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157話 猛毒のビットヴァイ その2

「小僧、遊んでやるぜっ」

「そうなんだ」


 ビットヴァイの上から目線の言葉にリオは相変わらず無表情で返事した。


「おーっと、その前にお前のランクはなんだ?ちなみに俺はCだぜ」

「Eだよ」

「ちぇっ、やっぱ格下かよ。いや、でもEがここまで来れるのか?お前、嘘ついてんじゃねえだろうな?」

「ん?」


 リオは首を傾げる。

 その様子を見てビットヴァイはリオの頭が弱いと思った。


「いや、もういい。さっさと始めよう、ぜっ!」


 ビットヴァイはリオと剣を交わして、リオの剣の腕が自分より上であることに驚いたが、負ける気は全くなかった。

 リオはビットヴァイに傷を負わせたが致命傷ではなかった。

 ビットヴァイの傷口から噴き出した血がリオの頬にかかった。


「!?」


 リオは違和感を覚えてビットヴァイから距離を取る。

 ビットヴァイは追撃してこなかった。

 その顔に笑みを浮かべる。


「ははははっ!お前も終わったな!」

「……言ってる意味がわからない」


 リオは頬に付いた血を袖で拭い、剣を構える。


「はははは!無理するな。体が痺れて来ただろ?」

「……」

「俺の血は毒なんだよ!皮膚から体内に侵入する。最初は痺れ、そのうち激しい痛みに変わるんだ!」

「……それで?」

「全身に回り、ジ・エンドだ!」

「それで?」

「それで、だと?死んだら終わりだろ。だが安心しろ。毒では殺さねえ。俺様の実験材料にしてやる。あの女で楽しんだ後にな!」

「それで?」

「バカかお前は!それ以上あるか!」

「そうなんだ。じゃあ、話は終わりだね。ーー行くよ」

「何……!?」


 リオがビットヴァイに迫る。

 その表情、動きからは毒が効いているようには見えない。

 ビットヴァイは一瞬動揺し、反応が遅れた。

 ビットヴァイはリオの剣を受け止めようとするが、それより早くリオの剣がビットヴァイの体を上下に両断した。

 だが、ビットヴァイには致命傷とはならない。

 ビットヴァイは人体実験によって得られた情報から自らの体を人体改造しており、体を真っ二つにした程度では死なない体になっていたのだ。

 今のビットヴァイを確実に殺すには首を斬り落とすくらいしないとダメであった。

 ビットヴァイは斬られた痛みも忘れ、地に落ちた上半身からリオを信じられないものを見るような目で見つめる。


「……なんだお前……なんで俺様の毒を浴びてまだ動ける!?」

「毒?」


 リオは微かに首を傾げる。


「さっきから何を言ってるのかさっぱりだ。それより僕はまだ話せる君にビックリだ。普通の人なら悲鳴を上げるはずなんだけど」


 そう言ったリオだが、驚いているようには見えない。

 しかし、ビットヴァイは自問しており、リオの言葉は届いていなかった。


「……ま、まさか俺様の毒が効いてない?いや、そんな馬鹿な!ありえん!神聖魔法すら解毒できない俺様会心の出来の毒だぞ!」


 半身を失いながらもビットヴァイは必死にリオから逃れようと後退する。

 死に難い体になったとはいえ重傷であることは変わらない。

 治療せず放置すれば流石に死ぬ。

 しかし、言うまでもなくリオの動きの方が早くすぐに追いついた。


「ま、待て!待ってくれ!俺様はこんなところで死ぬはずがないんだ!これは間違いだ!」

「……」

「た、頼む!なっ?」


 ビットヴァイは苦痛に顔を歪めながらもなんとか笑顔を作って命乞いする。


「何故僕が君のいうこ……?」


 リオは突然、片膝をついた。

 倒れそうになる自身の体を剣を突き立てて支える。


(……効いていた?そうか、そうだよな!俺様の毒が効かねえわけがないんだ!驚かせやがって!こいつは特異体質か何かで効果が出るのに時間がかかっただけなんだ!)


