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154話 大迷宮に巣食う者達

「……ここ、迷宮なんだよね?全然そうは見えないんだけど?」


 フルモロ大迷宮に入って既に地下三階へ来ているが未だ魔物に遭遇してない。

 それどころか、


「よお、そこの人!寄ってかないか?いいポーションがあるよっ」

「新鮮な果物はどうだいっ?今朝、入荷したてだよっ」

「……」


 このように迷宮の部屋は店に改造されおり、出会うのは商売人ばかりだった。

 サラは小さなため息をつく。


「迷宮に入る前に話を聞いたではありませんか。地下五階までは観光用で安全が確保されていると」

「そうなんだ」

「そこは『そうなんだ』ではありません」

「そうだった」

「……」


 迷宮の壁には階段の位置を知らせる矢印が刻まれており迷う事はない。

 リオ達はその矢印に沿って進み、地下五階に到達した。


「ここが大迷宮で最後の宿屋だよっ!」


 店の前で声をかけてきた店主にサラが軽く会釈して通り過ぎる。


「結構値ははりますが、話の種に泊ってみるのもありかもしれませんね」

「そうだね」

「ざっく」


 地下六階へ下りる階段が前に見えてきた。

 そこには兵士が立っており、ここより下は魔物が出るとの注意を受けて階段を下りた。

 地下五階までは階段の位置を示す矢印が壁に刻まれていたが、ここからは何の目印もない。

 ここからが本当の迷宮の始まりだと気を引き締めさせるためであろう。

 サラはリオに念の為、声をかける。


「リオ、聞いていたと思いますが、十階までは緩衝地帯です。ほとんど魔物は出ないそうですが油断は禁物ですよ」

「わかった」


 リオは相変わらず感情のこもっていない声で返事した。

 


 リオ達は探索しながら進み、地下八階に下りたった。

 今のところ魔物とは遭遇はしていない。

 しばらく進むと少し大きな広場に出た。

 そこでリオ達の前に立ち塞がる者達が現れた。


「よう」


 気軽に声をかけて来た男は見た目で判断すればゴロツキだった。

 ぞろぞろと集まり、あっという間にリオ達は彼らに囲まれた。

 

「何か用ですか?」


 リサヴィを代表してサラが問う。

 サラは迷宮に入ってからフードを脱ぎ、素顔を見せていた。

 魔物が出現するとわかっている迷宮で視界を悪くしているのは不利だからだ。

 ゴロツキ達から卑猥な笑い声が聞こえる。


「まあ、そう生きがんなって。べっぴんのねえちゃん」


 そう言ってゴロツキの親玉らしき男がイヤらしい目でサラの全身を舐め回す。


「情報通り、いや、それ以上だな」

「情報通り?」

「余計な事言うな」

「すまねえ!」


 親玉が口を滑らせたゴロツキをひと睨みした後、悪党ヅラに笑みを浮かべる。


「実はよ、俺達は迷宮の警備を任されてるんだ。危険なもんを持ち込まないようにってな。知ってるだろ、この大迷宮にゃああの魔界の門があるからな」

「……」

「それでよ、その権限でお前達の持ち物検査をさせてもらうぞ。悪いが持ち物を全部出してもらおうか。着ているものも全部脱げ。ああ、ねえちゃんはその後、ちょっと俺達に付き合ってもらうぜ。大丈夫、楽しませてやるからよ」


 「へへへっ」といやらしい笑い声があちこちから聞こえる。

 サラは昨日、街を散策している時に冒険者が迷宮内で行方不明になる、という噂を聞いた事を思い出した。

 

(なるほど。この者達が原因のようね)


「お断ります」


 サラは秘めた感情を抑えながらキッパリ断った。


「おいおい、状況わかってんのか?これだけの人数から逃げ切れるとでも思ってんのか?」

「警備兵に助けを求めても無駄だぜ!」

「おい!余計な事言うな!」


 親玉が口を滑らしたゴロツキを怒鳴りつける。


「す、すいやせん!」


 サラは今までの話から兵士にも仲間がいるのだと察する。

 そうでなければ公国が管理している大迷宮でゴロツキがのうのうと好き放題できるわけがない。


(警備兵全員とは言わないけど、少なくともこの階付近の兵士は信用できないわね)


 サラ達が一向に命令に従う様子がないのでイラついた口調でゴロツキが怒鳴った。


「ほら、さっさと脱げって言ってんだろ!」

「早くしねえと生きて出れねえぞ!」

「……ざっく」


 ヴィヴィが笑ったのにゴロツキは気づいた。

 

「おい、棺桶持ち、今笑ったか?笑いやがったな!誤魔化しても無駄だぞ!俺はな、馬鹿にされるとすぐわかるんだからよ!」

「ざっく。別に誤魔化す気などない。お前の言う通りだ。私はお前達を馬鹿にしている」


 ゴロツキどもの殺気がヴィヴィに向けられるが、当のヴィヴィは全く気にする様子はない。


「ざっく。さっき『生きて帰れない』と言ったな。私達を逃せばお前達の事が知られるのだ。生かして返す気がないことなどすぐわかる。自分達の知能の低さに気づかないのか?」

