということだからだ。


「ざっく。望みは薄いが、ビットヴァイとやらの隠れ家に捕らえられているかもしれないな」

「そりゃどこにあんだよ!」


 喧嘩腰に戦士がヴィヴィに詰め寄るが、それを神官が咎める。


「やめろ!親切で言ってくれてるんだぞ!」

「あ、ああ、すまない……」

「ざっく。あるとすればこの十三階かその前後が一番怪しいだろうな」

「確かにな」


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