 ビットヴァイはリオが膝をつく姿を見て冷静さを取り戻す。

 ビットヴァイは魔術士であり、再生魔法も持っていたが、流石に下半身全てを再生する事は出来ない。


(だが、下半身をくっつけるだけなら可能だ。でもどうせだ。“この新鮮な材料”を使おう)


 膝をついて剣で体を支えているリオにビットヴァイは体を引きずって近づく。


「く、くくく。ちょうど俺の“イチモツ”の調子が悪くなってたからお前の下半身をもらうぜ。貴様が斬り落としたんだ。文句ないよな」


 ビットヴァイはリオの返事を期待していたわけではない。

 喋れるとさえ思っていなかった。

 しかし、


「……あるに決まってるじゃないか」


 リオはそう答えた。

 

「……へ?」


 驚きの表情を見せるビットヴァイの前でリオがスッと立ち上がった。


「な、……俺様の毒が効いてたんじゃないのか!?」

「どうだろう?」

「な……」

「そんなのはどうでもいい」

「は?どうでもいいだと!?」


 リオは地面から剣から引き抜いた。

 ビットヴァイは身の危険を感じ、両手を使って再び後ずさる。


「ま、待てっ!お前はなんで人間にはプリミティブがないのかわかるか!?」

「興味ない」


 リオはビットヴァイの突然の問いかけに少しも考える素振りも見せずに即答した。


「俺様は知りたい!だから人間をバラし!調べていたんだ!」

「あれ?聞こえなかったのかな。そんなこと興味ない」


 ビットヴァイは迫るリオから後退しながら話し続ける。


「ちょ、ちょ待てよ!俺様の、俺の話を少しだけ聞いてくれよ!みんな俺の事を非道な人間だと言うが、俺は皆が嫌がる事を進んでしていただけなんだ!」

 

 大嘘である。

 だが、リオが首を傾げるのを見て興味を持ったと思った。


「俺は人間の可能性を探っていたんだ!」

「可能性?」

「おうっ。人は弱い。だが、人が進化すれば魔族の脅威に恐れることは無くなるんだ!そして俺は人を進化させる方法のいくつかを発見した!そのひとつがこの不死に近い体だ!」

「ああ、だから上半身だけなのにやたら元気なんだね」

「そ、そうだろ?俺様はこれからもバラし続け、更に秘密を解き明かしてみせる!そうすれば神の力など借りず人工的に勇者を誕生させることも出来るだろう。そう勇者をだ!」


 ビットヴァイは戦士なら誰でも憧れる“勇者”という言葉にリオが食いついてくると確信していた。

 しかし、


「だから?」


 リオは無表情に問いかける。

 まったく興味がないというような態度にビットヴァイは焦る。


「だ、だから俺と共にその秘密を解き明かそうじゃないか!」

「なんで?」

「俺にはわかる!お前は俺と同類だ!自分以外に興味がない。他人が死のうが生きようか気にしない。そうだろ?」

「そうだね」

「なら……」

「だから、君にも興味はない」

「な、ちょ待てよっ!」


 リオが剣を振り上げながら言った。


「それに君は僕に絶望を与えてくれないからね」

「は?絶望だと?ちょ、ちょ待……」


 ザンっ、


 ビットヴァイは最後まで言葉を続けることは出来なかった。

 ビットヴァイの瞳に下半身を失った上半身が映った。

 それが自分のものだと気づくと同時に自分が死んだ事を知った。



「絶望か……、もっと強い相手と戦わないとダメだね」


 リオはグエンがラグナを取得した時の話を思い出していた。

 だが、上級魔族である金色のガルザヘッサ相手でさえ、リオは絶望を味わなかったのである。

 そのような相手が簡単に現れるとは思えない。


「……あ、グエンと戦えばよかったのか」 


 リオはそう呟いた。

 その時、リオの表情は妖しい、見るものに恐怖を与える笑顔を浮かべていたが、リオ自身気づいていなかった。

 すっ、とリオの表情がもとの無表情に戻る。


「ま、いいか。またラグナを使える人に会えるよね」


 リオは思い出したかのように倒れているマリナに一度目を向けた。

 首を傾げた後、マリナを放置して探索を再開する。

 しかし、数歩進んだところで歩みを止めるとマリナの元に戻って来た。

 リオはマリナの状態を確かめると微かに息があった。


「大丈夫?……じゃないか」


 マリナの意識は朦朧とし、リオが何を言っているのかわからなかった。

 いや、誰かいるのかすらわからなかった。


「聞こえてないかな。ま、いいか。ちょっと相談なんだけど、試してみたい事があるんだ。君の体貸してくれる?強制はしないから嫌だったらそう言って。五秒だけ待つよ」


 リオは声に出して五秒数えた。

 マリナの返事がないのを了承したと判断して左手を首元から服の中へ潜り込ませ左胸、ちょうど心臓あたりを触れる。


「……この辺りでいいのかな」


 リオは目をつぶり、先程、ビットヴァイの毒をレジストした時の事を思い出す。

 そしてマリナの胸に当てた手に意識を集中した。


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