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152話 魔装士の模擬戦

 翌日。

 リオ達は大迷宮へは明日挑む事にして、今日一日は休養も兼ねて迷宮都市を散策していた。


「そこの方!そこの仮面の方!」


 ヴィヴィが声のした方へ顔を向けると、笑顔でこちらにやってくる者がいた。


「その仮面、盾を装備していないようですが、あなたは魔装士でしょうか?」

「ざっく。だったらどうした?」

「その口癖っ、それはカルハン製の魔装具ですね。あ、警戒しないでください。私はそこで店を開いておりますサイゼン商会のものです」


 そう言って男は後方にある店を指差す。

 サイゼン商会はフェラン製武器を主に扱っていた。


「ざっく。それで何の用だ?」

「はい。実は私どもの店には魔装具を多数取り揃えており、今からそのデモンストレーションを行うところなのです。もしよろしければ見学されていかれませんか?」

「デモンストレーション?」


 リオの疑問に店員は笑顔で説明する。


「魔装士同士の模擬戦を行います」

「そうなんだ」

「はい。魔装士は元々武器運搬用に生まれたクラスです。そのために“棺桶持ち”とか“荷物持ち”など、好意的ではない二つ名で呼ばれたりしますが、魔装士の力はそれだけではありません。あらゆるクラスを凌駕する可能性を秘めているのです。そこで魔装士の模擬戦を実際に見て頂いてその力を正しく評価して頂こうと思うのです」

「ざっく」

「そうなんだ」

「それで気に入っていただけましたらぜひご購入して頂けたらと。幸いにも、と申し上げますと失礼ですが、そちらの魔装士様は見たところ魔装具が揃っていないようですし」

「ざっく。カルハン製の魔装具は置いてあるのか?」


 店員は笑顔を崩さず、しばし沈黙ののち、

 

「実際にご自分の目で見ていただければと」

「ざっく。ないんだな?」

「実際にご自分の目で見ていただければと」


 店員は大事な事だからか二度言った。


「ヴィヴィ、なんか面白そうじゃない?」


 ヴィヴィが何か言う前にリオが口を開いた。

 サラはリオが自分の意見を口にしたことに内心驚きながらも同意する。


「私も興味あります。魔装士が戦っているところはヴィヴィしか見た事がありませんので」


 サラが"戦っている"と言ったとき店員は不思議そうな顔をした。

 それは、店員には“普通の”魔装士が戦っているところが想像できなかったからだが、結局、サラの言ったことは戦いに参加していたことを言ったのだと解釈した。


「ざっく。そうだな。では見学させてもらおう」

「はい、ありがとうございます。ではご案内しますのでこちらへどうぞ!」


 対戦を行う会場はイベントを行うために用意された場所で、今日は魔装士のデモンストレーションのためにサイゼン商会が貸切にしているようだった。

 もうすぐ始まるとのことだったが、観戦者は少なく、魔装士や魔術士の姿がほとんどだ。


「こんなに魔装士っているんだ」

「そうですね」

「ざっく。魔装士ばかりだな。魔装士以外の者に魔装士の事を知ってもらうのではなかったのか?」

「ははは。これは手厳しい」


 店員は笑顔を崩さずリオ達を案内すると頭を下げて店へ戻って行った。



 見学者の魔装士はフェラン製の魔装具を装備した者が多かったが、カルハン製の魔装具を装備した者もゼロではなかった。

 彼らはヴィヴィの、魔装士というには余りにも寂しすぎる姿をみて、仮面を揺らす。

 笑われた事にヴィヴィは気づいていたが、相手にすることはなかった。



 しばらくすると魔装士が二人現れた。どちらもフェラン製の魔装具だった。

 カルハン製とフェラン製の魔装士の見た目の大きな違いはそのシルエットだ。

 カルハン製の魔装着は全体的にふっくらとしており、装着者の体のラインが出にくいため、性別すら判断し難い。

 対するフェラン製はスリムで装着者の体のラインがはっきりとわかる。

 魔装着を通してわかる体のラインから一人は女性のようだ。

 女性らしき方は両肩にリムーバルバインダーを装着しており、カルハンの魔装士の標準、つまりヴィヴィの魔装具と同じ構成だった。

 もう一方は最新型の魔装具と紹介され、右肩にマウントされたリムーバルバインダーは従来型より小型化されていた。

 従来型のリムーバルバインダーが二メートルを超える大きさだったのに対し、新型のものは一.五メートル程だった。この世界の一般成人男性の身長は百七十センチメートルほどでなので、屈まなければ体全体を隠す事はできない。またその厚さは薄く、武器は従来通り格納できそうだが、人(遺体)を入れる事は難しいかもしれない。