「ははははっ!言ってくれるじゃねえか!棺桶持ち野郎が!」

「ざっく。いくら数を揃えても所詮は雑魚。雑魚ごときが私達“冒険者”に勝てると思っているのか?」

「誰が雑魚だ!誰が!荷物持ち野郎が一端に冒険者を名乗んじゃねえ!」

「残念だったな棺桶持ち!俺達も冒険者だ!それもみんなCランク以上!お前らより上だ!」


 ヴィヴィの誘導尋問にさっきのゴロツキがまたも口を滑らす。

 ゴロツキの親玉がその口の軽いゴロツキを怒鳴りつける。


「てめえは黙ってろっ!」

「ひっ、すっ、すいやせん!」


 サラが虫ケラでも見るような見下した目を親玉に向ける。


「……あなた達が冒険者?しかし、こんな事やる様な輩ですから既に除名されているのではないですか?」


 図星だったのか、親玉の顔が真っ赤に染まる。

 怒り心頭なのは誰の目にもまるわかりであったが、本人は必死に冷静を装い、残念とでも言うように首を振る。


「これはどちらが上かしっかり調教してやる必要があるな」

「……」

「時間稼ぎしても助けは来ないぞ。ここには誰も来ない。魔物が出たと言ってこの区域は立ち入り禁止にしてるからなぁ」

「……なるほど。ではその者達とあなた達がグルなのですね」


 親玉が頭をかいた。

 それが合図だったらしく、突然、盗賊がリオの背後に姿を現した。

 盗賊が使う、インシャドウ、という技だ。

 この技は実際に姿を消しているのではなく、気配を完全に消し、相手に存在を気づかせないようにするものだ。

 優れた盗賊がこの技を使えば相手は突然現れたかのように錯覚する、暗殺にも使われる技だ。

 盗賊がリオを狙った理由は単純で、一番弱そうだったからだ。

 手にした毒が塗られた短剣がリオの背後から迫る。

 しかし、リオに届く前に盗賊は突然、目の前に現れた壁に体ごと激突する。

 その壁の正体はヴィヴィのリムーバルバインダーだ。

 衝突した拍子に手にした短剣が盗賊自身の体を抉った。

 悲鳴を上げる間もなく、盗賊はそのままリムーバルバインダーによって壁まで押しやられた。 

 盗賊は迷宮の壁とリムーバルバインダーの間に挟まれ、バキバキッと骨が砕ける音とともに、


「ぐへっ」


 と変な声を発した後、苦しみ悶えて動かなくなった。

 一瞬の出来事に呆気に取られるゴロツキ達。


「……ざっく。加減を間違えた」

「そうなんだ」

「ぐふ。せっかくだ、コイツらで最終調整をするとしよう」

「丁度よかったね」

「ざっくざっく」


 そんなリオとヴィヴィのやり取りでゴロツキ達が我に返る。

 だが、その時にはすでにサラが動いていた。

 親玉が気づいた時には自身の体が宙に浮いていた。

 サラの鉄拳が顎に炸裂したのだ。

 それが親玉が最期の記憶だった。

 そのまま天井に激突し、頭が突き刺さる、事はなく、頭蓋骨が砕け頭が潰れた。

 頭の形が変形した親玉が力なく地面へ落下し、二度と動くことはなかった。


 その光景を目にし、頭が麻痺したゴロツキ共をサラは容赦なく血祭りに上げていく。

 サラは秘めた感情、怒りを解放していた。

 サラの尊敬するナナルをはじめ、六英雄が活躍したフルモロ大迷宮を汚した彼らを許す気は全くなかった。

 ヴィヴィもリムーバルバインダーをゴロツキ達に容赦なく叩きつける。

 サラとヴィヴィの一撃を受ける度にゴロツキ達の頭が吹き飛び、内臓が破裂する。

 阿鼻叫喚の光景であったが、ゴロツキ共が言った通り、誰も来る気配はなかった。

 次々と仲間が倒されていく中でゴロツキの一人がその様子をぼーと見ているリオに気づいた。

 そのゴロツキがリオを人質にしようと動く。

 だが、その動きはリオの直前で止まった。

 ゴロツキは何事かと思い自分を見た。

 喉元から何かが生えていた。

 それがリオが手にした剣の刃だと気づいた時、苦しみが一気に襲ってきた。

 リオが表情を変える事なく、剣を横に薙ぐ。

 首の半分以上を切断されたゴロツキは首を押さえて転がり、やがて動かなくなった。



 ゴロツキ達は三分も持たず、十二人全員が地に倒れた。

 リサヴィの面々は誰も手加減しなかったので、十二人中、三人が即死、七人が致命傷を負って苦しみ抜いて死んだ。

 残りの二名は軽傷だったが、それはすぐに降参したからだった。


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