 それゆえ、この新型を“棺桶持ち”と呼ぶことは正しくない。だが、“棺桶持ち”という二つ名は魔装士すべてに対する侮蔑の言葉なのでわざわざ使い分ける者はいないだろう。

 左肩にはリムーバルバインダーではなく、二メートル程の長さの槍がマウントされていた。今回は模擬戦ということもあり、槍の先端は怪我をしないように刃を取り除かれていた。


「あの槍を装備した方、以前に金色のガルザヘッサにやられてた魔装士と同じかな?」

「ざっく。少し違うな。だが、性能は大して変わらんだろう」

「そうなんだ」



 模擬戦は最新型が勝利した。

 従来型の武装はリムーバルバインダーのみで攻撃はリムーバルバインダーを操作して相手にぶつけるしかないが、その動きは緩慢だった。

 一方、最新型は従来型より全体的に動きが良かった。

 特に小型化したリムーバルバインダーの動きはとてもスムーズだった。



 模擬戦終了後、何人かの魔術士や魔装士が模擬戦をした魔装士に話しかけていたが、ヴィヴィが出口に向かって歩きだしたので、リオとサラもその後に従いイベント会場の出口へ向かう。


「ヴィヴィ、どうだった?」


 リオの曖昧な質問にヴィヴィは感想を述べた。


「ざっく。約束された勝利だな」

「ん?」

「出来レースという事ですか?」

「ざっく。性能以前に魔装士の技量が違いすぎる」

「そうなんだ」

「ざっく。恐らく魔装具を交換にして戦えば逆の結果になっただろう」

「そうなんだ」

「ざっく。模擬戦自体は参考にならなかったが新型とやらの性能は大体わかった。やはり私はカルハン製がいい」

「そうな……」

「それは聞き捨てなりませんね」


 リオの言葉を遮って話しかけてきた男は見るからに高級そうな服を着ていた。

 リオ達の視線に男は動じる事なく笑顔で自己紹介を始める。


「突然口を挟んで申し訳ありません。私はこの店を任されておりますサイゼン商会のロックと申します」

「僕達はリサヴィだよ」

「リサヴィ……ですか」

「リオ!すみません。リサヴィは私達のパーティ名です。彼はリオ、これはヴィヴィ、私はサラです。私達全員Eランクですのでご存じないと思います」

「そうですか」


 ロックがヴィヴィを見る。


「ざっく。それで何の用だ?」

「はい。先ほどあなた方がお話しされていた事ですが、確かに初期のフェラン製の魔装具はカルハン製に劣っておりました。それは認めます。しかし、改良を重ね今ではカルハン製と同等いえ、それ以上と自負しております」

「ざっく。それで?」

「ヴィヴィさんでしたか、もしよければ先ほどのフェラン製の魔装具を試してみませんか?」

「ざっく?」

「実際に試してみていただきたいのですよ。そして、先ほどの感想を訂正していただきたい。いかがですか?」

「ざっく。お前に利点があるのか?」

「もちろんです。私どもは一人でも多くの方にフェラン製の魔装具の素晴らしさを知って欲しいのです」

「ざっく……」

「ヴィヴィ、試してみたら?」

「私もそう思います。カルハン製の魔装具の入手は難しいのでしょう?試してみる価値はあると思います」

「ざっく……わかった。試させてもらおうか」

「では、こちらへどうぞ」



「ところでヴィヴィさん、その仮面は第一世代ですか?」

「第一世代?」


 ロックの言葉にリオが首を傾げる。


「ざっく。魔装具のバージョンだ」

「そうなんだ」

「ざっく。それで、ロックだったか。それがどうした?」

「いえ、深い意味はありません。ちょっと珍しかっただけです」


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